16:00〜16:20
【16:00】
新聞部部室前。
息を切らした三人は、勢いよく目の前にある扉を開いた。
そこにいたのは三人。一人は中央のテーブルに座った白髪の少女。一人は窓辺に立ち、近くの棚から抜き取ったと思われるノートを読んでいる少年。一人はまるで三人が来るのを知っていたかのようにパイプ椅子三つを並べ終えた少女だった。
「どうぞ、座ってください」
少年、谷崎潤一がいつの間にか息を切らした三人の方を向いていて、座るように促した。
突然押し掛けてきても全く動じない三人を見ても気にすることのない三人は、言われるままに椅子に座った。
白髪の少女、青梅慰夢はノートパソコンを広げたまま三人に向き直った。
もう一人の少女、蕨紅子は扉を静かに閉めて窓際にある椅子に座った。
【16:01】
相川あき子から広まったものはすでに学校中に広まっていた。
桜岡桜が部室棟の方へと広め、黒川三先が管理棟の方へと広めたのだ。
誰も彼もが誰かと唇を、あるいは体を重ねあっていた。
【16:03】
「状況は分かっているですが、原因がはっきりしないです。何かここに来るまでに、見ませんでしたかです」
白髪の少女、青梅慰夢が三人に尋ねる。苑崎夏見は少し考えてから答えた。
「僕たちが最初に気付いたのは、桜ちゃんの異変です。彼女の頬が赤いのを見て、石田さんが僕と冬見を皆から離れた所に連れて行ってくれた」
「いい判断でした。危ない所でしたね。ここならしばらくは安全なので、ゆっくり話してもらって構いませんよ」
新聞部部長の谷崎潤一は落ち着いた声で言った。三人の前に蕨紅子によってお茶が差し出された。
その事に会釈をしてから、苑崎夏見はここに来るまでの事を話す。時々、吉岡冬見や石田秋見が説明を追加した。
【16:05】
帰宅しようとしていた国柳聡美は、校門に誰かが立っているのを見た。
近付いていくと、それが誰かが分かった。
高橋原琉とその恋人の蕨奈々子の二人だ。
「すみませんが、今は外に出ないでもらえますか」
突然、蕨奈々子が言った。高橋原琉はそれに頷く。
「どう、して?」
聞くと、蕨奈々子は説明をした。
【16:06】
そもそもの原因は、白濁の液体のようだ。それが媚薬のような効果を持っていたものと見られる。その白濁の液体がどこからやってきたかについては既にある程度の予測はついているが、まだはっきりとはしていない。感染は基本的に空気感染のようだ。揮発性が高い液体で、その気体を多量に吸い込んだ場合にしばらくしてから効果が現れるようだ。感染からの時間が経てば効果は薄れるはずなので、現状では学外に人を出さないようにすることしかできない。白濁の液体を採取後、抗体を作れればすぐ解決するが、その場合にも精神的なケアをどうするか考える必要がある。
【16:10】
「まあ、兎も角は現状に対処しましょう。苑崎君は白濁の液体を見たのですよね。そこに行きましょうか」
谷崎潤一はそう言うと部室を飛び出した。それに続く青梅慰夢と蕨紅子、そして石田秋見。
苑崎夏見と吉岡冬見の二人が部室に残されることとなった。
部室に残された二人は、現状の不可解さに考えが及ばず、ただ部屋から外を見るくらいしかできなかった。
【16:12】
新聞部室を飛び出した四人は勢いを殺さずにHR棟の体育館へと行く渡り廊下近くの廊下に走る。
足音に掻き消されて妙な水の音は聞こえなかったが、明らかに学校は異常空間になっていた。
どこからかシャーレとスポイトを取り出した青梅慰夢は、白濁液のある所に素早く移動をすると、スポイトでそれを丁度5ml採取しその場を過ぎ去り、シャーレに移して蓋をした。
後ろに続く三人は状況を確認し、人を避けながらその場を走り抜けた。
【16:18】
部室に戻ってきた四人。
どこにそんなものがあったのか、顕微鏡を取り出した蕨紅子。
シャーレの中身を少量だけスライドガラスに移し、その上にカバーガラスを被せてプレパラートを作った青梅慰夢は、顕微鏡にそのプレパラートを乗せ、観察を始めた。




