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日本建国 -護法魔王尊シリーズⅡ-  作者: でうく
第Ⅳ章.金星人サナト=クラマと本州進出
2/22

Ⅰ.スサノヲへの指令

「は」



平穏に戻ったと思われた高天原に、再び閃光が奔った。



「諸君。よもや之で全てが解決したとは思っていないだろうな」

―――俺の生の中で(ようや)く訪れた平和は、脆くもこのひっつめキツネ目中国系男の前に崩れ落ちた。

今迄生きてきた中で平和な時期が殆ど無かったのは大抵俺自身が悪いという事は認めよう。だがオマエ少しは空気を読め!!

俺と大して年齢(トシ)が変らないクセにエラソーなツラしたその渡来人は、妙に露出度の高い際どい格好をした南方系女とバリ無表情のムキムキ男を引き連れて、突然()って来た。



・・・俺達三貴子(きょうだい)は、少しずつ歩み寄っていこうという事で、茶の機会を設ける事となった。

之はクラマの発案で、ヤツの考えなら呑むしか無いからあくまで付き合って遣ってるだけで、俺自身が姉弟仲を良くしようなんざ全く思っていない。兄貴が茶を点てるのが趣味なんざ全く聞いた事も無いしな。姉貴だって知っていたかどうか。

サナト=クラマ―――・・・俺の隣でお上品に茶を啜っているこの神サマは、わざわざ金星から来たというどえらい魔神だ。鼻だけがやたら高くて額が()り出した変な顔をしているし、髪も白いし、所作も老体じみて何か儚いが、之が強い。てか、霊力が半端無い。

て・・・誉めてどうする・・・とにかく、高天原(このほし)の神サマは(マガ)という、ま、悪意とか疾病とかそんな不浄と謂われるモノに呆れる程に耐性が無いが、この神サマは耐性が有るどころか其を利用して幻覚を見せるとか浄と不浄を切り離すとか、もう何でもアリな訳だ。

・・・・・・俺も禍が視える。狐を落して貰った借りも有るから、この男が強大な魔神である事は認めるが、其以外には何も受け入れて遣る部分なんて無い。()してやヒトの家庭事情に首を突っ込んで一緒に茶ぁーなんざはぁ?という話だが、この男だって先刻帰る準備をしていて、姉貴が最後の茶会だと言って引き留めるから一回だけ付き合って遣ろうという訳だ。


という訳で、何で四人で(しか)も茶会なのかとはこういった経緯がちゃんとある。俺の本意じゃないッ。


「スサノヲ」

茶を突然目の前に置かれ、俺は心臓が口から出ん程に愕いた。ばッ、気をつけろ莫迦ぁ!

―――磯の香りがする。茶碗の底が透ける殆ど無色の水に、薄く青い色がついている。海みたいだ。

「あなたに合いそうな茶を調合して作ったのですよ」

へぇー・・・結構凝ってんだな・・・なら、それぞれで飲んでる茶は違うのか・・・・・・

一口飲んでみると、塩の味が少しした。後味がスースーする。何処から仕入れて来たのか知らないが、この浮べてある葡萄みたいなのが美味い。

・・・じゃなくて

「ところで、スサノヲ」

兄貴が盆で俺と自分の口許を隠す。文句の一つでも云って遣ろうかと睨んだら、耳許(みみもと)でこう囁かれた。

「先程からずっとクラマの方を視ていますけれど」

!!何云ってんだこの腐兄貴!!俺が他人をずっと見続ける訳なんてあるか!!まるで他人に興味が有るみてぇじゃねぇか!!

「・・・気に入りました?」

「ば――ッ何云ってやがるこの女男!!んな訳有るかッッ!!」

「はいはい」

ーーー笑うのも流すのもムカつきやがる!


男のクセに女みたいなツラしてんのは月夜見(ツクヨミ)という兄だ。クラマが来る前はほっとんどケンカしかした事が無いが、最近は色んな意味で茶化してきやがる。

・・・誉める気は全ッ然無いが、パッと見は其処の露出狂女より美人じゃねぇか?勿論、正統派な意味でだが。って、何云わせてんだよ!



「月夜見ー、私は??早く飲みたいーーぃ」


・・・言わずもがな、この甘・ったるい声をしてんのが天照(アマテラス)、俺の姉貴だ。容姿は実際の女だから兄貴より良いのは当り前だが、だからってそんな声出す必要あんのか?後の世で云うブリッコってヤツなんですが。

―――大体、この前の騒動だって、俺ばっか責められるが姉貴だって結構色々遣ってんだぞ?

「御客様が先です!」

・・・・・・どっちが“姉”なんだよ。



「そんなに気を遣わなくていい」

「茉莉花茶を頼む」

「あんた、少しは遠慮しなさいよ!」


この客人とやらも何なんだ・・・・・・どこのきょうだいも似た様なもんじゃねぇか・・・・・・?こいつらがきょうだいかどうか知らねぇけどよ・・・・・・なら別にクラマがわざわざ俺等のケンカに介入する必要無かったんじゃね?

「サナト=クラマ。先日は如何(どう)も」

(まこと)にはや。汝が協力あってこそ」

・・・・・・何か其処で社交辞令の握手があってるぞ。オマエら何齢(いくつ)だよ。特に漢服丁髷茉莉花男。

こいつら、俺をガキ扱いしてんじゃねぇだろうな・・・・・・?

「本日は如何したのです?」

「―――君達は暢気なものだな」

はぁ?如何いう意味だよと思ったが突っ掛るのは止めた。頭の構造が違いすぎて話にならない気がしたし、兄貴と茉莉花キツネ目男は何やら親しそうだ。兄貴、友達いたのか。

仕事以外で他人との関係が作れなさそうなキツネ目が飲んだ茶は甘い匂いがして、紅茶に大きな花が丸ごと一つ浮べてあるのが見えた。流石は中華思想。

「・・・・・・よもや之で全てが解決したとは思っていないだろうな」



()(まえ)等―――っっっ!!」



げっ。てかとにかく(うるさ)い。相手は誰だか判ってる。玉祖(タマノオヤ)。あいつは何故か知らないが、やけに俺達に構って来やがる。玉造ってるだけじゃなくて高天原で其形(それなり)に責任のある地位らしく、声(ばかり)か云う事もいちいちくどくどと煩い。

む・・・と玉祖が茉莉花男を睨む。

「―――優雅に茶ァなんて暢気なもんですな、八意(やごころの)思兼神(オモヒカネノカミ)?」

「君を()っていたのだがな、私は」

ずず・・・八意は俟ってたと云う割に茶を飲むのを止めない。・・・オイ、いい加減にしろこの○×△「だーーっ!煩いわ御前はーー!!」

・・・・・・玉祖がキレた。(たま)に想う事だが、俺と感覚が一番近いのはコイツな気がする。

「計算してたんだ!この女が引き籠っていた間に産れた損害額をな!」

今度は姉貴の方を睨む。姉貴は怖ぁーい・・・と茶を運びに来た兄貴の後ろに隠れた。・・・・・・損害って何だ?

「こちらもだ。之で東部進出の時期も狂った」

八意も溜息を吐いている。・・・・・・何の話だ?東部進出・・・?東部って、文字通り高天原の東って事か?比喩じゃねぇよな。

俺がこの話を知らないのは今迄黄泉に浮されて、こっちのヤツ等と接触していなかったからなのかを確める為に周囲を見回した。

クラマは勿論だが露出系女子も愕いた顔をしている。後のヤツ等は特に引っ掛る事も無く勝手に話を進めていた。

・・・・・・この女の方が場違いな処に居るのか。貌立ちも変った感じだし、八意と何か特別な関係でもあるのか・・・・・・?

は・・・・伴侶・と、とか・・・・・・?

「?・・・・・・にこっ」

そこまで見ていた心算は無いが、不思議に思ったのか女が覗き込んできた。目が合うと、笑顔で手まで振ってきやがる。

「・・・・・・ちっ」

・・・・・・在り得ねぇ。少なくともあの冷し中華みたいな、冷たいヤツのは・伴侶なん、か・・・・・・

・・・・・・姉貴は立場的に知ってるハズなのに、何故か珍紛漢な表情をしている。オイ、(しっか)りしろよ。

「・・・・・・何は有れど、高天原の全機能を停止させるという極めて危機的な状況を作った者達に対し、何の咎めも無いのは如何なものかという意見が出ているのだが。天照大御神」

「え、えぇっ」

姉貴は泣きそうな声を上げた。

今回の事件を引き起したのは俺と、仕事を放棄した点で謂えば姉貴もだ。まさかきょうだいという事だけで兄貴も咎められるという事は無いだろうが、このつり目三白眼コンビがどこ迄を範囲とする心算(つもり)なのかは判らない。あーでも、兄貴仲も立ち回りもいいからな・・・



「―――東部進出とは、何ぞ」



ナイス、クラマ。其が解らないと話が断然進まねェ。だが



「詳しい事は御話し出来兼ねる」



八意が突っ撥ねた。之は地球(われわれ)の問題である以上、金星の守護神には関係の無い事である故―――と云う。何だよ、ソレ。散々世話になってるクセに!オマエだって自分でホシ救えなくてクラマを捲き込んだ点では同罪だろうが!


「―――オイ、オマエ。さっきから黙って聞いていれば好き放題ベラベラ喋りやがって!」

素戔嗚(スサノヲ)


クラマと兄貴が制止する。・・・・・・何でクラマが制止すんだよ?



「思兼は、日没する処の御曹司で、貿易の幅を東へ拡大しようとしているのよ♪」



クラマが目を見開いた。姉上!兄貴が(たしな)める。御前なーーーっっ!! 玉祖に至っては女相手に構わず攫み懸っている。

・・・・・・理由は解らないが、詳しい事を御話しする方が莫迦だという事は解った。


「ほほう・・・ポッと出の君に日没すると云われる程私の後ろ盾は(やわ)ではないのだがな・・・・・・」

アルヨアルヨと幻聴が聞える。ヤツの背後が何かドヤってるぞ。四千年の歴史・眠れる獅子・安いあるよ・シナティちゃん・・・

「御前、冗談で流していいのか・・・?そこ」

マッチョが呆れた顔をする。姉貴は一人妙に(はしゃ)いで

「思兼は冗談が通じない様でいて真顔で付き合ってくれるから好きなのよ~♪」

「おごっ」

・・・茉莉花野郎に抱きついた。ちょ・・・っ、何遣ってやがんだオイ!!

「姉貴ッ!!「ちょっと大御神?」

びくっ。女って怖ェ。姉貴の様な、急に大胆な行動に出る女もいれば・・・、・・・・・怒ると、鬼よりも怖ろしい女、も・・・・・・・。

「こいつはね、単に冗談だと気づいていないだけですから♪♪♪・・・」

露出系女子がバリッと姉貴と八意を引き離す。・・・・・・何だ、この光景・・・・・・?

う、羨ましくなんかないんだからな!大体、どっちも在り得ねェし!見ないでおいて遣ろうと顔を逸らすと、玉祖も顔を逸らしていた。リアクションも俺と一緒じゃねぇか。キャラ被りすぎだろ。兄貴がそいつをからかってるのを見て、嫌嫌俺は前を向き直す。

ま、まぁ、こ、この現実に存在しなさそうな男の事だ。姉貴なんかにいつもの衝動的な勢いで抱きつかれても、何も感じない・・・・・・


「・・・・・・」


カオ真赤だし!!

「何考えてんのよ!この不純男!!」

八意は絶対少女漫画的妄想で男を見ている、意外に清純なこの女にボコボコにされる。健康的だったんだなオマエ。

「思兼は貴方達と違って、泣いている者達を責めないから・・・」

目を潤わせて俺等を見る姉貴。嘘泣きだって皆知ってんだよ俺達は!どんだけ振り回されたと思ってんだ。

女は特に付き合いが無くても直観的に其が判るらしく、殴るのを止めてウザそうな眼で姉貴を見ている。確かにウザい。

「高天原から100km程北の地域は、倭国連合を結んでいるので平安なのですが、其処から東を越えた島は未だ混乱が収まっていないのです」

ワコクレンゴウ?さっきから訳の解らない事ばっか云いやがって。だが、クラマが質問してこないのに俺が訊くなんて在り得ねェだろ。

「・・・何でも、大蛇が現れ、女王候補となる姫君を連れ去って仕舞うそうなのです。クニを治める者が在なくなり、島は再び混乱に陥る・・・・・・」



「「おろち?」」



思わず口に出た。クラマとハモる。お節介のクラマが好みそうなネタだ。

「確か、あのクニは生贄の風習が残っていましたね。指導者が之以上攫われぬよう、子供を森へ置き去りにすると云う」


―――この後、俺と恐らくクラマも、東部進出について首を突っ込んだ事、倭国連合について訊かなかった事を深く後悔する事となる。


「―――そう、あの島をこの侭の状態にしておくのは当事者も望んではあるまいだろうし、影響が高天原(こちら)に及んでも困る」

八意が復活した。表情(カオ)だけすっげー真面目ぶってるが、フラフラしてるし冠がズレている。・・・・・・オイオイ、大丈夫か。

「!ちょっと!」

其でも女は八意の胸倉を更に掴む。おっかねェ・・・・・・!漸くムキムキマッチョが動き出し、女を止めた。

「・・・宇受賣(ウズメ)。其位にしといて遣れ「勝手に決めないでよ!変に介入しようなんて思わない事ね!」

・・・?何で事情も知らなさそうなこの女が口を酸っぱくして云うんだ?確かに、要は自社製品を売り込みたいだけの魂胆にも見えるが。

「―――我、同感也」

・・・・・・クラマが珍しく反論する・・・意外だな、生贄話に絆されて我先に正義を語り出すと思ってたのに。

「・・・云はれ無き行為起せしは、無用な禍根を植えし事也。干渉(いず)れは支配となりにて、星全体をば戦場(いくさば)と化す。地球が隣星・火星、()が原因にて滅べし也」

・・・随分重苦しいコトバだな。女も強く(うなず)いている。之は俺の類推だが・・・この女、(あっち)で八意に買われたんじゃないだろうな・・・・・・?

「・・・・・・其は私には解らぬな」

「!「オマエ、ふざけんじゃねぇぞ!!」


「其は君自身の変化に訊いてみるしかあるまい」


・・・・・・!?俺は八意の胸倉から手を離した。・・・何なんだよ、この頭の造りの違いは。一体どういう意味だ?


「思うに、天照大御神。彼に、試練を与えてみては如何か?」


!?は!?何云ってやがる。姉貴も兄貴も愕いているが、玉祖は居心地悪そうに頭を掻いている。そこは俺に合わせて叫んでみろよ!



「彼に大蛇退治をさせてみて、出雲が平定したならば、物資を朝貢するところから始めれば良いとは思わないか?私は何れにしても、積み上げては壊される賽の河原の如き因習は断つべきであると思っている」



ちょ・・・何か凄い話になってねぇか・・・・・・?



()し、支配などを考え、再び以前の如き悪徳を行なえば、死罪―――・・・さすらば、貴殿も納得しましょう、サナト=クラマ?」



―――?何でクラマに問うんだよ。嫌な予感がしてきたぜ・・・・・・

クラマも何かを察しているらしく、表情が段々と曇ってきている。

「俟って。其は、素戔嗚にはまだ早すぎるわ。失敗すれば死んで仕舞うという事でしょう!?」

「元元が黄泉に居たんだから、別に問題は無いだろう。結構いい処だぞ、黄泉は」

「私だってこの齢で連合の筆頭だぞ」

そうそう、案外黄泉は極楽極楽・・・て、違うだろ!てか、明かに優等生なオマエとこの俺を一緒にするな!


「何にせよ、地球の回転システムを阻害したという罪は万死に値する・・・日(いず)らん事が其程問題な事であると、理解して欲しいのだが」


「・・・・・・」

八意がガン見で俺に云う。・・・・・・本気だ。何も云い返せない。俺は、そんなにひどい罪を犯したのか・・・・・・

「・・・・・・俺も同感だ」

玉祖が念を押す様に云った。姉貴は目を瞑り何回か深呼吸をすると、・・・・・・解りました。と意を決した様に云った。



「クラマも一緒にという事でしたら、大蛇退治に素戔嗚を派遣しましょう」

「「「おい!!!」」」」



ココは真っ当な神ならツッコむべきだろう!クラマは器を手に持った侭、硬直して表情も動かなくなった。姉上!兄貴の怒号が飛ぶ。


「構わぬよ。元よりその心算だったし」

「その方がいいだろうな。うん」

オマエ等が勝手に決めんのかよ。オマエ等本当に神なんだろうな・・・・・・?在り得ねェ、この非道さ・・・・・・


「だって―――・・・」


姉貴が今生の別れの様に上目遣いと涙目を盛大に駆使して云いやがった。



「素戔嗚に、大蛇を独りで倒せると思います―――?」



「「「「「「・・・・・・・・・」」」」」」



・・・・・・クラマでさえ、姉貴のこの問いに「是」と云う事は無かった―――

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