67 ー相関図ー
「お前、今どこにいるんだ?」
短髪の男は親しい者にでも問うように、気軽に聞いてくる。
怪しいくせに、答えが返ってくると思っているのだ。
理音が警戒していないことに気づいているのだろう。
「リン大尉の屋敷。側室の方の従者やってて」
「リン大尉?おかしな繋がりだな」
「おかしいの?」
「リン大尉は、現皇帝派だからな」
フォーエンの味方なわけである。ならば信じていいのだ。けれど、
「ウンリュウさんはリン大尉と繋がってると思うけど」
「ハク大輔の部下は、いつもあの屋敷で集まっている。そこと繋いでるのがリン大尉か。どちらに転んでるのかな?」
次代皇帝か、フォーエンか。
その話からいくと、転んでいるのはハク大輔になる。
そして、大尉が文を出している人間は他にもいた。
「刀鍛冶も含まれてるけど」
「なら、謀反か」
「そんな短絡な答え、出しちゃうの?」
確かにわかりやすく、イメージできる繋がりではあろうが。
「とりあえずは、それが一番わかりやすい話だろ。謀反とはいかずとも、何かに用意しているのは確かだ。ハク大輔の部下どもは、やたらオウの屋敷に集まり何かしている。あれが何なのか、まだわからない」
「オウって誰なの?」
「お前を追ってきた男がいただろう。オウ・ナミヤ。あいつはハク大輔の側近で、そこそこ名の通った男だ。元の身分は大したことがないが、ハク大輔はあの屋敷をオウに渡した。それを自由にオウが使っている。ハク大輔と関わりはないように見せてはいるが、人を集めるためにあの屋敷をオウに与えたんだろう」
この男、一体何を調べているのだろう。
フォーエンに対して嫌悪を見せているくせに、フォーエンと敵対してるであろう、ハク大輔のことも調べているのだ。
「ハク大輔って、そんなに皇帝の座を狙ってるの?」
「知らん」
「おい」
適当に言っているだけか。
確かに、あの屋敷でナミヤたちが集まって何をしているかは、気になるところだが。
「現皇帝は味方が少ない。父親を含め、伯父たち二人も殺されている。皇帝が殺したって噂もある。三連続で暗殺だからな」
三連続。フォーエンの前が。
そこには父親も含まれている。
「フォーエンが、お父さんも殺したってこと…?」
「その可能性はあるんだよ。父親が兄弟を殺したかもしれないがな。そこは何とも言えん。だが、三人が連続で早く死にすぎた。疑いがかかるのは当然だ。だから現皇帝には味方がいない。三人を殺した皇帝につくには狂気じみてる。ならば現皇帝を退位させて、ハク大輔へ皇位を上げた方が安全だ。ハク大輔は血筋が確かで、子供もいる。その子供につくこともできる。今のうちについておけば、側近たちがうまく操れるからな。三連続で死ぬ前は、この国は側近のものだった」
「じゃあ、ハク大輔を皇帝にしたい人は、いっぱいいるの?」
「そう言うことだ。それに、本来ならば皇帝になるはずの人間だった。そして年齢は現皇帝とそう変わらない。ならば本人だってその気になるだろう。祖父が暗殺されてるんだからな」
ナラカの話は納得のいくものだった。
ハク大輔が、フォーエンを逆恨みしていることだって、あり得るのだ。
ならば自分が皇帝に、と言う気持ちは起きるかもしれない。
「あの店、よく奴らは出入りしている。あそこで繋ぎをつけているわけだ。あまり首を突っ込まないことだな。あの男の監視もまいたわけだし、殺されないように気をつけておけ」
「冗談に聞こえない」
「冗談じゃねえよ。俺はその辺ぶらついてるから、また会えるかもな。その前に死んでるなよ」
笑えない話だ。ナラカ言いたいことだけ言って、さっさと姿を消した。
とんだ再会である。
あの男が胡散臭いのは前からわかっていたが、話すとなおさらひどく怪しい。
趣味で調べているなんて、あるのだろうか。あるとしても、どこかに情報を売っているとか、そう言うことだろうか。
誰かの命令で動いている可能性もあるわけだが、何とも言えない。
それと、問題なのはこちらの方だろう。
「ハク大輔か…」
後継者問題というわけではなく、簒奪と言った方がいいのかもしれない。
しかし、これはあくまで仮定で、事実に関わる証拠の何かがあるわけではない。
リン大尉がフォーエン派だとしたら、何かを調べているのかもしれない。
逆に反対派になっていたとしても、謀反を企てるなんて大きな話に簡単に繋げられるものではない。
刀鍛冶の男に確かに文は渡しに行ったけれども、そのための武器を一人で作っていると言うのも、あり得ない話である。
繋げて一つのことに飛びすぎだろう。
「とにかく、今日は早く帰ろう」
ウンリュウが本当に自分を監視していたら、自分がいなくなったことを報告されるかもしれない。
少し話していたが、そこまでの時間ではない。ただ迷子になったと言って、通じるだろうか。
理音は早足で先へ進んだ。
ナラカの話は、どこまで信用できるかわからないこともある。
あの男がエシカルで城に入り込み、王宮にもいたことを考えれば、まともではないのは確かなのだ。フォーエンを暗殺しようとするわけでもないが、敵ではない証拠もない。
ただ、理音を面白がって助けたのは本当だろう。フォーエンの側にいたことを知っていたとしても、それで何かを企てたわけではなかった。
よくわからないことだらけで、混乱してばかりだ。
フォーエンに話せて、彼に相談できれば一番安全で一番信用できるのだが、それができない。
「せめて、王宮を自由に歩ければな」
それができれば、苦労はないのだが。
理音はただため息を吐いて、足を動かした。
帰ってから、ユウリンから咎めるような言葉はなかった。
いつもの部屋に入って、お使いが終わったことを従者に告げたが、ユウリンは出てこなかった。
彼は時折部屋にいて、一言二言何かを伝えてくることがあるけれど、今日に限っていない。
ウンリュウが監視を外しただけであれば、彼はユウリンに何も伝えていないのかもしれない。
そんなに遅れて帰ってきたわけでもないので、問題はない。
ホッと安堵して、いつも通りとシュンエイの警備に戻った。シュンエイはもうすでに食事中で、いつも通りのんびり優雅な生活を続けている。
こちらに来て暇で仕方ないと嘆いてばかりで、彼女には大量の本を与えられた。それが唯一、彼女の暇を忘れさせることができるようだ。
大尉は未だ来られることはなく、ユムユナは穏やかではいられないようだが。




