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Son of God  作者: すがさん
1/1

始まり

これは約四千万年前のお話


世界には3人の神様がいた

1人は「正の神」。人々に優しさ、喜び等の感情を与えた

もう1人は「悪の神」。人々に悲しみ、怒り等の感情を与えた

そしてもう1人は「女神・ノルン」。世界に生命を創りだした

女神は全ての生命にこう言った

『すべての生命には「愛」がある。優しさ、喜び、悲しみに怒り、様々な感情を持つから愛がある。どんなに強いものでも1人では生きていけない。だから生命は愛を持ち、助け合っているのです。』

正の神、悪の神、そして女神により人々は「愛」を持ち、世界は暖かく平和な時間が続いた


ところがある日、

悪の神の力が急激に強まった

悪の神が暴走し、人々は感情を保てなくなってしまった

世界は崩壊し、女神は呪われてしまった

世界に残ったのは「怒り」「悲しみ」、そして「憎しみ」だけが残った


1人になってしまった正の神の前に少年が現れた

少年は白く透き通るような純白の髪に、吸い込まれそうな美しい青い瞳をしていた

あまりの美しさに人々は息を呑んだ

少年は悪の神を止めると正の神に告げた

1人の男が少年に問いかけた


『お前は誰だ』


少年は男にこう言った


『━━神の子。』


神の子は悪の神の元へ向かった

そして世界を巻き込む程の大きな戦いが始まった

その戦いは残酷且つ美しく人々は唯々観ていることしか出来なかった


神の子は見事、悪の神に勝利した

悪の神を正の神が封印し、世界には再び平和が訪れた

正の神は言った

『この封印もいずれは解かれるであろう。その時はまた、この悲しき戦いをしなければならない』

それを聞いた神の子は、正の神に告げた

『その時は私が再び、彼を止めます。』

正の神はしばらく黙り込み、言葉を発する

『お前は優しい心を持っている。だが、まだ足りない物がある。それを見つけるためには時間と人間との交流が必要だ。ゆっくりでいい、しっかり「それ」を学んできなさい』

そう言い、神の子を人間の住む地上界へ送った




『よぉ、久しぶりだな』

『……誰?』

『ははっ、酷ぇな。忘れちまったのか?』

『……思い出せない』

『…まぁ、しょうがねぇか。もうあれか、四千万年も前だもんな』

『………?』

『なぁ…、お前あの時、……助けてくれるって…言ったよな?』

『……なんの、こと…?』

『それも忘れちまったのかよ、…じゃあ俺は四千万年もの間、何の為にこんなところにいたんだよ…!』

『……っ? ねぇ…待ってっ』

『このクソ狭い檻の中で何千万年も…!! 独りで…っ、…期待した俺が馬鹿みてぇじゃねぇか━っ!!」

「君は━…っ!?」

『なんで…、助けてくれなかったんだよ…っ! シオン…っ!!』





「君は…、誰なんだ…。」

静かな森の中、また不思議な幻聴が聞こえた

脳の奥がズキズキと痛む

頭痛が治まるのをしばらくジッと待つ

と同時に、先程の会話を思い出す

ここのところ、よく彼の声を聞く

言うことは毎回同じで、僕自身も聞くことは何故か同じ。

名前も知らない、見たことも会ったこともない。でもどこか懐かしく、聞き覚えのある声

謎に包まれた幻聴のてかがりとなるキーワードは「四千万年前」、「シオン」の2つ

四千万年前とは、神話に書かれている数字だ

そして、シオンという人物。聞き覚えのある声は自分をシオンと勘違いしているのだろうか

(…こんなこと、分かるわけない)

考えても仕方がないと、帰ろうとしたその時、再び頭痛が襲う

「…━っうぅ」

普段の頭痛とは比べ物にならないほどの痛み

頭痛は更に強まり、地面にしゃがみこむ

しばらく動かずにいると、突然誰かが森の中から飛び出してくる

慌てている様子だったが、こちらに気付き近づいてくる

「君っ! 大丈夫!?」

半分息を切らしながら、声をかけてくれる

頭痛に返事は出来ず、呻き声をあげることしか出来なかった

「……ちょっと待っててね」

優しく落ち着いた女の子の声

彼女は自分の頭に手を添える。 すると掌から優しい光が現れ、痛みは徐々に和らいでいった

上体を起こし、お礼を言う

「……ありがとう」

「いいよいいよ! とにかく、ここは危険だから安全な所へ行かないと!」

腕をグイグイと引っ張られる

ここは危険と言ったが、この森は人間を襲わない小さな魔物ばかりだ。何故避難するのか分からなかった

「急いで! 早くしないと"あいつ"が来ちゃう!!」

「あいつ…?」

あいつとは何のことだろうか? 彼女に聞こうとした瞬間、森の奥から大きな足音が凄い速さで近付いてくる

「…━っ何の音?」

「………━まっずい。」

徐々に森の木々が揺れ始め、足音がすぐそこまで来ている

再び彼女が凄い力で腕を引っ張る

「とにかく! 早く逃げっ━…!」

「ヴォオオオオォォォォォォォーッッ!!!」

森の中から大きな猪が雄叫びとともに顔を出す

今まで見たことのない大きさに、圧倒されてしまう

「…━っ!? なに…これっ━…!?」

「…~~っ!! やるしかないかな…っ、」

彼女は逃げるのを諦め、僕の腕を離すと、ゆっくりと前に出てこちらに顔を向ける

「ごめん、ちょっと下がってて?」

「…━っ、うん」

不意に笑顔を向けられ、少し胸が高鳴ってしまう。

猪が鋭い牙で彼女を貫こうとするが、彼女は体で受け止める。そのまま猪の体を持ち上げ、地面に叩きつける

「……━っ、!?」

同時にあたりには、地面に叩きつけられて出来た煙が立ち込める

しばらくすると煙は薄くなり、視界が良くなる

彼女の安全を確認しに行くと、彼女は無傷で横たわった猪の上に立っていた

木より大きな魔物を、この女の子が一人で倒してしまったらしい

驚きのあまり腰を抜かしてしまう

「……━っ君は、一体…?」

「あたし? あたしは藍よ。 それより思ったんだけど、君…」

藍と言う女の子は、猪から降りてくると、じっくりと僕の顔を見てくる

顔に何かついてるのかと思い、手を顔に近付けると手を止められてしまう

どうやら、顔に何かついているわけではないらしい

では、何故こんなにもジロジロ見てくるのか

「……な、何かな…?」

僕の質問に答えないまま、彼女は顎に手を置きながらジッと見つめる

そして、うんと大きく頷く


「君、"神の子"でしょ。」

「…………は?」


何を言い出すかと思えば、何を言い出すんだこの子は。

予想だにしない言葉に頭がついていかない

彼女はうんうんと頷き、ニッコリと笑う

「間違いないわ! 絶対神の子だわ!」

「………へ…っ?」

「間違いないわ!!」と、ガッチリと僕の腕を掴み、目をキラキラと輝かせる

「君! 名前は何て言うの?」

「……翔」

「そっか、翔っていうのね! 翔、私はあなたの事をずっと探してたの!! これはきっと運命か何かだわ!!」

ぎゅうっと抱きつかれ、更に状況が分からなくなる

彼女は何を言っているのか、何故抱きつかれているのか、誰か一から説明してほしい

とりあえず状況を整理するため、彼女の体を引き離す

「ちょ…、ちょっと…、君の言ってる事が全然分からないんだけど…っ?」

彼女はきょとんとした表情から、一瞬にして顔を真っ赤にする

「ご…、ごめんなさい! あたしったら何も説明なしに…っ! それにだっ、抱きついたり…! 本当にごめんなさいっ!!」

深々と頭を下げ、瞳をうるうるとさせこちらを見てくる

どうやらかなり反省しているらしい。なんだか申し訳ない気持ちになる

「な、なんか事情でもあると思うし、良かったら家でゆっくり話さない? ここから近いし」

それを聞いた瞬間、彼女の顔はパァっと明るくなり、満面の笑みでコクコクと頷く

謎の少女、藍を連れ1度家に戻ることにした


「翔兄!! また一人で勝手に出かけちゃうんだから!! それに、許可なしに家を出た場合は1時間以内にお家に戻ってくる約束でしょ!?」

家に入った途端、妹のシオリに説教される

心配性の兄と妹は、僕が無断で家を出ると必ず怒る

ありがたい事だが、流石に毎度怒られるのは正直つらい

説教をしていたシオリが後ろにいた藍に気付く。すると、顔を真っ赤にして部屋へと走っていってしまった

「お兄ちゃん!! 翔兄が女の子連れてきたぁー!!」

「はあぁ!?」

部屋の奥で兄の驚く声が聞こえる

再び妹は玄関に戻り、藍の腕を引っ張り招き入れる

絶対に誤解してる。

(……まぁ後で話せばいいか)

一つ溜息をつき、家へとあがると、今度は兄から説教をくらう

「こらっ、翔!! お前どこほっつき歩いてりゃこんな時間になるんだよっ!!」

腰にはエプロンがまかれ、片手にはおたまが持たれていた

両親がいない僕らのために、兄は昼食を作ってくれていたらしい

そのおたまで、おでこを軽く叩かれる

「今回はちゃんと事情があったんだよ…」

反省しながら事情を説明しようとすると、普段は聞いてくれない兄も、藍を見ると今回は事情があると察してくれた

兄が藍へ声をかける

「とりあえず、あんたは何しに来たの?」

「あ、えっと実はですね。彼、翔は神の子なんですよ!」

「………………。」

部屋に沈黙が流れる

兄は真顔のまま藍を見つめる。シオリは口を開けたまま微動打にしない

藍は彼等の反応に首を傾げる

このままでは話が進まないと思い、口を開く

「えっとー…、とりあえず、 座ろっか。」

皆を椅子に座らせ、話をすすめる

兄は作っていたポトフを机に並べ、藍に問いかける

「どちら様ですか。」

「あたしは藍よっ、こっちは翔」

兄妹に何故か僕を紹介する藍。兄は眉間にしわを寄せている。彼女のペースについていけないらしい

「…俺はシュウ、そっちはシオリ。翔の兄貴と妹だ」

「おぉーっ、そうだったんだぁ! よろしくよろしく~!」

シュウとシオリの腕をがっちり掴み、腕をぶんぶんと振る。兄の顔が若干引き攣っているような気がした

「…っとりあえず、さっき翔のこと神の子とか言ってたけどどういう事だ?」

「ああ! なんかさ、翔って神の子と似てない?」

呆れた返事に兄はがっくりと顔を落とす

確かに、僕と神の子は共通点がある

偶然だと思うが、僕は白い髪に青い瞳をしている。

だが、たまたま似ていただけで、神の子が現実にいる訳が無い

シュウも同じ事を考えていたらしく、溜息をつき口を開く

「だいたい、神の子なんているわけ無いだろ? あれは神話なんだから…、」

「あれは実話よ━…っ! …って友達が言ってたんだけど、あんまりよく分からなくて…」

顔を俯かせ、肩を下ろしてしまう藍

再び肩を上げて、急に立ち上がり机に大きな音をたてて手をつく

「でもっ! あたし翔のこと知ってる気がするんですっ!!」

鼻から勢いよく息をだし、シュウに目で訴えている

彼女の言葉に疑問が浮かぶ

「僕のことを知ってるってどういう事…?」

藍はゆっくりと椅子に腰掛け、落ち着いた口調で話始める

「信じてもらえるか分からないけど…、あたしは5歳までの記憶がないの。それで翔を見た瞬間凄く懐かしい気がした…、でもお互いの事を知らなかった。じゃあもしかしたら、記憶が無くなる前に会ったことがあるんじゃないかなって、確信じゃないんだけどね…。」

「5歳までの記憶って…」

シオリとシュウが驚いた様にこちらを見つめる。僕も、彼女の言葉には驚いた

「こいつも5歳までの記憶がないんだよ」

「え…っ?」

シュウの言葉に彼女は目を丸くする

そして、今度はこちらに目をやり一気に顔が明るくなる

「…~~っ!! ってことは昔会ってた可能性はあるってことよねっ!?」

「……確かに、可能性はあるかもな。でも、両方記憶が無いんじゃ確信とまではいかねぇな…」

それを聞いた藍は、ポンッと手をうち提案を出す

「あたしの友達にこのことについて調べてる子がいるの! その子に聞けば何か分かるかも! ここから南に進んだ村を越すとその友達の家があるんだけど、良かったら来てくれない?」

それを聞いたシオリがうんと頷き、藍の提案にのる

「その人に聞けば何か分かるかもしれないよ! 行ってみようよ!」

目をキラキラと輝かせる妹に戸惑う兄

シュウはしばらく考え込むが、諦めたように承諾する

すると、二階へと続く階段から足音が聞こえる

「お、起きたか」

「わふっ」

降りてきたのは、この家で飼っているペットの元だ。

元は藍の足元へ行き、匂いを嗅ぎ始める

その元を藍がしゃがみこみ、頭を撫でる

「凄いもっふもふ~、この子ってホワイトウルフだよね? 珍しい~」

元は寒いところで生息するホワイトウルフだ。 今は絶滅が心配され、かなり希少な魔物とされている

ホワイトウルフが何故この家にいるのかは不明だ

シュウはゆっくりと椅子から立ち上がり、玄関へと向かう

「よし、元も起きたことだし、行ってみるか。」

全員揃ったところで、僕らは藍の言う友達に会いに行く事にした



静かな森を歩き進むこと、約1時間。

「なぁ思ったんだけど、あんたが言ってる友達ってどんな人なの?」

道中、シュウが藍に問いかける

彼女は顎に手を添え、しばらく考え込む

「なんていうのかなぁ~…、物知り…? いや、魔法使い……?」

ぶつぶつと呟き、突然「あっ」と声を上げる

「小さな天才魔道士って言えば分かるかな?」

予想外の答えに皆が目を丸くする

「もしかして…、シャロンのこと…?」

「そうそう! その子その子!」

史織の言った「シャロン」という名に大きく頷く藍

彼女の言う人物は誰もが知っている、偉人とまで呼ばれた少女のことだった

幼い歳にして、彼女の生み出す様々な魔法術は数々の魔導師を驚かせた

シュウが藍に問いかける

「でも、そいつは行方不明なんじゃねぇのか?」

そう。シュウの言う通り、彼女は忽然と姿を消した

そして、その存在は世界の記憶から薄れていった

シュウの言葉を聞いた藍が口を開く

「シャロンはちょっといろいろあって、今はある人と静かに暮らしてるの」

「ある人…?」

藍に問いかけるが、彼女は「後で会えるから、先行こ?」と言い、駆け足で走ってしまう

僕らはよく分からないまま、藍の後を追いかけ静かな森の出口を目指した


「わぁ…っ! あたし初めて森から出たよ…っ!」

広がる大草原に降り注ぐ暖かな太陽の光に、史織は目を輝かせていた。それは僕も同じで、初めて見る大きな太陽の光に目を輝かせた

僕と史織は10年以上、この森から出たことがない

買い出しなどに行くのはシュウと元のみ。僕らが森から出る意味など無かった

小さい頃、こっそり史織と2人で森を抜け出そうとした時は、兄にこっぴどく怒られた

森から出させてくれない理由は、ただ危ないからという理由らしい

「へぇー? じゃあずっと森の中で暮らしてたの?」

「うんっ! シュウ兄が森から出ちゃダメだ!って言って出させてくれなかったのっ!」

頬をぷっくりと膨らませる史織

それを聞いたシュウが呆れてため息をつく

「これは父さんと母さんとの約束だ。父さんと母さんとの約束は守るって言ったろ」

「……そうだけど。」

肩を落とし、顔を俯かせる史織

会ったことのない、顔も知らない両親の姿がぼんやりと頭に浮かぶ

両親は史織が産まれてすぐに居なくなってしまった

父は事故、母は不治の病により、この世から姿を消した

史織はまだ幼く、両親の顔を覚えていない。僕も記憶が無くなり、両親の顔を忘れてしまっている。唯一知っているのは兄のシュウだけだった

「とにかく、俺との約束は父さんと母さんの約束だからなっ!」

「シュウ兄はシュウ兄! お父さんとお母さんはお父さんとお母さんだもん!」

「あのなぁー…っ!」

シュウと史織が喧嘩を始めてしまう。それを見ていた藍が隣で小さく笑う

「なんかいいね、家族って」

今の会話は当然全部聞かれてたらしく、それを知ったシュウが顔を赤くする

「…~っはぁ、悪いな。 恥ずかしいところ見せちまったな」

「ううん、全然恥ずかしいことじゃないよ!」

笑顔で答える藍の近くでは、元が草原の遠くを見つめ、唸り声をあげていた

元の向く遠くの方から、小さく足音が聞こえる

「何か来る…っ」

足音は次第に大きくなり、もの凄い勢いで巨体が突っ込んでくる

「もしかして、あれは━…っ!」

「……━っ草原の主!?」

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