子供の選択
俺は、シークの近くに寄り、使役を解いた。
そもそも、召喚していた自覚もないから、これで解けたかどうかは分からないが、自由にはなっているようにも見えるので、これでいいのだろう。
もっとも、召喚した時に、こいつは俺が操ってますよみたいな印があれば分かりやすいのだが。
そもそも、欠陥だらけの魔法ではあるのでこいつも偶然の産物だ。再び、卵に戻るようなこともなかったし、目の前から姿を消すようなことはなかった。
果たして、本当に解けたのだろうか。
もう一つの可能性を考えるのならば、誰かが卵を発見して、あそこに封印していたのかもしれない。
ウィナの話を信じるならば、俺が卵を無理やり召喚させたわけだが、それも今となってはどうでもいい話だ。
「さ、これでお前は自由だ。でも、お前に最後に仕事してもらいたい」
「ピー?」
まだ鳴くだけで、話すことはできないが、海竜の子供ならいつかは人の言葉も話すようになるだろう。
それならば、俺の言葉を理解してくれていると信じることにしよう。
「これからの話だ。あそこに今まで一緒遊んでいたロロちゃん。向こうにお前の生みの親がいる。俺たちについていくと言うなら、ロロちゃんを。親の側にいたいなら、向こうに行ってくれ。これは、誰でもないお前の意思で決めてほしい」
そうすれば、双方納得してくれるだろう。
俺にどうこうする権利なんてものは、はなから存在していないのだから。
シークはキョロキョロと2人を見て迷っている。
海竜のほうは生みの親とはいえ、卵の状態のまま会っていなかったのだ。いきなり母親だと言われても、実感も湧かないし、そもそも母親という存在自体をあまり認識していないのだろう。
対してロロちゃんは、自分が卵から孵ってから、ずっとそばに居たのだ。下手をすれば、ロロちゃんを親だと認識しているかもしれない。
シークの思考は確認取れないので、できることならば、本能の赴くままに選択をしてもらいたい。
「ピー……」
俺のほうを向いて弱々しく鳴いた。
選択ができないのだろうか。
踏み出す勇気が足りないのだろうか。
自分が選択したことが間違ってないかを確認を取りたいのだろうか。
「大丈夫だ。どちらを選択しても誰もお前を責めない。それはお前が決めたことで、俺たちが口を出すことじゃないんだからな」
まあ、ここに残ったとして、俺がもう一度召喚をすれば、姿を現してくれるのかもしれないし、解除すれば、海竜の元へと戻るのかもしれない。
でも、それができる保証もない。
元々、魔力なんてものが俺の中にあったのかもしれないし、魔法陣が残ってるとはいえ、次もうまくいくとは限らない。
ともすれば、シークが海竜のところへ行けば、もう会うチャンスはないかもしれない。
そもそも、旅なんてものは出会った人と再び会うことの方が少ないのだ。
近隣にいたから会ったカルマさんは除くとして。
居場所が固定されてて、こちらから会いに行こうとしないと、偶発的にはなかなか会えない。
海竜自体も探し回ってたっていうぐらいだし、ドラゴンなのだから、本来はダンジョンの奥深くにいるのだろう。
あまり、自ら進んで行きたい場所でもあるまい。
シークが、俺の顔を覗き込んでいた。
その目は、こちらを不安げに見つめている。
俺は、頼りなく見えたか?
難しい顔をしているのが、感じ取れたのだろうか。
「俺のことは気にすんなよ。俺は大したことしてないんだし、俺に気を使うことはないさ。さ、早く決めてやれ」
まだ、少しうろたえているようにも見えたが、決めたらしく、俺に頷いた。
翼は折りたたみ、ゆっくりと歩き出す。
俺は、目を伏せた。
結末は最初からわかっていたのかもしれない。だから、その結末を見届けたくなかったのかもしれない。
やがて、シークが鳴く声が聞こえ、目を開ける。
そして、声が聞こえた方に目を向けた。
ロロちゃんのほうにはいなかった。
海竜の大きな体の近くに擦り寄るようにシークはそのまだ未発達な体を近づけていた。
きっと、本能的に母親だと気づいていたんだろう。
なんとなく、こうなる気はしていた。
まあ、賭けはどちらにせよイーブンだ。
元々いなかった存在だったのだから。
勝てばプラス、負ければイーブンというのはそういう話なのだ。
勝てれば戦力としてプラス。負ければ、元々なかったものとして扱えばいいのだから。
海竜と反対側に位置し、膝を崩して、海水に浸ってしまっていた少女に近づく。
「風邪……引くぞ」
「あ、あはは。なんとなく私も気づいてたけど、やっぱり……ショックで……」
「仕方ないな。一番面倒見てたし。でも、別にあいつだって、ロロちゃんのことが嫌いな訳じゃないと思う。俺も一緒に行ってやるから、シークのところへ行こう」
「うん……」
ロロちゃんに手を貸し、立ち上がらせる。
ローブやらスカートやら、濡れたせいで動きにくそうだったが、それでもゆっくり歩く。
「ピー」
シークのところにたどり着くとロロちゃんの姿を確認したらしく、擦り寄った。
やっぱり嫌いな訳じゃない。
お世話してくれたのは分かっているんだろう。こうしてすり寄ってきてくれるのは懐いている証拠だ。
「あはは、くすぐったいよ〜」
「ピー!」
「そういえば、名前をつけてくれたのだな」
「あ……うん。元から付けてたなら、それでも構わないけど……」
「大丈夫だ。私も生まれてから名付ける予定だったのだから。そなたが付けてくれた名でこの子を呼ぶとしよう。それがせめてもの礼だ」
「そうなの?……その子の名前シークって、名付けた。『探し求める』って、意味なの」
「『探し求める』……か。らしい名付けだ。だが、同時にいい名前だ。ありがとう。あと、そなたの名前を教えてもらえるかな?」
「わ、私は……私はロロ。ロロ・アークハルト」
「ロロ・アークハルト……。そうか、そなたが……なら、託しても良かったのかもな……」
「どうしたの?」
「いや、気にするでない。あとは、勇者。頼みがあるのだったな」
海竜は思い出したかのように、俺に話を振ってきた。
そういえば、ロロちゃんがフルネームを明かすのは久しぶり……っていうか、俺たちと会って以来だな。
流石に、海竜も魔王の娘だと分かったのか。
それは、さておき、俺たちの頼みごとだ。
「ここの島が次に干潮になるのはいつだ?すぐじゃなかったら、反対側の陸地に行くのを手伝ってもらいたいんだ」
「ふむ……。それならば、まだ3日はあるだろう。しかし、流石にこうも傷ついては私もすぐには飛行することもままならない。せめて、明日にしてもらえるか?それならば、そなたらを乗せて行こう」
「ああ。頼むぜ。明日の朝、ここに来るよ」
「待っていよう。……ロロ」
「私?」
「あと1日。今日限りだが、シークと遊んでやってくれ。私は今日は動けそうもない」
「うん!分かった!シーク、行こ!」
「ピー!」
ロロちゃんは、濡れた装備のままシークにまたがるので慌てて俺は止めにかかった。
「せめて服を着替えて来なさい!あそこにウィナとアリスいるから!」
「は〜い……」
見るからに不貞腐れて、四人が待つところへと走っていく。
シークはロロちゃんの濡れた服が羽についたのか、ブルブルと震わせていた。
「ったく」
「あの子は……どうして勇者と一緒にいるのだ?」
「まあ、行きがかり上と言うしかないけどな。ほら、城が上にあるだろ?自力じゃ帰れないみたいだから、俺たちと一緒に帰る方法探してるんだ」
「そうか。私でも届くかどうか分からんな。どちらかといえば泳ぐ方が得意なのだ」
ですよね。水陸両用とはいえ……水空両用?それはいいとして、やはり元は水中にいたのだから、空を飛ぶことにはあまり特化していないのだろう。
それならもっと苦戦していたはずだし。本当に手加減してくれてたんだなあと、しみじみ。
「戦闘もそなたらの戦力を見て妥当な判断だというところだな」
「心遣いに感謝いたします」
「そう固くなるでない。そなたらの姫様が戻ってきたぞ」
旅に使ってる服から普段着として使ってる服に着替えて戻ってきた。
「ロロちゃん、それでいいのか?」
「なんで?」
「ローブないし、スカートめくれちゃうぞ」
「ソードが見なきゃいいでしょ!」
「スターやカルマさんもいるぞ」
「そんなこと考えるのソードだけだもん!」
「俺は心配して言ってやってるだけなのに……」
つい先日はローブでスカートを押さえつけていたので大丈夫だったが、この子、普段着も丈の短いスカートなもんだから、ローブ来てる時と同じような感覚でいそうだし。
「もうー!ソードは向こう向いてて!」
「はいはい」
シークにまたがって乗るまで、俺は後ろを向いていることにする。ロロちゃんはやはり魔族というよりは人間に近いような気もするが。
シークはロロちゃんが乗ったのを確認して飛び上がる。
「気をつけろよ〜」
「……そなたはあの子の保護者か何かか?」
「そろそろパパと呼んでくれてもいい気がする」
「魔王に消されるぞ」
「それもそうだ」
魔王に会った時に実の娘が敵である勇者のことをパパとか呼んでたらどうなるんだろうか。とても興味深いところだが、本格的に消し炭になってそうなので、最終的にはお兄ちゃんぐらい呼んでくれても……余計ややこしくなるからやめておこう。すでにややこしいのが1人いるし。
とは思ったが、遠目で見る限りは、あの二人の距離は少し縮まっているようにも見えた。
さて、次の目的地を考えておかないとな……。




