12 ー写真ー
織姫は何をもって自分をここに留め置くのか。
気まぐれで自分をここに置いているわけではないだろう。
初めから優遇された扱いだ。手荒にされたわけでもない。
皆は怯えて自分に触れるのすら恐れているため、いきなり攻撃などはできなかったのかもしれないが。
その怯えこそが、ここにいなければならない理由なのか、それはわからない。
その場はそのまま宴会らしく、音楽や太鼓の音が流れた。
踊り子たちが踊り出す。その人数も中々なものなのだが、それも普通のことなのだろう。ようように盃を交わし、食事を口にする。
織姫の側にも女性がつき、酒を注いだ。
未成年とかあるのかな。と疑問を持つ。
別の女性が理音の盃に無色透明な液体を注いだが、飲もうとして匂いを嗅いでやめた。日本酒のような香りがしたのだ。
父親が好んで飲む酒と同じだった。
目の前にある豪華な食事は、気にせず口にした。冷めていたがそれなりに美味しい。
刺身のような生物、練り物が絵のように皿に盛られているが、これを全て食べるには何人も人がいなければ食べきれないだろう。
織姫と理音の前にあるテーブルぎっしりに皿が置かれているのだから。
正直、遠くにある食事には手が届かない。手を伸ばせば袖についてしまう。
そして、そうしてまで取ろうとしても、それがかなり下品に見えるのは想像ができた。だから、手元の物だけ食べた。
今日はきっと何かのイベントなのだろう。豪勢なイベントだ。踊り子たちや楽器隊のパフォーマンスはいつまでも続く。
それがいつまで続くのかわからないと思うと、また鬱屈な思いを感じた。
星だったら時間を気にせず楽しめるのに。
それ以外では、どうにも飽きっぽいと自負している。
そういうわけで、大月小月を見るという飽きない方法を見出した。
今日は少し薄いのが残念だ。小月に至っては、殆ど見えない。
微妙に遠くなっているのは、衛星の軌道が違うからだ。そのうち離れていくのだろうが、どういう風に離れていくのか興味が尽きない。
その距離を写真におさめたくなった。
そう思うと、もう我慢できない。
カメラを起動して、空を撮る。
何枚か撮って、もう写真を撮ってしまったし、と食事や風景まで撮り始めた。
音楽のせいでシャッター音はそこまで聞こえないだろうが、織姫の耳には入るだろう。
ちらりと一瞥。
またちらり。
何をしているのか気になるのか、ちらちら視線を感じる。
視線を合わせると、織姫はそれをずらしてスマフォに移動させた。
はいはい、気になるのはスマフォね。スマフォ。
おもちゃが我慢できない子供のようだ。
羨望の眼差しである。
だから、またもするりと手が伸びてきた。
もう勝手にしてくれ。
織姫がパスワードを連打しないように見張っていると、彼はなぜかこちらを見つめ直した。
スマフォで遊びたいのではないのか、少し触れてからこちらに戻してくれる。
遊び飽きたのだろうか。
呪文。
そうしてスマフォを指差し。
いや、内容は理解できない。
首を傾げると、またもスマフォを取り上げてくるくる回し、再びこちらに戻してくる。
意味がわからない。
そこで、ドンと大仰な太鼓の音がこだました。
演目が変わるようだ。
シャッターチャンスでも来るかと、カメラを構える。
すると、織姫はそれを覗き込んできた。
そして当然スマフォを奪う。
画面は白いままだ。
なぜなら彼は、スマフォのカバーをカメラレンズにあててしまっている。
訝しげな顔をして、掲げては下ろした。
「ああ、わかった」
理音が蓋となっているカバーを下ろすように動かしてやると、案の定、織姫の表情が変わった。
不可思議なことが彼の中で起きている。
ある景色が、スマフォの中にもある。
それを縦にして横にして、それでも同じ景色がスマフォにある。
スマフォの裏面を見ては表面に戻し、けれどその景色が同じであるとわかると、大きく顔をしかめた。
スマフォをかざして画面の景色を見て、スマフォを使わず景色を見て、やはり同じ景色だと確認しているのだ。
その表情を見て、理音はもう我慢ができなかった。
弾けるように吹き出すと、笑ってはいけないと思いつつ、お腹を抱えて爆笑した。
織姫の不機嫌さが、おかしくてたまらないのだ。
スマフォに景色が映るという不可思議な現象が、織姫に理解できない。
彼はきっと、よほどプライドが高いのだ。
理解できない出来事に機嫌を悪くするのだから。
自分が理解できない現象が許せないのだろう。
もちろん、理音が笑ったことにも腹を立てたらしい。
ムッとした表情が更に笑えた。失礼だが笑ってしまった。
それでも、スマフォを覗いて景色を確認する。
そういうものだという理解の仕方はしないのだ。
「面白いなー」
なので、タブレットで見せてやることにした。こちらの方が見やすいだろう。
「ねえ、ほら、こっちの方が画面大きいから、こっちでやりなよ」
手渡すと、むすっとしたまま。けれど、素直に受け取る。
腹立たしさよりも、彼は興味の方が強いのだ。




