親心暴走
俺は海に浮かぶ、巨大なドラゴンから背を向け、海からの抵抗をはねのけて、足を進めた。
さすがにあれだけでかい存在を無視しろという方が無理な話で、全員着替えていつもの旅の服へと身を包んでいた。
「ソード。あれは?」
始めにウィナが、あのドラゴンの存在について聞く。
何かあったら知らせる、そう言ったばかりだ。
「……たぶん、シークの親だ。と言っている。ある日突然、自分のところの卵の行方が分からなくなったらしい」
「……ソードはどうしたいの?」
どうする、ではなく、どうしたいか。
あくまでも俺の希望を聞いているのだ。
なるべくなら、戦闘を避けたい。
そのためには、無条件でシークを差し出してやれば、あいつは大人しく去ってくれることだろう。
でも、俺は……
「大人しく、シークを渡すつもりはない」
「戦うの?それは、何のためなの?」
何のためなのか……。
きっと、俺自身のためではない。
俺の言葉を聞いて、どこか安堵した表情を見せたロロちゃんのためだと思う。
だから、俺はロロちゃんの手を掴んだ。
「ど、どうしたの?ソード」
「ロロちゃん。君が、あいつと話して来るんだ。こいつと……シークと旅をしたいのなら」
「わ、私が?なんで?呼び出したのはソードじゃん」
「ああ、だから別に今ここで使役を解いてあのデカブツのところに返すことだって可能だ」
「そ、それはダメ!」
ロロちゃんは言ってから、あっ、と口を手で押さえる。
「そういうことだ。一番ロロちゃん自身がシークにいてほしいと願ってる。だから、言ってやれ」
「なんて?」
「ちょっと耳を貸してくれ」
俺はロロちゃんに告げ口をすると、全員に告げる。
「よし、ロロちゃんのためにみんな力を貸してくれ」
「ここで『俺がなんとかしてやる!』って、言わないあたりソードさんらしいですね」
「お兄ちゃんだし仕方ないよ」
「ここまで付き合ってるんだし、力添しないわけにもいかないな」
「皆の妹ためだもんね」
「……うん!私頑張る!」
ロロちゃんは意を決したのか、海竜の元へと向かう。もちろん、シークと一緒にだ。
海竜はそれを見て、俺に何を考えてるんだと視線を向けた。
解答は、ロロちゃんに託した。
ロロちゃんは海竜を見上げる。
「あなたが、この子のお母さん?」
「ああ、そうだ」
「悪いけど、この子は返さない」
「……私と戦おうと言うのか?」
「別にあなたが引き返してもいいんだよ?私たちにやられたくなかったら。子供に不様な姿を見せたくないならね」
「口の減らん子供だ。なぜ、そこまでして私の子供を狙う」
「狙ったんじゃない。出会ったのも偶然だもん。でも、偶然でもいい。私はこの子と旅がしたい。それとね、一つ言っておきたいことがあるの」
「?」
それは、おそらく海竜の逆鱗に触れる一言だろう。
だが、あえて俺はそれをロロちゃんに言うように仕向けた。
なぜって?
怒らせた親は怖いよってことをその身で感じてもらえたらというのと、なかなかそんなチャンスはないと俺は思ったからだ。
「そもそも、卵を産んだだけで孵してもいないし、1年以上も放置してたくせに母親面するな!あ、二つだった」
そこはどうでもいいよ。
「……言いたいのはそれだけか?」
「やっぱり、こういう展開?」
「ロロちゃんこっち戻ってこい!」
「や!シークもまだこっちにいるもん!」
ロロちゃんに呼びかけるが、寄り添ったシークに抱きついて離れようとしない。
これでは、海竜だって攻撃がしにくいはずだが、どうする気なのだろうか。
「貴様は後でいい。まずは、向こうからだ」
海竜はロロちゃんたちを後回しに、俺たちの方へ向かってきた。
余計な手出しをされないように、先に狩っておくことは当然の思考とも言えるだろう。
鋭い眼光を、こちらに向けて威圧してくる。
だが、これぐらいで怯むことはない。何度も潜ってきたんだ。
海面を這うように滑空し、俺たちの前に降り立つ。
「なんだ?開戦の合図か?ずいぶん親切だな」
「そこの勇者」
海竜に指名されたので一歩前に出る。
「……別に俺たちは戦闘も辞さないぜ?なぜなら、あんたの子供は俺の支配下にあるわけだからな」
「なるほど、それならお前を倒せばそれが解けるわけだな」
「さあ、どうだろうな……」
「ふん。どちらにせよ、倒してみればわかることだ」
ゴオオ、と空気を吸い込む音が聞こえたと思ったら、咆哮を放ってきた。
その音を至近距離で聞いてしまったので、少したじろいでしまう。
海竜はその隙に、次の攻撃に移ろうとしていた。
身動きが取れない俺に代わり、駆け出して、魔法を放つ一人の男の姿がある。
その人が放った魔法は、雷鳴を轟かせ、直接海竜に攻撃が入る。
砂煙が上がるのと同時に、俺はその人に引っ張りだされた。
「ありがどうございます、カルマさん」
「まったく。あまり寝覚めの悪いことにならないといいけどね」
「海竜……海のドラゴン。ということは、どう考えても雷の魔法が効きますね」
「僕や、ウィナちゃんの出番ということだ」
「ただ、魔法しか効かないというわけでもないと思います」
海竜から距離を取りながら、作戦を立て始める。
クエストを一度一緒にしているとはいえ、まだまだ連携を取れるとは言い難い。
本来ならば綿密に作戦を練り、勝負に立ち向かうのが普通なのだが、こういう突飛な戦いにも、柔軟に対応しなければ、いつも同じ仲間と戦い続けるとも限らないのだ。
俺たちは一度二手に分かれた。
まずは戦闘経験の豊富な俺とウィナで海竜と対峙する。
スターとアリスはカルマさんに今からの動きを聞いてもらう。
俺なんかが説明するより、よほど早く簡潔にしてくれるだろう。
俺の場合は正確に伝わらない可能性があるので、無駄に危険を増やすことになる。
だから、いつもはウィナがしているのだが、ウィナが今抜けると、俺としては連携が取りにくい。その意図を汲み取ってもらい、俺とウィナは二人で立っている。
「二人で時間稼ぎか?」
「時間稼ぎなんかじゃねえよ」
「じゃあ、死亡志願者か」
「どちらでもない、私たちは……」
「「あんたを倒しに来た」」
時間稼ぎなんかで終わらすつもりはない。
やるからには、圧倒してやる。
少し離れた場所で、ロロちゃんの姿が見える。
表情は見えない。
それでも、少し心配してるように感じる。
だが、ロロちゃんではなく、種は俺が蒔いたのだ。
そんな心配そうな顔をするな、と俺は見えてるかどうかも分からないが、ロロちゃんに向けて親指を立てた。
「行くよ、ソード」
「任せとけ」
どこからそんな自信が湧いてくるのかも分からないが、俺はそう口にし、剣を握りしめた。




