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十八話 『代用品』 -0 

【『代用品』 -0 】



《もう大丈夫だからね》


 死にかけていた“彼”を救ったエルフの乙女。癒す力を持つ者が、癒やしを持たぬ者に救われる矛盾はあったものの、彼は彼女に恋をする。彼女への感謝と恋心から、彼が召喚契約を願い出た場所が……この《神域の森》だった。


「だけど、生きながら角を奪われた彼は、召喚獣として無力。まぁ、移動型召喚獣としては優秀だったかな? 彼女は弓の名手でもあったから、相性は良かったんだろうね」


 生まれる以前の情報を、さも見てきたことのように語る僕を見て、少年は驚いている。


「でも、彼女に恋した処女厨野郎(ユニコーン)は他にいた。それが彼だよ」


 管理小屋に飾れていた装飾剣《一角獣(モノケロス)》を手に、男は暗い笑みを浮かべ少年に近付いた。男から香る死臭に気付いた少年は、怒りと涙を滲ませている。


「レイン……お前はあの女と違って、俺を裏切らない。可愛い奴だ。お前の顔が、あの男に似なくて本当に良かった」

「管理人さん……あんたが俺の両親と、誘拐された子達を殺したのか!? 」

「君、この一年……魔女捜しに魔物退治に忙しかっただろ? 寂しかったんだろうなぁ、彼」


 へらへら笑う男に代わり、親切な僕が応えてあげる。被害者が出たのはお前の所為だと暗に告げれば、少年の心が折れていく。仲間の前では最も強い精神力を持つ彼も、一人になれば唯の子供。この子から叩き折れば後は簡単。なし崩しにあのパーティは瓦解する。「彼は君の代用品として、エルフの子達を攫っていたんだ」と、耳元で囁くだけで、少年の目から涙が零れ出す。もう一押しだと僕は、後ろへと下がり、犯人に花を持たせることにした。


「あの女は、同じハーフエルフの俺では無くて、人間の男なんかに靡いた! エルフの誇りも無い女だった。その点お前は簡単に心を許す、馬鹿で可愛かったなぁ。俺が見てるのも気付かず森の水辺で水浴びなんかもしていたなぁ、ははははは! 」


 突然もたらされた気味悪い情報には、怒りよりも恐怖が勝ったようでレインはこの場を逃れようと必死になるも拘束は解けない。彼はそんな無駄なことを、繰り返しては遊ぶ。


「だがなぁ、レイン。俺は見過ごせないんだ。どうしても許せないんだ。このまま時間が経てば、お前はもっと背も伸びる。あいつとかけ離れた姿になる」


 変態の戯れ言に、言い返す言葉も無いのだろう。遠目から見ても解る、この世の終わりを目にしたような少年の目が心地良かった。


「だからこれを飲むんだレイン。この毒薬は凄いぞ! 二角獣の角から作られた逸品だ。最高に楽しい気分になった後、綺麗に死ねる。興奮物質が死の痛みも和らげてくれるんだ。凄いだろう!? 彼女達は成長もしないし腐りもしない! 永遠に綺麗で美しいままなんだ! お前も保存されるべきなんだ、お前もそう思うだろう!? 」

「……数が、足りない」

「二角獣は貞淑な者が嫌いだからな。俺の誘いを断った奴は、全て食べられてしまったさ」


 この期に及んで、犠牲者の数を数える余裕がまだあるか。男が言った“彼女達”は二人しかいない。一人はもう何も言えない、もう一人はまだ……生きて居る。彼女らが着せられている服は大事な“マリー”から貰った服だと気がついて、少年は絶望の先を見つめている。


「俺が飲むなら、その子達を解放するか? 」


 おお、小さくても勇者だね。綺麗事ばかりの言葉があの男のようで僕は苛立つ。それなら手助けをしてあげようか? 僕は譲歩の姿勢を見せる。


「どうする? 確かにレインが手に入るなら、この女は用済みだね」

「先に、その子を解放しろ。俺が飲んだ後に、遺体も外へ出してやれ。それが条件だ」


 僕と彼の言葉を受け、男は薄気味悪い笑みを浮かべて頷いた。


「《一角獣(モノケロス)》、この娘を解放しろ」

「はい、畏まりましたご主人様」


 男の命令に恭しく傅いた後アリュエットは少女を背負い、彼女を魔方陣へと投げ込んだ。魔方陣が消えた後、大人しくレインは黒々とした液体がたっぷり入った毒薬瓶へと口付ける。だが、嬉々として瓶を傾けやる男を、レインは睨み続けていた。毒薬が口からあふれ出ているのに強がれる余裕は何だ? 訝しむ僕の鼻に焦げ付く匂い。


「うちのパーティの持ち味は……騙し討ちだぜ、マリス? 」


 狼狽える僕を見て彼が僕を笑った。その長い髪と可憐な装備にぶわっと広がり行く炎。


(《火炎自爆魔法(フレイムゴート)》!? そんなもの情報に無かった! )


 このパーティが、それぞれ切り札を持っていることは知っていた。しかし、彼は弓に使う火すら薬品だったはず。《最終兵器》用に火魔法を使えないと、自ら印象付けていたのか!?


 計画に狂いが出た。修正を図らなければ……影魔法で彼を操る? 駄目だ、発動した魔法を消す力を彼自身は持っていない。


「可愛いなぁ、レイン。あいつと同じ事をするなんて」


 最期の強がりを口にした、少年を凍り付かせる男の言葉。これには僕も驚いた。


「お前の両親の、死体は見つからなかっただろう? あの男を殺して俺の所へ来るよう言った時、お前の母も同じ魔法を使ったんだよ。十五年もあれば、対策くらいこの通り」


 身体を覆う炎が、一瞬にして掻き消されている。やったのはアリュエットだ。二角獣との同化が進み、身体は馬に近付いて……彼女が所持する《牝牛》が、角として頭部に吸収された他、黒い角が彼女の頭部に現れる。


「今の魔方陣を見たな? あれが生け贄の受け取り口だ。《魔法を食らう魔獣(ニルコーン)》様へのな」

「い、今の子を……生け贄にしたのか!? なんで、そんな……酷いこと」


 悲しんでいるはずなのに、毒薬により彼は熱に浮かされた瞳になった。二角獣は、人を惑わし貶めるのを何より好む。あれは毒薬にして、媚薬でもある。死が差し迫った状況で、こんな悔しいことはないだろう。


「無駄などではないさ、お前がこうして私の手の内にある! 」

「無駄では無いな、こうして道は開けた! 俺が作った《精霊人形(ホーリードール)》という餌に、お前が食らいついたのだから」


 ……年単位で学園に潜入した奴のことだから、そりゃあ生徒の一人や二人でっち上げることは可能か。しかしこの僕に隠れながら、魔力で精巧な人形を作り上げるとは。


「今年の分の本が仕上がらなかったのはそういう訳かい、ロア? 」

「貴様の相手は俺だ、マリス! 」


 ようやく五月蠅いのが現れたか。探知できないこの場所を、精霊人形が消滅することで、魔力が戻ったロアの元、この位置が特定される。もっと他のやり方で来ると思ったのに、残念だ。


「……思ったより遅かったね、ラクトナイト。残念だけど彼はもう手遅れだよ? 二角獣の毒を、僕の愚妹(マリア)が癒せるものか」

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