勇者の剣
「…………」
「なに、難しい顔してるのよ。ウィナちゃんもソードにそんなにベッタリしてなくてもとって食ったりしないわよ」
「前科のあるやつに何言われても説得力が全く皆無だな」
「意味被ってるわよ」
「強調させるためだよ!」
なんとなく居心地がよろしくない。
エドに誘われてノコノコとついてきたはいいが、ウィナがイメージと違っていたのかすっかり怖がってしまっているのだ。
俺としては役得だが、この状況はウィナが不憫だ。というか、俺がやりにくい。
「で、俺たちに何の用だ?」
「ツンケンしない。ギスギスしてるとストレス溜まるわよ」
「お前はなさそうだよな」
「最近一人暮らし始めてね~。気楽なものよ。好きなことやってられるし、縛りもないし」
「他の家族とかは?」
「別の場所で暮らしてるわよ。まだそこまで年を食っちゃいないし、弟もいるし」
「兄弟がいたのか」
「10も離れてるけどね。ちょうどあんたたちと同じぐらい……少し下ね」
背丈はこのぐらいとやってるが、ぶっちゃけこの人の弟とか心底どうでもいい。人がなぜ呼吸してるの?とかなんで空が青いの?とかばりにどうでもいい。
「話逸れてるから。はよ、用件だけ言ってくれ」
「連れないわね~。モテないわよ?」
「未だ独り身のあんたに言われたかない」
「じゃあ、賭けね」
「賭け?」
「あんたが私の年になるまでに結婚できたらソードの勝ち。できなかったら負けよ」
「別に構わんが……俺が負けた場合どうなるんだ?」
「ウィナちゃん、もらっていくわね」
「……勝った場合は?」
「私のこの家あげるわ」
「やだわ。ここに住みたくねえよ」
「自由自在に移動ができれば楽なのにね」
せめて自国に家を置かせてください。拠点がそこじゃないと不都合が生じすぎる。
まあ、俺も今はもぬけの殻だが、ボロアパートに一人暮らしをしてたんだが。
「居候してたじゃない」
「金が尽きたんだ……」
「女の子の家に居候とか、男として恥ずかしくないの?」
「親に『金が尽きました。家においてください』とか言うよりマシだ。そもそも母さんはともかく、親父に近づきたくない」
「今現在は農家じゃなかったの?」
「正直、数年会ってないし、どうしてるかは知らん」
「お金はあげたのよね?」
「母さんにな。親父にあげたつもりは毛頭ない」
「何がソードをここまでにしたのか……」
教育の賜物ではないでしょうか。
少なくとも、あの親父に感謝の二文字を抱く意味がわからない。青春の二文字を俺に与えなかったからだ。
「今からでもできるかなぁ」
「何が?」
「青春」
「ウィナちゃんとラブラブしてればいいじゃない」
二人して吹き出した。
「何を言うんだよ!」
「あら、違ったの?」
「違います!」
「そこまで力強く言わなくても……」
そもそも旅が終わったら答えを出すって言ってるんだ。
答えなんて、とっくの昔から決まってるのかもしれないが。
「与太話もこのぐらいにして」
「してたのはどこの誰だよ」
「あんたたちが焦れったいからかしら?老婆心って奴よ」
「……ろうばしんってなに?」
たぶん、俺が思った意味をそのまま告げたら、明日には二の句が告げないことになりそうだから、先にウィナに聞いておくことにする。
「歳をとった女性が、あれこれ気を使うことだよ。こちらから言わせて貰えば、いらない世話とも言えるけど」
「歳をとった……って、何歳ぐらいの話なんだ?」
「確か……40を越えたらかな」
「まあ、俺たちよりは上だから、言葉通りの意味にはとらないことにするか」
「そうだね」
ウィナも少し落ち着いたのか、会話ができる程度には回復した。
ウィナが話してくれないと俺が心苦しいです。
そして、エドがどこから持ってきたのか、剣を携えていた。
「これはなんでしょーか?」
「何って……剣って言う以外何があるのか?」
「察し悪いわね。よく見なさい」
「あ……?」
言うとおり、近づいて見てみる。
確か、この印、刀身の長さ、鞘に入れずにそのままの姿でいたその剣は……
「俺のあの時の剣じゃねえか!なんであんたが持ってるんだよ!」
「知らなかったの?」
「全部セドが持ってるもんだとこっちは思ってたんだよ」
「それは悪かったわね〜」
誠意の欠片すらも感じさせない謝り方である。
でも、助かった。スピードとパワーが戻った現在なら、これも使えるだろう。
手を伸ばそうとしたら、手をはたかれた。
一瞥して、再び伸ばそうとするとまたはたかれる。
それを10回ほど繰り返した。
「いってーな‼︎何すんだよ‼︎それ俺のだろうが‼︎」
「誰も無条件で返してあげるなんて言ってないわ」
「お前はどこのチンピラだよ。俺のものはお前ものか?」
「うん」
最低な返事をありがとうございます。
「くそ。何すりゃいいんだよ」
「理解が早くて助かるわね。まあ、こう言ってはなんだけど、この辺りも変な噂が流れてるのよ。小さな女の子のすすり泣く声が聞こえるだとか、小さな女の子が誘拐されかけただとか」
「犯人お前じゃないよな?」
「知らない女の子に手を出すほど腐っちゃいないわよ」
知り合いの女の子にちょっかいかけた上に、ドン引きされてますけどね。
「ここ一週間ぐらいの話で、私も調査してるんだけど、尻尾が掴めなくてね。協力してくれないかしら?」
「それは、お前から直々なのか、クエストなのかどっちだ?」
「私から直々ね。報酬はこの剣よ」
「お前はまっっったく損してないよな」
「自分に不利益なことは誰もやりたくないものよ。あんたとしても、これは取り戻したいものだと思うし、私に協力するだけで戻ってくるのなら、安いものじゃない?」
「裏しか見えねえ……」
犯人をとっ捕まえるとして、エド一人でもそれは十分になし得るものだろう。問題はそれが誰なのか特定できていないから、探すのと、そいつの足跡を見つけなければならない。
俺たちにもやることあるんだけどな……。
「今日とは言わずとも、明日には返事ちょうだい。今日はこの辺りで」
「……わーったよ。俺たちだけで決めるわけではいかないし、明日の朝、ここでいいか?」
「いいわよ。いい返事期待してるわ」
「じゃあな」
「お、お邪魔しました」
俺は背を向けて、手を振り、ウィナは軽くお辞儀をして、エドの家を出た。
かつて、旅をともにし、魔王とも戦ったあの剣。
再び手にする時は近づいている。
だが、親父が記したあの本に、固有スキルがあった。
エドが持っていたということは、武闘家とはいえ、使えないことはなかっただろう。それをあっさり、協力さえすれば、明け渡すと言っている。
あいつの優しさとも取れなくはないが、およそ使いこなせなかったというほうの表現が正しい気がする。
昔は、もっと横暴にして横柄だったからだ。それこそ、『私のものは私のもの。あんたのものは私のもの』を素で言い放つようなやつだったしな。自分に有用なら手放すほうが惜しいはずだ。
その固有スキルは武器の扱いの熟練度を示すものらしい。
今手に戻しても、扱いきれるとも限らない。
エドは俺が力を失っていることを知っていた。今もそう思っているのだろう。
「ソード」
思案していた俺にウィナは声をかけた。
「悪魔の線が濃そうだと思う」
「エドに取り憑いてるんじゃないだろうな?」
「それはないと思うけど……あの人は嘘はつかないから」
「まあ、嘘はつかねえな」
「やれることだけやってみよ?ロロちゃん次第だけど」
「ロロちゃんが動けなくても、俺だけでも動こうと思う。結局は俺のことだしな。余程戦闘とかはないと思うし」
あまり描写はしていないが、ロロちゃんのアプリを活用してモンスターを使って戦闘訓練もしている。
ロロちゃんのレベルも上がっているのか、それなりに強い敵とも相対するのことが出来ているので、急な戦闘でも、対応できないことはないだろう。
「大丈夫だ」
ウィナは軽く頬を膨らませて、俺の頬を引っ張る。
「一人でやってるんじゃないんだよ?ソードのことはみんなのこと。ソードがやるなら、みんなもやる。みんなでやるの!」
「お、おう」
「分ったならよろしい」
「……」
「どうしたの?痛かった?」
「ん、いや、何でもない」
出かかっていた言葉を飲み下した。
『本当はウィナは俺のことをどう思ってるんだ?』
ただの幼なじみなのか、恋愛対象なのか。兄弟みたいなものなのか、保護者的なものなのか。
今聞いても答えてはくれないだろう。
俺自身が告げるべきことなのだから。
俺が今、この右手に握るものは何だろうか。
帰り道はそれを自らに問うて、答えは出なかった。




