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妃探しの儀も二日目【ユリウス視点】

 あー、鬱陶しい……。


 妃探しの儀も二日目。

 今日は夜会ということもあり、一日目の茶会よりも積極的で大胆な行動に出る令嬢もチラホラ。

 早くレンツィの元に行きたいのに、自分が選ばれると思っている自信過剰で勘違いな令嬢たちが面倒くさい。


 ただ、笑顔で圧倒することくらい、二十三年も王族をやっていれば容易い。

 強欲で自信家な令嬢たちは、王族に気に入られたいがためにそれなりにマナーも、貴族特有のまわりくどい言い方も、裏の意味を読む能力も身に付けているから、一言返事をしてにこりと微笑めば大抵はヒクリと笑顔を引き攣らせながらその場を辞す令嬢ばかりだった。


「王族って大変でしょう?」

「よく分かるね(お前に何が分かるというのだ?)」

「大丈夫、分かってるから」

「私の辛さを分かってくれるとは(王族の苦労を理解すると?随分と高慢な思考だな)」

「でも偉いよね。好きで王族に生まれたわけじゃないのにみんなの見本となるべくいっぱい勉強もして努力してるんだよね?凄いと思う」


 いつもの王族スマイルで、威圧してみても全く伝わらない。

 こちらの目は笑っていないのに、目が合うたび、頬を染められて困惑する。


「辛いこともあるよね。これからは、辛い時は辛いって言って良いんだよ」

「そうしたいところだけど……言ってもいいのかい?(去れと王族に言わせるつもりか?)」

「うん、話を聞くくらいしかできないけど」

「本当に話を聞いてくれるのかい?(言葉通りの意味に受け取るな。裏の意味を考えろ)」

「もちろん、私で良かったらいつでも聞くよ!」

「そんなことを言って。他の男にも言ってるのではないのか?(片っ端から声をかけて侍らせてること位知ってるんだぞ)」

「違うよ、私はあなたの力になりたいの」


 もう疲れた。全く伝わらないし。

 レリア・ヘッレルが鬱陶しすぎる。

 さっきから、訳の分からない理解を示すような言葉を言っては触ってこようとしてくるのも鬱陶しい。

 そんな上辺だけの言葉に騙されると思われているのも、その程度の触れ合いでその気になると思われているのも心外だ。


「いい加減にしてくれないか」


 自分の口から思いのほか低く冷たい声が発せられた。

 訳の分からないアピールに、接触をはかってくるのも鬱陶しくてイライラが募り始めたころ、しなだれかかって来ようとしたので、もう我慢ならなかったのだ。


 知性のかけらもない言動をされて辟易していたし、こんな時に限って見ているだけでサイラスが助けてくれないのも腹が立つ。

 サイラスには昨夜の時点で俺が今日求婚する相手を伝えたが、サイラスは俺の希望する相手が伯爵家の令嬢というのが少々納得がいってないらしい。

 だからってこれを見て見ぬふりをするなんて、本当に腹が立つ。


 それに、ずっと横目で確認していたレンツィの近くにいた男がレンツィに話しかけようか迷う仕草を見せて焦ったのもある。


 オルモス伯爵が言っていたが、レンツィは地味な容姿の自分は男性から相手にされないと思い込んでいる。

 レッカーでは俺が目を光らせているから声を掛けてくる男がいないだけなのに、男性客から話しかけられる女性客を見ながら『こういうお店でさえ一度もナンパされないし、やっぱり私って女として魅力がないのかな』と口を尖らせて言っていたことがあったのだ。


 ここで、『初めて声を掛けかれたから』とかそんなくだらない理由で、うっかりぽっと出の子爵家三男に奪われたらどうする!?

 俺はこんな頭の悪そうな令嬢に構ってる暇はないんだ!


「私は昨日今日と多くの令嬢と話をしたが、その中で心惹かれる女性がいた。ヘッレル伯爵令嬢……申し訳ないが、その女性とは貴女ではない」


 俺の声に反応して会場内に静寂が訪れていた。

 そのおかげで、レンツィに声をかけようとしていた男も動きを止めてこちらを見ている。


 レンツィに声を掛けようと近づくと、少し慌てた様子でスススー……と華麗に横移動し始めたから、こちらもスピードを上げた。


 自分が選ばれるわけがないと思っているのが丸分かりな行動と、こんな時でも料理を山盛りにした皿を持ったまま移動するレンツィが愛おしい。

 やっと想いを告げられると思うと自然と笑みが漏れる。

 どんな反応をするだろうか。きっと驚くのだろうな。


「私が伴侶になって欲しいと願うのは、フロレンツィア・オルモス伯爵令嬢。貴女だ。私と結婚して欲しい。どうか私の妻になってくれ」


 足早にレンツィの前に跪き、逃げられる前にプロポーズをした。


 見事に固まったレンツィは、視線だけぼんやりとこちらに向けているものの、全く反応がなかった。

 このまま求婚の姿勢を取り続けてもレンツィは困りそうだからどうしようかと思っていたら、目の前にオリーブが転がってきた。


 フォークに刺さっていたオリーブが山盛りの料理を経由して、レンツィのスカートの滑り台を滑って二人の間に転がってきたのだ。


 なんだか格好がつかないのも俺たちらしいかと思ったら可笑しかった。


 この夜会は、俺がひとりの女性に求婚したことで妃探しの儀は終了し、あとは本当にただの夜会へと移行する。

 俺が誰を選ぶか分からなかったから、交流しても口説くことはできなかった子息らが、それぞれお目当ての令嬢を口説く時間に変わるのだ。


 この場でレンツィからはっきりとした言葉を聞けるとは思っていなかったし、我々は下がろう。


 この落ちたオリーブが良いきっかけになる。


 サイラスに目配せすると、すぐに近づいてきた。

 レンツィからフォークや手に持ったままの料理が山盛りになっている皿を取り上げたら、サイラスに渡す。

 万が一にも逃げられないようにしっかりとエスコートして会場を後にした。


 自分の部屋までレンツィを連れて行く。いち早く落ち着いて話ができるように。


 私室まで行く間、レンツィの表情には何が起こっているか分かっていないという混乱がありありと表れていた。

 このまま流れで婚約成立まで持っていけないかな。


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