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魔王拾いました  作者: otsk
海辺の灯台編
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君と見た海

 海に沈む夕日を俺たちは砂浜で、ロロちゃんはシークに乗り空から見ていた。

 その光景はきっと、しばらくは見られるものじゃない。

 永遠に閉じ込めておきたい風景だった。

 それほどまでに海と夕日のコントラストは心を奪われるものだった。

 普段、風景なんて気にも留めなかったが、何事にも美しい瞬間がある。そう認識させられた。

 その夕日も海の下へといき、代わりに月が昇る。

 月もまた、海を幻想的に照らし出していた。

 その移り変わりで、海の存在感を目の当たりにしてるようだ。


「綺麗だね」


 隣で座っていたウィナがそう呟く。

 どこかで聞いた話だが、月が綺麗だというのは告白に準ずるものらしい。何故かって、月が綺麗=君の方が綺麗に繋がるものだかららしい。まあ、洒落た言い回しだわな。もっとストレートでもいいと思うけど。


「そういや、ウィナも海は初めてだよな」


「近くに海なんてなかったし。海は危険だって話だったし」


「でも、このあたりはいなかったな」


「うーん。海竜がいたのもあったんじゃない?」


「畏をなしたかもってことか」


「まあ、子供を連れ戻そうと奮闘していたただのお母さんだったね」


「そうだな」


 朝に海竜にまたここに来るといったが、結局、あまり離れずにくつろいでいた。

 ロロちゃんがシークを乗り回していたのもあって、海竜の目の届かないところで怪我をさせたくないというのもあったし、わざわざ戻ってくるのも二度手間という結論に至ったためである。

 その二人はすでに疲れたのか、ロロちゃんがシークに寄りかかるようにして眠りについている。


「おに〜ちゃん!」


「うおっと」


 黄昏ていた俺に、後ろから軽い衝撃がぶつかる。

 まあ、俺をお兄ちゃんと呼んで慕うのはアリスしかいないわけだが。

 アリスは俺の肩に手を回したまま、腰を下ろした。


「どうした?久しぶりだな」


「お兄ちゃんも私のぬくもりを求めてるかな〜って」


「こんなことばっかしてると向こうのお兄ちゃんがまたヤキモチ妬くぞ」


「……うん。だから、終わらせに来たの」


「何を?」


「手に入らないものを求めることを」


 アリスは何を言っているのだろうか。

 俺の肩に回していた腕を解いて立ち上がる。

 後ろの立ち位置から俺の前へと移動した。

 アリスの足元には波が打ち寄せては返している。

 正直なところ、顔は影になってしまって伺うことはできない。

 ただ、こうして座っているのは違うことなのだろうと思い立ち上がる。

 こうして改めて立ち会うと、アリスがいかに小さいかが分かった。正直、ちゃんと見ていなかったのかもしれない。自分のことを好きだと言ってくれる女の子のことを。


「やっぱり、お兄ちゃんは大きいね」


「女の子より小さかったらそれはそれで悲しい話だからな。その点は親の遺伝子に感謝してるかな」


「……ねえ、お兄ちゃんは私のこと好き?」


「ああ、もちろん」


「誰よりも、何よりも好きって言える?」


「……そいつは、俺には無理だな。もちろんアリスのことは好きだ。でも、何よりも好きっていうと俺はイエスとは言えない」


「…………」


 沈黙が流れる。

 嘘でも、お前のことが一番好きだ、そう言えばよかったのだろうか。

 いや、そんな嘘はいつか綻びかでる。何よりも、アリスがそんなことを望みはしないだろう。俺の率直な気持ちを聞いているのだから。


「それは、きっとこれからもお兄ちゃんは変わらないんだと思う。お兄ちゃんの中で私が一番になることはないから」


「…………」


 今度は俺が黙ってしまう。その沈黙をアリスは肯定ととったのか次の句を告げ始める。


「でも、お兄ちゃんは好きだって言ってくれるし、嫌うこともないんだと思う。でも、私にとっては一番じゃなきゃ意味がないから。だから、もうやめることにする。終わりにする」


 アリスは近くにいたウィナに顔を向ける。


「ごめんね。ウィナちゃん。でも、これが最初で最後にするから」


 アリスは俺の方を向き近づいてくる。

 目の前……俺の目線としてはかなり下だが、そこで立ち止まる。

 そして、ウィナが立ち上がった。


「私は席外してるから。何があっても、今日のところは何も見なかった。じゃあね」


 1人でそう告げて、林の方へと歩いていった。一応、海よりは林よりにテントを立てたのだ。そこに行ったのだろう。

 俯いているアリスに声をかけて、座らせることにした。


「お前とこうやって夜に話すのもいつ以来だろうな」


「そうだね……。お兄ちゃん、夜までいてくれたことはあまりなかったから」


「いると王様がうるさいんだよ」


「相変わらず頭が上がらないんだね」


「まあ、仮にも色々と世話にはなってるしな……」


「……私は、本当は姫なんかじゃなくても良かったの」


「まあ、そうだろうな。他の人から見て羨ましいって思われても、当の本人が本当にいい生活を送ってるのかなんて分かるもんじゃないだろうしな」


「お兄ちゃんも分かってたから、こうやって旅に連れ出してくれたんでしょ?」


「そうだな。実際、あんなところに篭って、やれお行儀だ、やれ品性だやってたところで外の現状なんて何も見えやしないだろうし、何よりもアリスが窮屈そうだったからな」


「やっぱり見てくれてたんだ」


「学校に行ってなかったのは感心しないけどな」


「うぐ……。だって、誰もいないんだもん。誰も、味方なんていなかった。兄さんも、ウィナちゃんも、お兄ちゃんも誰も……」


 アリスは膝に顔をうずめる。俺たち以外に友達が作れなかったんだろう。寂しい思いをしていたのだ。

 王様はアリスは学校で友達と仲良くやってるものだと思ってるから、自分ではどうしようもなかったのだろう。

 誰も対等に見てはくれなかったのだ。

 アリスだって1人の女の子なのに。

 だから、唯一気兼ねなく話し相手にも遊び相手にもなっていた俺に、憧憬でも覚えたのだろう。それがそのまま恋心へと繋がった。

 アリスはそれを今日、終わらせると言ったのだろう。いつから始まっていたのかもわからない、自分の一方通行の恋を。


「ねえお兄ちゃん」


「どうした?」


「私、好きな人見つけられるかな?」


「アリスぐらい可愛いなら、よりどりみどりだな」


「えへへ。その人もお兄ちゃんみたいな人だといいな」


「アリスを泣かすようなやつだったら、俺とスターでボコボコにしてやるからな。ちゃんと相談しろよ」


「な、なんかそれも嫌だ……」


 おかしいな。こんなにも敬愛しているというのに。愛情表現というものは難しい。


「今日だけは……何してもウィナちゃん怒らないんだよね……」


「ウィナが怒らなくてもスターが怒るかもな」


 あっ……ちょっ……待ってください……!!


「……なんか聞こえたか?」


「気のせいでしょう」


 おそらくスターがウィナに連行でもされたのだろう。よく気のつくやつだなあいつ。


「別に私は見られててもいいですけど」


「見ててトチ狂うやつがいるからだろ」


「兄さんは仕方ないですね……」


 だって、あいつアリス大好きすぎだろ。下手すれば王様以上かもしれない。反動が今出てきてる気がする。


「海……もう真っ暗だけど、月が映ってて綺麗……」


「あれを取って来てくれなんて言うなよ?」


「そこまで子供じゃないって……でも、欲しいものはあるかな」


「なんだ?俺が取ってきてやれるなら、持っていくぞ」


「クス。お兄ちゃん、昔もそんなこと言ってたよね。城の中で面白いものがないから、何か持ってきてって。それで来るたびに何か持って来てはお父様に怒られて」


「それでも懲りずに持ってきてたけどな。あまり怒らなくもなってただろ?」


「そうだったね。どうして?」


「悔しかったら、あんたがアリスやスターを楽しませてみろって言ってやって、何やってもクスリとも笑わなかったって肩落としやがってたな〜。ハッハッハ」


「ああ、なんかそんなことあったような……」


「で、結局欲しいものってなんだ?」


「あ、あんまり大きな声で言うのも恥ずかしいから、少し耳貸して」


「ん?ああ……」


 別に見られてても恥ずかしくないとか言ってた割には結構気にするんだな。

 顔をアリスに近づけると、アリスの顔が覆いかぶさっていた。

 アリスの小さな唇が当たり、チョン、と微かな余韻を残して離れていく。


「私が欲しかったのは、お兄ちゃんのファーストキスだよ。どうせ、ウィナちゃんも、奥手だろうからしてないだろうし……。嫌、だった?」


「あ、いや……でも、お前こそ良かったのか?」


「私は後悔しないように生きたいから。初めてのキスは好きな人と……私が一番好きだった人としたかったから」


 アリスは表面上は笑ってるかのように見えた。

 だけど、涙は堪えきれなかったのか、止めどなく流れる。


「バカだな。泣くぐらいなら、言わなきゃよかったのに」


「言っても、私の思いなんて通じないから、でも、行動しないわけにも……しなかったら、私は後悔したから、これでよかったんだよ」


「ご……」


 ごめんな、そう謝ろうとしたが思いとどまった。

 アリスは謝られたくなどないだろう。全て、かなぐり捨てる覚悟でこうして行動に出たのだから。

 女の子にとって、大事なものなのに、俺なんかに差し出して良かったのだろうか。いや、それほどまでにアリスは俺のことが好きだったんだろう。

 それに応えてやらない俺は最低な男だろうか。


「じゃあね。ソード君」


 そして、この日からアリスは俺のことをお兄ちゃんと呼ぶことはなくなった。

 きっと、その気持ちと決別するために海より深く沈めたのだろう。


 そして、明け方、唯一最初にもらった装備のバンダナを目深に巻きつけ、灯台のあり、シークと出会ったこの島を飛び立った。


 ただ一つ、何か失ったような気持ちを抱きながら、たぶん傷ついていたのは、アリスよりも俺だったのだろうと感じていた。

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