会いたい人、会いたくない人(2)
宿は比較的開けた場所で、わかりやすく建っていた。
国の人も、一々旅人なんて気にしていないのか、女の子を一人背負っていても、素通りしていく。
寂しいところだな。
俺がそんな怖い顔でもしてんのか?
「いらっしゃい。何名さ……」
「五人だ!金はある。一番いい部屋を頼む」
「へ、へい。こちらへどうぞ」
店員を急かして、部屋へと案内させる。おおよそ、1日だ。それぐらいなら金の余裕はある。
「では、ごゆっくり」
店員が出たのを確認して、ロロちゃんを寝かしつける。
「ロロちゃん。起きれるか?」
「ん……」
声に反応して、体を起こそうとするが力が入らないのか、ベッドに倒れこむ。
「無理しなくていいぞ」
ボトルの蓋に水を移して、ロロちゃんに近づける。
「ちょっとでも飲んどけ。しばらくは寝てていいからな」
ロロちゃんはほんの少しの水を飲むと、そのまま寝入ってしまった。
「ロロちゃん、大丈夫そう?」
「分かんねえな。ただ、宿がすぐあっていい部屋を取れたのはよかったぜ」
「これからどうするの?」
「……アリス。スターとロロちゃん見ててくれ。汗かいてるだろうし、着替えもさせといて。今日いっぱいは寝かせておいて様子見よう」
「ソード君はどうするの?」
「ウィナとエドを探してくる。夕方には帰ってくるよ」
「うん。……ソード君はその人に会いたいの?」
「……正直なところ俺自身は他に選択肢があるなら会いたくはねえな。ウィナとは別として。逆に向こうは会いたがってるかもしれないけどな」
「でも、会わなきゃいけないか……大変だね」
「お前ほどじゃねえよ。頼んだぞ」
「いってらっしゃい」
少し硬さを感じるアリスの声色はいつか前の時みたいに、戻る日が来るのだろうか。
まだ、壁を感じる少女と別れ、二人をスターに任せた。
ウィナを呼び、宿の一階に下りる。
「あ、あの〜」
先ほど急かしつけた店員が俺たちの姿を見て、寄ってくる。
「さっきはすいません」
「金を払ってもらえばお客様ですので。で、あの小さい子は大丈夫でしょうか?なんなら、医者でも……」
「気にしなくていいっすよ。ちょっと旅でつかれちゃったみたいなんで」
「そうですか。できることがあったらお呼びください」
「なら、今2人でその子を看病してるんで、何か言ってきたらよろしくお願いします。少し、俺たちは出かけるんで」
「かしこまりました」
「ウィナ行くぞ」
「あ、うん」
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ウィナが睨んだ通り、この国一帯はオアシスとなっており、先ほどの荒野のような、干からびた地面も、照りつくような日差しも緩和されている。
だが、流石にこの太陽下では、農作はできないのか、そういった類は見当たらない。
「さて、エドはどこにいるのか」
「すぐ現れそうな気がするけど」
「あ〜ら、その通り」
「何奴!」
俺の手刀を平然と受け止め、ヘラヘラ笑ってる年代で言えば二十代中盤の女性が立っていた。
その女性は背は俺よりは高くないが、170はゆうにあるだろう。女性としては高い部類だ。
しかもなんかフラフラしてる。ロロちゃんの弱ったような歩き方ではない。この人、こんな昼下がりから酔ってるのか?
「あ〜もう、疲れた。家まで運んで」
「自分で歩けー!」
なんで、こんな大の大人を担いで行かねばならんのだ。ロロちゃんと違って、デカイし重い。何がしたいんだこの人は。いきなり現れて。
「エド!」
「ん〜私の名前を懐かしい声が呼んでいる〜」
「やっぱり酔ってんのか!それとも、どこかにトリップしてんのか!」
「あ〜揺れる〜」
「ソード、その辺にしとこうよ」
「そーだな。こんな人は知らない。俺たちの目的人物とは違うようだ。別の場所を探そう」
デカイ人を地面に放り出して、俺はウィナを手を引く。
「もう〜いけず〜。私のウィナちゃんを返しなさ〜い」
「あんたのものでもねえ!」
ウィナの足にへばりついて、ズルズルと引きづられていた。
ウィナはかつてのしっかりとした姿に差を覚えてるのか、顔が苦笑いである。
「とりあえず、水でも飲ますとするか」
「ありがと〜。相変わらず優しいわね〜」
学習しただけである。
俺が差し出したボトルをひったくってがぶ飲みする。この人に女性らしさを求めるのは間違っているのだろうか。
「よし、復活」
「ったく、何してんだアンタ」
「久々の再会を喜びあいましょうよ。二年ぶりよ?」
「俺としては、できる限り再会なんてしたくなかったんですが……」
「なんか言った?」
「何でもございません」
聞こえない声で言ったつもりなのに、なんで聞こえてんの?
「にしてもウィナちゃん、相変わらず可愛いわね〜。二年前よりさらに可愛くなっちゃって」
「あ、ありがとうございます」
「ん〜久しぶりで緊張してるのかな〜?こっちも成長したみたいだけど」
「や、やめてください!」
ウィナが胸を揉みしだかれていた。
エドが指を動かすとともに、胸の形が分かりやすく変形する。
くすぐったいのか、恥ずかしいのか、体をくねらしている姿が僕の目にはとても艶めかしいです。
「って、やめんかい!」
「ソードも触りたかった?お年頃だもんね?」
「俺はウィナを欲望のはけ口にしとらん!」
「じゃあ、オカズはどこで調達してるのかしら〜?」
「オカズ?」
「ウィナは聞くんじゃない」
やっぱりロクな影響を与えないなこの人。ウィナの情操教育によろしくありません。だから、会いたくなかったんだ。俺をネタにして、ウィナを弄って、俺を貶して。
このまま連れ帰っても、今度はアリスとかロロちゃんとか餌食にされそうなんだよな……。
「おふざけはここまでとして。どうしたの?こんな辺境まで来て」
ようやく話の本題に入れそうだ。この人の相手してると疲れる。
「魔王城の話だよ」
「まだ諦めてなかったの?二年も経ってるからとうに諦めたものだと」
「国王から直々に命が下ってんの。俺たちなりに探してはいるが、あんな高いところまで行く方法なんて分からん」
「私に聞こうが専門外よ。ウィナちゃんとかのほうがよっぽど分かると思うわよ?」
「別にそこに期待してるわけじゃねえよ」
「それはそれでなんか腹立つな」
「いい年なんだから、話はちゃんと聞いてくれ」
「まだ26よ」
「俺たちよりはかなり上だからな」
「若い子はいいわね〜。精々、仲良く乳繰り合ってなさい」
「表現が古臭いわ。いまどき乳繰り合って何て言わねえよ」
「じゃあ、何て言うのよ?」
「そいつは知らねえけど……とりあえず、それは使わねえな」
「はあ〜現代っ子が聞いて呆れるわね」
「うちの国はそこまで発展してねえから、情報が遅いんだよ」
「他の国で1年前ぐらいに流行ったものが、今流行ってるとか?」
「可能性はあきにしもあらずだが…………」
「ちょっと、ソード話ずれてる」
「ついでに、ウィナちゃんもズレてるから直したほうがいいわよ」
「へ?」
ウィナが背中の辺りを探ってる。気付いたのか、声にならない悲鳴をあげて、物陰へと駆けて行った。
たぶん、ブラ紐かなんか外されてたんだろうな。さっきのあの時に。
「だからウィナをいじめるなって言ってるだろ」
「いや〜可愛くってつい。そういや、あんたたち二人きりだったけど付き合ってるの?」
「五人だよ。三人は今、宿だ」
「あら他にもいたの?なんで一緒に来なかったの?」
「一人疲れちゃって寝込んでるんだよ。看病任せたんだ。あんたに会いに来たけど、そもそも俺とウィナ以外は知らないも同然だしな」
「あら、そう。会いに行ってもいいかしら?」
「断固拒否する」
「いけず」
「いけずで結構」
「ロリコン」
「ウィナをロリ扱いするな!」
「あの子も18なのに、まだ幼い感じじゃないの。十分ロリの範囲ね」
そして、ウィナがちょっと涙ぐみながら帰ってきた。
そして、俺の背中に隠れる。
「あんたのせいでウィナが人間不信になってんじゃねえか」
「流石にやりすぎたか」
「当たり前だ」
「で、なんの話だっけ?」
「伝言が一つと、聞きたいことが一つだ」
「何を聞きたいのかね?少年少女よ」
「俺たちが魔王に挑んだあの日、俺たちはどうやって魔王城から脱出したんだ?」
「あら、覚えてなかったの?」
「ウィナも覚えてないっていうし、俺もセドとの決闘で直後あたりの記憶が曖昧なんだ」
「また見事に負けたわよね〜」
「そこをほじくり返すな!で、俺たちはどうやって脱出したんだ?まさか、完全に浮かび上がった状態のところから飛び降りたわけでもあるまいし」
「そうそう。確か、ドラゴンよ。それも、ソード、あなたのお父さんが連れていた」
「親父が〜?」
親父はあの頃も変わらず、自宅で農作業を、営んでいたはず。どうやって、ドラゴンとコンタクトを取ることができたのか?
「ま、実際問題、人の力だけであそこまで飛ぶのは無理とは言わないけど、可能性が低い話ね」
「やっぱりか……そうだ、そのドラゴンのことで連絡だ」
「私にドラゴンに縁なんてあったかしら?」
「俺たちの国の近くにダンジョンあっただろ?」
「ああ、懐かしいわね。三年前になるかしら?」
「そこで、お前とセドがボコボコにしたドラゴンいただろ?」
「いたわね」
「そいつが、リベンジしたいそうだ」
「パス」
「ですよね」
ここから、うちのところまで行くのにどんだけ時間かかるんだという話でもあるし。俺たちが旅を始めて4ヶ月程度でここに着いたが、寄り道せずに行ったとしても、一か月弱かかるだろうし。
「三日三晩ぐらいは寝ずに走り続けられるわよ?」
「人の域を超えているような気がするのは俺だけなのか?べつにあんたの体力を心配してるわけじゃないが」
「あと、その言い振りだと、セドも連れてかなきゃいけないみたいじゃない」
「まあ、その通りだな」
「やーよ。あんなのと。あんなのともう一度組むぐらいなら、ソードの方がマシね」
「消去法で選ぶのをやめてもらえませんかね?」
「ま、私に用があったんなら、一度家に来なさい。いつまでに戻るって言ってるの?」
「夕方になるぐらいにはって」
「まあ、あんたたちも一番暑い季節の一番暑い時間にたどり着いたものね」
「着く時間までは計算して歩いてねえよ。こんな季節に来たのも、ことを急ぐからだ」
「いつまでもダラダラ旅してられないものね。で、力は戻ったの?」
「なんであんたが知ってる」
「流石にあれは弱すぎたからかしらね?魔王になんかやられたと見るのが妥当でしょ。セドもそんな状態で再選挑まれても困るから雲隠れしたんじゃないかしら?」
「だったら、せめて防具は置いてけよ。なんで追い剥ぎしてんだよ」
「無事帰れたし結果オーライよ」
「何もよろしくねえんだよ」
「まあ、ここであったのも何かの縁ね。ソード。あんたに渡したいものがあるから来てちょうだい」
「来てちょうだいってな……」
後ろでフルフルと借りてきた猫のように震えている幼馴染の姿があった。
「別にあの人もとって食ったりしねえよ。次は俺が守ってやっから」
「約束だよ?」
「ああ。ちょっとだけ行こうか」
またしょーもないことで約束をして、二人で手をつなぐ。
細くしなやかな手は、少し力を込めるだけでも折れてしまいそうな気もしたが、それでも、その手は俺の手をしっかりと握りしめていた。




