エルフの過去
全体的に小さなところだと思っていたが、長の家だというところは人間でも余裕のある作りとなっていた。これでも、妖精にとっては俺たちにとっての城みたいなものなのだろう。案内してくれた妖精は少し神妙な面持ちとなっていて緊張しているのが見て取れる。
「ここです。くれぐれも無礼がないようにお願いします。怒られるの私なんですから」
それが本音か。
「失礼しまーす!」
ロロちゃんは遠慮なく入っていった。こういう時に一番ためらいがないのがロロちゃんである。普通もっと他の人に譲るようなことしませんかね?まあ、おかげで俺たちは入りやすくなったけど。
ロロちゃんの場合、知ってる人の方が割と遠慮する。知らない人だと、逆に横暴。確か出会った頃は俺に対してかなりツンケンしてたからな。懐かしい。あれはあれで可愛かった。
「何を懐かしんでるの」
「ロロちゃんと会ってから意外に経ってんだなって思ってさ」
「もう半年過ぎたね」
「あの子は成長したのか?」
「別に私たちが決めることではない。そうでしょ?」
「……そうだな」
ウィナの言うとおりだ。誰がどう成長したのかなんて、俺たちが決めることじゃない。もっとも、自分でわかりにくい分、客観的な評価は必要になってくるかもしれないが。
でも、見てる分には成長してると思う。
「用があるなら早くして。こんなところで時間を食ってるわけにはいかないんだけど」
若干方向性間違ってるような気がしないでもない。俺たちの教育がどこかで間違えたのだろうか。もしくは誰かの悪い影響でも受けてるの?
「フォッフォッ。あの娘が随分成長したもんだ。そういきり立つのではない。そもそも、そなたもワシのことなんか覚えてないであろう」
「まるっと、スッキリ。貴方の頭ように」
なんてことを言うんだ。
「フォッフォッ。面白いことを言うのう。母親に似たかのう」
「ママの事知ってるの⁉︎」
「そりゃ知ってるも何も、彼女はここで生まれ、ここで命を落とした。最後は凄惨なものだった。お主はそれを目の前で見てしまい、ここで暮らしていたことを私たちの手で忘れさせたのだ。それが交換条件だったからな」
「なに……交換条件って……」
「ちょっとストップ。長だか長老だかなんだか知らんが。会って早々、景気のいい話じゃねえな。まず、それを話すなら、承認を得るべきなんじゃねえのか?」
「お主は?」
「ボケてんじゃねえぜじいさん。俺は勇者であるソード・ブレイバー。で、現この子の保護者」
「誰が保護者だ!」
「え?じゃあ誰なんだよ」
「ウィナ」
ですよね。他にいねえよ。
なら、俺はなんなんですかね?
「そのうち決めるから。……それにママがもう死んでることは知ってる。でも、どうして死んだのか、私には空白の時間がある。それが埋められるなら、どんな事実も受け止める」
「ロロちゃんが言うなら構わねえよ。続けてくれ」
「ふむ。なら、この子の母親の話をする前に少し話は遡る。あれは、魔王襲来の時のことだ」
ご老人いや、ご老妖精?言いにくいことこの上ないが、特有の長い話が始まりそうだ。
でも、ロロちゃんのことを知るためには聞いておかなくちゃいけないだろう。
「魔王襲来……今の魔王が確か20年ぐらい前だったか?3,40年前のことだと聞いてる」
「そう。その魔王が魔界から精鋭を連れてきて、本格的にこの世界を侵略をし始めた。その前から、少数ではあったがモンスターはいたのだな。だが、その頃は特に人を襲わない害の無いものとされた。だが、その前魔王が何をしたか分からないが、各地にいるモンスターが人間を襲うように仕向けたのだ。そこから10年ぐらい続いたよ。モンスターと仲良くしていた人間もおった。だが、10年もそれを続けていれば、愛情なんぞ無くなってしまった。そしてその頃に同時に見つかったエルフが殺されてしまった。さらに何かしら恩恵を受けたのだろう。エルフの場所を見つけ出した人間はエルフ狩りを始めた。こうして、エルフと人間は確執していったのだ」
「どうして、それでロロちゃんの……」
「そう焦るでない。順を追わねば分からなくなるだろう。前魔王はある一人の勇者の手によって、消滅した。お主も勇者ならば先代のことぐらい知っておろう」
「……知ってるも何も俺の親父だ」
「そうか。そして、消滅したことを受け、さらに数年後新しい魔王がこの世界に降り立った。まだモンスターは残存していたからの。新しい指導者でも来たと人間たちは思ったのだろう。そして、今現在もその存在に恐怖しているものもいる 」
「……そうだな」
「また新しく勇者を見繕って魔王の元へ送り出した。だが、魔王の圧倒的力の前に、撤退するだけだった。そして、つい最近、勇者の血を受け継ぐ子が旅へと出た。それがお主だ」
どうにも繋がりが見えないが、どうやってロロちゃんの母親の話を出してくるのだろうか。
「まあ、お主の前の勇者の話だ。人間たちは数を合わせて、魔王のところへと攻め込んだ。だが、それでも歯が立たない。その時だろう、たまたまその子が戦いの場に居合わせてしまい、手にかけられそうになった。結果論としては、魔王は攻め込んできた人間たちを一蹴して終わったわけじゃが……」
まあ、そうでもしなければ今の魔王が今日まで生き残ってることはないだろう。そう考えれば、俺たちが挑んだ時も相当力を消費していたのだろうか。
「大襲撃を受け、魔王はその子を外へ出した。向こうにとっては幸いだったのか、この子の姿を覚えているものは生き残ってなかったみたいでな」
「なんでそこまで知ってるんだ」
「この子の母親がここへ連れてきたからだ」
「そもそも、なんで魔王とエルフが子供を作ったんだって話なんだが」
「魔王も来たばかりはさすがに散策をしていたそうだ。ある程度どんな世界かは見定める必要があったのだろうな。その時に人間に襲われているエルフを助け出した。その時に魔王の存在がバレたのだろう。近く、そのエルフと魔王は結婚した。が、当然のごとく、エルフたちからは非難轟々じゃった。自分たちを辺境の地へと追いやった張本人となんて、とな。まあ、もちろんそれは前魔王であって、今の魔王とは別物だ。じゃが、それを聞き入れるはずもない。結局、そのエルフはここから追い出される形で魔王のところへ嫁いだ。そうして生まれたのがロロ・アークハルト。君だ」
「…………。どうして、ママは殺されたの?」
「妖精である私たちは匿ったのだよ。悪いのは前魔王であって今の魔王ではない。この子たちに罪はないとな。エルフ側がそれを許さなかった。そもそも、何年も隠し通せるものではなかった。お主を連れて、戻ってきたあの子をエルフたちは見つけて、言ったのだ。『そいつが魔王の子供ならまた、何をしでかすか分からない。殺して処分しろ』と。ワシたちは横暴だと突っぱね、この子たちに罪はないだろうと言ったのだ。『なら、こいつを殺すか。お前が死ぬか選べ。そして、そいつの記憶を消して外へ放り出せ』とな。そして、この子の母親は自分を生贄にすることを選んだ。この子の目の前で、自分が死ぬ様を見せてしまった。まだこの子がこの世界で10にならない年だ。そんな事実を受け入れられるはずがなかった。混乱して取り乱し、エルフたちを攻撃し始めた。幸い力が弱かったため、私たちで押さえつけ、なんとか一人でも暮らせるところへと送り出した。そこから後は、きっと自分自身が知っていることだろう」
沈黙が流れる。
結局、悪かったのは魔王なのか、人間なのか。
きっと、エルフ自体に罪はないだろう。迫害され、追いやられた側なのだから。
妖精さんは言ってたな。
『知能を持ったばかりに同族殺しを起こす』
知能を持ったものの末路なのだろうか。自害だったようなので、同族殺しとはまた違うのかもしれないが、そんな光景を小さな子供に見せるものではない。何を考えていたのだろうか、エルフたちは。
自分たちに火の粉がかからなければよかったのか?危険因子を排除できればよかったのか?
ロロちゃんは、その場で崩れ落ちていた。その傍には俺以外のみんなが集まっている。日が経っているとはいえ、聞かせるような話ではなかっただろう。例え、本人が選択したものだとしても。
「ねえ、ママが悪かったの?私がいなければ、ママも死ななくて済んだんじゃないの?なんで、ママは私を生かしたの?ねえ?なんで⁉︎」
訴える声は悲痛だ。
親にもなったことがない俺たちにその答えは出せない。
誰もが目を伏せて、ロロちゃんと視線を合わそうとしない。できないのだ。
答えられない俺たちに代わって長老が口を開いた。
「自分の子供が可愛くない親なんていないだろう。ましてや、自分の目の前でその命を散らしてほしくなどなかった。そうまでして、お主に生きて欲しかったのだろう。その目で、その足で、たくさんの世界を見て欲しかったのだろう」
「ねえ。なんで今更、私をここに連れてきたの?」
「確執を終わらせるためだ」
「私が?無理だよ、そんなの……。話す以前の問題だし。私のことが分かる人なら、すぐに攻撃してくるでしょ。それ以前に向こうが話し合いなんて望んじゃいないだろうし」
「ワシたちも後悔しているのだ。母親の生まれ故郷でもあるここを何も知らないままで生きていくのは。こんな話を聞いて、良い印象を持つことなど無理なことは承知だが……。それに、今のお主は一人ではないだろう?」
ロロちゃんは振り返る。
「ウィナ、アリス、スター……ソード。私と一緒に来てくれる?」
「もちろん」
「ロロちゃんのためだもん」
「任せてください」
「…………」
「ソード?」
「ロロちゃん。少し待ってくれ。長老聞きたいことがある」
「なんじゃ?」
「何が起きている?」
「鋭いのう。黙ってホイホイ行ってくれるわけにも行かんか。実はこの里で、不穏な空気が流れている。お主達もこの辺りに来たのなら、悪魔を追ってきたのだろう」
「知ってるのか⁉︎」
「もっとも、悪魔自体が、エルフの亜種みたいなものだ。ある意味上位種と言っても過言ではない。だが、力を持ったものの末路か魔王の手駒となったのじゃからな。そのうちの一人が今、この妖精の里に戻ってきておる。何が目的かは知らないがな。そいつを追ってきてるのなら、今一つ頼まれてくれ。先にどわ……エルフたちに話をしてからな」
てか、もうドワーフでいいんじゃね?それ以前にこいつらが別々に暮らしている一端が、妖精たちが見下してるようにしか感じ得ないんだけど。
「なら、せめてエルフの中でも話せるやつにしてくれよ。どいつもこいつもギスギスしてるわけじゃあるまいし」
「その辺りは連絡を取っておこう。フィア頼んだぞ」
「また使いっ走りにして〜」
こちらの方を伺うように扉から顔を出していた妖精さんがいた。
あの妖精、フィアっていうのか。てか、結局ここまで自己紹介してこなかったな。いいんだけども。
「えっと……娘か孫か?」
「孫じゃな。じゃなかったら、使わんわい」
「とりあえず、お孫さんが案内してくれるってことだな?」
「フィア。よく遊んでる子がいるじゃろ。その子に頼んでくれ。では、後は頼んだぞ。長話をして疲れたわい」
「いい加減な爺さんだな」
「ジジイじゃからな。少しぐらいいい加減でないとやってけん。お主もそうなれば分かるだろう」
妖精の爺さんは、俺たちをそう言って見送った。
ロロちゃんの母親がどんな思いで、その命を絶ったかは計り知れない。
きっと、ロロちゃんはそれを許すことはできないかもしれない。
ただ、長老の言った確執はいったい誰と誰のことだろうか。
妖精とエルフ?エルフとロロちゃんか?
今回の中心であるロロちゃんが心配になったが、ロロちゃんの顔はしっかりと前を向き、やるべきことを見据えていた。
心配し過ぎなのかもな。
俺は、後ろを歩きながら、次に会うエルフのことを考えていた。




