その背に背負うもの
「うっし、行くか」
「レッツゴー!」
「にしても、元気だなウィナ」
「なんかスッキリ」
「ソ、ソード君いったいウィナちゃんに何を……」
「何もしてねーよ!」
「たぶん、エドさんが淹れたコーヒー牛乳のせいかもね」
睡眠薬を入れたのかと思ったけど、寝てたのはただ単に疲労の分だったらしく、入れたのは疲労回復薬らしい。お前はいつも疲れてんのかと聞きたいところだが、深くは追求しないことにする。
「次はどこだったっけ?」
「最北端の国だ。寒くなるらしいからな。そこに近いところでまた何か買ったほうがいいかもな」
「安くて温まるものがあればいいんだけどね」
「ちなみに北だから寒いというわけではなく、赤道から離れてるから寒いんですよ」
「太陽から離れてるってことだよね。赤道に近いところほど、太陽に近いってことだよ」
「俺を見て説明しないでください」
知らなかったけど。
ロロちゃんもへぇ~といった顔で聴いてる。きっと数分後には忘れているだろう。ソースは俺。ちなみにここにおけるソースは調味料ではなく、情報源のことだ。
「とりあえずはエドさんのところでしょうか?」
「正直いきたくねえな……」
「昨日使わせてもらっておいてそういうわけにもいかないでしょ……」
「なんで二人ともそんなにげっそりしてるの?」
「いや……」
「何も……」
よく考えたら、今になって少し恥ずかしくなってきた。思ったけど、あのままウィナの汗を拭いたタオルを放置してきてよかったのだろうか。あいつのことだからよからぬことに悪用しかねない。主に私用で。
「あ、昨日力の欠片戻したんだよね?ウィナちゃんの介抱どうしたの?」
「あ、ああ。エドにやってもらったよ。俺がやるわけにはいかないしな」
「え?」
「いいから口裏合わせろ」
「う、うん」
「じー」
「とにかく。エドにやってもらって、俺は宿に運んだだけだ」
「……ならいいけど……」
腑に落ちない様子。まあ、疑いたくなるのも分かる。そういや、ウィナと一緒にいて、対面した時にどういう反応だったっけ?まあ、いいや。
とりあえず、あった事実は隠し通そう。ウィナには嘘はつかないと言ったけど、ウィナに対してである。言葉の綾というやつだ。誰に対してもとは言ってません。
「アリス。ウィナだって、恥ずかしいとは思うけど、ソードにやってもらうのも満更じゃないと思うよ」
「やっぱり……」
「余計なことを言うんじゃない!」
「儀式の後は弱ってるから、それをいいことにあんなことやこんなことを……」
「「してないから」」
「2人の詮索はよそう、アリス。詮索したところで誤魔化されるだけだよ」
「むー」
お年頃なのでそういうのが気になるんだろう。女の子ってゴシップネタが好きだよな。自分に一銭の得にもならないのに。
話のネタになるからいいのか。
「じゃあ、適当に言いふらそうっと」
「なんて?」
「『激写!勇者と魔法使いの爛れた関係⁈』みたいな見出しで」
「本当にゴシップネタだな。本人の前で言う話じゃない」
「しかも激写してないし」
「その辺は捏造すればいいよ」
捏造って言ったぞ。本人の目の前で。
しかもそんな事実は一切ないし、もし仮にそうだとしても、俺たちの関係者なんて幅がかなり狭いんだから大したネタにもならないだろう。知ってる人から見ても『ああ……なるようになったか』ぐらいの感じで。
「このネタは使えないですね」
「アリス。若干腹黒くなってないか?」
「白いですよ?」
「肌の色の話じゃない」
お前らはどうにも揃いも揃って、肌が白いんだ。もう少し陽に当たりなさい。
「私は体質だし、ロロちゃんは肌が出せないからだし、アリスは元々は引きこもりだし」
「なんか私だけナチュラルに非難されてません?」
「引きこもってなければよかったんじゃ……」
「まあ、引きこもってた事実は消えないのでどうでもいいですけど」
どうでもいいのか。最近の子は学校に行ってなかったらニートみたいな子が多いような気がする。いや、外で遊んでるからニートではないとかではなく。ていうか、その定義では半ば俺もニートだな。魔王が活動してる時にしか働かねえし勇者って。
などと、世間話?に花を咲かせながら歩いていると、道の中央に仁王立ちしている男がいた。
俺たちはその脇を華麗に……
「行かすわけないだろう」
「ですよね」
「誰?」
「足長おじさん」
「いや、その説明もどうなんだ……」
「娘の前であんたの正体バラすか?」
「……それもそうだな」
魔王も納得してくれたようで、俺に頷く。弱みを握るってこんな感じなんですかね?
みんなが分からない理由は、帽子を目深に被って顔の認識が曖昧だからだ。ちゃんと対面して会ったのは俺だけだしな。
「足長おじさんって……セイバー・アーレン?」
「わざわざ指名手配中のあなたがなぜここに?」
「知られているのか。それともそこの勇者が言いふらしたのか」
「あんたの名前ぐらいと今やってることの説明ぐらいはさせてもらった。特に支障が出るわけじゃないだろ?」
「まあ、いいだろう。俺はそこの勇者に用がある」
「むしろそれ以外だったら驚きだ」
「少し借りてくぞ。30分ぐらいで戻る」
「ここでいいじゃねえか」
「下手をしたらどうする」
「仕方ねえな……。悪いけど、近くで暇を潰してくれ。俺、このおじさんと話し合いしてくるから」
「誰がおじさんだ」
文句を垂れながら、俺は魔王に引きづられていった。
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「で、何用で?俺、これから知り合いのとこ行って挨拶してくる予定だったんだけど」
「どちらにせよ。お前たちの旅は俺が道を作らなければ行く手段はあるまい」
「まあ、一個だけ手段を考えてたんだけどな。ドラゴンいるだろ?そいつらのどれかに頼んで運んでもらおうかと考えたんだ」
「自力で行く方法がないなら、妥当なところか。しかし、人に手を貸すドラゴンがいるのか?」
「人に手を貸す魔王がいるならいるだろ。それも、交換条件の予定だったしな」
「ふむ」
「まあ、再戦を希望してるのがいて、そいつが負けたら運んでもらおうという算段だ」
「いや、別に言わなくともいいんだが。どうせ、やらないのだろう?」
「頼まずに済んだしな。そもそも、戻らなきゃいけないから二度手間なんだ。……別にお前も世間話をしに来たわけじゃないだろ?」
「……いや、人は短い期間に成長するものだと思ってな。二年前に戦った時とは段違いだ」
「昨日、同じようなことを言われたな。褒め言葉として受け取っておくが」
「確かに世間話をする気はない。ただ、前のお前と違い、今のお前は守るものが多い。私の娘にまで手が回るのかどうかと考えると不安だったんだ」
「心配しなくても、ロロちゃんはあんたが思ってるよりずっと強く、成長してるよ。ついでに基本的には俺たちのパーティはロロちゃんのことを最優先してるから、余程心配はいらないぜ」
「あの子の正体は全員知ってるのか?」
「知ってなきゃ旅なんてできねえよ。言ったろ?俺たちの旅の目的はあの子をあんたのところに返すことだって」
「……もう一つ質問だ」
「なんだ?」
「お前は守るべきものを一つだけ選べと言われたら、何を選ぶ?」
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魔王とは、別で別れ、みんなところに戻っていた。
「遅いよソード」
「悪いな。なかなか離してくれなくてよ」
「何もない?」
「これと言ってはな」
守るべきもの。俺の二つの腕には余るほど増えた気がする。剣を握ったら、それは一つとなる。
そうすれば、いくら守るものがあっても一つしか選べない。
そうした場合、俺は何を取るか。魔王にそう問われた。
きっと、魔王は一にも二もなく、ロロちゃんを選択するのだろう。たった一人の愛娘だ。城などはまた立て直せばいいのだから。
じゃあ、俺は?
結局は、この腕が届く範囲でしか、手に取れない。いざとなった時駆け寄ってまでも、この身を盾にしてまでも守ろうとするのだろうか。
まだ、分からない。答えは保留した。全部守りたいなんて言うのは傲慢だろうか。それとも、俺の過信だろうか。
もっともそんな状況に陥らないことを祈るばかりだが。
「……ド」
「ソード!」
近くで俺の名前を呼ぶ声を聞き届け、振り向く。振り向いた先にはむくれ面をしているウィナがいた。
「悪い。考え事してた」
「欠片。残り3つで、一つは行き先分かってて、もう一つはサタンが持ってたよね?じゃあ、もう一つはどこにあるんだろ?」
「物事はすべてうまく収束するようにできてるんだ」
「なんて?」
「きっと、最後の一つは来るべきヤツが俺たちの前に現れるってことだ」
「来るべきヤツ……か。勝てそうなの?もし来たら」
「さあな。仮にも勇者を名乗るんだ。誰にも負けないぐらいの心意気で行くさ」
「以前、僕にも負けると言っていた人から出た言葉とは思えないですね」
「守らなきゃいけないものが多いと自然とそうなるんじゃねえのか?」
「なんのことです?」
「まあ、お前も国を背負うようにでもなれば、俺以上に分かることだと思うぜ」
「はあ……」
納得したようなそうでもないようなスターの返事を聞き、歩き出す。
エドに挨拶を終えたら、この国から旅立つ予定だ。ここから北の大地へはどれぐらいかかるのだろうか。
そういえば、雪は海と同じぐらい縁がなかったな。観光気分で行くわけでもないが、見たことのない景色に少し、心が弾んでいた。




