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77 ー疑問ー

 ここで犯人に仕立てられたらもう逃げられない。


 罪に問われたら、誰も理音を助けないだろう。ユムユナやアスナに気づかれれば口を封じられる。

 大尉はどうか。それがわからなかった。


「他には?」

 やっと口を開けばそれだった。

 申し開きがあるかと言うことだろうか。そんな言い訳は聞きたくないと。

 だとしても、あと一つわかっていることは門番のことくらいだろう。


「台車は、こちらにあるものではないので、昨夜の裏門を守る者も協力者だと思われます」

「相わかった。リオン、そなたはすぐに荷物をまとめよ」

 唐突である。

 つまり、出て行けと言うことだろう。

「わかりました」



 ここで路頭に迷うのか。昨日戻れていれば、平和な生活が送れていたのに。

 一応乾物と水はいつもの要領でためてはいる。三日はもつだろうか。その間に働き口が見つかるかどうか。


 ナラカに会えれば話も違うのだが。


 誰かにガラスを割るのを見られていたのか、その罰で出て行けと言われているのならばまだ道はある。いきなり処分と言われているわけではないのだから。

 荷物を持って出ていけるのならばマシな方だ。着の身着のままで捨てられたら、それこそ終わる。


 荷物をまとめて、理音はため息をついた。

 倉庫に荷物が戻っているかどうか、一応見ていくか。見ても仕方ないのだが、やはり気になる。


 どうもしっくりこないのだ。

 なぜアスナは、夜に荷物を運び出そうと思ったのだろう。


 倉庫はいつも通り錠で閉められて、開くことは不可能だった。

 台車もなく、盗もうとした物を中に片したのか、それとも外に運んだかもわからない。ぐるりと回って確認しても、台車はなかった。

 後悔すべきは、もっと早く窓ガラスを割っておけばよかった。である。

 そうすれば誰かに見られていなかったかもしれないし、それこそ撮影でもしておけば、証拠を抑えられたのに。スマフォを見せた方が事が大きくなるかもしれないが。

 それはともかく、犯人を捕らえられなかったことを考えると、胃の中がムカムカしてきた。吐き気などではなく、腹立たしさのムカムカである。

 何とか道連れにしてやりたいものだ。

 証拠の一つでも残してないか、地面を睨み付けつつもう一周する。そんな物が落ちていても、ここで荷物を積みこんでいたのを考えれば、何か落としても何の怪しさもないわけだが。


 地面から目を離そうと曲げた腰を元に戻した。戻そうとした時、何かが壁からするりと草むらに消えた。

 小さな、動物のような。

 踏みつけたその場がじりりと鳴ったので、理音は踏んだ足を上げた。

「何これ、…お米?」

 ぽつりぽつりと、倉庫の壁に繋がっていく。

 倉庫の土台は土壁で、隙間のないものだった。壁は漆喰のように白色が綺麗に塗られている。その壁と土台は別の素材で作られていた。その隙間、小さく穴が開いていた。その隙間に、白い粒々が落ちていた。

「お米だ」

 シュンエイの父親が送ってきた荷物の中に、お米が紛れている。

「食品も送ってきてた?」

 わざわざ遠方より、土地のお米を娘に送る。米どころの親ならやりそうなことである。

 けれど、いいところに嫁いだ娘に米を送ったりするものだろうか。ましてや、それを確認せず、倉庫に積み込んでしまう。


 考えていたことがある。


 市場に出さない物を、どこに置いておくのかと。

 買い占めを行い、市場に流れないようにストップをかけて、小出ししてに売り上げを不当に得る。


「いや、全てがそれのはずない。金属音だってしたし」

 運んだ物の中には、食品とは思えない重さの物が多い。

「偶然…?」

 それに、今は砂糖が足りないと言っていた。

 考えすぎだろうか。

 夜中に運び出していた荷物は、米ではない。金属音のする物だ。

 だから、米を売りに出すために運んでいたわけではない。


 偶然か。


「ナラカ、何か知らないかな…」

 ナラカはナミヤの屋敷付近によくいると言っていた。あの辺をうろついているとも。

 そうであれば善は急げだ。あの辺りで待てば会えるかもしれない。運良くこちらは無職になって、気兼ねなく待つことができる。同じ場所で待っていれば会えるかもしれない。

 どちらにしても、ナラカに職をもらえないか聞きたかったのだ。

 丁度いいと、理音はその場を後にした。



「リオン、行くところはあるの?」

 声をかけてきたのはユウリンだ。意外にも門の前で理音を待っていたようである。

「適当に探します」

「君は、強い子だね」

 強い?それはまだ限界が来ていないからそう見えるだけだ。

 まだ、命を落とすほどの限界ではない。

 限界が来た時に自分がどうなるかはわからない。それでも耐えられたら強いだろう。だが、まだそこまでに達していない。とりあえずの三日分の食料がある。

 これが尽きた時に、自分は何を思うだろう。

 理音はそんなことはどうでもいいと顔を上げた。それよりも聞きたいことがある。


「ユウリンさん、ちょっと聞きたいんですけど」

 ユウリンはフォーエンを皇帝だと認めている。大尉の意思によって対応も変化するかもしれないが、彼自身はフォーエンを敬っている。

 だとしたら、今回の事件をどう思うのか。


「市場で食物の操作が行われてますよね。お米とか、お砂糖とか。お米って、いつ頃起きたか知っています?」

 ユウリンは急な質問に面食らったか、どこか困ったように肩の力を抜いた。

「米は、砂糖の前だ。三週間ほど前かな」

「それって、まだ高騰してるんですか?」

「そうだな。落ち着いてきてはいるだろうけれど、前よりは高いはずだ。なぜ?」

「買占めのお米って、大量じゃないですか。しまうとしたら、相当な大きさの倉庫が必要ですよね」

「それはもちろん。出荷される前に買い占めて、それをどこかで保管しているだろう」

 あの倉庫は、最初から半分埋まっていた。荷物を運び入れる時には、既に買い占めていただろうか。

 だとしても、倉庫としては小さすぎる。

 集めた米を他に売るために、あの倉庫に保管していたのならば可能だろうが。


「リオン、何を知っているの?」

 ユウリンは怪訝な顔をしたままだ。

 大尉が知っていることなのか、それはわからない。

 だがこれは賭けだ。ユウリンがフォーエンを陥れたいのであれば、ここで終わる。けれど、そうでなければ、ユウリンは何か行動を起こすだろうか。


「倉庫の隙間から米が溢れていました。でもまさか、あんな小さな倉庫に全てのお米を入れておくことなんてできませんもんね。バカなことを言いました。大体、運ばれていたのは金属だし。じゃあ、失礼します」

 言うだけ言って、理音は一礼して踵を返した。

 ナラカに話が聞きたい。何か彼は知らないだろうか。


 米があったとしても、箱の中身は金属である。シュンエイの父親は武器商人だ。

 大尉は関わっているのか、そうではないのか。

 けれど、辻褄が合う、米と武器だ。

 謀反を企てていたとして、大尉は更にハク大輔と繋がっているかもしれない。そうすると、全てが繋がってしまう。

 けれど、気になることがある。協力している者たちの演技力だ。誰もフォーエンの敵になるとは思えない。

 フォーエンに話せたらどんなに楽だろうか。彼自身に伝えることができれば、彼の指示を仰ぐのに。


 フォーエンに会いたい。

 会って、話して、彼の側にいられればよかったのに。

 それを望んでも、なされないけれども。


 今は何ができるのか、自分で確かめなければならない。

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