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群青雨色紫伝 ー東雲理音の異世界日記ー  作者: MIRICO
第一章

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83 ースパイ大作戦ー

 理音は掃除と偽り、あちこちの部屋に顔を出していた。

 誰かに会えば道を聞く。警備がいれば隠れたが、見つかれば気にせずそう問うた。


 今まで歩いていて、おかしな部屋はなかった。

 中を見ずともわかる、錠のついた部屋だ。さすがに武器や食料を保管して、鍵もつけないと言うことはないだろう。

 それも見ていたわけだが、そう言った部屋は見つからなかった。

 案外どこも鍵があいているのだ。


「探すとこ、間違ってるかな」

 外に倉庫はいくつか建てられている。掃除用具を入れる倉庫などもあり、そこは問題なかった。

 次に向かうのは裏手にある倉庫だ。そこは扉が頑丈そうで扉のサイズも他より高さがあった。さすがに鍵がかかっているかもしれない。

 窓から覗いて見るだけでも、何かわかるだろうか。

「箒持って、庭に行くか」


 人がいないおかげで動きやすい。

 ヘキ卿に先がないから人が集まらないとはおかしな話だと思ったが、事実のようである。けれど、子供がいれば、跡取りなどの問題などは起きないのだろうか。

 元皇帝の弟の孫。元と言っても、結構前の元である。

 フォーエンとハク大輔の祖父に当たるわけだが、その後子供の三人が死亡し、現在はその子供であるフォーエンが皇帝になっている。

 元皇帝の弟はフォーエンの父親の叔父である。フォーエンの父親が皇帝となって死んだので、継承権はもう既に子供世代に入っている。その為、ヘキ卿の血統だと、継承権から若干外れてしまっているのかもしれない。


「でも、第三後継者には、なってるんだよな」

 第一後継者はハク大輔、次に病弱シヴァ少将。そして第三ヘキ卿である。

 それなのにやる気がない。働いても上に行けないから。

 その上とは、皇帝になるのだろう。

 だからなのか、本人にやる気がないのは。だとしたら、ヘキ卿は皇帝の座を狙っていないことになるのだが。


 それならば、一体誰が武器を集めているのだろう。


「よいしょっと」

 倉庫には窓がいくつか高所に作られている。覗くことは中々難しいのだが、側の木に登れば大した高さではなかった。


「木登りくらい」

 理音は足をかけられる場所を探して枝に手を伸ばすと、何とかお尻を持ち上げた。

 太い枝まで届けば簡単に登れる。

 足をかけて枝を踏みつけ、あれよあれよと登ると窓の近くまでやってきた。

「んー。ちょっと遠い」

 落ちたら結構痛むだろうな。と思いつつ、壁に張り付かないと見えないと思い、壁を足で踏みつけた。勢いをつけて壁をければ枝に戻れるだろう。

 そして、そのままの状態で、窓を覗いてみた。

「何も見えん」

 無謀だったと足を壁についたまま、何とかずり落ちないように踏ん張る。反動をつけて木に戻らなければならない。

「股裂けそう」

 せーので勢いをつけて木に戻ろうとすると、反動が足りなかったせいで枝を掴み損ねた。 もう一度壁に足をつけて堪えて、枝に戻ろうとする。

 ギリギリ手に取れた枝は大きく揺れて、音を立てた。


 やばいな。

 音の大きさに多少冷や汗をかきながら、理音は地面を見下ろす。

 あとはさっさと降りるだけだ。

 登るよりも早く滑るように落ちて、最後は跳躍で地面に辿り着く。上げていた裾を直して、さも何もなかったように箒を片手にその場を移動する。

 無謀すぎて、無駄すぎる。

 カメラでも仕掛けて、扉が開くのを待つなんて楽な方法をとりたかった。

 それ以外に、倉庫の中を確かめる方法が思いつかない。


「ここもハズレかー」

 しかし、それにしても、武器など集めてお屋敷に運んだら、すぐに気づかれてしまうと思うのだ。どこか倉庫を借りるとかしないのか、疑問になる。

 身分があるならば金もあるだろうに、だが自分の土地に隠すわけだ。

 動く人間が屋敷内にいれば、それを持って戦いに行きやすいのだろうが、ここはどうだろう。戦う者がいるのかと言う話である。私兵でもいるのかどうか。

 それとも、戦ってくれる仲間が外にいるのかもしれない。

 それでも、ハク大輔の方が、しっかりと戦いへの準備を行なっているように思える。人も武器も連絡も。

 あちらが謀反を起こしても何も疑わない。

 戦う者たちのフォーエンに対する敬意を除いて。

 しかしヘキ卿はどうだろう。武器がどこかに隠してあるとして、使う人間はいない。その武器を、これからどこかに移動させるのだろうか。仲間がいて、そこに渡しに行くのだろうか。


「決行日にはわかるってパターン、やだな」

 大量の武器を、一気に動かすことがあれば完全に黒となる。

 外に仲間がいて、武器を渡す。もしかしたら同調した市民にも。

 だとしたら、協力者がいることになるわけだが。

 こちらの事情を知らない自分が、何か想像できるわけがない。聞ける人間はナラカしかいなかった。

「いや、探す。あと行ってないとこどこだ!」


 掃除をするふりをしつつ、庭を徘徊し位置を確認する。これでなければ隠し倉庫があるか、隠し地下でもあるかだ。そうであったら見つけるのは難しい。

 時間もあまりない。早く見つけなければならないのだが。


 しかし、時間は無情にもすぎていく。闇雲に探してもそう簡単にはいかず、結局怪しい部屋も倉庫の中も確認できず、その日はすぎてしまった。

 ナラカは毎日来るわけでもなく、夜に姿も見せなかった。


「スパイ大作戦、役立たず…」


 しかも、今朝になって掃除長に怒られてしまった。そりゃ掃除もしないでうろうろしていれば、怒られるに決まっている。



 あまりにも怪しさがなさすぎて、もうどこ探していいかもわからない。


「屋根裏とか…?」

 隠し屋根裏に武器とは、運ぶのが大変そうだ。

 ため息しか出ない。意気込むだけで結果がない。

 部屋の中の掃除をさせてもらえば、もう少ししっかり調べられるが、まだ新入りの理音には外回りと廊下しか許されていなかった。

 部屋の中まで入られるようになるには、どれくらい時間がいるのかわからない。

 その間に起きることが起きてしまうだろう。それでは意味がなかった。


 もう、ヘキ卿に直接聞きたい気分だ。

 そんなに簡単で単純な世界ならば誰も争いなど起こさないだろう。


 が


「が?」


 音が聞こえて、理音は顔を上げた。

 庭を歩く中、屋敷の中から何かが聞こえた。何かを打ち付けたような音だ。それから話し声、怒鳴り声だろうか。

 聞こえる方へと進むと、窓が開いている部屋があった。

 そこから声が聞こえる。どうやら女性の声のようだった。


 ぼきいっ


 何かをへし折った音が部屋から届く。

 窓が開いている場所は一箇所だけだ。そこから音だけが聞こえた。そこに人がいるようだ。窓から見える姿に、理音はつい木に引っ付いて息を殺した。


「こんな、ものっ!」

 再びボギィッである。

 何の音か、扇をへし折った音だ。それを窓の外に投げつけて、庭石に当てる。

 ガッ、ってその音かよ。


「こんな物、送ってよこして!わたくしを馬鹿にしているの!?こんな、安物!わたくしは皇帝の妻にとされるはずの者であったのに、こんな物を、わたくし、に!」

 今度はガッシャーン、だ。

 小物が入ったものを、地面に投げつけたようである。金属が散らばる音が聞こえて、更にそれを踏みつけた音がした。

 装飾品を踏み潰したのかもしれない。踏みつけた後に、何かが散らばる音が響いた。


「こんな物、さっさと片付けて!わたくしは、内大臣の娘なのよ!?」

「もちろんでございます、お嬢様。このような安物、お嬢様の御髪には似合いません」

「当然よ!ああ、あの子が泣いているわ。母の涙をわかっているのね。次にそんな物を送ってきたら、その職の任を解いてもらうと伝えなさい!」

「承知いたしました」

 激しいヒステリーが静まって、女が部屋を出ていったのがわかった。


 中で壊れた物を片す音がする。外に飛ばした扇も取りに来るだろう。

 理音は音を立てないように、そっとその場を立ち去った。

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