鳥籠の姫様(1)
日差しが差し込んできて、その眩しさに目を覚ます。
だが、身体は重りでもつけたかのように重く、動くのが億劫だ。
疲れてんのかな……。
重く思うのもそのはずで、ロロちゃんが抱きついた状態で眠っていた。
俺は身体を起こすのをやめ、再び横になる。起きるの待ってやるか。
ウィナが寝ていて場所に目を向けると、すでに姿がなかった。
料理でも作ってるんだろう。もしかしたら、水浴びでもしてるかもしれない。後者にはとても興味があるが、やったら本格的に死に至りそうなので、やはりここでロロちゃんと一緒に寝ていることしかできない。
待てよ?ロロちゃんは俺が一緒に寝ていることを知らないし、説明するにもウィナがいないから、一方的に攻撃されるんじゃないか?
やばい、詰んでる。
一刻も早く、この幸せな状況から脱出せねばなるまい。
しがみついてる腕を起こさないように解こうとするが、意外にも強くしめられている。
「嬉しいけど……ちょっとごめんな」
それでも、解けないほどではなかったので、無理矢理外し、テントの外へ出る。
出る前に、ロロちゃんが起きるような動作を見せたが、気づかれないうちに外に出るとしよう。
「おはよ。目、覚めた?」
「幸せだったが、色んなことを鑑みた結果、わざわざ起きるハメになった」
「鑑みた?」
「こっちの話だ」
半分妄想の域だし、幼馴染に向かって直で言えるほど、俺の肝は座っていない。
「む〜」
俺が出てきてすぐにロロちゃんも、眠気眼を擦りながら、テントから出てきた。うん。寝癖がすごいよ、君。
「なんかあと一歩でソードを倒せそうだったのに逃げられた。夢だった」
「残念だったな。俺はこの通りピンピンしてるぞ」
俺に抱きついて寝ていたことは黙っておいてやろう。向こうは気づいてないようだし、知ったところで恥ずかしいだけだろう。黙っておいてやるのは優しさだ。知らぬが万事ってことで。
「ウィナ〜。ごはんできた?」
「もうちょっとだよ。髪がすごいことになってるし、眠気覚ましに顔洗ってきなさい。ソードもついて行ってあげて」
「あいよ」
「一人でいいよ」
「俺もまだ顔洗ってないんだよ。一緒に行こうぜ」
「しょうがないな。よし、私についてこい!」
朝っぱらから元気な子だ。意外にも寝起きはいいほうなのかもしれない。夜のほうが活発という設定はどうした?
「どうしたの?」
「なんでもない。早く行こうか」
考えるだけ無駄だと、勝手に自己完結させて、ロロちゃんを後ろをついて行った。
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「う〜髪が直らない〜」
鏡を見ながら、決まらない髪型に四苦八苦している。
顔を洗いに来ただけと違って、女の子だから身だしなみにも気を遣いたいんだろう。ちょっと助けてやるか。
「ロロちゃん、貸してみな」
「ソード出来るの?」
「二年はウィナの髪を整えたりしてたんだ。多少は分かるさ」
「人は見かけによらないね〜」
「ほっとけ」
ロロちゃんは抵抗はないらしく、櫛を預けて、俺に背中を向けて座り込む。
手櫛で最初に梳かしていく。ストレートで柔らかい髪だ。
「髪、綺麗だな」
「ママに髪は女の子の命だから大切にしなさいって言われてね。ちゃんと手入れしてるんだ。大事に扱ってよ」
「女の子の髪をぞんざいに扱いほど俺は腐っちゃいねえよ」
「ま〜、ソードはなんだかんだ女の子に優しいというか、甘いからね」
「そうだな」
甘いんだよな結局。だから、強いことも言えないし、尻に敷かれるし、頼り切ってしまう。俺が頼りないのが一番悪いんだが。
「でも、女の子からすれば自分に優しくしてくれるのが一番嬉しいんだよ。それに下手に干渉しないこともね。例外もあるけど、私はそれぐらいの距離がいいな」
「それじゃ、こうして髪を梳かしてるのは?」
「自分じゃどうにもならないのを手伝ってくれてるんだから迷惑とは思わないよ。どう?直った?」
「これでどうだ?」
ロロちゃんは鏡を覗き込む。後頭部を触っているのは、ハネッ毛がないか確認しているんだろう。全部、まっすぐになるように梳かしたから問題はないはずだが。
「じゃあ、これも」
「髪ゴム?自分でくくらないのか?」
「ソードが好きな髪型にしていいよ。ストレートだから、選択肢色々あるでしょ?」
「昨日までつけてなかったじゃないか」
「だって、自分じゃどんなのが可愛いとか分からないし、下手にやって笑われても嫌だし」
どうしようか。長いからやりようはあるが、三つ編みとかはできないしな。というか、ロロちゃんのキャラに合ってないな。やっぱ、アップサイドのツインにしておくのが無難だな。
それにしても、後ろからやるのってイマイチ左右対称になってるのか分かりにくい。ロロちゃん確認してもらうしかないか。
「どうだ?」
「やっぱ、ソードってロリコンなの?」
「何てことを言いやがる。ロロちゃんはこの髪型が可愛いの。俺がロリコンとかではなく」
「ソードが可愛いって言うならいいけど……」
「でも、髪飾りが可愛げないな。今日、姫のとこに行くし、何かもらってくか」
「ウィナに見せてくるー」
櫛を俺に預けたまま、ロロちゃんは走り去ってしまった。どうすんだよこれ。俺が持っててもしょうがないだろ。
後で返せばいいよな。
それだけ思って、櫛をズボンのポケットに突っ込んだ。
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「遅かったね」
「ロロちゃんの髪を整えてたらな。可愛いだろ?」
「ロロちゃんは元が可愛いから、どんな髪型でも可愛いよ。ねー」
ロロちゃんの頭を撫でながら、同意を求める。ロロちゃんもうんー、と顔を綻ばせながら、朝食を食べている。撫でられて嬉しいのか、ご飯が美味しいのかよく分からないが、嬉しそうな顔をしてるのはいいことだ。
俺も遅ればせながら、朝食の席について、手につけた。
「さて、ご飯も片付いたところで、移動しますか」
「おやすみなさい」
「こらこら、寝るな」
ご飯食べたら眠くなるって、あんたは赤ちゃんか。人間は活動的でなければいけない。魔王だからその定義に当てはまるかは知らないが。
「くー」
本当に寝てしまった。
「しょうがないな〜。ほら、ソード担いで」
「意外に防具を着込んでるから重いんだぞこの子」
「じゃあ、防具外しますか」
「待て待て待て」
「どしたの?」
「どしたもないだろ。女の子を簡単に脱がすな」
「大丈夫。鎧は下にちゃんと刺さらないように服着てるから。あとはブーツを脱がせばいいでしょ。これは私が持ってあげる」
鎧を脱がせて、再び背負い直すと、小さい柔らかな膨らみを背中に感じる。ちなみに鎧は、裏生地も硬いことがあるので、素肌で着るとゴワゴワして鬱陶しいのだ。なので、下にも何かしら服を着ておく。
こうして、背負ってみると、小さくても女の子だということを思い知る。だって、男を背負っても興奮しないし。何も嬉しくない。
「じゃあ行くよ」
「ああ」
ウィナは俺の手を取る。同時に転移するにはこうして、触れ合わなければ一緒に行くことができない。
さて、引きこもりのお姫様に会いに行くとしましょうかね。
魔法陣が光り始めて、俺たちを目的地へと飛ばした。