16:20〜16:40
【16:22】
顕微鏡から目を離した青梅慰夢は何かの結論に達したようで、一つ頷くとノートパソコンに向かって何かをハイスピードで書き込んでいた。
谷崎潤一や蕨紅子もそれを何度か覗いたが、それ以上の事はしようとしなかった。
【16:25】
パン
エンターキーを押した派手な音がした。
「できたです」
青梅慰夢はそう言うとノートパソコンを全員に見える位置に置いた。
そこには全画面表示されたテキストファイルにずらずらと半分ほど文字が書いてあった。それには平仮名と漢字とアルファベットとギリシア文字とハングルと記号と数字が同じぐらいの割合で使われていた。
「何?」
まずそう声を出したのは吉岡冬見。同様の疑問が苑崎夏見にもあったようで、彼も首を傾げている。
「暗号」
そう答えを出したのは石田秋見。彼女は目線を画面上で行っては戻り行っては戻りさせている。
「まあ、なんだ。慰夢ちゃんにとってはこれが一番速く書けるらしいんだな。しかも、慰夢ちゃん自身にこの文章を説明する気がほとんど無いんだ。僕も未だに納得いかない」
吉岡冬見と苑崎夏見の二人の様子を見て、谷崎潤一がそう説明した。
【16:32】
そうこうしているうちに石田秋見はその文章を解読したようだ。
「つまり、抗体を作、るよりも、時間、に解決、させた方がいい、というこ、とだな」
「という事は、それまで皆を放っておくの?」
吉岡冬見は少し不満そうにそう言った。早くこの状況をどうにかしたいのだろう。
蕨紅子は、コクリと頷いただけで書棚の中からノートを一冊取り出してそれを読みだした。
谷崎潤一は窓際に置きっぱなしにしてあったノートを取り上げ、それを開きながら言った。
「まあ、それが妥当でしょう」
【16:34】
静かな時が流れる。
外で起こっている事がまるで夢のようだった。
六人は一言も喋る事なく、ただ黙って時が過ぎるのを待っていた。
梅雨になる前独特の淡い太陽からの陽射しが部屋を照らしていた。




