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日本建国 -護法魔王尊シリーズⅡ-  作者: でうく
第Ⅵ章.神と人間、そして大蛇(おろち)
16/22

proⅢ.~人~

(およ)そ46億年前―――



金星や地球を始めとした惑星は、太陽の誕生と(ほぼ)時を同じくして形成された。太陽が超新星爆発の衝撃波の影響を受け形成された後、宇宙塵が太陽の周囲の軌道を廻り始め、次々に衝突して微惑星が出来た。太陽形成から10万年掛け、地球型惑星の完成と共に或る生命が生れた。其は、微生物でも勿論我々人類でも無く、我々が宇宙の根源であると崇める創造主・詰りは“神”である。

クラマの父・梵天(ブラフマー)はその一柱で、金星が形成される迄の間ガスや塵と共に宇宙を彷徨っていた。無論梵天だけではなく、惑星の定義からは外れたものの太陽の影響を受けている事に変りの無い冥王星の守護神・閻魔羅闍(ヤマ・ラージャ)もこの時に生れている。



地球にも例外無く守護神が生れた。その神の名は天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)。その神は神々の中でも類稀なる能力を具えており、(すべ)てを浄化させ、清らかな状態に戻す事を得意とした。氷を温暖な海に変える事が出来るのもその神のみであり、火星と大きく異なって生物の進化をここ迄促したのもその能力あってのものだ。惑星の衛星とするには非常に大きい月を引きつける強大な力を持つその神は、地球型惑星の軌道に残るには余りに力を持ちすぎていた。溢れそうになる力を抑える為にその神は、形代となる者を創造し、其に己の霊力を移した。



『我が霊力より産れし最強の神子―――・・・名を「春日丸(カスガマル)」』



―――・・・愛でる様に身体を撫でて舟に乗せると、大和の川へと流す。



『私は御前(おまえ)を産んでおきながら、御前の側に居て()る事は出来ない。霊力は持ち過ぎると重力を生じ、森羅万象総ての力を吸い尽し、我がものとして仕舞う。私と御前が出逢ったならば力が結合し、宇宙は喰い尽されてブラック‐ホールに閉された世界となるであろう。

其だけは、避けなくてはなるまい』



人形(ひとがた)の子供の姿をしたその神子は、非常に布刀玉(フトダマ)によく似ていた。(しか)し、布刀玉の様に冷めてはいなく、くりくりと目を丸めて不安そうに首を傾げながら、自分からは離れて()く様に視ゆる性別の無い親神を見つめている。




 『御前は独りの流れ者。私もそうして宇宙を彷徨ってきた。宇宙には誰もいない、が、地球には生命がいる。


私と御前が出逢う事が無きよう、文身(アヤツコ)()が額に刻み地球に送ろう。御前は地球の者として、生きよ』




・・・其が最初で最後の、親子の対面であった。





proⅢ. ~ 人 ~





三重県松阪市飯高町―――



ざ・・・


流れ流れて、春日丸はこの地に辿り着いた。霊力を封じられ、生後間も無くこの地球へ落された稚児の身一つで生き抜くのは容易い事では無かった。服は破れ、身体は芯まで冷えて精神は相当荒んだ。死体の所有物を剥ぎ取ってその場を凌いだ事もある。併し、文身(アヤツコ)を以て(なお)溢れ出さんとする己の霊力が死者の心の闇を取り込み、魂を喰らう衝動に幾度も駆られた。ブラック‐ホールに取り込まれし魂は、金星の黄泉にも冥王星の地獄にも葬送されず、梵天や御中主神の様に宇宙に吐き出される事も無く、春日丸の中で消化される。まるで始めから、その存在など無かったかの様に。

取り込むと逆に心を喰われている様な気分であった。無念の内に斃れた魂は哀しく醜いものだ。“憑依”という言ノ葉が最も意味が近いかも知れぬが、主導権は()(まで)春日丸に()る。取り込み従わせる事は出来ど、否応無しに侵入(はい)り込んでくる思念は、確実に春日丸を変え、いつしか周囲の彼に対する噂が立つ。


『屍体に引き寄せられる子供が()る』

『魂を喰ろうている処を見た』

『儂は心を()まれたぞ』


生物の持つ心なぞ、皆似た様なもので在ろうに・・・彼は常に魂に餓えた鬼“餓鬼”と畏れられ、逃げる様に近畿の地を転転とした。

誰も自分の心に立ち入らない、秘密基地の様な土地を探して、春日丸は伊勢の山奥・珍布(めずらし)峠へと辿り着いた。




春日丸が街道一帯に結界を張り、誰にも立入を許す事無く其処を常世として過していた或る日、思わぬ来訪者が現れた。




その“カミ”は体格に合わぬ白い馬に乗って、春日丸の結界をするり抜けて来た。乗っていたのは春日丸と同い年位の小さな少女で、幼い(なが)らも美しい、春日丸の概念(じしょ)には無い物質的な均衡をもった者であった。


『此処は僕の陣地だ。出てっては呉れまいか』


春日丸は警戒して白馬の上の少女に云った。春日丸の身長は、馬の胴体にも届かなかった。


『誰がそんな事を決めたの』


白馬の上の少女は端整な顔を崩さずに尋ねた。


其は・・・ 春日丸は()うを怖れた。併し

『決めしはこの僕だ。僕は、この地球の創造神・天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)の神子で春日丸と云うぞ』

少女はきょとんとして、ふーん?と適当な相槌を打った。この娘は春日丸を恐がらない。同時に、少女の出自もこの頃の春日丸にはよく判らなかった。

『私も此処で遊びたいな』

『だめ!』

春日丸は強硬に来訪者の進入を拒んだ。少女は下膨れ気味の頬をぷっくと膨らませる。

『じゃあ、その陣地の境って何処までなの』

『この下の“堺ヶ(かいがせ)”から北が僕の陣地。名は大和』

『じゃあ私は其処から南を陣地にする』

少女はわくわくした表情(かお)で云った。

『でもまって。その堺だと私の方が陣地が少ない。この石を川に投げ入れて、波の止まる処を堺にしようよ』

『そうかなぁ』

『そうだよ!』

少女は馬から下りて、傍に在った石を助走をつけて川に投げ入れた。すると、川の水は巨大な水柱を形成して、滝の様に落ちて往った。落下した水は勢いよく川上に逆流してゆく。そして其処には里が出来上がった。更に激しい勢いで逆流していった波は高見という山に到達する。春日丸は大いに愕いた。

僕と同程度の霊力(ちから)をもつカミが他に()たなんて―――


『決った。高見山(あそこ)が伊勢と大和の国境』


少女は眉の上で一直線に切り揃えた黒髪を(なび)かせつつ、振り向いた。



『私の名前は天照(アマテル)。之から永くよろしくね、春日丸』




「・・・・・・クラマ―――!?」


素戔嗚(スサノヲ)奇稲田(クシナダ)を櫛へと変えたクラマを凝視した。クラマはまだ術を行使し終えた(ばかり)の姿勢である。ふと我に返った素戔嗚は、駆けてゆきクラマに掴み(かか)った。

「てめぇ・・・味方に何をしやがる!!」

素戔嗚が拳を振り下ろそうとする。()つ也。素戔嗚。クラマは素戔嗚の腕を食い止めるが、自信が無かったらしく顔を背けて眼を瞑っていた。

「奇稲田が手を穢す必要も無し。素戔嗚、汝が責務也」

「・・・・・・何だと?」

素戔嗚の胸倉を掴む力が弱まる。クラマはふぅと息を吐いて素戔嗚の振り上げた状態の拳を静かに下ろした。大蛇の暴走は森全体を捲き込み、彼等がこうしている間にも拡大の一途を辿っている。

「どういう事だよ」

「おろちは奇稲田には倒せぬ。なれど素戔嗚、汝なれば可能。そういう事也」

素戔嗚は瞳を大きくしてクラマの色素の薄い瞳を見上げた。

素戔嗚の霊力が大蛇どころか奇稲田にも遠く及ばないのは無論クラマも知っている筈である。其を、素戔嗚なら倒せると云ったクラマの意図は一体何か。

素戔嗚は、最初に大蛇の霊力に()てられた時の不思議な懐かしさを想い出した。あれは気の所為では無かったという事か。

なればやはり、之は自らの問題であって奇稲田を()き込むべきものではない。(むし)ろ奇稲田は―――


―――素戔嗚はギッと大蛇を睨み、奇稲田の櫛をクラマに預けて歩き出した。


「素戔嗚」

―――素戔嗚の背に一瞥を呉れ、クラマは一つ忠告をした。

「“霊力(ちから)”で克つなどとは思わぬ事也」


「わーーってるよっ!!」


素戔嗚が天羽々(アメノハバキリ)を腰から抜き、大蛇に向かって疾走する。自らを追う8つの首の隙間を縫って、刃を腹部に突き立てんとす。併し、身体を捻って腹部を見せない大蛇は、苔や樹の生えた背を素戔嗚に押し当て、視界を妨げる。天羽々斬で樹樹を寸断した先は大蛇の首で、大口を開けて彼を待っていた。


「!!」


素戔嗚は咄嗟に羽々斬を縦に構え、其の侭大蛇の口に飛び込む。羽々斬を大蛇の開いた口の大きさにすっぽり押し込むと、己は大蛇の口の上に乗り上げ、足で思い切り体重をかけた。

・・・羽々斬の刃の鋭さに、徐々に大蛇の顎が裂ける。

併し、口から土砂が吐かれ、羽々斬の作った裂け目は自身を捲き込み決壊する。ゴオォォォォ・・・と音を立てて墜ちてゆく羽々斬を、素戔嗚が掴み損ねた瞬間だった。

「!!」

大蛇の尾が素戔嗚に命中し、岸に叩きつけられる。地面が大きく削り取られ、湿った土煙がゆっくりと移動した事で、額に血を流した素戔嗚が合間見えた。

「っきしょーが・・・」

素戔嗚が荒い呼吸をする。

クラマは何をするでもなく、只少し険しい表情を浮べながら素戔嗚の大蛇退治を見守っていた。・・・と


〈金星人・・・私を元に戻せ〉


―――櫛に姿を変えられた奇稲田が、クラマに話し掛けてきた。

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