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九話 『影と光はどうあるべきか』 -7

【『影と光はどうあるべきか』 -7 】



 何度会っても不気味でむかつく男……マリス=スパイト。


「それは全部あんたら四人の仕業だっていう、自供ということでいいのかしら? 」

「うーん、よくわからないけどもう時効じゃないの? なんたって一年も経ったんだ。一年って言えば凄いよ? この洞窟も一年前とはすっかり違う姿になった! 君もそうだろ? 一年ぶりだね、黒髪魔女さん? 見ない内に、随分胸が小さくなったみたいだけど? 」

「あんたのセクハラに嫌気が差してね、イメチェンよ。いい男でしょ? 挨拶代わりに一発掘ってやっても良くってよ? 」

「ははは、遠慮しておく。僕は泣くより泣かせる方が好きなんだ! 君が下なら考えてあげるけど? 君って本当は……虐められるの好きなタイプだろ? 」

「はっ! 冗談も存在だけにしときなさい。私ずっと前から見たかったのよ、あんたが泣いて私に縋り付く顔! 」


 こいつ苦手だ、本当に。自己嫌悪よりも質が悪い。私の完全上位互換が目の前に立ってるみたいでぞっとする。だから解るんだ……こいつも私が嫌いだってこと。でも……私こいつに死ぬほど恨まれるようなことした覚えがないのよ。こっちからマリスへの怨みは積もるほどあるんだけどさ。


「私の脚を掴んだのは、あんたの影魔法。ゲートに引き摺り込んだのも。あんたら二人が首謀者ってのは……あんたがもう一回同じことしてくれたらはっきりするんだけどね。やってくれない? 今度は証拠をばっちり掴んであげるから」

「知らないなぁ。口を割らせるかい? でも消耗し切った君が僕を倒せると思う? それが叶ったところで僕が全てを喋るとも? 」

「ちっ……しゃーねーわ、さっさとその女連れて行きなさいよ」


 舌打ちしながら私は手でマリスをしっしと追い払う。マリスは正攻法では勝てない相手。オークの数にものを言わせて襲ったところで、一発食らえばもうアウト。炎天下の真っ昼間に寝首掻くとかなら勝率上がるけど、そんな馬鹿な真似をこいつはまずしない。残念だけど今日の所はこれで終いか。


「キャロット……それではあの日のことは! 」


 ミザリーを抱き起こしたマリスの姿を目で追いながら、私をチラチラ見るコント。その様子では、一年前の事情を察してくれたよう。


「この大魔法使いキャロット様が、あんな……絶対決めなきゃいけない場面で失敗なんかすると思った? 」


 偉そうに私は踏ん反り返るけど、それが不安の表れだってコントは気付いていない。マリスの方が、私の弱点……嫌なくらい知ってるわ。私はこの場に居る者の中、精神力なら一番弱い。強がるのは自分を大きく見せようとすること。はったりよ。


「うちのリーダーはそこまで私を信じてないの? 」


 素直な言葉を伝えても、何も伝わらないのなら。大事な言葉ほど、私は呑み込んでしまう。


(レインには、バレてるでしょうね……付き合い長いしマリーにも)


 「助けて」も「信じて」も……言葉としては作れない。突き放すような真似、試すようなこと……最低だと思う。自分でも解ってるの。だけど信じさせてほしい、貴方を。私のやり方、間違ってるならそう言って。初めて会った、あの日のように。どうしていいか、教えてよ。私がこの一年やって来たこと、これからしようとしてること……その全部が誤りだって言うのなら。ねぇ、コント……貴方ならどうするの? 


「……悪かったっ! 」


 私へ後退の指示を出し、コントはマントを翻す。剣を向けられた相手は、予想していなかった一撃に反応が遅れる。


「コント……! 」


 正々堂々、いつも私達にそう言っていたこの男が。背を向けた相手に斬りかかるだなんて、私だって驚いた。それに手を叩いて笑い出した奴が一人。……マリスだ。


「君が、こんな真似するなんて、なっ! 見損なった、いや……見直したよラクトナイト! 」

「貴様に褒められたところで嬉しくはない! 」

「証拠もないのに、こんなことして大丈夫? 家に迷惑掛かるんじゃないの? 」

「構うものか! 評判が地に落ちれば……後は上がっていくだけだっ! 貴様等こそ、名声を失う覚悟を決めろっ! 」


 マリスはミザリーという荷物がある。片腕が使えない状況だ。だけどこいつなら、彼女を盾にすることだって厭わない。万が一コントが彼女を殺めてしまえば……どうなるか。免許取り戻すとか卒業とか、そんな次元を越えてしまう。大活躍中の現役勇者が亡くなれば、困るのは国の方。最悪私ら落第勇者から魔王の手先認定の、追われる身分に早変わり! 


(くそっ……せめてマリー置いてくれば良かった! )


 彼女だけは、そんなことに巻き込めない。もっと冷たくすれば良かった。


(コントは最終兵器があるから大丈夫。他に……今の体力でも、二人までなら逃がせる)


 消耗しているレインとマリーだけでも逃がそうか? 私が隠れて移動魔法を紡ごうと、本を使わず指で空気をなぞったところ……


「駄目です、ロットちゃん」

「マリー……あんた」


 私の企みに気付いたマリーに指を止められる。薬で男の姿になった私に触れてまで。そうだ、思えば先程も……いつもの調子でくっついたけど、逃げられてもおかしくなかった。それなのに、マリーは私の傍に居る。いつもと変わらぬ笑顔のままで。


「狡いや、ねーちゃん」

「レイン……」

「俺、今日まともに戦ってないよ。折角届いた新武器、早く使ってみたいのにさ! 」


 矢を番えながら笑ったレイン。その前で……背を向けたままコントが私に聞いてくる。


「キャロット、明日は空いているか? 」

「状況次第ね」

「ならば当然、空いてるな! 俺に付き合え。一食奢ろう! 」

「あら、素敵なお誘いね! 朝食抜いて行ってあげる! 」


 コントは言った、倒せると。『Twin Belote』一危険な男……このマリス=スパイトを。


「破産させるなよ腐れ魔法使い! そうと決まれば一年越しの……クリアと行くぞ! レイン援護を! マリーは俺以外を強化! キャロット! 貴様は俺に弱体化だ! 」


 敵などは呼び捨て上等騎士のコントだが、仲間を名で呼ぶことは滅多にない。一番多いのが同性のレイン。極々稀にマリーにも、感情が高ぶった時とかはついそんな呼び方してる。今のもテンションが上がって来た証。だけど、私はフルネーム以外で彼に呼ばれたことがない。肝心なところで噛んだりしそう、私の名前が咄嗟に呼びにくい物なのは私も認める。自己紹介で私だって噛むことある。だけど人間不信の私は時々思ってしまう。


(本当にこいつ、私のことも仲間とカウントしてるんでしょうね? )


 少しだけ恨めしく奴の背中を睨みながら、私は明日この男に何を奢らせるかを考え笑った。


「あーあ、折角良い装備買ってあげたのに」


 私の弱体化魔法を受けながら、コントは全ての装備を脱ぎ去った! 


「き、きゃぁあああああ! 」


 悲鳴を上げながらもしっかりそれを凝視するミザリーと、冷静に此方の様子を窺うマリス。


「……洞窟を壊さないように弱体化、そして……力を解放、か。少しだけ、驚いたよ」


 ぱちぱちと、無感動な声で乾いた拍手を送ったマリス。抱えられていたミザリーは支えを失い転がり落ちる。


「ま、マリスさまぁ……! 」

「消えろ」


 洞窟に響く、マリスの冷たい声。彼はミザリーに目をやることもなく、姿の変わったコントだけを見上げていた。


「詐欺も良いところだね、君の二つ名! 」


 私達の二つ名……それは本当の能力を表した物では無い。故意にそうした。ギルド登録名は全部騙し討ち用。最終奥義が二つ名と、別物になるよう偽装したのだ。名が知れ渡れば当然敵にも対策される。『Twin Belote』みたいな自意識野郎と私らは違う。


(これが、あいつの最終兵器……! )


 得意とするのは炎。魔法の苦手な彼でもこの姿になれば、限られた属性の高等魔法を扱うことが出来る。破壊力だけなら私の最強火力を上回る。

 元々彼の実家であるラクトナイトは……凶悪な古代竜を鎮め、契約をした家系。血に刻まれた契約は……ミザリーのような一代限りの契約よりも、強い力と制約を彼に与える。コント自身が魔法からっきしなのも、身に宿した竜に魔力を糧として与えているからだ。彼が扱う魔法はこの姿で使える物を、身体構造の違う人間時に無理矢理捻出したに過ぎない。もっと竜族への理解を深めれば、変身せずとも高等魔法を使えるようになる可能性はあるが。


「やっぱり変身コントは見栄えが良いわねぇ! 普段からこの姿で居れば良いのに」

「ねーちゃん、涎よだれ……」


 角は剣の銀、鬣は彼の髪の色、目はより神秘的に澄んだ青。全身の鱗もうっすら青く反射する白銀。一枚一枚が氷で出来たように美しい。この外見で得意が氷属性じゃなくて火属性っていう、騙し討ち加減が最高に堪らない! 弱体化で洞窟内に収まるようにしたけれど、本当はこの倍以上の大きさ。今でも五マリーはある。この程度でも、生身の人間にとっては大きな脅威。性悪マリスもその辺はしっかり理解しているようね。


「消えろミザリー。ドラゴンが相手と来たら、荷物抱えたままやるのは僕でもきつい」

「きゃっ♥ 私を庇って頂けるなんて! 」


 突き放す言葉を好意的に解釈し、ミザリーはその場でうっとりと甘えた声を出している。混乱は鎮まってきた様子だが、術を紡ぐ余裕はまだないようだ。


(それは好都合! )


 コントの火炎魔法が洞窟内を、真昼のように明るく照らす。マリスの使う影を極力殺すよう、此方に有利なフィールドへとこの場を作り替えていく!


 変身により指示が出せないコントに代わり、私がマリーとレインに次の指示を送った。


《キャロット! 》


 急げというコントの言葉。言われなくても解ってる。私は息を吸い込み声を張る。


「マリー! レインをもっと強化! レインは私に合わせて! 」


 二人への指示を下した……その一瞬の隙。炎の向こうで影が揺らめく。


(マリスが動いた! )


 炎の壁をすり抜けて、マリスが私の喉元に剣を突き出した。奴の攻撃パターンは二つ。他人の血を利用し、他人の影を支配下に置く。そして今のように自ら傷付け血を流し、己の影を剣へと変える。血を流した分だけ影の剣は強さを増して長く伸び、こんな不利な状況下でも、相手の命をしっかり狙う。


「……へぇ、やるね」


 コントが捨て置いた剣を手に、私はマリスの悪意を防ぐ。男になっていて正解だった。普段は扱えない剣も、盾の代わりにはなった。


「狙ってくると、思ってたわよ」


 私は召喚獣学で学んだから解るけど、マリーとレインは異種族の言葉が解らない。レインなら変身後のコントの感情読み取ることは可能だが、はっきりとした全員分の明確な指示まで把握するのは難しい。そうなれば私がコントに代わり、パーティの指揮を務めるしかなくなる。コントの最終兵器《契約竜化(ドラゴントラクト)》は、最低でも私かレインがいる前提でしか発揮できない。


「狡いなぁ君達。好きになっちゃいそう。彼の二つ名、【氷結の騎士】って何だったのかなぁ」

「それは私の属性付与魔法で演出したお遊びよ、これみたいにね! 」


 レインの矢に私が付けたのも炎。標的に当たっても、矢が燃え尽きるまで決して消えることはない。マリスに血を流させるのは危険。ミザリーの時のよう、肌から離して……それは同じでも、今度のそれは至近距離から肌を焼く。マリーの強化魔法によって、勢いの増したレインの矢は、降り注ぐ炎の雨。


「仕上げよ、コント! 」

《ああ! 解ってる! 》


 吐いた炎でコントはマリスを吹き飛ばし、壁際まで彼を叩き付けた。そこに次々落ちてくる炎の矢。マリスの動きを封じ、鎧を炙り苦しめる。


「ま、マリス様っ! 」


 ここまでマリスが追い込まれるとは思っていなかったミザリーも、状況の悪化には気付いた模様。ここでようやく正気に返るが、もう遅い。召喚獣を喚ぶ暇も与えず、此方は攻撃できる。僅かでも怪しい動きを下ならば、マリスと同じ目に遭うだろう。


「わ、解った……話す! 全部話すからっ……だから」

「『Twin Belote』ともあろう者が、無様な姿を晒すなミザリー! 」

「え……だ、だってマリス様! 」

「僕の前に、二度と姿を現すな」


 マリスの言葉にミザリーは、再び混乱と動揺に呑み込まれて行く。しかも今度は萌えやときめきとは反対の……追い詰められた負の感情。


「ちがう……わたしの、ミザリーのマリス様は、そんなこと言わないっ! 」


 『Twin Belote』同士が争えばどうなるか。状況……立場に相性等が関わるが、間違いなくどちらか一方は死ぬだろう。マリスは拘束済み。ミザリーは無傷。マリスは彼女の影を操れない。この状況、マリスの不利か? ミザリーも、切り札を持っている。ミザリーの召喚同化は、一匹の召喚獣との融合体ではなくて……、あの猫耳。普段から既に一匹飼っている。あれが最後の切り札、半同化している鋭く尖った魔猫の爪! あれでマリスを仕留めるつもり……


「駄目ですっ! 」

「マリー!? 」


 あの馬鹿、自分に強化魔法をかけやがった! 移動速度を無理矢理上げて、炎を突き抜け二人の間に突っ込むなんて! 慌てて私が本を破って彼女の前に防御壁を張るが、……MPが少ない。シールドの効果が弱すぎる!


(くそっ……! )


 こうなったらもう、配置なんて関係ない。コントの張った炎の壁に飛び込んで、ミザリーからマリーを守るしかないわ!


(『Twin Belote』が守られたって、マリーを治してくれるはずがない! )


 恩を仇で返す奴らだ。こっちには回復できるのマリーしかいないんだ。マリーが致命傷を負ったら、誰も彼女を治せない。それが最悪の結果に結びつく前に、誰かが盾にならなきゃいけない。

 コントは竜化している。ミザリーが改造したこの異空間は洞窟の天井が高くなっているけれど、マリスが飛ばされたところはコントでは入れない狭さ。ミザリーの前に炎を送ったようだけど、そんなのあの半狂乱の女には通じない。髪を振り乱して、お気に入りの衣装がボロボロになっても彼女は止まらない! もう考える暇も惜しいと私が炎に飛び込んだ時、私を追い越す影が一つ。


「レイン!? 」


 彼は、何重にもマリーに強化魔法をかけられていた。強化されたのは彼と彼の武器のスピード。私の防御壁では守り切れないと察した彼は、防御壁の前まで躍り出た! 接近専用と、携帯していた短剣を両手にレインはミザリーを迎え撃つ!


「逃げて、レー君っ! 」


 マリーの泣きそうな叫びも聞こえないのか!? レインは一歩も下がらない。


「あ、……あ、ああ……」


 ミザリーの爪で、首を思いきり掻き切られたレイン。返り血を受け、それが標的ではなかったことに気付くミザリー。この騒動の中、拘束を抜け出していたマリスは余裕の面で、ミザリーに甘い言葉を囁いた。


「……良くやったねミザリー、僕は君を信じていたよ。誤解した? 僕が君にあんなこと言うわけ無いじゃないか」

「ま、マリス……さま? ご、ごめんなさい……私ったら、てっきり」


 掌を返したマリスの態度に怒りを忘れ、再びデレデレするミザリー。倒れたレインを膝に載せ、回復魔法をマリーは展開していたが、傷口も塞がらぬ内から虚ろな瞳で彼はフラフラ立ち上がる。マリスの、仕業だ。


「レー君っ! まだ安静にっ……」

「この子、手当てをしないと危ないよね? でも困ったなぁ、この子は今僕の操り人形だ」


 【影人形師】……この悪趣味なクソ野郎は、指揮するように指をクルクル動かして……出血したままのレインに優雅な踊りを仕込ませる。


「敵の連携を絶つ、いい手だった。だけど君たちだって同じ。そこの【黒の聖女】の優しさは、敵を助けて味方を呪う。あはは! 誰が騙し討ちだっけ? 二つ名通りの展開じゃないか! 」


 この男はレインを傷付けただけじゃない。その行動で、マリー自身の心を呪った。今のマリーは戦えるような精神状態にない。レインは傀儡。戦えるのは、実質私とコントの二人だけ。


(マリス……スパイト)


 やっぱりあんたも大嫌い。私がミザリーに言ったこと……マリーを捨てた選択が誤りだって伝えたこと。あいつは陰で聞いていたんだ。だからそれを嘲うよう、マリーの所為で最悪の状況を作り出させた。


「どうする? 続きやりたい? 」

(やれるわけ、ないじゃないこのクソ野郎! )


 にこやかに悪意を滲ませ、マリスが私に聞いてくる。やりたくない、そう告げたってこいつは大人しくは帰らない。帰らせるための土産を此方に求めるだろう。


「何が……目的なの、あんた」

「実は僕ら、春から五人パーティになろうと思ってるんだ。それで良い人材のスカウトをね」


 先を見据えた私の返答に、マリスは大変上機嫌。マリーをいたぶることも忘れない。


「誰を引き抜こうか、迷うなぁ! 君達って実は結構使えるよね。でもこんなに落ちぶれてるのは……ふふふ、一匹腐ったリンゴが居ると、困るよねぇ。他の美味しくて新鮮な果物まで全部腐っちゃう。ねぇ、マリーちゃん? そうだ! 君が選んでよ、マリーちゃん? 誰がここから消えれば良いのかを、さ? 」

「マリーを虐めんな変態! 」


 マリーの至近距離でにたにたと、嫌らしいことを言うマリス。私は杖を箒に変えて、逆さまのまま奴の顔へと向け追い払う。


「……リーダーの俺が、適任だろう」

「コント!? 」


 変身を解き、人の姿に戻ったコント。言っていることは格好いいが、さっさと服を着ろ。暇が無かったのは解るけど、私が買ってあげたマントを女巻きにして胸まで隠すな。見てるこっちが恥ずかしい。マリスもちょっと、今の格好のコントを見て……一瞬変な顔になっていた。定期的に変身後、こんな感じの奴と一緒のパーティを想像したのだろう。


「貴様が恨みがあるのは、俺だろ……マリス? 」

「……へぇ、思い出してくれた? 」

「そうとしか、思えない」


「封印ダンジョンが騒がしいとの連絡で来てみれば……お前達か」


 引き抜きたいと言いながら、これからまた一戦やり合いたい位の憎悪で睨み合う、コントとマリス。洞窟内に谺する低音の声の主は……威厳を纏い現れた。


「ロア……」


 『Twin Belote』のリーダー。マリスをも従わせる器のエルフ。彼は足早にマリスとミザリーへと向い、その頭に一発ずつ手加減無しの拳を打ち付けた。


「な、何しやがるんです拷問マニアの鬼畜サディストっ! ミザリーちゃんの可愛い髪に加齢臭ついたらどうしてくれるんですか腐れ変態クソエルフっ! 」

「痛いなぁ、何するんだよロアー」

「お前達も『Twin Belote』ならば、少しは品のある振る舞い、戦いをしろ」

「嫌だなぁ、相手の得意とするやり方で叩き潰すのが、一番相手にダメージ与えられるんじゃないか。戦闘の基本だよロア? 」


 マリスの嘲笑には眉を潜め、『Twin Belote』の要たる男は、私達に頭を下げる真似までしてみせた。


「仲間の非礼は詫びておく。お前達の特級ダンジョンでの戦い振り……ギルドへは私から伝えておこう。免許の件ならこれでどうにでもなろう」

「買収する気? 」

「そちらの子供の手当も、専門機関で診させよう。場所は隣町にある病院。面会時間と病室は、追って連絡する」

「待って! レー君は私がっ! 」

「ミザリーの召喚獣にやられたのだろう? しっかりと後遺症がないか確かめる必要がある」


 何かあった場合お前は責任が持てるのか? そんなロアの眼力と言葉の迫力に押され、自信喪失中のマリーはとうとう押し切られてしまう。


「信用できるの、あいつ? 」

「マリスなどに比べれば余程まともな人間だ。だが……以前ニムロッドが妙なことを。奴が来ると、聞こえなくなる……と」


 レインの特殊能力にして、弱点。人の感情を読み取る力。それが聞こえない相手……? 


「え、それって……」


 そんな奴に預けて大丈夫なの? 私がロアの方を見た時に……彼の姿は既になかった。


「移動魔法……同時に四人も!? 」


 ロア自身、レイン……他にマリスとミザリーの姿もない。私達三人だけが洞窟内に残されていた。


「あんたが言ってたむかつく奴っての、よく解ったわ」


 剣ではコントを軽く凌駕し、弓もやる。そして高等魔法も難なくこなす。完璧な……勇者。パーティ全員離脱は、私だって体調整えないときつい。やる前はマリーに全回復してもらわなきゃ……。今のロアはここに駆けつけた、多分魔法で。消耗後にこの離脱……魔法職でもない彼が。


(自分で回復したって? いいえ、それだって……MP消費はするわけだから、……元々の最大魔力が桁違いってこと!? )


 化け物かよと、私は思い身震いをする。あの男、たった一人で此方を全滅させることだって、その気になれば出来ていた。


「確か、あいつよね……? 『Twin Belote』に入る前、一人パーティで準二級ダンジョン(元 卒業資格)をクリアしたって化け物」

「ああ。マリスが『Twin Belote』の立役者だが、どうやってロアを籠絡したかは俺も解らん」

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