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キミの心は何色?  作者: Oto猫
第一章 Starting Over
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第五話 掛け違えたボタン

 最近、物がよく無くなる。いや元々物忘れが激しい事は知ってる。朝教室のドアを開けると自分の上履きが上から降って来たり、休憩時間中に机の上に置いといたはずの筆箱が男子トイレの便器の中に入っていたり。


 あの日以来、一部過激派の俺に対する仕打ちは、悪化する一方だった。ほんと、いじめてる側の気持ちが分からん。嫌なら無視して……ってこれ前にも書いた!


 ふぅ。気を取り直して。


 なんで絡んでくるんだ?俺だってお前らに興味ねーんだからそっちのがウィンウィンだろ。ま、慣れてるから別にいいけどな。なんつーかもう俺クラスになってくるとさ、「次は一体どんな事をしでかしてくれるの♡」とかって変に期待しちゃうよねー。あーいちごオ・レおいし♪


 ……今んところあいつらに見られてないし、何だかんだ俺が一人でいるところしか狙わないみたいだからそこが救いだな。おっ、今日はそうきましたか。


 朝。下駄箱を開けると無惨に引き裂かれた教科書が舞う。


 あーあ、先公にどう言い訳すっかなぁ


 ドサッ


 何かが落ちる音。聞こえた方を見やる。


「うっ」


「……これはどういう事かな?」


 そこには頬をパンパンに膨らませた三上彩音が立っていた。折角の可愛い顔が台無しだぞ。


**


「んーまぁさ、ほら。あんな事すりゃ嫌でもアンチが湧くって」


 昼休み。俺は三上に拉致られて旧校舎に来ていた。


「……」


「どうしようもないだろ?ああいう事する奴らは下手に刺激すると余計めんどくさい事になるし」


「……」


 三上はさっきから黙りこくったままだ。もしもーし、聞こえてますかー?俺何かマズい事言いましたー?


「……ねぇイロ」


「ん、なんだ?」


「そこに正座しよっか」


「は?なんで?」


「いいから正座して?」


「いやしないしない。なんで俺が」


「正座しろ♡」


「そんなわけもな」


「正座!!!!」


「はい!」


「なんでずっと黙ってたの?」


「は、はい?」


「イロ、明らかにいじめられてるよね?なんでその事、私たちに言わなかったの?」


 彼女の声色が変化する。


「なんでって……。そりゃ、これは俺の問題だから。俺が勝手にやって、その罰を受けてる。ただそれだけだから。……別にお前らには関係な」


「関係なくない!!ねぇイロ、私たちアクティ部のメンバーだよね?まだ日は浅いけど、同じ目的意識を持った、これから共に歩んでいく仲間じゃん!友達じゃん!関係あるよ!関わらせてよ……。世話をかけさせた事も、迷惑かけられた事も、心配させた事も。全部笑って許せるのが友達ってもんだよ!だからもっと、私たちを頼ってよ……」


「……無茶言うなよ」


「なんで……」


「お前らに俺の何が分かるってんだよ!日は浅いけど何?笑わせるな!友達って言葉、気安く使うんじゃねぇ!!数ヶ月前に初めて逢ったお前らに、俺の気持ちが分かんのかよ!!」


「分かるわけないじゃん!人の気持ちなんて。ねぇ、あなたのその口は何のためについてるの?声にしなきゃ、伝わらない想いだってあるよ!お願いだからもっと教えてよ、あなたの事。どうして信じてくれないの……?」


()()()、だと?……お前、俺がどんだけ……っ」


「なにか、あったんだね?」


「……うるせぇ」


「なにが、あったの?」


「……やめろ」


「私、イロハを信じてる。だから」


「もうほっといてくれよ!!どうして俺に関わるんだよ!どうして見て見ぬフリしてくれないんだよ!俺の事を思うなら何もするな!俺は、一人になりたいんだよ……」


「嘘」


「……は?」


「だってぐちゃぐちゃだもん、あなたの顔」


「そんな」


「私、イロハが話してくれるまでずっとここにいるから」


「……勝手にしろ」


 休みの終わりを告げるチャイムが鳴る。


 俺は教室へ向け、歩き始める。彼女を置き去りにして。


**


 放課後。今日は部活に行く気分になれず、足早に玄関へ向かう。


「アヤちゃんどうしたんだろうね」


「ね。午後の授業全部いなかったよね?体育とかめっちゃ楽しみにしてたのに」


 帰り際、不意に聞こえた会話が耳から離れなかった。


**


「んー来ないかぁー。私の見当違いだったかなぁー」


 ギュルル〜


 あ、そういえば。今日朝早くて何も食べてないんだった。お腹減ったなぁ。もうそろ宿直巡回の時間だよね。流石に帰らなきゃ。


 立ち上がりかけたその時、微かに音が聞こえた。それはどんどん大きくなり、やがて私の前で止む。


「ば、バカかお前。こん、な時間までずっと。おんなじ、場所で。飯も食わずに」


 相当急いでいたのか、彼は肩で息をしていた。


「そうでもないよ?途中先生に見つからないようにロッカーに隠れたし。それにほら。イロが来てくれたし♪」


 落ち着いたのか、息を整えるイロハ。


「そういう意味じゃなくてな……。お前、どうしてこんな事……。いや、それより。俺が来なかったらどうするつもりだったんだよ」


「お前?」


「三上」


「んー??」


「……アヤ」


「声ちっさw。ん、まぁ今日はこれくらいで勘弁してあげる。そうだねー、来なかったらやっぱり来るまで待ってたかも」


「……卑怯だぞそれ」


「ふふ〜ん♪で、戻って来たって事は、聴かせてくれるんだよね?」


「……分かったから。今はとにかくここから出るぞ」


「ん」


 こうして私たちは、暗闇に包まれた学校を後にした。


**


 まだそこまで遅い時間でないとはいえ、夜の公園はどこか薄気味悪かった。俺は三上を連れ、近くの公園のブランコに腰掛けた。


「うわぁ懐かしい!ブランコって私、めちゃくちゃ好きだったなぁ」


「あんまりはしゃいで怪我するなよ?」


「心配してくれるんだ。やっさしー!」


「後がめんどくさいだけだ。犯人扱いされても困るしな」


「うわぁ……」


「……今から話す事、他の誰にも言うなよ」


「うん」


「俺は嘘つきが死ぬほど嫌いだ。裏切られるのも。俺との約束、神に誓えるか?」


「それはちょと無理かなー?」


「は?」


「私、そういうのあまり信じてないから。その代わり、この約束、あなたに誓います」


「なっ」


 彼女は俺の手を取り、自分の手で包み込んで目を閉じた。その姿は恐ろしく美しいかった。運命の歯車はこの日、音を立てて崩れ始めた。


 その後どうなったかは俺自身、正直あまり覚えてない。ただ、全部話してしまったという事実と、恥ずかしい姿を見られた事だけは鮮明だった。


**


 翌日。あんな事があっては三上と顔を合わせづらい。クラスが違う事に心底ほっとした。ただし部活ではそうはいかない。そろそろ生徒会と、体育祭の件について話し合いをしなければならない。行きたくはなかったが、何故か行かなければならない気がして、旧校舎最奥のドアを開ける。なるべく自然に。


「うーっす」


「ようやく来たわね」


「あーっ、来た来た遅い!先輩、お待たせしました!紹介しますね。彼が一条色葉です!これからよろしくお願いしますね!」


「は?」


 一体何なんだ?見ると、今日はやけに人数が多い事に気づく。見知った顔が一。確か名前は……。


「二井見?」


 と、その横に佇むでるのは……。


「誰?」

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