海の覇者
「暑い……」
「文句を言うんじゃない」
ウィナからひとこと。
「ロロちゃん、冷やして」
「そんな無駄なことに魔力費やしたくない」
ロロちゃんにはあしらわれた。
「スター、なんかない?」
「海にでも飛び込んできたらどうです?」
スターよりなかなかいい発案。
「よし、それでいこう。アリス、行くぞ」
「なんで、私?」
「なんかついてきてくれそうだったから」
「そんな都合のいい子扱いするなら行かない」
アリスにフラれた。
「カルマさん。付き合ってくれません?」
「まず、この島を脱出することを考えたほうがいいんじゃない?それに、海にはもしかしたら、モンスターがいるかもしれないし、丸腰で行く気かい?」
カルマさんからごもっともな意見。今現在、俺を含めた6人でおおよそ、無人島に漂流中。いや、別に流されてないし、自分たちの意思で来たんだから、上陸?陸続きの時に来たけど。
だが、一週間のうちのわずか一時間という短い時間、今は遠き大陸をつなぐ道は今はない。
シークが孵化してから一夜が明けた。
割と聞き分けのいいやつで、夜はおとなしく眠り、そして今も寝ている。
なんか、早速飼い主に似てしまったのか、とても俺はいたたまれない気持ちになっております。
シークはいいとして、俺たちは、草木の生い茂ったこの島でも、比較的拓けた場所で休息を取っていた。
「う〜ん」
「どうしたウィナ?」
「な、なんでもない」
「なんだよ」
俺が一歩近寄ると、後ずさりをする。
「なぜ逃げる」
「い、いや……だからなんでもないから……」
「鈍い男は嫌われるよソード君。察してあげなきゃ」
「察する……?」
ウィナの一連の行動を思い起こすことにする。
まずは自分の体の匂いを嗅いでいた→それに気になった俺が話しかけた→ウィナは慌てて何もないことを強調した→俺が近づいたら俺から離れるように行動を起こした
「なるほど、俺に構い過ぎてアホが移ったと思ってんだな……これ以上アホを移されてたまるかと……」
「なんかものすごい勘違いをしてるね」
「大丈夫ですよ。今のはボケです」
「ぶっちゃけ真面目に移ってきたかも……」
「そんなこと言わないで!」
幾ら何でもあんまりだ。ただ、環境によりそうなってしまう事例はいくつもあるとかないとか。
「じゃなくて、1日ぐらい大丈夫だろ。洗わんでも死にやしない」
「次があと一週間後だったらどうするのよ!」
「あー」
忘れてた。俺は別に一週間水浴びせんでも平気だが、向こうは花も恥じらう女の子だ。やはり過敏ではあるのだろう。
「仕方ない。シークに頼むか」
「産まれたてに無理強いさせるな」
「ピーピー」
鳴いてるようにも聞こえるが、ただの寝息である。
「じゃあ、海に潜るか?」
「一日中入ってられないでしょ。しかも、髪傷めるわよ」
「剛毛の方が強そうじゃないか?」
「手入が余計に面倒になるだけなんだけど……」
「それもそうだ」
「じゃあ、アリスとロロちゃんだけ連れて自宅へ帰還します」
「こっちに戻ってこれないだろうが!」
「うう〜どうすればいいのよ」
「とりあえず海岸まで行こう。荷物まとめてレッツゴー」
「ピーピー」
「お前も起きろ」
「ピー!」
「シークいじめちゃダメ!」
「スリープ!」
俺が逆に寝かされそうだった。
とりあえず、全員起きたので、海岸へと向かうことに。
だが、気にしてるのか二人ほど若干後ろで歩いてた。
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「だいたいこの辺りだったよな?」
「かと言って、今日その日かどうかわかりませんし、もしかしたら、今日のいつかに通り過ぎてしまったのかもしれません」
「それ以前に、あのおっさんはどうやって判断してたんだ?」
「長年の勘というやつじゃないでしょうか?」
釈然としないが、そういうものであるなら、納得するしか手立てもない。
俺たちではいつ、干潮、満潮が訪れるか分からないのだし。
「しかし、潮の満ち引きって、1日の間に繰り返されるものじゃないのか?」
「多少変動があっても、道ができるほどの満ち引きは週に1回しか起きないとかそういうことでしょう」
「なるほどね……」
それ以前にあのおっさんはいつからあそこにいるのだろうか。国から追い出されたとか言ってたけど、それならかなり大罪でも犯したのか?
ただ、それならあそこまで飄々としていても違和感しか感じられないのだが。
「にしても、ロロちゃんはあんまり気にしないのな」
「何を?」
「女の子だと、シャワー浴びたりしないと気にならないか?」
「こう見えても……って、前に言ったかもだけど、アリスに拾われるまではかなり苦労してたから。それこそ人の姿でシャワー浴びれるようになったのだって最近だし」
「猫の姿で浴びても変わらないのか?」
「なんだかんだ汚れやらそういうのは反映されるみたいだし。だから、今は思いっきり人の姿を満喫するよ。きゃっほーい!」
テンションハイで、海に向かっていった。
まあ、あの子は自分の興味のあることならすぐ突っ走るからな。
さっきはそれを怒ったんだけど。今はいいだろう。危なくなったら、止めてやれるし。
「な、ウィナ。頼むぞ」
「ソードが海に入りたかったんじゃないの?」
「全員が全員海に入っててもいざという時対応できないだろ。俺たちでは荷物管理しとくから遊んで来いよ」
「なんか企んでないでしょうね?」
「できると思うか?」
俺はスターの方を指差して言った。
「それもそうだ。じゃ、何かあったら知らせてね」
「おっけ」
ウィナを見送り、俺は砂浜の上に横になる。
「暑い……」
結局、移動する前と言っていることが変わらなかった。
日差しが眩しく、照りつけているため、余計に暑く感じられる。
ああ、神よ。なぜ季節なんてものを作りたもうたのか。
まあ、ひとが生まれる前から地球は存在しているから、俺たちの方が適応しろって話なんだろうけど。
体を起こして、辺りを見渡してみると、スターとカルマさんが屈みこんで、何かしていた。
気になったため、俺もそこに行く。
「何やってんだ?」
「ああ、ソードさん。ちょうどよかった。ちょっとこれ飲んでくれませんか?」
「なんだこれ?」
「まあ、ただの水です」
「なんで微妙に含みのある言い方なんだよ」
「多少飲もうが死ぬ心配はないので」
「お前は今から何を飲ませようとしてんだ……?」
見た目は、まあ、普通の水だ。
気になることはこの辺のどこかに川みたいなところがあったのかということだが、こうして渡してくるということは、安全面では特に支障がないということだろう。
一口、口の中に含む。
その挙動をスターが睨みつけるように見ている。
「いや、スター。怖いんだが」
「何もないですか?」
「別に……これを飲むと強くなれるのか?」
「いえ、実際にただの水です」
「なんで飲ましたんだよ」
「実用できるのならば、これから使っていこうと思いまして。ただ、失敗作をポンポン作るわけにもいかないので、試作品をソードさんに飲んでもらいました」
「人を実験体にするんじゃない!」
とりあえず容器に入った水をスターに突き返す。
「何をしてたかって話でしたね。簡単に言えば、海水を普通に飲める水にしたんですよ」
「俺は海水のままでもいけるぜ」
「なら、地球上のありとあらゆる水が飲めますね。汚染地域のところに行って、浄化作業に努めてください」
「俺は選り好みできないの?」
「誰もやりたくないようなことをやるのが、ソードさんの使命でしょう?」
違うような気がする。
「でも、海水を飲んだところで死にやしないだろ」
「塩分が多量に含まれてますからね。それを証拠に、体の中に入りそうだったらむせかえるでしょう?」
「体の中に入り込む……なんかエロくないか?」
「だったらソードさんは栄養分なり酸素なりなって、少しは誰かのために貢献してください」
「俺はそこまでならないと人のために貢献できないのか?」
「ならば、これ手伝ってください。人手があっても、装置がなければ作れないんですから」
スターがどこから持ってきたのか、透明な容器に砂やら石を詰めたものを作っていた。
「これは何だ?」
「濾過ってわかります?」
「ろか?誰それ」
「人の名前じゃありません。そういう操作の名前です。このように水を入れる場所と受け止める場所に分けて、いくつかの砂や石を詰めて、このように海水を入れると」
近場にあった海水の入ったバケツをその容器の中へと入れていく。
だから、それもどこにあったんだよ。
そして、入った海水は少量ながら下の容器に水が滴り落ちていく。
「これって、海水が下にまた落ちてるだけじゃないのか?」
「その可能性を考慮してソードさんに被験体になってもらったんです」
「でも、これかなり時間かからねえか?」
「ですから、こうやってソードさんにも手伝いを要請してるんです。あんまり恥をかかせたくないですから」
「だが、これどれだけ出来そうなんだ?」
「やってみないことには分かりません。でも、最低、三人が一回ぐらい水浴びが出来ればいいと思ってます」
「もっとも、さっさと帰れればいい話だけどな……」
「つべこべ言わずに海水を汲んできてください」
「へいへい……」
どこから持ってきたかわからないバケツ二号機と三号機を渡された。
ちなみに一号機はカルマさんが使っている。
スターはその間に装置を作っておくそうだ。
「あいつらのために頑張ってやるか」
空のバケツを振り回しながら海の方へ向かう。
だが、調子に乗って振り回しすぎて、一個バケツがすっぽ抜けてしまった。
そのまま海へ漂流……
「待て待て待て!」
だが、バケツは待ってくれない。波の赴くままに流されてる。
「……諦めよう」
膝下まで浸かったところで退散。諦めが早いことも肝心かつ大切なことだよ。元々拾いもんだろうし、大丈夫大丈夫。
「なわけあるかーい!」
「…………?」
どこからツッコミが聞こえた。
俺の心の声にツッコミを入れることができる冴え渡ったやつはウィナぐらいだが、離れた位置で遊んでいたし、無理だろう。
じゃあ、誰だ?
とりあえず声がした方に目をやるが特に何かがいる様子はない。
「空耳か」
「いーや、空だ」
「は?」
急に影ができたと思い、顔を上にあげると、何かが飛んでいた。
……なんだあれ?
「どちらさん?」
あんまり慌てふためくのもかっこ悪いので平静を装う。
「海竜。この海の覇者と言ったところだ。性別はメスだ」
メスなのかよ。オスみたいなんですけど。
竜というぐらいだからゴツいのが原因だと思われます。
「え〜っと、それで何用で?」
「ゴミを捨てるでない」
「拾えなくなったんだよ。意図的に捨てたわけじゃない。なんならあんたが拾ってくれ」
「そんな小さいものを拾えるわけなかろう。人間がアリを潰さずに拾い上げるのは難しかろう?」
なるほど一理ある。
「で、その海の覇者とやらがゴミ一個でギャーギャー騒ぐんじゃないよ」
「ぶっちゃけすぐにでも出て行きたいところだったが、出ていく口実がなくて、ちょうどよかったのだ」
ぶっちゃけすぎだろ。
「で、本当の理由は?」
「そこに出来損ないのドラゴンがいるだろう」
ここに来てからというものの、再び眠りについたシークを見据える。
「まだ、生まれたばかりなんだ。目を瞑ってくれよ」
「どうやって目覚めさせた?」
「……こう、手をかざしたら?俺勇者だし」
「釈然としない……。たぶん、私の息子だ。ある日突然卵が姿を消した。孵化したのだと、探し回ったがどこにも見当たらない。そうして、今日まで探し続けていたのだ」
「…………」
どうしよう。それ、俺の責任じゃん。やはり、変なところから召喚してしまったわけだ。どうして、あの灯台の地下に召喚されてしまったのか分からないけど、謝っておこう。
「申し訳ございません。私が全面的に悪かったです」
「貴様は一体何を言ってるのだ?」
「あのですね……とある魔法がありまして、召喚術というんですがね。イマイチ原理が分かってないんですが、おそらく俺がそちらさんの卵をどこか訳のわからないところに召喚してしまったようです」
「貴様かー!」
「ひえーすいません!今日日まで存在自体知らなくて、ここにたどり着いてようやくピースが繋がったんです!」
「自分でやったことぐらいしか最後まで責任を持たんか!」
ものすごく正論を言われて何も返せません。
「……とりあえず、あなたのお子さんは返しますんで、一つお願いを聞いてくれませんでしょうか?」
「孵化させてくれたことだけは感謝するが図々しくないか?」
「ちょっと、仲間に相談してくるんで少々お待ちください」
海竜を残して、一時退避。
ドラゴンの子供、シークを巡ってなんだか、戦いが起こりそうだった。
濾過について
完全な真水にするにはおおがりな装置が必要だそうなので、簡易的なものでは真水は作れません。ゴミを取り除くのが精一杯です。
フィクションなのでそこまで追求はしてません。あしからず。




