表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
課題小説  作者: 桜椛
1/4

3月 「人外」

 その昔、鬼と呼ばれる存在がおりました。

 

 鬼はその存在自体が害悪と、人間共から迫害を受けました。

 しかし、鬼には人間が危惧するほどの危険性は持っていなかったです。

 酷く臆病で恐がりな存在。逆に人間が怖いと思うほどでした。

 なのにそのような扱いを受けたことにより、鬼はその居場所を失い山へと追いやられたのでした。

 悲しみに暮れた鬼たちでしたが、やがてそれは日常へと変わり、山での生活を受け入れるようになりました。

 

 暫く月日が流れると、鬼の存在も忘れ去られてしまいました。

 しかし、ある日山へ迷い込んだ人間の男の子が、その山で暮らす鬼たちの姿を見てしまったのです。

 鬼も人間も、互いの存在を認知して、叫びを上げる。

 だがどうでしょう、鬼が人間を見て悲鳴を上げるのと、人間が鬼を見て悲鳴を上げるのでは、後者の方が残虐性というものをその先に見えます。

 だからでしょうか、その噂はすぐ様村全土に知れ渡り、人間たちは鬼の恐ろしさを思い出しました。


 そしてついに、人間たちは鬼の住処である山を、燃やしたのです。



 鬼は悲しみを通り越して、怒りに満ち溢れました。

 自分たちは無害なのに、何故こんな仕打ちを受けなければいけないのか。

 自分たちはやっと生活できる環境を手に入れたのに、何故それすらも破壊されなければいけないのか。

 鬼は吼えた。この悲しみと怒りをぶつけるように。

 次は自分たちの番だ。人間たちの好きにさせるな。

 鬼は決起し村に降りる。

 迫害を受けた鬼たちのために。

 燃やされた家と家族のために。

 全ての人間を狩り殺すために。

 

 臆病だった鬼はその残虐性を目覚めさせ、人間たちを蹂躙する。

 しかし人間もその危険性を知っていたからこそ、対峙するだけの用意ができていたのです。

 武器を手に取り、鬼を殺していく。

 鬼もその爪で以て、人間を殺していく。

 血と肉が飛び交う光景。

 まさに地獄絵図。

 


 このままどちらかが滅びるまで戦いは続く。

 その状況を良くないと思った2つの種族の長たちは、場を収めるために一つの提案をしました。



 『私の命を差し出そう、それでこの場は引いてくれ』



 互いに意見の合わなかった種族たちが、この時だけはその意見を合致させる。

 戦いを続けていた種族たちはそんなことを受け入れるわけにはいかない。だけど、このままでは仲間が皆死んでしまう。

 そう思っていたところ、鬼の長が自身の腕を切り落としたのです。

 

 私にはその覚悟がある。それでもお前らは引かないというのか。


 この言葉と態度に、人間側の長も刀を取り自身の腕を切り落としました。

 それぞれの長たちの行動に、お互い黙る他ありませんでした。

 

 長たちの行動により、2つの種族の戦いは治まりを見せました。

 だが、一度言い出したことをやめてはまた争いが起きてしまいます。それを見越して、鬼の長は自身の両足を切断しました。

 やがて残った首と胴体を切断し、鬼の長は絶命しました。

 その姿を見た人間の長は、地に跪くと腹へと刀を宛がいます。

 そうして深く突き刺し、横に一直線に引きました。

 血と共に命を流した長は、頭から地へ倒れ息絶えました。



 2つの種族の長が死んだ。このことはすぐに、他の地域の種族たちにまで知れ渡りました。


 その証拠と、二度とこの種族たちが争わないためにも、切り落とされた鬼のそれぞれの部位を、それぞれの地域へと持って行ったのです。

 

 国の南方には両脚を、西方には胴体を、東方には両腕を、そして北方には頭を。

 

 それらはそれぞれの鬼たちの集落へと大切に祀られました。

 

 人間の長は、その場で火葬され、天へと昇り一つの神として崇められたのです。

 

 鬼は国の地、人は国の天から、種族間による争いを起こさないように見守っているのです。


 

 それからはそれぞれの地で、祀られた日を讃え祭りを催しました。

 それは人と鬼とが共存し、血塗られた過去を禊落とすためのもの。

 

 不思議なことに、その祭事が行われる日は、その地の特殊な気候がより激しさを増すとのこと。

 南方はカンカン照りの猛暑、西方は桜咲き乱れる陽気、東方は天高い澄んだ空気、北方は雪吹き荒ぶ銀世界。

 

 後にこれが、この国における『四季』と呼ばれるものの由来となるのでした。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ