pro.~贄~
―――雷鳴轟き、稲妻奔る。軈てぽとぽとと地面に点がつき、畳み掛ける勢いで点が塗り潰され、土一面が濃い色となる。
最初は頭に滴る程度でむずむずする位だったが、今となっては痛い程に、其は身体に叩きつけてくる。
ザーッという烈しい音と共に、線状に落ちて来るものは、聴覚だけでなく視界をも悪くして
触れると其は自らの身体を濡らし、触覚さえも奪ってゆく
―――泣いているのか、其とも只雨が頬を濡らしているだけなのか
・・・小さな兎がぷるぷると身体を左右に振る。
兎の前には年端も行かぬ小さな稚児が、仰向けに倒れ口を開けていた。
兎がペロペロと稚児の頬を舐める。併し稚児は反応しない。開かれた侭の眼球にも容赦無く雨が入って来て、稚児から溢れる涙は益している様に視えた。
「オオナムチ・・・・・・」
―――雨は益益酷くなる許で、いつまで経っても止む気配を見せない。稚児の遺体はすっかり血の気が抜け、形代の如く白くなっていた。
兎の姿はもう其処に無い。
森を流れる川は水を大量に摂り込んで、渦巻き暴れ回っていた。川原の土には罅が入り、其処にも雨の水が浸透する。
罅の先端は更に八俣に裂け、八つの首へと変貌した。
水面に鱗が浮び上がり、土手は更に裂けて決壊が始る。
手足が出来、其に水が行き渡ると、まるで屏風から抜け出て来たかの様に巨大な龍が出現した。
ゴオォォォォ・・・と龍は雄雄しく咆えた。
「赦サヌ!!赦サヌゾ!!」