十話 『まもなく彼が目を開ける』 -0
【『まもなく彼が目を開ける』 -0 】
結局俺がキャロットを誘った謝罪の食事は、一週間後に先送り。ニムロッドの面会可能日がその日でもあったのだ。食事後彼の見舞いも行こう、そういう流れで……俺はハーツも連れ出すよう彼女に頼み込む。
しかしハーツは現れなかった。仕方なく、当初の予定通り俺はキャロットと食事をすることになった。……だが、こんな時だ。自分達だけ良い物をという気分にもなれず、ギルド内の食事処で適当なランチを頼んで終わり。俺は焼き魚定食、奴は豚の生姜焼き定食。色気のいの字もない食事だった。
「この天下のキャロット様に、よくもまぁこんな味気ない、ワンコインランチデートを誘えたものねコント」
「そう言うな」
「浮いた分でレインに見舞い買ってくわよ」
「勿論だ。それで、ハーツの調子はどうだ? 」
「駄目。全然駄目」
薄い肉に噛み付きながら、キャロットがぼんやりした顔で言う。しかし抜け目のない女は、備えのニンジンソテーをいつの間にやら移動魔法で俺の皿へと混入させていた。苗字がニンジンなのに、この女……ニンジン料理が苦手らしい。
(さすがギルド食堂……生姜焼きにこんなソテーを付けるか!? )
メニューもマニュアルもなく、在庫と賞味期限で決まる日替わり定食なのだろう。なんて杜撰な……『Twin Belote』を清廉潔白な勇者と言い張るギルドの闇が、食事にまで及んでいるようではないか。
(いや……これは流石に言いがかりか)
己の考えを振り払い、タルタルソース付きの焼き魚を口へと運ぶ俺の手は重い。六十年この店を切り盛りしているという老女店主が付けてくれる飲み物の……グリーンティーのホットに勝手に砂糖とミルクが混ぜてある。俺は社交辞令という言葉を捨て去ろうかと一瞬悩んだ。
「無事に免許が戻って来たのは、良かったな。マリーもこれで少しは元気になるはずだ」
ロアの口添えか、免許再発行の許可は無事降りた。いや、それどころか……
「そうね。でもほんと、何企んでるんだか」
ギルドで俺とキャロット受け取った免許証には……《特級勇者免許》の文字が刻まれる。
「確かに私らは、特級ダンジョンに巣くってた悪は倒したわよね。まぁ、嘘では無いんだけど……要らぬやっかみ買いそうよ」
一年前の出来事で、落ちこぼれと馬鹿にされて来た落第勇者の俺達が……『Twin Belote』と肩を並べる特級勇者にされてしまった。ロアの行動全てを、謝罪や好意の気持ちからだとは信じられない。免許を手にしたという噂は瞬く間に広まって、料理が届く間にも取材は来るし、腕試しの挑戦パーティも来るし、迷惑この上極まりない。
店で騒ぐなと言う女主人が呪いの黒魔術を始めたところで、迷惑連中は逃げ帰る。それを見越して食事はここを選んだが……代わりにお世辞にも美味と言い難い物に金を支払い、食する悲惨な拷問を受けている。残したら俺達も呪われそうだから、時折視線で互いを励まし完食を目指す。キャロットとは、未だかつて無い程の相互理解と一体感を味わっている。もしかしたら、そういう意味では素晴らしい店なのかもしれない。
(……こんな状況で、俺は何を馬鹿なことを)
料理を貪り食う彼女の口元を、うっかり見てしまった俺は慌てて目を逸らす。
「何? 」
「い、いや……もう少し品良く食べたらどうだ? 」
口が汚れていると指摘し誤魔化した。今のキャロットは薬の効果も無事切れて……ちゃんと女の姿をしている。あの時は男だったが……この唇が俺に触れたことは変わらない。陽動作戦に、味方である俺まで狼狽えてはならないというのに……。それ以上の意味など、この女の中にはない。意識するだけ此方が馬鹿を見る。しかし今度は俺が視線を感じる。キャロットもなにやら俺の口元をじっと見つめてにやついているではないか。
「な、何だ!? 」
「えー? 別に? タルタルソースをコントに食わせた店長グッジョブとか思ってないわよ」
「……貴様はまた、ろくでもないことを考えていたな? 」
俺が追求を始めれば、キャロットはさっと視線を逸らして口笛なんぞ吹いている。
「俺をからかって楽しいか? 」
「ええ。良い息抜きになったわ、ありがとう」
素直に礼を言うとは、珍しい。軽く目を見開く俺に、何よと彼女が笑って見せた。
「ねぇ、コント。マリスがマリーに絡むのって、ミザリーと私とは全く別の理由なのよね、たぶん。あいつは元々私の名前が気に入らなくてちょっかい掛けて来た女だし」
「マリスは……ハーツに特別な恨みはない。確かに名前は似ているが……」
あいつが俺達に絡むのは、そんな理由ではない。原因は俺だ。だから……三人を巻き込むわけにはいかない。そんな俺の思いを見透かして、キャロットはそれ以上を追求しないでいてくれる。
「あんたの言葉……訳ありって感じだったわね。……無理に話さなくても良いわ。私だって黙って色々してたわけだし。唯聞きたいのは……私はこのパーティに居ても良いの? あんたは本気でここを出て行くの? この二つよ」
彼女は言う。マリスの企み通りにマリーを追い出すつもりはない。レインだってそう。俺が何かを隠し出て行こうとしているなら引き留めたい。キャロットは、俺にそれだけを伝える。
「引き抜きなら、私が行ってもいい。寝首掻くには近くにいられるのも助かるし、あんたら三人の誰かが入って盾に使われるよりはずっとマシ」
「キャロット……」
「私を消したかったのは、ミザリーだけとは思えない。事実を隠蔽、それで今度は餌で釣るような真似……ロアも一枚噛んでるのは確かなことだもの」
「貴さ……お前の復讐とは、何だ」
「……何だって何? 」
「世間での奴らの評価を落とすことか? お前を殺そうとした者、事実を隠蔽した者全てを消すことか? 」
「後者だったら、行かせてくれなさそうな目ね」
こんなところでする話かしらとキャロットは呆れた態度。大丈夫だと俺は頷く。ここの店主は耳が遠い。選んだ席もカウンターからは遠い。小声での会話を、盗み聞く真似は出来ない。店主の方を一度見た後、彼女は渋々語り出す。
「苦しめたいのは事実よ。私そりゃあ酷い目に遭ったもの。それを生きがいに何が何でも戻って来てやる、そう思ったし」
そうぼやきながら、何を血迷ったのか……彼女は服に手をかける。彼女が寛げた胸元に、俺は慌てて目を逸らす。しかし目の端に映った物が気になり恐る恐ると視線を戻した。
「見せたこと無かったわよね? これが一回目の証拠。私との口喧嘩に負けた【女騎士】が私を殺しかけた傷」
剣で斬られた跡じゃない。これは殺すつもりで刺されたのだ。深く貫かれた傷跡からは、確かな殺意を悪意が見えた。一週間前の「見せてあげる」とは……彼女が俺を試した言葉。どういう訳か、俺は秘密を話しても良い相手……として彼女に認められたようだ。
「もう良い? いつまでじろじろ見てんのよ」
「す、すまない」
俺が頭を下げたところで「オークレスリングの件はチャラね」と、彼女が衣類を整える。
「何とかに刃物よねぇ、絶対に治らない傷を作れる剣なんか、あの女に持つ資格ないっての」
「治らない、のか? 」
「マリーのお陰でここまで治ったけど、跡は一生残るみたいよ」
キャロットは、自身の知る限りの情報を俺へと明かした。【女騎士】アリュエットが持つ剣……その名は《牝牛》。それは本来魔物を斬るための物。キャヴァリエーレ家が代々受け継いでいるという代物だと言う。《牝牛》は、確実に仕留めるため傷口に呪いをかける。いや、魔に効くのだからある意味祝福のようなもの?
「あいつの家柄って、良いでしょ? 昔国を救ったとか言う勇者の子孫だか何だか知らないけどさ。あいつの先祖が王家から賜った物だとか。そんな感じのこと偉っそうに言っていたわ」
元々が剣として刃物としての殺傷能力がある上に、出血の祝福を持っている。人がそもそも正か負か……その議論の答えは出せないし、『Twin Belote』を傷付けたって、恐らく血は止まらない。黒魔術に傾倒していたキャロットの魔に反応し、その剣は彼女を深く傷付けた。それは、キャロット自身の問題とは言い難い。本来、人に向けてはいけない武器を……その女は使ったのだ。
「これは私が調べた上での考えなんだけど……マリー自身が白魔法の才能あるってだけじゃなくて、得意とする属性のキャンセル……吸収も出来るみたいなのね。マリーは私を治しながら、私の呪いを打ち消した。だけど……あの剣に呪いをかけた大昔の人間は、マリーよりも力が強かった。だからまぁ……生きてるだけでも儲けものだけどね」
名のある勇者の末裔が、感情に任せて犯した失態。『Twin Belote』は、卒業前に彼女の罪を無かったことにしたかった。だからキャロットを葬り去ろうと目論んだ? そこにミザリーの悪意、マリスの企みも絡んで一年前に……? ここまで聞いて、俺もロアへの不信感を募らせる。まともそうに見えるあの男が、パーティ内の悪行を見過ごす理由は何だろう。もみ消さなければならない理由が『Twin Belote』メンバーにあるとするなら……
「でもこっちに帰って来て……あんた達を見ている内に、何か毒気を抜かれてね」
「キャロット……」
「マリスやミザリーが、あの子に変なちょっかい出さないなら私も譲歩する」
邪険に扱ってはいるが、キャロットにとってハーツは命の恩人なのだ。今回のようにまた、彼女が傷付けられたくない。そんな不満を彼女は漏らす。
「私はあいつらの尻尾掴むまで、罠仕掛けて挑発して……を続けるつもり。その先で……私は本当のことが本当として公表されればそれでいいわ。それと、マリーがあの変質者に絡まれたり私の命が狙われた理由を当事者達の口から聞きたい。この二つね」
「当事者……か」
それは何も、奴ら四人だけを指してはいない。マリスの暗躍、その理由に俺があるなら……俺の償いは、まだ終わっていないのだ。
「……お前は、キャヴァリエーレを許せるか? 」
俺が考えに考えた末の言葉を、キャロットは信じられないと言った表情で受け取っている。
「マリスが俺を恨む理由はそれと同じだ。その復讐で、俺ではなく俺のパーティを狙っている」
「そんなわけないわ! だってあいつが私とマリーに食ってかかってきたのって、あんたとパーティ組む前よ!? 」
俺の言葉を否定する。俺とアリュエットは違う。そう言ってくれるキャロットの言葉が嬉しかった。それでも、俺がしでかしたことは変わらない。
「……一人の男が居た。男は取り返しの付かないことをした。その男を止めるため、別の男また……取り返しの付かないことをした」
「コント……? 」
「リーダーは……お前がなれ。俺は『Twin Belote』に行く」
「な、何されるか解らないわよ!? マリスがあんたを憎んでいるならそれが目的かもっ! 私がミザリーを追い込んだように、各個撃破狙ってるって可能性もある! あいつは正々堂々あんたに勝てないからそういう狡い手使うの! あんたの心ボロボロにしたいだけっ! それであんたが苦しんだって、あいつはあんたを許さない。あんたが傷付くだけ無駄よ! あんたはパーティを大事に思ってるんでしょ? だったらあんたはここに居るべきよ! 私が行くっ! 私はあんた程、別にこんなパーティ何とも思ってない! 利用しようとしてただけ! 」
彼女は大嘘つきだ。そして、一度言い出したら話を聞かない。言ったことを曲げない。登録名の時もそうだったな。
「ダイヤ」
「!? 」
彼女の名前、ロゼンジは菱形の紋章を意味する言葉。しかし、女の子らしい可愛さがないと、彼女は呼ばれることを嫌い、自分でも基本的に名乗らない。代わりに呼ばれていたのが、この名前。愛称だと言っていた。それと同時に……
「気安く呼ぶな。名前が嫌い。だけどこの名で呼んだら呪う、だったか? 」
「な、何よいきなり」
それを偽名に使うくらいだ。彼女にとってなじみ深い名称なのだろう。それでも、最も親しいはずのハーツにさえ呼ばせない。
「異界では随分と親しまれた名のようだったな」
「そ、それは……あの……」
「呪われては困る。俺が抜けよう。ニムロッドの免許は俺から渡しておこう。マリーと、レインを頼む」
伝票を持って、俺は席から立ち上がる。追って席を立ったキャロットの……肩を一度叩いて、俺は彼女を残し店を出る。支払ったワンコインランチは、いつの間にか値段が少し上がっていて、ワンコインから足が出ていた。嗚呼、ここに来るのも一年ぶりだったかと……何とはなしに俺は気付いて苦笑した。
*
【『やるならこっそり、さりげなく』 -0 】
俺はどうしたのだっけ? 朦朧とした意識の中で考える。何も聞こえない、静かな場所だ。誰もが寝静まった夜のよう。
「マリー……ねーちゃん……? 」
傍から人の気配を感じる。身体はまだ痛むが、俺は死んではいない。彼女の手当てがあったのだろう。
(お礼を言わないと……)
無理矢理身体を起こし、目を開けた俺が見たのは……治療に疲れて傍らで眠りこけているシスターではなく……
「ぎ、ぎゃああああああああああああああああああああああ!!! 」
「目覚めたか。元気そうだな」
俺の傍に居たのは、本を眺めるエルフの男。それだけでも夢と現実のギャップが凄まじいのに、よりにもよって相手は『Twin Belote』のリーダー・ロア=ブリス! 此方は今にも恐ろしさから腰を抜かしそうなのに、男は穏やかに笑って本を仕舞う余裕面。
「な、なっ……ななななな、なんであんたが!? 」
「うちのメンバーの不始末だ。医療費は此方で出そう。足りなければ此方に連絡してくれ」
これは示談用の書類なのか? 一枚目には男が支払った金額と、治療内容が記されていて…もう一枚の紙には、追加治療についての連絡先と請求先が書いてある。
「いや、あの……」
目覚めの衝撃が強すぎて、記憶が吹っ飛びそうになったけど……段々落ち着いてきたぞ。そうだ、俺はマリーねーちゃんを庇って……負傷した。それじゃあ……
「ねーちゃんは? みんなは……」
まさか彼女は俺に治療をかけられなかった? 彼女も重傷を負ったのか!? 不安に駆られて取り乱す俺に、ロアは落ち着いた様子で対応をする。
「お前の仲間は全員無事だ。連絡を入れて置いた。間もなく見舞いが来るだろう」
「俺がいつ起きるか、解ってたの? 」
「怪我と毒、それから薬と魔法と治療内容……それらを考慮しての大凡の目安だ。そこまで外れていなかったのは幸いだ」
淡々と語られる言葉。彼にとっては訳ないという……そんな言葉の羅列もなんだか不気味。未だにこの人からは、感情一つ読み取れない。笑っているのに何も聞こえやしないんだ。
(そういう力……? それとも何か隠したがっている? )
解らないけど、怖いものは怖い。
「へぇ……そう、なんだ。あ! あのさ……あれからどのくらい経った? 」
「七日だ」
まさかこの人、一週間も俺の病室に付き添いしてたんじゃないだろうな? 幾ら加害者側のパーティリーダーだとしてもやり過ぎだ。それはちょっと気味悪い。俺が僅かに身構えたところで、ロアは苦笑し立ち上がる。
「心配するな。そろそろだと思い見舞いに来ただけだ」
「普通、あんたみたいな立派なエルフは、俺みたいなの顔も見たく無いはずだけど? 」
俺はエルフ四分の一。ロアのようなエルフらしいエルフは、自分の側に非があっても、絶対に頭なんか下げない。そういう物だと俺は今まで学んで来た。
「……私も混血だ。そのような真似はしない」
「あ……」
言い過ぎた、だろうか? 退室間際に彼が残した一言が、俺の中で引っかかる。あの瞬間……僅かにロアの感情が聞こえたような気がするのだ。俺の言葉に傷付いたような、そんな悲しみ? はっきりとした言葉としては聞こえなかったけど。
「もう起き上がって大丈夫なのか? 」
「あ、にーちゃん! 」
声をかけられるまで、見舞客に気付かなかった。読めないロアの副作用か? 簡単に読めるはずのコントにーちゃんの気持ちさえ、今の今まで感じなかった。
「にーちゃん……? 」
笑っている。だけど凄く暗く重い……そんな気持ちが伝わってくる。これは、覚悟だ。
「止めておきなよ。マリスはにーちゃんが思ってる以上の物を抱えてる。近付いちゃ、駄目だ」
「しかし」
にーちゃんは、ロアと因縁があると言っていた。ロアが現れるまでのマリスから感じた心。あいつの敵意の源が……向かっていたのはこの人だ。
「あの人、元々……赤目だろ? にーちゃんを見るあいつの黒い目、言葉にならないような呪詛の言葉を繰り返してた」
『Twin Belote』は、少なくともロアは……俺に対する負い目がある。そこを利用できれば……この問題、片が付く。あんな奴らにマリーねーちゃんは近づけられない。魔女のねーちゃんだって酷い目に遭ってる。そして、間接的な悪意が狙い撃とうとしてるのは、俺の目の前に居る人だ。抜けるなら、俺。一番安全なのは、俺なんだ。
「潜り込むなら、俺が適任だ。今日、ロアのもちょっとだけ読めた。時間は掛かるかも知れないけど、『Twin Belote』に俺が近付けば……きっと全てが明らかになる」
「ロアが、ここに来たのか? 」
「あ、うん。見舞いだって」
よくよく部屋を見回せば、がらんとした一人部屋の片隅に見舞いの花が置かれていた。
「免許ありがとな、にーちゃん! 俺、ちょっと行ってくるよ」
「レイン!? 」
「へーき、平気! もう大丈夫だからさ。お医者の先生に退院認めて貰って来る。長くなりそうだからにーちゃんは早く帰んなよ」
にこやかに手を振って、俺は病室を飛び出して……彼が付いて来ていないことを確認する。それから空っぽの病室を見つけてそこへ身を潜める。
(さっき、あいつから貰った紙……)
二枚目には、続きがあった。これは《召喚手紙》……魔法道具の一種だ。名と必要事項を記入すれば、自動召喚された郵便魔獣が現れ手紙を届けてくれる。
(『Twin Belote』に、お前達の内一人スカウトするつもりだ……なんて、どんな脅しだよ)
“お前が来るなら、慰謝料も込めて報酬、取り分上乗せを考慮する”……こんな言葉に釣られるレイン様じゃあないけどさ。やっぱり何か裏があるってことだよな。
「行ってやるよ、ロア」
その場所が、落ち着いて眠れない場所だって構わない。静かすぎて不気味でも良い。あの三人の、辛い声を聞くよりは……。心を決めた俺は、必要事項を記入し召喚魔獣を呼出した。
「ほう、お前か……一年前より立派な顔つきになったな、少年」
召喚魔獣として現れたのは、女騎士アリュエット。この手紙は、予め設定しておいた人を呼び出すことも出来るようだ。
「顔だけじゃないよ、俺は」
「それは後日、実戦で確認させて貰おう。それで? いつ此方に来る? 」
「今すぐ行く。新しいパーティには早く馴染みたいし。歓迎会の準備が要るんなら待つよ? 」
「安心しろ、そのような物は無い」