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52 ー働き口ー

「おい、女。物取りにでもやられたのか」


 先ほどの男はまだ槍を構えていたが、理音が突然泣き出したので動揺したらしい。顔色を伺うように尋ねてきた。


「格好も格好だ。話なら役所で聞くぞ。とにかく、その格好を何とかせんと」

 男はどうやら役人らしい。

 前の町とは違って、まともな対応を受けた気分だ。前のこともあるので完全には信用できないが、気分だけまともな対応をされたと感じた。


「ここ、どこですか…?」

 涙を拭ってかろうじて言うと、かどわかされたのか?と違う解釈をされた。

 もうこの際、どんな解釈でもいい。


 結局のところ自分はここに来てしまって、もう行くところがない。

 一度帰られたことを考えれば、一時を過ごせばまた帰れるかもしれない。

 そう思ったら、しっかり生き残らなければならない。それをゆるゆると思い始めた。


「気づいたらここで、家もどこにあるかわかんないんです。ここはどこですか?」

「そりゃ、大変だ。ここはな、イダラの町だ。わかるか?」

「わかんないです」

 理音は鼻をすすって問いを返した。

 男はこりゃ大変だ、と役所に来るように進めた。

 ガニ股で走って理音を促す。理音はカバンを抱きしめ、その後をついた。

 ここでは、何にでも警戒した方がいい。カバンを盗まれたりしたくない。



 男はキハチと名乗った。

 役所で働く役人で、主に町の警備をしている。

 その役所には人の良さそうな男一人、アラタと、それから眉の上がったおちょぼ口のオノルがいた。


「どこからか来たんだね」

「遠い国です。ここじゃない」

「国まで違うんか。ここはな、エイシ国だわ。知ってるかね」

「知ってます」

 エイシ国。国は変わっていない。都はシャビスだ。

 変わらないのならば、この国は平和になったのだろうか。

 王であるフォーエンが狙われていた時代とは、違うのだろうか。


「今まで、どこにいたかわかるか?」

 オノルは厳しい顔で問うた。

 迷子と言っても、帰る家のない迷子もないだろう。家がわかれば、強制送還できるのだろうか。

「家は、もうないので。どこか、働ける場所はないですか。お金もないし、行くところもないんです」

 男たちは顔を見合わせた。明らかに困惑した面持ちだった。

 事情があると踏んだか、三人は唸りながら働き口について話し始めた。ここらで働くとなると難しいのだと教えてくれる。

「男の仕事でも、いいんですけど」

「土木の仕事ならあるがな。川の堤防を今作ってて。だが若い娘さんにやらせることじゃないし」

「アホなこと言うな。あんな中にこんな子を連れたら、それこそ問題が起きるわ」

「男だらけの場所はどこも女には難しい。特に若い女は」


 口々に言うことの意味はわかった。

 危険の意味は、女にとって危険、の意味なのだろう。

 そういう結果になりやすいのであれば、そこはさすがに理音も無理に行きたいとは思わない。


 だとして、働く場所があるのかと言うことになるのだが。


「そうなあ。ここは比較的安全なとこではあるんだがねえ。ご覧の通り、大きな町ではないんだよ。だから、働く場所は限られているんだ」


 見知らぬ女の働き口が、そんな簡単に見つかるわけがない。

 とは言え働かなければ生きていけない。この世界には誰も知り合いがいないのだから。


 困ったものだと、三人は同じように唸った。

「そうなりゃ、都になるがね。都に行っても、仕事を紹介してもらわんと」

「シャビスの都はここから少しある。案内も必要だろう」

 往々にして思案する。彼らは真剣に理音の働き口を考えてくれるようだ。


 エシカルの件で人を見る目に疑いを持ち、町人は信用がならないと思ったが、彼らは違うらしい。

 あの木の下で眠ることは、こちらではよくないことなのだろう。

 それで短いスカートを履いていたため、ひどくそしり叱咤してきたのだ。

 そう思ったら、急に安堵した。


 ここでダメなら、食べ物屋にでも端から当たってみようと思うのだが。

 それを言うと、そう仕事はないのだと、男たちはいつまでも唸り続けた。

 やはりこちらは、女性の働きが少ないのかもしれない。

 フォーエンが一夫多妻性であったことを鑑みれば、それはあり得ることだった。


「男の格好をしても、問題ないんですけど。性別偽るのはまずいですか?」

 それについては賛同しかねると、オノルは眉を吊り上げた。しかし、アラタが思い当たったと、柏手を打ったのだ。

「あれはどうかな。ほれ、商家のおひいさんが嫁に行くに、付き添いの従者が男じゃ嫌だ言うて、ほれ」

「ああ、そんなこと聞いたな。男は嫌じゃが、男並みに働く女はいないか、ってやつか」

「それは、私も聞いたな。男仕事になるからきついし、それに男の格好などで都に行っては、せっかくの都でも婿が探せんから、中々着き手がいないとか」


 つまり、こう言うことである。

 ある商家の娘に結婚の話が出て、今度王都のある役人の元へ嫁ぐことになった。

 しかし、実はその娘は男嫌いで有名であり、嫁ぐこと自体が難しいものの、決まったからには拒否できず、ならばせめて周りを全て女にしてほしいと、でなければ嫁がぬと、親に泣いて頼んだらしい。

 警備などはさすがにそれは無理でも、男仕事さえこなせれば、そこは男でなくて問題はない。ならば、従者を女にしようとしたわけだ。

 ただそれは、女姿ではしにくい仕事も起きてくるため、格好はできれば男であった方がよいと言う話になった。

 それは娘も納得し、それでいこうとなったわけだが。

「都へ行くとなると、女中たちも都で男を捕まえられる確率が増えると言うことでな。おひいさんの女中たちは年若い娘が多いし、男の格好では男に見初められぬと言うて、みんな嫌がっとるんだよ」

「面白いですね、それ」


 小さい町から出て都にいる男を狙うのは、若い女性たちにとって大きなチャンスらしい。

 田舎で相手を見つけるより、都にいる男を見つけた方が将来的に安全であると言う、ごく普通の考え方のようだ。

 都にいる男の方が給金はいいし、何より身分が勝る。いいところに嫁がせたい親心も働いているようなので、家柄を重んじるのが常識なのだろう。

 何せ身分差のある国だ。それは当然考えられる話だった。

 だからこそ、男装なんてとんでもないわけである。

 せっかくの都に行くのに、なぜ男装をして行かねばならないのか。そうであれば行く意味がないのだから。

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