六話 『時が癒せないのなら』 -7
【『時が癒せないのなら』 -7 】
忘れられたら、どんなに良いか。人の悪意が消えないように、魔法で消せない傷がある。私は毎日それを思い出す。異界の小さい風呂場でも、この学園寮の大きな風呂でも。今は学生達の入れ替え時期……卒業試験に望み、数日かけてダンジョンに向かうパーティばかり。寮はがらんとしていて入浴も快適だった。だけど……私の顔はちっとも嬉しそうじゃない。
「ひっどい顔……」
鏡を見るのは嫌い。さっさと体を洗ってしまい、私は湯船に身を沈める。昼間の言葉は、嘘じゃない。見せてやっても良かったんだ。でもこの傷跡を、あいつが見たら何て言うだろう。
騎士は嫌い。女騎士は大嫌い。だけどあの三人は、帰るか解らない私を待ってくれていた。
(帰ってきた時……自分一人になっている可能性だって考えていた)
そのための、復讐計画。一人でも、格上の相手を撃破するための手段を私は手に入れた。パーティの仲間を信じられなかったわけではない。信じたかった。でも、それが裏切られた時、辛いから。信じない方がずっと良い。
(私も……迷っているの? )
一緒にいてくれたら心強い。だけど、私を待っていてくれた三人を利用すること。巻き込んで良いのだろうか、私の復讐に。矛盾してるな。それなら皆の装備なんか、買ってやる必要ない。手切れ金とか、別れの品……それになるならそれでも良いか。本当のことを言えば、失うかもしれないのだ彼らも。外れるべきかも……私がパーティを。あの時だって、本当は……私が居なくなれば良かった。
「……アリュエット」
アリュエット=キャヴァリエレ。復讐相手の内、一人。一言で言うなら、強くて格好いい女。女の身でありながら、男と対等に渡り合う剣術の使い手。彼女の戦い方は、同性から見ても惚れ惚れするような格好良さ。その優雅な戦い方を見れば、あんな風になれたらと……一度は誰もがそう思う。そんなに強い女なんだ。どんな筋肉達磨の大女だろう? そんな思い込みで彼女に出会えば、人は言葉を失うだろう。髪は長く美しく……顔も小綺麗。筋肉は付いているが、女性らしい丸みと柔らかさを失わない身体。強さを手にしておきながら、外見は女のまま何一つ捨ててはいない。それでも男を打ち負かす技術と強さ。世の不条理さえ彼女の前には存在しない。
(……けど、あいつは、私がいなくなれば良いと思ってる)
私を二度も消そうとした。私を門に引き摺り込んだ魔物……。あれはミザリーの企み。でもあの女……アリュエットはそれを容認した。だってその方が都合が良い。私が生きて居て、困るのはあの女。私が本当に目的を選ばなかったら、あいつはもう表舞台から消えている。私がそれをしなかったのは……コントの言葉があったから。だからあの一年、私は真っ当な魔法使いとして頑張った!
(それでも、あいつは……)
ミザリーは勿論、大嫌い。だけど私はアリュエットだって大嫌い。あの日、異界に落ちながら……私が見たのは、最悪の夢。最低の、記憶。「お前には失望したよ」そう告げられた一言が、今でも胸の奥深くに突き刺さっている。【女騎士】アリュエット……彼女は間違ったことが嫌い。正しい人だと、信じてた。だから私は無条件に、彼女が私達の味方になってくれると思い込んでいた。落ち着いた栗色の髪を高く結わえた長い髪。穏やかだった緑の瞳も、あの日は突き放すように冷たくて。
“同じパーティの仲間をよくもまぁ、あのように言えたものだな”
“アリュエット……”
“ミザリーも問題のある人間だ。お前の言い分が正しいのかもしれん。だが、お前のやり方は間違っている”
ミザリーを、外せと私は言った。彼女は出来ない、そう言った。そうして追い出されるのは私とマリー。あんなことをした人間が、エリート面で余裕綽々……最強パーティを名乗るのは私はどうしても許せない。
“マリーの時は……そんなこと、言わなかったじゃない”
この女は一度、仲間を見捨てた。そして今また、切り捨てた。ミザリーを取るのは、その方が単純に戦力だから。それだけだ。
“この世の中で……もっとも汚くて、醜くて、愚かな者はお前だアリュエット! あんた自身あいつが悪いって思ってるのにあんたはそれを許容する! それは共犯者よ! あんたが何一つ悪いことをしなくても、それを許すって事はあんたはあいつ以上の悪人よ! ”
“……口を慎め。我が名を貶めんとするなら、私はお前と決闘しても構わない”
“貴女は、賢い人間なのかもしれない。だけど……貴女の正義ってそんなものなの!? 自分を守りたいだけじゃないっ! そんな奴が本当の勇者とかなれると思ってんの!? 仲間のためなんて言って、仲間を見捨てるような奴が、他人を世界を救うだなんて馬鹿みたい! ”
見て見ぬ振りを、決め込んだ。マリーが以前に増して男を怖がるようになった。その時にこいつが何て言ったか。
“もし私が死ぬほど困っていたって、私はあんたに助けを求めたりしない! あんたみたいな腐れ勇者に助けられるくらいなら、死んだ方がマシよ! ”
“二度、同じ事を言わせるな! 失望した、お前には! ”
あの馬鹿、言い返せなかったんだ。語彙力ないのね、だから同じ言葉を口にして……逆上して、力に頼った。ほら、正義なんて……馬鹿みたい。胸にぽっかり空いた穴。今もまだ……完全に、塞がってはいないんだ。
*
【『再び彼らはあの場所へ』 -7 】
“良かったわねコント。マリーとレインの装備を買ってもまだ余る。あんたの分も新しいの買ったわよ? ”
ボロボロになった装備と服の代わりにと、キャロットが配達魔獣から受け取った荷物を俺へと投げた。まだ二人の装備は届いていない。タイミングとして、俺の装備を一番最初に頼んだように思えるのだが……? 開封してみて驚いた。以前俺が欲しいと言っていた円卓堂の、装備一式。鎧の軽さもさることながら頑丈で、夏は涼しく冬は暖かいという優れもの。衣服もシンプルながら所々に誂えられた、金刺繍の装飾は凝っていて美しい。マントも些か長いがこれぞこれこそが騎士っ! という雰囲気があり悪くない。色は赤で統一されていて……なかなか情熱的。新装備に見入っていた俺を、からかうようにキャロットが感想を聞く。やり方は汚いが、俺達の報酬では得られなかったような装備だ。キャロットの商才は認めなければならないが……そんな風に聞かれると、素直な言葉も出て来なくなる。
(キャロット……)
一年とは、そんなに長い時間だったか? お前がいない一年は……長くもあり短くもあった。お前にとっては……どうだったのだろう。俺は以前に増して、お前のことが解らない。解りたいとは思うんだ。お前がそれを望まなくても。
「にーちゃん……」
女子寮からの帰り道、最初に話題を振ったのはニムロッドの方だった。全く俺は、情けない。
「解っている。キャロットの言ってることも」
ハーツはきっと、彼女の味方。そうなれば、ニムロッドは俺の答えに従うだろう。キャロットの意見に反対しているのは、俺だけだ。
「だが……奴らには恩がある。卑劣な手段で打ち破るのは、気が引ける」
「うん、そこがにーちゃんの良いところだ」
肯定も否定もせず、ニムロッドは俺の人格のみ褒める。年下ではあるが、パーティ内で一番落ち着いているのは彼だと俺も認めよう。
「コントにーちゃんは人を信じすぎる。キャロットねーちゃんは人を疑いすぎる。きっと半分くらいが良いんだよ。二人とも極端過ぎて失敗するんだ。……でも、俺みたいに適当だったらそれも良くないか」
ニムロッドも、傷付かないはずはない。こいつは人一倍、人の痛みに敏感だ。自分のことより人のこと。俺などよりも勇者気質だ、本当に。お前と一緒にパーティを組めて良かった、そう思うよ。
「レイン……お前も聞いたことはあるだろう? キャロットの噂は」
「女騎士と決闘して死にかけたって? 」
接近戦時のアリュエット相手に、一撃食らわした魔法使いロゼンジ=キャロット。瀕死の重傷から彼女を救ったマリー=ハーツ。どちらも決して馬鹿にされるような腕前じゃない。
「魔法職がこの距離で、勝てると思うか? 」
俺が調べた状況下。それを再現した距離で尋ねれば、彼はブンブン首を横に振る。
「ううん、無理」
最初から、負ける勝負だったのだ。勝てる土俵での勝負じゃなかった。
「だろう? 責められるべきは女騎士だ。正々堂々の勝負ではない。自分が圧倒的に有利な場所で、一方的に相手を打ちのめした。それは決して許されないことだ」
今日一日を振り返り、俺は自身の未熟さに頭を抱える。俺も血の気が盛んだ。すぐに剣を抜いてしまう。それで失敗したことだって……
「だからにーちゃん、剣二本持ってるんだよな」
「気付いていたのか? 」
鞘の中に刀身を二本隠してある。鞘から抜く時、どちらか選ぶのだ。真剣と模造剣とを。
「キャロットねーちゃんなら、止めてくれると思ってる? 」
「お前には嘘が吐けないな。そうだよ。俺は、あの女騎士と同じ過ちを犯したことがある」
「近付いたのは、償い? やり直したかった? 」
「……生まれ変わりたかった」
こぼれ落ちる、素直な言葉に驚いた。こいつと話していると、濁り固まった俺の内側が澄んでいくようで。
「あいつがいてくれたら、俺は……真っ当な騎士になれる。勝手に俺が、そう思っていたんだ」
そしてあいつも良い方へ変わって行ってくれたなら。俺があいつを救ったことにならないか? 俺は救って救われたかった。
「あんなに気が合わないんだ。あいつと解り合えたなら……俺はもう、出来ない事なんて何もないって、信じられそうだって……そんな馬鹿なことを考えた」
あいつ側からもうこれ以上近づけないなら、俺から一歩歩み寄る。そんな簡単なこと。恐れる必要なんか無い。信じれば良い、もっとあいつを。
「本当は、もう決まってるんだね、にーちゃん。でも……一年前のことが忘れられない? 」
ニムロッドの言葉に俺は頷いた。あの日キャロットが消えた後、俺達を助けた『Twin Belote』。撤退が間に合わず死さえ覚悟した俺達は、憎むべきライバルに命を救われた。
*
【『来たるべき瞬間のため』 -380 】
一年前のあの日……洞窟最奥部。そこに響くは、人の神経を逆撫でする嘲笑交じりの男の声。
「やぁ、久しぶりだねマリーちゃん」
「……っ! 」
叩き斬ったドラゴンを足蹴にするは、目を覆うほど長い前髪に、漆黒の鎧に身を包んだ陰気な剣士……奴は【影人形師】マリス=スパイト。奴の視線に晒されて、ハーツはガタガタ震え上がった。男嫌い以上の嫌悪感を、彼女は奴に抱いている。十メートル以内どころか、真上から。鼻先触れ合う距離から顔を覗き込まれた彼女は恐怖と混乱の中、何も出来ない。
「ねーちゃん! 」
咄嗟にニムロッドが彼女を引き寄せ、下がらせる。彼は男らしくもマリスの前に立ちふさがるが、続いて現れた【女騎士】アリュエット=キャヴァリエレ、【魔獣術師】ミザリー=キャットの嘲笑がやって来る。
「随分可愛いナイトがいたものだなハーツ」
「きゃー! 相変わらずとんでもないビッ●ですぅ! 今度はあの男女から、この男の娘に乗り換えやがりました? 」
キャロットとハーツの元パーティメイト。噂に違わず最低な奴らだ。
「キャロットを侮辱するな! 性格こそがさつだが、割と女だぞ! 」
何処がとは言わないが、仲間を侮辱されては堪らない。すかさず俺が吠えるも、女二人に冷たい視線を送られた。
「変態さん、です? 」
「おっと失礼。騎士は此方だったか。ふん……男のくせに盾の一つも持てぬか。非力な剣よ。これでパーティの要だとは笑わせる」
キョロキョロと、大げさにマリスは辺りを見回してもう一人の姿を探す。
「あっれ……? あの子いないの? なんだ、いないのか。残念だな……折角僕の回復魔法を触ってかけてあげようと思ったのに。名前なんだっけ? ホラ、根暗な癖に胸ばっか大きい子。部屋に閉じこもって魔術研究ばっかりなんか勿体ないよねぇ、才能ないんだからさ。あ! もしかしてまたパーティからリストラ? その方が良いよ、君たち頭良いねぇ。それとも資金不足で繁華街に出稼ぎに出したの? そっちの方がよっぽど稼げたりして、あははははは!」
「貴様っ! 」
怒りに震え、真剣を手にした俺を見、マリスはケタケタ体を震わせ嗤った。
「僕らは君たちを助けたのに。命の恩人に剣を向けるの? 随分と失礼な騎士様がいたものだなぁ! 」
マリスは自ら俺の得物に触れて、己の指を切る。そして赤く滴る血を俺へと見せて……
「あれぇ? 大丈夫? 手、貸して上げようか? 」
こいつは唯の剣士ではない。二つ名にある通り、影を操る。先程の行為で俺の剣、その影を使役し引いて転ばせたのだ。差しのばされる血まみれの手。こいつの手を掴んだら、今度は俺の影が玩具にされる。俺は急いで手を隠すが、奴は掴めれば何処でも良いのだ。俺の方へと手を伸ばし……
「遊びすぎだ、お前達。仕事は終わりだ」
根暗剣士のお遊びを、静止する呆れ返った男の声。顔を上げた俺が見たのは、【精霊王】のロア=ブリス……優れた剣士でありながら、攻守共に魔法の方も一級品。それどころか弓の名手とかいうクソ野郎。アリュエット同様、二つ名に自らの名前を入れる自意識野郎。俺がこの学園で……一度も勝ったことが無い相手。こんなどうしようもないメンバーをまとめ、表向き完全無欠を気取らせる。その辺、こいつ等全員上手いのだ。
「うっ……」
「レインっ!? 」
四人が揃ったところで、ニムロッドが口を押さえて倒れ込む。「気持ち悪い」と小声で彼が零すくらいだ。余程醜悪な感情を発しているのだろう。
「ロアさん加齢臭出しました? 」
「お前が獣臭いのだろうミザリー」
「まぁ! アリュエットったら本当に隊長にぞっこんですのね。私達もラブラブしましょーねーマリス様ぁ! 」
「この子一応エルフか。ロア、同族孕ませるの止めなよーロリコン? 」
「視線一つで子など出来るか、阿呆。……どうしたアリュエット? 」
「い、いや……な、何でも無い! 」
一見、仲睦まじいパーティ? そんなわけがあるか! この互いを行き交う殺気は何だ。二手に分かれて殺し合いでも始めそうな雰囲気だ。
「いやー! 大活躍だったね『Twin Belote』の皆さん! 週刊ユーシャアンアンの者だけど取材良いかな? 」
俺達の試験監督と共に、キャロット消失の時点で大逃げ噛ました取材記者。それが空気も読まずに舞い戻る。しかも俺達への取材なんてなかったと、言わんばかりに奴らに取り入る。
「とっても怖かったの! でもね、みざりーみんなのために頑張っちゃった☆ 」
おいあざとい獣耳ツインテ女、裏声使うな。加齢臭云々の時のドスの利いた声はどうした。
「戦いとは仲間と己を信じ戦うのみ、です。恐れるものなどありません」
ロアの野郎がディスられてた時、その仲間思いきり睨み付けてた眼力はどこ行った女騎士!
「弱きを助ける、それが本来の勇者だよね? 僕はそう思ってますよ」
取材の途端、脱色した白い髪を搔き分け、青い右目を見せる影人形師。今は人の良さそうな顔でニコニコしているが、胸の内でまた何か企んでいることは伺い知れる。
「そっかそっかー! じゃあここでパーティの隊長であるロアさん、コメントよろしく! 」
こいつらのコメント教科書通りで、ファン向け以外にあんまり使えそうにねーなと思ってか、片眼鏡の記者はまとめに入った。しかしそこでロアから返ってきたのは、記者も俺達も想像し得ない演説だった。それは前三人のコメントが、彼の発言を際立たせるための故意の悪ふざけだったと思えるような代物で……
「第二級……試験用ダンジョンと言え、ここは学園ではありません。殺処分命令の出たモンスターをハンターが追い込み、閉じ込めた檻。それにそれぞれランク毎のレベルを付随したに過ぎません。勿論ダンジョン毎に、相性等はあるでしょう。しかし歴とした実戦の一環。試験用ダンジョン一つ突破したところで本当にそのレベルに達しているかは甚だ不明。準二級……卒業水準を満たしたこのようなパーティでも、ほんの僅かな失敗で、このような事故にも繋がる。しかしこの程度クリアできないようでは、実戦では使えません」
このクソ野郎! 俺達が準二級にも満たない実力だと、そう言い切るような言い方だ。
「そうだな。最低でも二級は必要だ。それには私も同意する」
「僕らみたいに一級持っててくれると助かるなぁ! どんどん良い後輩が育ってくれて、母校には本当に感謝しています」
「そうなのそうなの♥ でもでもぉ……そっちの魔法使いさん、ボス戦で失敗して何処かに飛ばされちゃったみたいなの。こういう悲しい事故が続くと、みざりー悲しいの」
精霊王に同意するメンバー達のコメントは、魔獣術師の嘘泣きによって締め括られた。流石に俺達に一言もないのはあれだろうと、汽車はお情けに俺へと声をかけてくる。まだ、この場から動けない俺に向かって。
「じゃ、失敗しちゃったけど次回頑張ってね。はいこっちのパーティのリーダー、コント君。一言貰える? 君たちは彼らとあんまり仲が良くないらしいね。だけど助けられたわけだから、あれかな? 借りは戦いで返す! って奴? いつか彼らがピンチの時に……」
「あり得ません。俺達は完璧なパーティです。人を助けることがあっても助けられることなどない。そんなことを期待しているようでは、勇者失格です」
俺が何かを言う前に、ロアが俺の言葉を遮った。自分達を嫌うパーティすら救う人格者。俺達のピンチを、イメージ戦略に利用しやがった! ここにキャロットが居たら何と言っただろう。こんな情けない俺を見て。悔しさで身体が震えたが認めない! 俺は武者震いと言い聞かす!
助けて、助けられて……それがパーティじゃないのか? 一人一人が弱くても、力を合わせれば道を切り開ける。そういう可能性じゃないのか? 俺達に足りないのは……唯単に、キャロット……お前の存在それだけだ。
「確かに、仲間一人守れない俺は勇者失格だ。だが、彼女を勝手に過去にはするな! 俺達は、再び試験をクリアする! 今日と同じメンバー四人でだっ! 」
「みざりーが見てもぉ、痕跡全然読めませんー? こんなの探すの不可能ですぅ」
「仲間一人見捨てる奴が、勇者になんかなれるものかっ! 」
その時俺は泣いていた。鼻水も出ていたと思う。両手の拳には力が入りすぎていて、ブルブルと震えるばかり。
「レインっ! マリーっ! 」
「にーちゃん……」
「はいっ! 」
「リーダー命令だ! 嫌ならこれで俺達はパーティ解散だっ! 」
俺の言葉を待つ間、二人は何も発することは出来ずに居たが、俺をじっと見つめて言葉を待った。俺の言葉を聞き漏らさぬよう、真剣に。
「ロゼンジ=キャロットを取り戻す! 誰が救出を諦めても、俺達は彼女を見捨てるな! 」