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媚薬  作者: のみのみの
2/5

15:40〜16:00

 【15:40】

 相川あき子は目の前に立つ人の壁を見つめた。そして自分以外にもう一人、壁に囲われている人を見つけた。

 確か、彼女の名前は斉藤尊だ。

 そう思った相川あき子はおもむろに立ち上がり、彼女にゆっくりと近付く。

 そして何やら喋られているというその事実を無視して、抱きついた。



 【15:41】

「あなた、大丈夫なの? 保険室に行く?」

 心配して、斉藤尊は相川あき子に語りかけるが、まるでその声が聴こえていないかのように彼女は近付いていく。

 そして抱きついた。

 なにやら周りから微かな悲鳴が聞こえた気もしたが、とにかく斉藤尊は相川あき子を突き放そうと手を二人の間に入れる。

 そして腕を伸ばした。

「あん」

 相川あき子が目を閉じてそう甘い声を出した。そして斉藤尊の掌に自分の手を被せ、そのまま胸を揉み始めた。

 斉藤尊は自分の掌が他人の胸を揉んでいるという事態に困惑し、そしてそれをさせる相川あき子をみて更に困惑した。

 周りを見回して助けを頼もうとした時、何かが眼前を覆った。

 それが相川あき子の顔であると認識した直後、唇が唇によって塞がれた。



 【15:43】

 その光景は周りにいた人垣を紅潮させるのに充分だった。斉藤尊に、相川あき子はキスをした。それもただ唇と唇を合わせるだけではないキスを。

 幾人かはその光景に耐え切れず、幾人かはこの異様な光景を先生に報告しようと、幾人かは別の用事のために、その場を去った。

 それでも残っていた幾人かは二人の様に目を逸らせず凝視していた。そして斉藤尊の顔も紅潮してくるのが分かった。

 いつの間にか二人は抱き合い、斉藤尊が相川あき子を押し倒す形となった。唇同士が離れ見つめ合う二人の眼は通常のそれではなく、熱が籠っていた。

 斉藤尊はかすれた声で小さく言う。

「あき子」

 言われた相川あき子もそれに応える。

「尊」

 しばらく見つめ合った二人は互いの胸に手を持っていき、唇を合わせた。



 【15:49】

 生徒である黒川三先くろかわ みさきの話を聞き、半信半疑ながらも廊下を速く歩いている人影がある。

 河内姫恋こうち ひめこ、ここ☆☆高校の一教師である彼女は黒川三先の言った事に二つの疑問をもった。まず一つ目は、何故学校でそんな行為をするのかということ。二つ目はその行為をしている人の一人が本当に斉藤尊なのか、ということである。

 斉藤尊は現生徒会副会長で、翌月に予定されている生徒会選挙では会長に立候補をすると聞いている。

 そんな彼女がそんな行為をするはずがない。いや、してはいけないはずだった。

 現場に到着するまで一分。

 走りたいのを我慢して辿り着いた先に見えたものは、想像以上のものだった。



 【15:51】

 河内先生が来たにも拘らず、相川あき子と斉藤尊の二人の行為は止むことを知らなかった。そしてその周りにいた人たちも似たり寄ったりの行為をしている事に、しばらくしてから河内先生は気付いた。

 河内先生は目や耳から入ってくる嫌な情報を無視して、中心付近にいる斉藤尊に近寄った。

「斉藤さん、斉藤さん」

 何度か声を掛けやっとのことで首を後ろに向けた斉藤尊は、河内先生を見付けてニヤリと笑みを見せた。

 その顔を見て嫌な予感が走るも、河内先生は先生らしく気丈にこう言った。

「貴方は生徒会の副会長でしょ。私も手伝うから、この状況を何とかしなさい」

 笑った斉藤尊はゆっくりと周りを見回すが、河内先生の方に向き直ると首を傾げた。

 そして徐に立ち上がる。

「なんとか、しましょうか?」

 その言葉は河内先生に向けられたものだった、と思ったが彼女は河内先生の脇を通り過ぎ後ろの男子に背後から抱きついた。その男子は前後から女子に挟まれる形となる。

 その光景に意識を持っていかれた河内先生は、後ろから相川あき子が近づいてくる事に気付けなかった。



 【15:53】

 斉藤尊が他に行ってしまったので嫉妬心を燃やした相川あき子は、目の前に呆然と立っている河内先生に抱きついた。

「きゃっ!」

 いきなり胸を揉まれて反射的に離れようとしたが、相川あき子はそう簡単に放してくれそうも無かった。



 【15:55】

 部室棟の吹奏楽部室から一歩離れた生徒会準備室3という部屋に、苑崎夏見そのざき なつみ吉岡冬見よしおか ふゆみ石田秋見いしだ ときみの三人は姿を潜め、声を潜めて話していた。

「どういうことなの」

 吉岡冬見が廊下側を見つめながら二人に聞く。

「僕は分からないな。新聞部関係か」

 苑崎夏見は石田秋見に同意を求める。

 石田秋見はそれに頷きをもって同意を示した。

「確かに、ある意味、新聞、部関係か、もしれない。ただ、理由、と情報の、不足」

「ここから新聞部の部室に行く、というのはどう?」

 吉岡冬見の提案に、石田秋見は首を横に振った。

「危険。あれは空気感、染する。息、止められる? 三分」

 その提案に三人は沈黙した。



 【15:58】

 しばらく考えた後、三人は生徒会準備室3を飛び出した。

 部室棟の階段を駆け下り二階から一階に移動する。そのままの勢いで渡り廊下を走った。

 体育館の周りを三分の一ほど廻ると教室のあるHR棟への入口がある。

 そこから中に入ろうとして、三人は見えた光景に息を飲んだ。

 が、見なかった事にして別の入口へ移動した。そこからHR棟に入り、そのまま真直ぐにHR棟と管理棟とを結ぶ渡り廊下に出た。

 そして管理棟に入り階段を三階まで駆け上がった。

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