59 ー次々ー
「リオン、戻った。どこまで行ってきたのさ」
「遠いとこまでお使いに行かされました。すみません、次の仕事します」
キノリにしつこく問われても困ると、理音はすぐに自分の仕事場所に移動した。
秘密の仕事と言われているし、監視が近くにいることもあり得る。
そそくさと自分の仕事につき、理音は午後の仕事を始めた。
午後のある時間になると、皮むきなどの雑用も頼まれる。それを終えたら、シュンエイの身の回りの警備をした。
たまにシュンエイの父親から荷物が届くと、その搬入を手伝う。主に着物であったり、身の回りの物なので重さはないが、力仕事なのは確かだ。
倉庫になっている部屋へ行けば、やはり荷物が置かれていた。それを、シュンエイの部屋の荷物置き場に移動させに行った。
一部屋丸々宝物庫のようにして、シュンエイの着物やアクセサリーが置いてあるわけである。そこに同じように荷物を詰めるのだ。
警備に戻ってからはユムユナの指示に従い、シュンエイの望むものを持ってきたり持っていったりを繰り返した。
彼女も暇なので、本であったり遊びの道具であったりを運ぶのだ。
そうして、夜になって皆が寝静まる頃、大体十時過ぎだろうか、部屋に戻ることができて、それから眠る用意をした。
部屋からは月が見られて、それを眺めながら眠るのだ。部屋は狭くても、一人と言うのはかなりよかった。
こちらに来て、また日記をつけている。
時間は自分の世界とは若干ずれるので、こちらの日にちを数えるならばこれが一番なのだ。
そして写真を撮ったりできれば、それをノートパソコンにまとめた。
何とか安定して暮らしていることに安堵しつつ、写真を眺める。
最近ずっと、小河原を撮ることが多かった。
桜並木で二人で撮った物や動物園での物、サッカー部のユニフォームを着ている物もある。
「隠し撮り多いなー」
撮ろうとすると照れて顔を隠すので、こっそり撮ることが多くなってしまうのだ。
知られないようにレンズを通した小河原は、理音の前とは別の顔で、やけに大人びて見える。
こちらに来て数日。もう少しで三週間である。
まだ半分にもならないが、あと少しで帰られると思っているので、小河原への懐かしさはなかった。
ヴィーナスのコスプレで一緒に撮った写真が出てきて、これはゴミ箱に入れてやろうかと算段したが、小河原が照れながらも嬉しそうな顔で写っているので、捨てるのはやめた。
この笑顔が彼の本当の心だと思うと、嬉しくも気恥ずかしさが込み上げてくる。
一体、彼は自分のどこが好きなのか。聞くと恥ずかしいので聞かないが、未だ疑問に思うことだ。
目下、次のデートは水族館である。
小河原のことは好きになれると思うのだ。だから、彼の喜びも同じように分かち合いたい。
「手を繋いで、か」
動物園でも繋いだは繋いでいたが、ずっとではなかったし、つまり次はずっと繋いで行きたいわけだ。
そう言うことははっきり言う子犬である。こっちが照れる。
少しずつ会うのが楽しみになってくる。この気持ちを大事にしたかった。
「リオン、今日は別の場所へ頼むよ」
再びユウリンに呼ばれて、文を頼まれたのは、前から三日後だった。
どうやら場所が違うらしく、新しい地図と一緒である。
「寄り道せずに、行っておいで」
手を振って見送られて庭から外へ出た理音は、少し離れた場所でほっと息をついた。
これから何度も、誰かしらに渡しに行くのことになるのだろうか。
そして寄り道するなと、釘を刺されてしまう。
「壁に耳あり障子に目ありだな…」
まさかな、と思いつつ、けれどそうかもしれないと思うと、さすがに寒気がすると首筋をかいた。
前に出かけた際、また外に用事ができたら買い物をしてきてほしいと、キノリに頼まれていたのだ。
お使いなのでついでにやるのは難しいとは断っていたが、それくらい気にすることはないとも言われていた。
もしかしたら、それをユウリンは知っている。
側室の屋敷に、スパイでも放っているのかもしれない。
屋敷内は、シュンエイと共についてきた者たちだけが住んでいるのではない。警備を行なっている者は大尉の家の者であるし、女性の中にもちらほらそう言う人はいる。
だから、スパイくらいはいるわけである。
しかし、そこまで逐一ばれていると、さすがに居心地が悪い。
自分の持ち物なども盗み見られているのではないかと思って、カバンは部屋の中に隠した。いつも布団の中には突っ込んでいたものの、それでも怪しいので、今は押入れの天井裏に隠してある。
どこの忍者だよ、とか思うが、もう色々不安で、やれることはやっておきたいのだ。
今、この瞬間ですら監視されているかもしれないと思うと、さすがにきつい。
「さっさと行ってこよ」
理音はそそくさと屋敷を出た。どんな仕事だろうと早くやるにこしたことない。
文の相手は一度目は大きなお屋敷だったが、地図を見て首を傾げた。位置的に商家っぽいのである。
今回は王宮から離れた場所で、屋敷ではなさそうだった。歩いて行くうちに、どんどんと建物が小さくなっていく。
「遠…」
王都は広い。
王都内だが簡単に渡せる場所に相手がいないようで、理音は朝からずっと歩き続けていた。
地図が省略されているのでそこまで遠く感じなかったが、もうかなり歩いている。
「一日中かかるかな…」
大体、王都って広さがどれくらいなのだろう。
城のある内城壁を中心として、ぐるりと町があるのならば規模はかなりのものだろうが、それを知るには広すぎた。
「チャリほしい…」
ここでも自転車が必要だ。昔の人って偉いんだな。とか謎の感心が出てくる。
今歩いてきた距離は、電車に乗れば何駅かすぎている気がしてきた。
町から町までいつだって歩きだが、都にいてもやはり歩くのだ。
音楽聴きながら歩きたい。やったらやばいかな。なんて余計なこと考えて歩き続け、足の痛みを感じた頃にやっとついた場所はやはり小さな建物で、ユウリンが何の用でここに文を渡すのかよくわからなかった。
「草からの者です、お渡しください」
同じ言葉を告げて、そのまま去る。
渡した相手は、まだ若い子供のような男の子だった。
あの子に渡していいものか思案したが、出てきた者に渡せばいいと言われているので、その男の子に渡した。
建物の中をしっかり覗くのは難しかったが、お店であるのは確かだ。
商売としてはあまりうまくいっていないような、若干薄汚れた扉に閑散とした店内が気になるところだ。
こんな場所に、ユウリンは一体何の文を出すのだろう。
その疑問に答えるものはいない。
しかし、その仕事はこれだけでは済まなかったのだ。




