壊れた教会
歩くこと一週間ほど、俺たちは目的地へとたどり着いた。
「大丈夫か?ウィナ」
「なんか血が足りない……」
「女の子の日か?」
「死ね!」
「くぼぉ!」
みぞおちにクリティカルヒット。
ウィナは怒って先に行ってしまった。
「ソード君、デリカシーないよ」
「軽いノリで返してくれよ」
「ネタフリが最悪なんだよ」
「なら、アリスが機嫌取りをしてきてくれ」
「あいあいさー」
先に行ったウィナを追いかけるようにアリスも走っていった。
「立てますか?」
「少し休ませて……」
「まったく。余計なこと言うからですよ」
「反省してる……」
「あまりその色は見えないですけどね」
なぜ、ウィナが疲れているのかというと、二日前ぐらいにリーチェルさん=ルシファーを倒した際に手に入れた欠片を戻す作業をしていたのだ。
簡単に言えば、魔力も血を媒体として使っているため、一度に多量に放出してしまえば、貧血のような状態になってしまうだとか。
魔法を使えない俺にとってはよくわからない状態だ。
みぞおち殴れる元気があるなら、大丈夫だろう。
殴られた俺は大丈夫ではないけど。
「ところでアリスと喋れるようになったんですね」
「肝心なことは聞けてないけどな」
「肝心なこと?」
「……お前に話すのも野暮だな。俺からは話せないが、聞く気があるならアリスから聞いてみてくれ」
「珍しいですね。ソードさんが言葉を濁すなんて」
「人なんて大体そんなものだろ。本来必要以上のことは喋る必要はない」
「無闇に情報を与えてしまいますからね」
「だからこそ観察が必要だ」
「ソードさんの場合ストーカーじゃありません?」
「なんてことを言うんだ」
倒れていた俺の近くに細っこい足が現れた。
「ロロちゃん、寝転がってるやつのところにそうやって立つと見えちゃうぞ」
「もういいよ……」
なんか飽きられたのか諦めたのか、逆に堂々とし始めた。これではいじりがいがない。
「どうした?ロロちゃん」
まあ、あんまり眺めていても失礼なので、痛みも治まったし立ち上がる。
「女の子の日ってなに?」
「…………」
スターに肩を回す。
「教えるべきか?」
「魔王の血族ですからもしかしたらない可能性もありますよ?」
「それじゃ子供産めねえじゃん」
「じゃああるんでしょうか?」
「生物学的にないとおかしいぜ」
「なんでソードさん学校に行ってないくせにそういう知識はあるんですか」
「親父に言ってくれ……」
だいたいの余計な知識は親父の教えの賜物である。
将来何も知らんようじゃいけねえとかなんとか。果たしてその知識は本当に必要なものであったのかどうかと、当時の俺がいたら説いてやりたい。
「健全なる男子なら当然だな」
「なんの話ですか」
「ロロちゃんにわかりやすい範囲で教えようかと」
「普通にウィナさんか、アリスに教えてもらったほうが……」
「ねー。なんの話?」
「も……もうちょっと大きなくなったら分かるかもな。今知りたいなら、ウィナかアリスに聞いてきてくれ。俺たちからはとてもじゃないが口に出してはいけないことだと思う」
幼女とは言わないが、それでもかなり幼く見える幼気な少女に男の汚い現実を教えるわけにはいかない。たぶん、大部分知られてるかもしれないけど。
「……いいや。とりあえず中に行こう?ウィナたち調べ始めてるみたいだし」
「動けなかった元凶を作ったのもあいつなんだけどな……」
俺たちは、壊滅させれたと情報を仕入れた宗教の本拠地である国を訪れ、その教会へと足を踏み入れていた。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
「こりゃ、ひでえな」
「壊滅といっても、生き残りはいるそうなので、その人たちは、分家へ避難したそうです」
「本家を潰したなら、分家を潰すのも時間の問題じゃねえのか?」
「そう思いますけどね……ただ、あの人がやったというなら腑に落ちないんですが」
「まあ、人を殺すことにためらいがないと言っても、脈絡なくやるとも思えねえしな。……そういや、リーチェルさんも手にかけようとしてなかったか?」
「そういえばそうですね……実際リーチェルさんの中には悪魔が潜んでいたわけですし」
「でも、その時は逃れたんだよな」
「僕も倒されていたんで、あまり正確ではないですけど、ロロちゃんを見て、そのまま去っていったようにも見えました」
「ロロちゃんを見て?……ならばそいつはロリコンだな」
「ソードさんと一緒にしないほうがいいと思いますよ」
「敵の肩を持つのか!」
「ソードさんがロリコンなのは何にも変えがたい事実だということです。余計なこと喋ってないで、調べましょう」
「へいへい」
まあ、何を探しているのかというと、本当にそいつがやったのかという物的証拠みたいなものだ。
別に疑いを晴らそうとかそういうことはないが、スターの言う通り腑に落ちない点があるから、調査しているのだ。
無論、許可はもらっている。実のところ国には前日から入っているのだ。
スターが割と宗教界で有名になってたらしく、抜けた今でも名前がまかり通るらしい。俺もそれぐらいの知名度が欲しいです。
「あっ……あなたがあの勇者様」
「なんと凛々しい方なんでしょう」
「ぜひお近づきの印に!」
なんてことにはなりませんでしたね。結局倒してないし。
「一人でコントしてないでください。瓦礫の撤去も一つ頼まれているんですから」
「なんでそんなもんまで引受けてくんだよ」
「交換条件です。まだ楽なものでしょう。こちらの宗教にお入りくださいと勧誘されるより」
「実態がわからんもんに入信したくはねえな」
宗教なんて最たるものだろう。いもしない存在に救いを求めるわけだし。
実際に怪我をした場合にこの宗教に入ってたから軽症で済んだとか言いそうだけど、普通そんなに怪我しないからな?こうやって旅して戦闘とかしてるならともかく。
宗教に入る以前にそんな生死を分かつようなことに遭遇することがまず稀だし。
それでも、救われている人もいるというなら、入ってる人を別に否定をするわけではないけど。
「そういや、ここ以外は特に破壊されたってことはないんだよな?」
ほぼ焼け野原の状態の教会は敷地内からでも辺りを見渡せるぐらいになっていたが、周辺でもここ以外は特に何もなかったようだ。
「あくまでも国じゃなくて、この宗教もしくは教会に用があったってことか?」
「この教会にあの人が狙うようなものがあったんでしょうか?」
「まあ、それを含めての調査だしな」
「そうですね。あまり近くでやっててもしょうがないのでもう少し手分けしましょう」
元々は、高い建造物だったはずなのだが、破壊されたことで、平面的にしか見ることができなくなっている。その分、瓦礫の残骸が多いわけだが。
「誰か生き埋めがいるとかねえよな……」
瓦礫の撤去と言ったところで、大きなものを隅に寄せておく程度だが。
どかしていく際に、何かないか確認していく。
黙々とその作業をしていくが、いかんせん俺にそんな単純作業を続ける精神力はないので、ロロちゃんの元へと向かった。
「何かあったか?」
「あったら言ってる」
「そりゃそうですね」
「でも、私じゃ持ち上げられないし、ソード手伝って」
「おう。それぐらい任せろ」
スピードに続けて取り戻した力はパワーだ。
全盛期となんら遜色ない力を手に入れ、剣も軽く感じられる。
瓦礫をどけることぐらいなんてことなくなった。
「ただ、こうやって楽して力を取り戻していいもんだろうか」
「一応悪魔と戦って取り戻したわけだし、苦労はしてるじゃん?」
「俺が力を戻すことによって迷惑かけてるのがいたたまれないんだよ」
「……本当にそう思ってる?」
「思ってるもなにも事実だろ」
「……ソードはまだまだダメダメだね」
「なっ……ロロちゃんに言われたくはねえぞ」
「乙女心は乙女が一番わかってるもの」
「猫さん履いてる子に乙女心言われても」
「人の下着にケチつけるな‼︎」
「いだいいだい」
瓦礫から比較的軽いものを拾って殴りつけてくる。いや、マジで痛いんでやめてくださいロロ様。
「じゃあ、今度ウィナにでも新しいやつ買ってもらいなさい」
「アリスじゃダメなの?」
「あいつは金の管理してないしな」
しかもアリスに任せるとどんな方向に向かうか分かったもんでもないし。
ロロちゃんの下着についてはここで一区切りしておこう。どうでもいいとは言わないけど、男の俺があれこれ言うのも年頃の子だし。
……本当に年頃なんでしょうかね?
「ロロちゃん。誕生日いつ?」
「藪から棒だね。どうして?」
「近いならプレゼントとか考えようと思って」
「12月25日」
「クリスマスか」
「そ。羨ましいとか思われがちだけど、でも、祝ってもらったことないし、向こうなんて誕生日なんてあってないようなものだし」
「ロロちゃんって、どこで生まれたんだ?」
「……魔界だったかな。……あれ?よく考えたらどうなってるんだろ」
「また分かんないことが増えたな」
「パパに聞けばわかるかな?」
「そういや、30何人の勇者が魔王城に来たとかも言ってたけど、何年ぐらいでの話だ?」
「それは四、五年ぐらいだね」
「ずいぶん短い周期で送ってきてんな」
「その時のロロちゃんの年は?」
「はて?」
「実のところ120っていうのも適当に言いおったな?」
「だ、だって何年向こうにいたか分かんないし、ここに来たのも数年の話だし……」
「ここに来た時の年は覚えてるか?」
「……確か115歳だったか……」
「年齢計算がめちゃくちゃだな」
「12歳でいいです。どうせ戸籍なんてものはないですので」
「三年後が楽しみだな〜」
「なんで三年なの⁉︎」
「一年で急激な変化は見込まれない。徐々に変化していくものだ」
「う〜ソードデカイから私が少し大きくなったところでわからないじゃん」
「いや、大丈夫だ。旅を始めてから2mmは伸びてるぞ」
「ホント⁉︎……ってなんでそんなミリ単位で分かるの‼︎」
「いや〜本気出せばなんとかできるもんだ」
「もっと別のところにベクトル向けてよ」
「ゆくゆくはもっとグラマーに……」
ロロちゃんが思いを馳せてそうだが、ロロちゃんが急激に成長したらしたで何か悲しいものがある。
ロロちゃんがグラマーになった姿……無理だ想像できん。今の可愛らし姿のままで十分じゃないか、俺には需要あるよ。あそこの女子たちにも需要あるよ。
「はっ、こんなことしてる場合じゃなかった」
「まったくだ」
「誰のせいだ。誰の」
「……?」
「ソード!いいから働く!」
「特に何もねえだろ。あっても掻っ攫ってるだろ」
「結局瓦礫撤去に来ただけなの?」
「報酬はあるみたいだし、えんやこらと働くか」
特に何の手がかりもなく、教会の瓦礫を撤去するだけに留まりそうだったが、あるものを発見する。
「……なんだ、これ?」
錆びてはいるが腕輪だろうか。
「なんだってこんなもんがあるんだか」
それでも捨てる気も起きずに、拾っておくことにした。
なんか掘り出し物だといいんだが。
日が落ちかけてきた頃、視界も悪いとのことで、退散することにした。
さて、あいつは一体何を目的としているのやら。




