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日本建国 -護法魔王尊シリーズⅡ-  作者: でうく
第Ⅴ章.“人間”・奇稲田(クシナダ)とヤマタノオロチ
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ⅩⅢ.神と人間

天之御中主神(アメノミナカヌシノカミ)―――・・・高天原の神々なれば知らぬ筈が無いと云われるその名前。その神は、天の中央に坐するまさに宇宙根源の神。天地に代表される世界が初めて生れた時、この神は最初に地球に現れた。そして、渾沌と天と地の混ざり合った地球を、清浄なものと重く濁ったものに分け、其が陰と陽、更に天地と成る。そうして国土を形成し、海に浮ぶ水母(くらげ)の様になると、其の侭身を隠したと云う。


天之御中主神の存在は謂わば金星の守護神・護法魔王尊の父と同等である。クラマの父・梵天(ブラフマー)も万物の根源とされ、金星を天と地に分け浮遊都市(フローティング・シティ)を創造した。その力を受け継いだ者は生れ(なが)らにして偉大だ。世界が違うという事でありオノゴロ島を造った伊弉諾(イザナキ)伊弉冉(イザナミ)とは遙かに格が違う。




がらん・・・

高木家の広大な屋敷の磐扉を開き、思兼は松明を入ってすぐ横にある燭台に差した。目の前には高木の姓に相応しい繋ぎ目の無い木張りの床、七(けん)程目で追った先には、蚊帳がありその中に人影。蚊帳の中は松明より明るく、内側を照らす提灯が外側から見ると影となってゆらゆらと左右に揺られている。

・・・思兼は、頭を垂れて相手が何かを話し出すのを、待った。

「・・・面を、上げよ」

暫くして、蚊帳の奥から清まし込んだ様な声が聞えてくる。声の質は互いに似た様なもので、思兼も其に負けず劣らず清まし込んだ口調で話を切り出すのであった。

・・・先ずは、面を上げる。

「・・・何の用か。思兼神(オモヒカネノカミ)




カッ!

(なげう)った矢が一つ、大蛇(おろち)の頭に命中する。眼を射貫かれた大蛇は轟轟たる悲鳴を上げ、のたうつ様にその巨大な身体を左右に振った。


ゴウゥウゥゥゥッ!!

大蛇の口から咥えていた獲物が落ち、水の無い岸に叩きつけられる。

「うっ」

受身を取り損い、くぐもり声を上げたのは大蛇への生贄を手違いで殺した八十神だった。ワイヤーで吊られてでもいるかの様に美しい弧を描いて華麗に着地した奇稲田(クシナダ)を背後で見た時には、情けなくも

「姐御~~~・・・」

と、涙目になって縋るのであった。

奇稲田は背筋をゾクリとさせる。

「・・・何だ。御前達か」

奇稲田は嫌嫌(なが)らに振り返った。如何やら八十神と奇稲田は知り合いの様である。

そういえば、八十神の目的は女貌のオオナムチを生贄として大蛇に捧げ追い払う事で女性の人気を買い、その家の家長となって権力を振う事であった。平和な世にするには女王を立てるが良いとされていた事から女性に取り入ろうともしていた。

「姐御~・・・一生ついてきーます~・・・!」

「調子のよい事を(のたま)うなっ。弱い上に気持ちの悪い。私は大蛇を斃して生き延びるが、御前達は残らず大蛇に喰われて仕舞えッ」

・・・・・・相当な嫌われ具合である。


・・・と、大蛇の別の頭が奇稲田を襲う。


「!!クシナダ!!」


素戔嗚(スサノヲ)が思わず叫ぶ。


奇稲田は身を翻し、八十神の許へ飛び込んで間一髪で彼を連れて逃げた。

「姐御・・・何だかいや言って俺の事・・・・・・」

「御前・・・・・・この状況で言える事は其しか無いのか!」

奇稲田は鳥肌を立てて柄にも無く怒鳴る。

頭を一つ仕留めても、残りの7つの首が各々違う動きをして迫って来る。

奇稲田は再び弓矢を構え、別の頭を狙う。

・・・と、素戔嗚はここにて気づいた。のたうって周囲の削れた部分が大蛇と結合し、大蛇の巨体が少しずつ、更に膨れ上がっていっている事に。

矢を突き立てられた首もいつの間にやら再生し、明らかに顔の面積が大きくなっている。


「!オマエ、やめろ!!」

素戔嗚はすぐに叫んだ。併し刻既に遅い。


(しか)して、奇稲田の矢は見事に命中した。結果は先程と同じ様なものであった。だが、咥えていた獲物は今度は大蛇の腹の中に落ち、濁流という名の消化液に呑まれていく点で少し異なっていた。

水位が急激に上昇している。

陸地の面積が減少していく中、奇稲田の躱せる範囲というのも限定されてくる。奇稲田も攻撃の意味が無い事を段々と解ってきたのか矢を番える事を止め、逃げに専念する様になった。


・・・間違い無い。大蛇は奇稲田の霊力を喰っている。


奇稲田の放つ矢は破魔の力を持ち、清浄な気のみが練り込んであって邪気を含んでいるものは粉砕して仕舞う。奇稲田の能力に劣るものは、であるが。

詰り、大蛇は奇稲田が如何なる技を以てしても決して勝てない相手であるか、清浄世界に生きる者―――例えば神・の可能性がある。―――先程、素戔嗚が感じた懐かしさというのとこの大蛇は何らかの繋がりがあるのかも知れない。

「・・・・・・」

完全に主役としての気配を消していたクラマは、見守る様に彼等の様子を観察していた。

奇稲田は明らかに冷静さを欠いていた。其も仕方の無い事だろう。実際に見知っていた敵ではないとは謂え、之程にも歯が立たないと知れば。

奇稲田は決して弱くはない。(むし)ろ、善にも悪にも染まり得る感性を持つ中で、清浄な気のみを練り込む事が出来るという其自体が凄い事である。之は神々でも天児屋(アメノコヤネ)布刀玉(フトダマ)等の祭祀に纏わる者しか出来ない。

生れた時から大蛇を倒す為に巫女としての訓練を積んできた。(すべ)ては今日のこの日の為に。だから凄くて当然なのかも知れない。だが其は“人間として”である。学術用語では其を『生物的制約』と云うらしい。

神と人間では抑抑(そもそも)のつくりが違う。妖怪なれば倒せたかも知れないが、蛇の道を知らば堕ちてゆくのも叉必然だ。

併し実は“邪の道”を以て神を堕とす事は、驚く程簡単な事なのだ。

神は清らかな世界にしか棲息せぬ分、邪気に対する免疫が無い。

人間の怨みつらみは欲望と結びつき易く、(マガ)へと変異しがちである。

「――――・・・」

―――奇稲田の矢から、清浄な気が消えてゆく。

奇稲田が其を悟ったのかは知らないが、其が恐らく大蛇を倒す一番の方法であろう。奇稲田は一度諦めた筈の臨戦態勢に戻り、怨みに染まって穢れた矢を構えた。


「!()て・・・」



奇稲田は矢を放った。



「クシナダ・・・っ!!」



―――矢は大蛇に命中しなかった。命中する以前に、矢は奇稲田が先刻まで立っていた処にぽとりと落ち、どす黒く変化しながら其処に横たわっていた。

奇稲田が背負っていた(えびら)や、常に持ち歩いていた大弓も其処に在る。



・・・只、奇稲田だけが忽然と姿を消していた。



「!?」

素戔嗚は思わず大蛇を見上げる。併し、大蛇こそが攻撃を止め、状況を汲む為にとある者の方に視線を向けていたのは見間違いではなさそうだった。其でも河道を呑み込み、益益(ますます)面積を増やしている。




―――大蛇が注目していたのは、クラマだった。




から・・・んからんからんからん・・・っ


乾いた音が鳴って、奇稲田の居た場処に赤・青・黄・白と原色の何かが落ちた。其等の色は奇稲田の身に着けていた衣服の色と同じである。

素戔嗚が大蛇の目を盗んで拾うと、其は女物の櫛であった。


クラマはまだ術を行使した時の姿勢の侭で、ゆっくりと掌を落し乍ら、素戔嗚がその両手に持つ櫛を見つめていた。



「クラマ――――!?」

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