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料理が山盛りになった皿【フロレンツィア視点】

 

 昨日とは別のドレスを纏い、今日も食べ物コーナーで美味しいご飯を食べながら人間観察をしている。

 いろんな人を観察するのではなく、主にレリア嬢の観察だけど。


 昨日の茶会の終わり頃、レリア嬢は第三王子殿下に話しかけに行っていた。

 自分から殿下に話しかけに行ったのも、殿下にも敬語を使わず馴れ馴れしく話しかけたのにもびっくりした。

 だけど、殿下は嫌な顔せず対応していた。

 他の御令嬢にするのと同じように公平に接していたし、それに他の男性みたいに簡単にレリア嬢に靡いた様子がないのは流石だ。


 王族といえばいつも傅かれていそうだから、ああいう天真爛漫な毛色の違うタイプは物珍しくて、そういう女性にコロっといってしまうんじゃないかなって思ったんだけど、見た感じでは靡いていなさそうだった。

 ただ、殿下は昨日の時点では大人な対応をしていたけど、第一騎士団長の息子みたいにあっという間にデレデレになってしまう可能性もある。

 あんな風に。


「レリア嬢。貴女はそこにいるだけで良いんだ」

「えー。そんなのつまんないよ!自分から行動するから面白いんじゃん」

「行動力に溢れている貴女も魅力的だが、誰よりも魅力的だからこそ心配だ」

「心配してくれてありがとう!そんな風に言ってくれて嬉しいよ」

「あぁ、当たり前だろう。俺は貴女を守りたいんだ」


 昨日の昼間が初対面だったっぽいのに。あんなに夢中にさせるなんて、何があったのか。

 ある意味見習いたい。

 なにかそういう異性を惹きつける魔道具でも作ったら売れそうだけど、だめかな。

 強制的に異性を惹きつける魔術の使用は確か禁止されていたし駄目か。おまじない程度の効果ならどうだろう。

 と、現実逃避していたけど、私にも男性を夢中にさせる技や魅力があれば、パヴェルは私のことを妹ではなく異性として見てくれただろうか……なんて、今更だ。


 あの日、パヴェルから逃げた後、暫く会う勇気がないと思っていた。

 本人を目の前にしたら泣いてしまいそうだし、前と同じようには振る舞えないだろうと思っていたけど、今では普通に以前と同じように会っている。街やお城で会えば変わらず話もする。


 あの次の日に、パヴェルは仕事に行く前にわざわざ屋敷まで来たのだ――――

『フロウ!昨日はどうして?急に姿が見えなくなったし心配したよ。無事だったか?』

『ごめんね。無事だよ、大丈夫。その、道を曲がってすぐ知り合いに会って。それで多分見失ったように見えたんじゃないかな』

『そうか。それなら良いんだけど。何かに巻き込まれたんじゃないかと気が気じゃなかったから』

『心配させてごめん……でもこの通り大丈夫だから安心して』


 パヴェルのこういう優しいところが大好きだった。

 心配してわざわざ仕事前に確認しにきてくれる優しいところが。


 パヴェルの顔を見たら絶対に泣いてしまうだろうと思っていたし、パヴェルが来たと言われて少し気合いを入れて会ったけど、顔を見ても泣かずに済んだ。

 こんなに心配してくれるのも、妹のように可愛がっているからだと思うと大いに胸が痛んだけど、パヴェルの前ではちゃんといつも通りに笑えていたと思う。


 きっと、サイラスの前で憚らずに泣いて、話を聞いてくれたから知らず知らず気持ちが整理できていたのだろう。

 あの日、きっとサイラスが私の気持ちをいくらか持ってくれたんだ。

 そうでなければ、きっと今もパヴェルを想ったまま、優しさで会いにきてくれるパヴェルへの気持ちをどうしていいかもわからずに絶望していたかも知れない。


 その後もレッカーへ行く時などにパヴェルを見かけることもあるけど、思っていたよりも随分と平気で、そんな自分に少し驚いた。



 そんな私の心を救ってくれたサイラスは、今日も第三王子殿下の近くにいる。

 他人のフリをしなければと思うのに、レッカーの飲み仲間だと思うとついつい目で追ってしまう。遠目から見るだけなら知り合いだとバレないだろう。


 サイラスの顔は、号泣の後に目がショボショボの状態で一度見ただけだけど、よくよく見るとああいう顔なのか。

 あの時はとんでもなく美形だと思ったけど、自分の目が涙で濡れていてうるうるの魔法が掛かっていたのかもしれない。

 充分綺麗な顔だけど、殿下が綺麗すぎるからそうでもなく見えてしまう。

 第二妃に似た麗しい顔立ちの殿下の側にいれば誰でも見劣りしてしまうけど。


 でもまぁ、あの時に見た髪を下ろしている状態よりも、今の後ろに撫でつけているほうが大人っぽく男らしく見える。

 後ろに撫で付けるのはお仕事仕様なのかな。それともあの日がたまたま髪を下ろしていたのかな。

 あ、でもフードから茶色の髪がチラッと見えるってことは、レッカーに来るときはいつも下ろしてるんだろうな。

 こうして見ると、サイラスは結構年上なのかな?

 レッカーで話していると同じ歳か少し上くらいかと思っていたけど、髪型のせいか仕事モードの雰囲気のせいか少なくとも五歳以上は上に見える。


 それにしてもサイラスとは一切目が合わないな。

 徹底して完璧に他人のフリをしている。

 それなのに私がサイラスを見ているせいで、殿下とは何度も目が合ってしまい、私なんかに殿下が微笑まれるという珍事が頻繁に起こっているけど……。

 私なんかと目が合ってもスルーしてくれて良いのに。

 ご丁寧に目が合うたびに微笑むなんて、流石王子様。表情筋が疲れそう。


 ご飯を食べながらそんなことを思っていると、レリア嬢が第三王子殿下に話しかけていた。

 それほど二人の近くにいるわけではないのに、レリア嬢の声が大きくて、彼女の声だけはこちらまで届いてくる。


「王族って大変でしょう?……大丈夫、分かってるから。……でも偉いよね。好きで王族に生まれたわけじゃないのにみんなの見本となるべくいっぱい勉強もして努力してるんだよね?凄いと思う。……いいの。……大変だって分かるよ。……うん。もちろん!……辛いこともあるよね。これからは、辛い時は辛いって言って良いんだよ。……うん、話を聞くくらいしかできないけど。……もちろん、私で良かったらいつでも聞くよ!……違うよ、私はあなたの力になりたいの!」


 彼女の一言一言に対しての殿下の返答は聞こえないけど、彼女がなかなか凄いことを言っているというのは、夜会の会場内に響いている。

 王族の苦労を推察して共感するなど畏れ多いことだ。

 私にも聞こえているくらいだから、他の人にも聞こえているのだろう。眉を顰めて二人を注視している人が多い。


 もしも、レリア嬢のお父様であるヘッレル伯爵がこの場にいたら、顔面蒼白になっているだろう。まさかヘッレル伯爵の作戦ということは流石にないはず。


 変人と言われる私のお父様でさえ、私が殿下に対していきなりあんな言動をしたら即座に首根っこを引っ掴んで引き摺ってでも退場させられているだろう。

 それくらいあり得ないことをレリア嬢はしている。

 今は独裁的な王族はいないけど、昔の王族相手なら即処刑の可能性もあるくらいのことだ。


 それにしても。

 レリア嬢が殿下の腕に触ろうとしたりしなだれかかろうとしたりするたびに、殿下は固定された笑顔のままスッ……サッ……と、さりげなく避けるのは流石。

 殿下はそういうのに慣れているのかも知れないけど、優雅な中の攻防ははたから見ていると少し面白い。

 どちらが先に折れるのか、はたまた諦めるのか。


「いい加減にしてくれないか」


 もぐもぐ口を動かしながら、面白がって殿下とレリア嬢のやり取りを暫く見ていると、急に殿下の静かな声が夜会会場内に響いた。


 その瞬間、賑わっていた夜会会場内に静寂が訪れる。

 心なしか会場内の室温も下がったように感じた。

 思わず私の咀嚼も停止する。


 ゴクリ。


 口の中にあったまだ少し大きめの食べ物を無理矢理飲み込んだから、場違いに飲み込む音が響いた気がする。

 恥ずかしいと思ったけど、今は皆殿下とレリア嬢の動向に釘付けで、私のことなんて誰も気にしていなかった。


「私は昨日今日と多くの令嬢たちと話をしたが、その中で心惹かれる女性がいた。ヘッレル伯爵令嬢……」


 殿下の冷たい声に少し怯んでいたレリア嬢が、殿下から名前を呼ばれてそのローズクォーツの瞳を潤ませながら見上げた。


「申し訳ないが、その女性とは貴女ではない」


 ですよね。

 いい加減にしろからの貴女に決めたはないよ。

 それくらい私でも分かる。


 ショックだったのかうるうると目に涙を溜めて見上げるレリア嬢を一瞥もせず、殿下がくるりと方向を変えて歩き出した。

 殿下がコツコツと靴音を響かせて向かった先にあるのは、こちらの料理コーナー。

 今は夕食の時間帯なので、昨日の茶会の時よりはこの料理コーナーにも人がたくさんいる。


 ここにいる誰が見染められたのかな?王族が選んだ女性を間近に見られるチャンス!と呑気に思っていた。


 あれ?なんかこっち来る?


 間違えられないように移動しなきゃとススス……と横に移動し始めると、殿下が歩みのスピードを上げたと思ったら、殿下が急に消えた。


 え?


「私が伴侶になって欲しいと願うのは、フロレンツィア・オルモス伯爵令嬢、貴女だ。私と結婚して欲しい。どうか私の妻になってくれ」


 突然消えたと思ったら、私の前で跪いていた。



 私と結婚して欲しい

 結婚して欲しい

 して欲しい

 欲しい

 しい

 い



 は?


 はあぁぁぁぁぁぁ!?


 訳の分からない事態に脳内では大絶叫したものの、まだ理解が追いつかず、不自然な形のまま体が固まっていた。


 不安定にフォークに刺さったままだったオリーブがぽろりと落ちた。

 左手に持っていた料理が山盛りになった皿の上をオリーブが転がり落ち、ドレスのスカートの上を滑ってコロコロと転がり、私と殿下の間で止まった。


 エ?

 ナニコレ?


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