無口な彼と多感な私
彼は本が好きな人だった
休み時間になると持参した本を取り出し読み耽て、授業が終わるとすぐに家に帰ってしまう。部活に入っている様子もなく、友達がいるのかも疑問符がつくようなそんな人だ。
そんな彼に私は恋をした
自分でも彼の何に惹かれるのかも分からないが、気がつくと彼のことを考えるようになっていた。
新学期が始まった頃は彼の存在にすら目を向けていなかったように思える。そのくらい影の薄い自己の主張がないような人だった。
最初に彼に意識を向けたのは席替えをした日、左斜め前の席で本の虫になっている彼を見つけた時だ。
何の本を読んでいるのだろう?
こんな他愛もない疑問が発端となり 、彼に対する疑問は日に日によりプライベートなものになっていった。
友達はいるのか? 家では何をしているのか? やっぱり本を読んでいるのだろうか? 好きなものは何か?嫌いな人は誰か? 周りのことをどう思っているのか? 私のことを意識し考えたことはあるのか?等
私は彼に告白することにした
我ながら思い切りのいい決断だと思う。話したこともない相手に告白するとは、ましてその勇気が自分にあるとは思いもしなかった。今まで誰かに愛を告白した経験なんて一度もないし、自分が誰かに恋することなんてないのではないかとさえ思っていたほどだ。それが、話したこともない相手を好きになり、その相手に思いの丈を伝えようというのだから自分の心は自分にすら分からないとそんなことを思った。
告白は本人に直接伝えることにした
当然といえば当然な話だ。一度も話したことのない相手に電話や手紙ではイタズラか何かと勘違いされかねない。だが、そう自分に言い聞かせてこの決断させるのにかなりの勇気が必要だったのも仕方のないことだったと思う。会話したことがないのだから
放課後の教室で告白しようと決めた
こういうことは場所と時間がかなり大事だと思う。放課後なら人が少なく二人きりになれるチャンスはあると思うし、夕方の日の暮れていく時間というのも哀愁漂ういい雰囲気を醸し出してくれるのではないかという期待があった。
その日最後の授業の終わりを告げるチャイムがなる
いよいよだ。と、彼を見る。 相変わらず本にのみ視線を向ける彼の姿が瞳に映る。こちらの心中の思惑には全く気がついていない様子で、そのいつもと変わらない姿勢に多少の苛立ちすら覚える 人の気も知らないで と
そんな自分勝手な感傷を受けている間に担任の教師が教室に入ってくる。短いホームルームが始まる。配布物のプリントを後ろの席の子に回したり、先生によるどうでもいい類の簡単な話を聞き流しながらも刻一刻とその時を待つ。
ーーーーそして
先生が終わりの挨拶を告げ放課後になった。
そう、 もちろん彼はすぐに帰った