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二話 『何故彼女はオークをそこまで愛すのか? 』 -7 

【『何故彼女はオークをそこまで愛すのか? 』 -7 】


 俺の名は、コント。良く名を馬鹿にされるが、俺はこの名とラクトナイト家に誇りを持っている。いつか立派な騎士になるために武勲を立てたく、日々奮闘している毎日だ。だ……、だったはずなのだが。

 髪も黒、マントも服も黒! 前進黒尽くめ魔女キャロット……唯一瞳が明るい赤。彼女の名はそこから付いた物なのだろうか? いいや、この女の血は青とか緑に違いない。そもそもそれは、苗字だし。唯一残された血の色がその目に僅か彩りを添えただけなのだ。忌々しいキャロット! 悪魔の如き腐れ魔女! この女に出会ってからと言うもの、俺は振り回されっぱなしだ! 


(しかし、こんな女でも同じパーティ。俺の仲間だ)


 本当に困っているというのなら助け合ってこその仲間。先程までの怒りも一時忘れ、俺は彼女を見つめ返した。顔は赤く、発熱もある。呼吸も荒い。飛んだ先で重い病にでも……? そうとなれば病を治す薬を探しに行かねばなるまい。決意を固める俺の前、彼女はよくわからない言葉を漏らした。


「オーク、飼わない……?」


 オーク。それは樹木か? いや違う。飼う飼わないの話なら生き物だ。キャロットは黒魔術を好む魔法使い。召喚や呪術もお手の物だが、呼び出すのは大体闇属性。ならばその単語は俺が認識しているモンスターの種族名で間違いあるまい。種類は海洋生物、それから獣人型と様々だが、基本的には人に害為す者。中にはそれを使役する者もいるにはいるが……


(しかし……)


 この会話の流れは理解できない。何故オークの話で貴様は顔を赤らめる。そんな目で俺を見るのだ。だから一応聞いてみた。満足な文章にはならなかったが、俺なりの葛藤、抵抗を込めて一言なんとか腹の奥から振り絞る。


「は? 」

「わ、悪い話じゃないと思うの! 私オークも沢山召喚できるようなったし! あんたの力なら言葉通じるし、私から離れても指揮が可能でしょ? す、凄くない!? 」

「やはり具合が悪いのか? 話の流れがまるでわからん。貴様はこの一年、オークの国にでも迷い込み交流を深めたというのか? 」

「私のオチが飼えないっていうのかあああああああ! 」


 先程剣を取り出したことを根に持っているのか、キャロットは手にした子オークで俺に殴りかかって来る。


「犬のポチみたいな言い方をするな! 」


 ああ、ツッコミが追い付かない。貴様いつの間に召喚していた!? マントからモンスターを出すな阿呆っ! ハーツが悲鳴を上げて貴様のマントから這いずりだし、クローゼットに逃げ込んでいったぞ!? あれはキャロットのクローゼットだったのか? 中から藁人形やら頭蓋骨やらと一緒に下着も崩れてきたが、顔色一つ変えないこの女。こんな可愛げの無い女が、あんな派手な物を身につけたところで反応する男は居ない。反応したら末代までの恥だ。そもそも先程まで俺を避けていたのも忘れたか? 今は目を逸らさずにオークを抱えて俺を睨み付けている。


「良く見てご覧なさいよ。意外と澄んだ目をしているでしょ? この子は良い子よ。目脂もない……病気を持っていないから健康面でも信用できるわ」


 見た目は小さな瓜坊で、確かに可愛い部類に入る。大きさは抱きかかえられるぬいぐるみ程度。目ならば輝いているが、キャロット同様呼吸が荒い子モンスター。これは受け取った瞬間、俺を食い殺そうとしかねんぞ。


「ならば貴様が飼えば良いだろう。そして澄んだ目の良い子を武器に使うな外道」

「飼いたいのは山々だけど、見りゃわかるでしょ、マリーが嫌がるから無理よ」

「それは、そうだが……」

「この子ね、私と……人間と友達になった所為で……村を追い出されたの。可哀想だと思わない? 」

「可哀想は可哀想だがそれは貴様が責任を取るべきだろう」

「あんたと似た境遇……ほら、横顔なんてどことなくあんたに似てるわ。これって運命だと思わない? 」

「似てて堪るか! そんな運命俺は打ち破るっ! 」

「何よあんたこの子を侮辱するの!? 自分の顔にそんなに自信があるの!? 卑しい心の人間ね見損なったわ! そんなのが騎士道精神持ち合わせてるかどうかも怪しいもんだわ! 」


 なんて理不尽な女だ。俺は悪いことをしていないはずなのに、次第に追い詰められていく。


(俺に味方はいないのか!? )


 周りを見回してみるが、ハーツはクローゼットの住人。ニムロッドは長く掛かりそうだと昼寝を始めている。


「こいつ飼えるくらいの部屋持ちあんたくらいじゃない。流石貴族のボンボンは勘当されても違うわねーいいじゃない社長さん! 」

「シャチョウ……? よくわからんが断る。貴様には最低限の礼儀が感じられない。頼むにしてももう少し言い方という物が」

「庭まであるって聞いたわよ? 今度焼き肉でもさせに行きなさいよ。野菜くらい持っていくから肉はあんたの奢りで」

「その時はそのオークの肉を貴様に食わすが構わんか? どうせ食うなら今ここで殺してくれる! 」

「あんたの騎士道って、か弱い生き物を虐げる物なの? 」

「く、諄いっ! そいつが人を襲わない保証はあるのか!? 」

「そういう風にきちんと育てられたって実績は、あんたのためにもなると思うなぁ……」

「貴様が俺のためなど言うのが怪しすぎるわっ! まだ魔王が世界の半分とかそういう取引持ちかけてきた方が信頼できるっ! 」

「引き受けてくれたら……免許と卒業の方、私真面目に頑張るんだけどなぁ」


 拗ねたような、それでも甘いキャロットの声。気色悪い声を出すな。この俺に貴様の色仕掛けなど通用しない! しかしこの取引が、ふざけたこの女が真面目になる切っ掛けならば、少々耳を傾ける価値があるかもしれない。


「それは本当か、キャロット? 」

「あんたを……貴方を信頼して、見込んでの頼みなのコント」


 彼女の声や表情に、俺をからかう様子は見られない。赤い瞳に魅入られたよう、返事も出来ないままで俺は彼女を見つめ返す。かと思いきや……


「ねーちゃん、その茶番あと何分ありそう? 俺昼ご飯狩って来て良い? 」

「狩りだけじゃバランス悪いわよ。これで飲み物と何か他にも買って来なさいな。マリー、あんたも男リハビリで一緒に行ってあげて? あんたもお昼まだでしょ? 」


 スイッチを切り替えたような態度と声で、キャロットは胸元から小銭入れを取り出しニムロッドへと放り投げる。なんだ今の挙動は!? ツッコミ所しか存在しない。


「えええええ、無理無理むりだよロットちゃん! 」

「解った。じゃあ私の身代わり人形貸してあげる。触ると何か会話成り立つ程度に私っぽいこと喋るからこれで乗り切って。ただ、呪いに使うと自動呪い返しが発動するから気をつけて」


 この二年……実質一年、共にパーティを組んできて思ったこと。この腐れ魔法使い……性根こそ腐っているが、意外に仲間思い(ただし何故か俺以外)ではあるようなのだ。


(この守銭奴が、人に食事を振る舞うとは)


 ハーツの病気のリハビリに務める姿勢も感じるし、年下にはこうして器のでかさも示す。


「うん、ありがとう! 今行くから、門の所で待っててレー君! 」


 呪術具を貸し与えられたマリアは、いそいそとクローゼットから姿を現す。小脇に不気味な人形を携えながらも、レインとは五メートルの距離までを許す。思い込み効果でも、効果はあるようだ。


「さて、邪魔者は消えたところで」

「じ、邪魔者? 」


 貴様仮にも仲間に向かってなんて物言い。いや……二人がいる所では本題に入れない事情があったのか? なるほど、それなら理解を示そう。


「本題と、言うことか」

「まぁね。私も何処から話したものか、考えていたのよ。実際、見て貰った方が早いかなって……でもまぁ遠い土地でしょう? 門は開けて二人通れるくらいだし、全員連れて行くのは難しいから一人ずつ話をしようと思って」

「危険は無いのか? 許可の無い異界間移動や、異界からの物の持ち込みは法で禁止されているぞ」


 万が一異世界から病原菌や、生態系を崩すような物を持ち込んだら大変なことになる。キャロットは事故で異世界に移動し、一年かけて生還した。


「異界調査免許は昨日更新してきたわよ。どこぞの勇者免許なんかと違ってちゃんとギリセーフだったわ」


 その辺抜かりはないわと胸を張るキャロット。今度は俺が目を逸らす。


「また、金か? 自棄に羽振りが良いな。以前の貴様は万年金欠だった気が……まさか貴様本当に、異界の品を売りに出してはいまいな!? 」


 如何に腐れ魔法使いと言えど、勇者ギルドに名を連ねるなら法には従うべきだ。


「悪魔にっ、魔王に魂を売り渡したか貴様ぁあああ! 」

「あーもう! いちいち斬りかかるの止めなさいって! そんなんじゃ女にもてないわよ」

「だから何故、微妙に顔を赤らめるのだ貴様は」

「な、何でも無いわよ」


 俺が女にもてないことが嬉しいのか、キャロットは。ま、まさかこの女……いや、ないな。絶対にないな。俺への対応から見て、そんなことはあり得ない。


「貴様は本業を忘れていないか? 勇者で就職する気はあるのか? 」

「勿論あるわよ! 適当に数年活躍して、後はその時得た名声で指南書魔術書でも書いて印税で引き籠もって魔法研究に生涯を費やしダラダラ暮らすって壮大な夢が! 」

「き、貴様という奴は……どこまで腐った性根と根性を」


 俺の小言も何処まで聞こえているだろう。俺を適当にあしらいながら、キャロットは手持ちの本に魔方陣をなぞり出す。


「まだか……? 随分とかかるな」

「色々と調節が掛かるのよ」

「向こうで何か良い召喚獣と契約は出来たか? 」

「んー……ぼちぼち」

「実戦には向きそうか? 」

「それなりに。もう少し時間掛かるから、あんたそっちのテーブルのでも食べてて」


 あまり魔法が扱えない俺には解らんが、余程複雑な詠唱式なのだろう。キャロットは本から視線を移さない。代わりに使役するオークに指示を出す。


「オチ、もてなしてあげて」

「グォっ」


 よちよち歩きの子オークは、確かに外見のギャップから可愛らしくも見えてきた。背伸びをしテーブルの上から盆を取り、そこに簡単な菓子と茶を持って来る。


「口に合うか解らないけど、マリーは喜んでたわよ」


 茶は冷えていたが、何度も怒鳴っていた俺にはありがたい物だった。砂糖も控えめ、茶葉の香りも悪くない。俺の好きな物を覚えていてくれたのだろうか? そう思うと僅かに俺の表情も綻ぶ。


「貴様の、手作りか? 」

「ううん、オチに作らせた」


 ケーキを口元まで運びかけ、固まる俺。傷付いたような表情の子オーク。室内の異変に気付いたキャロットは俺を一瞥して軽蔑するような目だ。今までの出来事全てを復習し、俺が貴様に同じ視線をぶつけてやりたい。それでも、このケーキにはたぶん罪は無い。ましてやこの醜悪な女が傍に居るのだ。相対的にオチとやらの方がマシに見えてくる。あれ、この小説のヒロインってもしかしてこの子?


「い、……頂こう」


 ケーキを一口口へと放り込み……俺は椅子から床へと崩れ落ちた。


「おーほっほっほっほ! 掛かったわね乳騎士喜劇っ! 」

「き、キャロット……貴様ぁっ!! 」


 味が悪かったのではなく、毒を盛られたのだ。ケーキに俺の注意を割かせ、飲み物への警戒心を薄れさせる。気付くべきだった……俺が愚かだ。


「か、体の動きが……」


 辛うじて言葉は紡げるが、手足の自由が利かない。盛られたのは痺れ薬か。回復役のハーツが居ない。毒に詳しいニムロッドもだ。邪魔とはそういう意味か畜生! 男心を弄ぶ魔女め!

 キャロットの高笑いが響く中、俺の視界が揺らいで変わる。薄暗い地下室? 俺はその檻の中に飛ばされていた。おまけに手足に枷と鎖まで……なんて高等魔法の無駄遣い。


「な、何をするっ! 貴様、何が目的だ! 」


 俺はこいつに恨まれるようなことをしたか? 強く叱ることはあったかもしれないが、仲間としては尊重してきたつもりだ。だから意味が分からない。俺がこんな目に遭うことの。

 しかし奴は俺の質問には答えず、悔恨を滲ませるような声色で……


「実力は十分だった、私達に足りなかったのは資金力。そして装備よお馬鹿さん! 」


 言われてみれば、キャロットの装備が変わっている。俺の一撃を防ぐような杖、それにほぼ詠唱無しでオークを呼び出す詠唱率短縮マント。


「金さえあればどうにでもなんのよあはははは! そうと決まればマリーとレインにも装備新調してあげないとね」


 前衛の俺の装備から普通整えるべきだろう!? 何故俺が後回しだ! そしてどうしてその資金稼ぎに俺が協力せねばならない!


「だってあんたがリーダーじゃない。それにあの二人にもそれぞれ違う仕事任せるつもりよ」


 にやり、ほくそ笑むキャロットは、怪しげな仮面を身につけて、地下室の扉を開く。


「レディース&ジェントルメーン! さぁ、記念すべき第一回異種間バトル(意味深)オークレスリング! オーク×美青年勝つのはどちらだ!? さー賭けた賭けたぁああ! 」

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