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65 ー再会ー

 大尉の文のお使い。

 最近そればかり仕事をしている気がしてならない。


 主に多いのがナミヤの屋敷で、次に多いのが男の子のお店である。

 しかし、毎度道を間違えた。小さな似たような道が多いせいで、曲がる道を間違えてしまうのだ。

 記憶を頼って行くと、時折別の道に入ってしまう。

 今回も道を間違えて、急いで戻った。また知った道が見えて来たので、そこで地図を見直す。

 男の子が店を経営しているわけではないだろうが、出てくるのはいつも男の子だった。

 店の中に入らず、扉前で文を渡す。それが常だったのだが、


 いつもならば閉まってる店の扉は、開け放しだった。

 開いていれば人がいるのかと思い、中を覗いてみる。


「すみませーん」

 声はよく通った。

 中は狭いのかと思えば、意外に広い。レストランのように入り口すぐに番台のような机があって、目の前は壁に遮られ、中心は廊下が続いている。かなり長い廊下だ。

 その左右に、お座敷のように部屋があるようである。扉は全て閉まっていた。

 人はいないか、声が聞こえない。

 まだ開店前のように、静けさが響いた。

 誰もいないのに、扉を開けっ放しにしてあるとは、無用心である。

 理音はもう一度声をかけてみた。しかし、返事がない。


「またこのパターンか…」

 お店の中ならば、入っても問題ないだろうか。今の所、個人宅に無断で侵入しても怒られていないので、いいかな。とか思ってしまうが、どうだろう。

 少しだけ中に入ってみて、また声をかけてみたが、やはり反応がないのだ。

 何だかいつもタイミングが悪すぎる。

 扉が開いていたのだから、誰かいるのだと思うのだが。


 いつも何が問題って、また来ようと思える距離ではないのである。

 行き帰りにトータル何時間をかけて歩いたのか、戻るくらいなら待っていた方がマシなのだ。

「チャリさえあれば…」

 またもないものねだりをして、一度外に出ることにした。

 ご近所で長話でもしているかもしれない。踵を返して扉を出た瞬間、

「ぶはっ」

 何かにぶつかって、理音は声を上げた。

「リオン」

 かけられた声は上からで、理音は声の主を見上げた。

 ぶつかった男はウンリュウである。

「お使いかー?」

 気配のない近付き方をしてくれる人である。


 ウンリュウはぶつかったリオンの頭を肩を撫で、頭を撫でてくれた。

 理音が男と思っているからだろうけれど、高校生くらいの男に対して頭を撫でるとかどうなんだろう。などと別のことを考える。

 ウンリュウには身長と体格もあるので、子供扱いされるのであろうが。


「人いないのか。珍しいな」

 ウンリュウは気にせず中に入り込んだ。理音の入らなかった奥にも、さっさと行ってしまう。

 ここに何度も来ているのだろう、奥へ入りきると廊下を折れて姿が見えない先へ行ってしまった。ナミヤの屋敷と同じように自由である。


 ウンリュウもここに来るのか。


 大尉が文を渡すならば、知り合いの可能性はあるだろう。大尉がらみか別がらみかで、この店とウンリュウは知り合いなのだ。


 大尉と、ナミヤと、この店。

 不思議な関係に思える。


 大尉自身が他の者たちと身分が合わないように思うし、身分が違っていても定期的に文を出していることが不思議な話だ。

 この店とウンリュウが知り合いでも、何の疑問も持たないだろう。ウンリュウは町をうろつく無職のゴロツキのように見えるし、店も高級ではない。

 座敷風の部屋であれば、ここは食べ物屋か何かなのだろうから、ウンリュウがわざわざここに食べに来てもおかしなことはない。

 ただ、この店とナミヤの屋敷は遠すぎるわけだが。

 しかし、ウンリュウがナミヤの屋敷の近くに住んでいるとは限らないのだから、それはそこまで疑問に思うことはなかった。


 けれど、ここに大尉が関わると奇妙さを感じるのだ。

 何のためにここに文を渡しているのか、また気になってしまう。

 

 しばらくすると、いつも対応してくれる男の子が急いでやってきた。後ろにウンリュウがついてくる。

「すみません。奥にいて、気づかなくて」

「中で皿を割ったんだと。帰らなくてよかったな」

 予想通り食べ物屋ではあるようだ。男の子はエプロンをしていた。

 その子に理音はそのまま文を渡した。


「ウンリュウさんは、こちらにお食事を?」

 世間話みたいなものだ。理音は軽く問うた。ウンリュウは、俺も渡すものがあったんだ。と軽く返してくる。

 おかしなところはないか、それを見極めてどうするかと言う話だ。

 理音は会釈して戻ることにした。彼らがどういう関わり方をしているのか、考える必要はない。


 ただ少し、気になるだけだ。

 その、気になる。が、今の所何なのか想像できなくて、やはり気持ちがそぞろになるのを感じた。


 理音は元来た道をいつも通り戻る。


 戻る道、理音は少々顔を歪めた。

 何だかな、何かが引っかかるのだ。何だろう。


 人気のない、静かな通り。入り組んだ道の下町に、人のいない場所。

 違和感が拭えない。

 何かががおかしいと思うのに、それが何だかわからなかった。


 考えながら歩いて、それは不意に遮られた。曲がり角を曲がった瞬間、腕を引かれて口を塞がれたからだ。

 気づいた時に足元を踏んでやろうと思った。けれど、口を塞いだ男がウインクをして、静かにするように仕草をして来たのを見て、踏もうとした足の力を抜いた。

 引き込まれた先は、どこかの家の庭だった。さっきまで自分が歩いていた道が見えるぎりぎりに姿を隠して、男はそれを待った。

 何を待つのか。それを黙って見ていると、その道を、ウンリュウが焦ったように走り去った。


「つけられてんぞ、お前」

「え?」と問うたつもりだが、口を塞がれていて声は出なかった。

「静かにしろよ。あいつはずっとお前をつけていた。ろくな事にしか足を突っ込んでないか?」

 その男、短髪の男はにやりと笑った。

 ゆっくりと手を離すと、ウンリュウが走り去った先を見て、理音の腕を引く。

「ここから離れんぞ」

「え、ちょ」

 男は有無を言わさず理音を引いた。

 素早く動く男の後ろを手を引かれたまま追って、小道を迷路を行くように何度も曲がって進んだ。


「ちょっと、どこ行くの」

「あれ、お前、言葉覚えたのか?」

 短髪の男は、今気づいたと笑って見せた。ならばと引く腕に力を入れる。

「あいつ、ハク大輔の部下だろう。なぜあんなのにつけられてる?」

「ハク大輔?つけられてた?」

 ハクと言う名前には覚えがある。ウンリュウが持っていた酒をくれた相手だ。あの時はハク様と言っていた。

「ずっとつけられてんだろ。あっちでも、ハクの所有していた昔の屋敷跡でも」

 ナミヤの屋敷のことだ。

 そして気づく。さっきの違和感に。

 ウンリュウが後から来たのは今回で二度目だが、先ほどは迷子になったせいで道を戻ったのだ。

 後ろを向いても、そこに人はいなかった。

 何度となく前後左右と見回していたのに、ウンリュウを見ることはなかった。

 だから、おかしいと思ったのだ。

 後ろから来ていたはずなのに、彼の姿は見なかった。


 つけられていた。

 今回だけでなく、もしかして、いつも。


 監視はウンリュウだったのか。

 納得がいくような、割にサイズの大きい監視だと思うのだが。

 それに気づかぬ理音も理音なのだが。

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