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71 ー時間ー

「皇帝陛下って、あの木を使って何かしたりするんですかねえ?」


 例えば蜜を飲んで、その恩恵を授かる。とか。例えばではあるが。

 あの蜜を飲んで、理音の手を引いた。あの時、フォーエンは一体何がしたかったのだろう。


「皇帝陛下がどのような儀式をやるかは、我々のような者には伝えられない。王宮にあるウーゴの木を占星師が測り、未来を予測する。それに関わり皇帝陛下が今後を測られることはあるだろうが、何をするかは知らされていない」

 我々のような者。下った言い方である。


 後の言葉より、そこに引っかかった。話し方からしてこの男がハク大輔だと感じたのだが、フォーエンを卑下する口ぶりではない。

 イメージとしてはもう少し年下だと思うのだが、ここにいる男はフォーエンより十歳くらいは年上に見えるし、勘違いであるようだ。

 それにしても、


「ウーゴの木が大切なのはわかりましたけど、あれってあちこち植わってるじゃないですか。一個枯れるくらい、何てことないんじゃ?」

「そんなわけなかろう!一つが枯れば全てが枯れる」

 男は理音を一喝した。

 直結しているのだ。全ての木が。それは信じざるを得ない。


「ウーゴの木は枯れたまま、皇帝陛下の即位は滅びの流星があり、誰もが今の皇帝陛下に不安を持ってもおかしくない。これでウーゴの木が更に枯れば、国自体が滅ぶやもしれん」


 その言葉は重く、耳に残った。



「みんな不安。か」

 噂もよくない皇帝が市場を操作して不当に金をせしめているとしたら、不安どころか不満爆発だろう。しかもそれが何度も続けば、わかりやすく市民の人気はだだ下がりになる。


「わかりやすく、なー」

 フォーエンがそんなアホな真似をするかどうかである。何か考えがあって、あえてやっているなら納得するが、金を集めるために市民を犠牲にし、その後のフォローをせずにおいたらどうなるのか。それは想像に容易い。

 そんなことを彼がやるのかどうか、甚だ疑問である。

 誰かが率先して、皇帝陛下の命令で、などと言えばあっという間に悪い噂は広がるだろうか。

 もしそれを行なっているとしたら、大きな組織となるだろう。何せ、砂糖、塩、米、大豆だ。物が多すぎる。それを買い付けられる資金源と、噂を流す準備。そこそこ金持ちで、人を動かせる者に限る方法だろう。

 だとすると、


「ハク大輔、か」


 今の所、知っている名前はそれだけだった。他にもいるのだろうが、一番可能性の高い人ではある。

 それを、フォーエンも考えているのだろうか。

 彼の言葉が聞ければな。と頭に思い浮かんだが、首を振ることで、それを消した。



「リオン、これも運んでくれ」

「はいー」

 シュンエイ宛にシュンエイの父親から続々と荷物が届く昨今、とうとう納屋にまで置くようになって、理音はその木箱を奥へと運んだ。この納屋、教室二つ分ほどの納屋である。それがもう満杯になっていた。

 言われるがままに運び、中は確認していない。あまりにも贈り物が多すぎて、ユムユナは確認すら放棄したようだ。重量のある箱は主に置物なので、確認する必要もないのだろう。


「これ、結局どうするんでしょうかね。そろそろ入らなくなってきましたけど」

「ユムユナ様がシュンエイ様の許可を得て売りに出すって話。あまりにもひどいからな」

 指示をされつつ、他の従者たちと一緒に荷物の詰め作業である。

 男の従者はいるにはいるが、シュンエイの私物を運ぶには人が限定されていた。そのため理音も手伝いに入っている。納屋は納屋でも、シュンエイの部屋に近いので、入る許可を得ている者が少なく、理音は手伝いに使いやすいのだ。

 おかげで重量のある木箱も理音が運ぶ羽目になっている。


 一緒にいる男、アスナは、できるだけ軽い物を選んで理音に運ばせてくれるので、そこまでの大変さはないが、それでもいつもよりはずっと重い物を運ぶことになった。

 女子だとはばれてはいないようだが、腕力のなさは最初の箱を運ぼうとした時に知られている。

 何せ持ち上げようにも片方上げられただけで、動かせもしなかったからだ。


「最近、多いですよね。大きい物から小さい物まで。何に使う物が入っているのかって感じ」

「一体何が入ってんだろうなあ。前開ける許可をいただいた時は板が入っていたが」

「板?何に使うんですか?」

「人形を飾るための台座だそうだ。そう言うのが多いんだろうな」

「台座ですか。そいや、シュンエイ様のお部屋、鳥かごのための豪華な棚とか組み立ててましたね」

「あれも重かったな。職人に作らせた素晴らしい彫りの物だからと言って、運ぶにも神経尖らせて。そんなのばっかりよこすんだろうな。大旦那様は派手な物がお好きだし」

 大旦那様。シュンエイの父親だが、可愛い娘のために何でも送ってくるのが趣味なのだろうか。何と言ってもこの世界の荷物運びは足を使う。それを気にせず何度もわけて送ってくるのだから、中々な金の使い方だ。

「お金持ちっぽいお金の使い方ですね」

「そうなあ」

 アスナは軽く笑いながら納屋の鍵を閉めた。高価な物が入っているので施錠しているのだ。鍵はしっかりとした南京錠のようで、サイズが両手の平はある。売りに出すとは言え盗まれても困るのだ。大尉の屋敷内だとしても、そこは厳重である。


「そいや、まだ大尉の仕事してんだって?」

「ええ、まあ」

「いつも何やらされてんだ?」

「いやー、日によって違うんですよね。でも雑用です。時折お使いでお菓子いただけて嬉しいなって程度で」

 業務内容を誰かに伝えるのは許されていない。

 理音は他の者にも言うように、適当な言葉で流した。

「おかしな話だよな。従者なんて五万といるだろうに。それが何で、わざわざシュンエイ様お付きの従者を選ぶのか」

「それは私が聞きたいです」


 初めはおかしな仕事だと疑った。今でも疑っているが、結局文を渡しに行くだけ。それ以外の仕事をしない。それなのにわざわざ人を選んだ。選ばれたと思っている。だがやはり、その理由は思いつかなかった。


「シュンエイ様の様子が知りたいとか、そーゆーわけでもないんですよね。何か聞かれたこともないし。ただの雑用でお使いで、じゃあ別に私じゃなくていいでしょうって、思います」

「聞かれることはないのか?シュンエイ様のご様子とか」

「一切ないですね。お仕事も、やってきて、ってだけで説明は受けません。だから気楽にやれてますよ」

 外に出てナラカに会えた。そのおかげでここがフォーエンのいる世界だとわかったのは良かったが、良かったことはそれくらいで、あと何があるかと言われたら、お菓子がもえらえるくらいなのだ。特に話すこともない。

「何かあったら言えよ。仕事の役割はかなりおかしいわけだし。特にお前はうちでも新しいんだから、わからないことも多いだろう」

「ありがとうございます」

 アスナは従者の中でも面倒見がいいのか、よく話しかけてきてくれるのだ。他の従者より少し上の身分なのか、指示を出す立場でもある。そのため理音に対しても気にしてくれるのだろう。


 働き始めて約二ヶ月となる。人にも仕事にも慣れてきていた。


 だが二ヶ月。


 あと少しで帰ることができる。

 そのつもりである。


 だから最近、着物の中にスカートを履くようになった。荷物も布で覆って持ち歩くことにしている。建物の中でそれは難しいが、外に行く時にはカバンを布に包んで背中に背負った。

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