思し召しは宝箱
見た目ほどに高い塔ではなさそうだが、寂れて、蔦も絡みつき、窓と思われる場所から、草木が入り込んでいてとても歩きにくい。
一階はそうでもなかったが、二階に来てそれは顕著となる。
「きゃ」
アリスが蔦に躓いて転びそうになるが、スターがそれを腕を掴んで阻止した。
「あ、ありがと」
「気をつけなよ」
……無愛想だなあいつ。妹が礼言ってんだから、もう少し言いようがあるだろ。
まあ、アリスが躓いたのは、ロロちゃんを腕に抱いてて、下が見にくかったからだろう。
でも、スターはそれを言わないし、アリスもそれを分かっていることだろう。
ロロちゃんは気づいているのだろうか。
「何もないね」
「こんな中途半端な場所には何をおいても意味はないだろ」
「なら、階段長くして一階と二階だけでもよくない?」
「休憩も必要だからね。ずっと階段ばっかり登ってても疲れてしまうだろう?かといって、低くしてもこの塔の意味をなさないだろうし」
「とりあえずは一番上に登ってみる必要がありますね」
そうは言ってみるものの、見た目と思っていたよりは、奥行きが深く、次の階へ進む階段はおおよそ、対角線上にあるようだ。
誰がこんなめんどくさい設計したんだよ。
蔦を切りながら進んでいるが、進みやすくなることはない。
「カルマさんも手伝ってくださいよ」
「いや〜僕は本来剣士ではないんだ」
知ってるし、自分で自己紹介してたし、そもそも剣なんかもってないからそこに期待をしてるわけではない。
「魔法で焼き払うなりなんなりすりゃいいでしょ」
「塔が火事になったらどうすんの?」
それもそうか。
一箇所燃やすだけといっても、飛び火すればそれが連鎖する可能性もある。
「火と水の魔法をいっぺんに出すとか」
「それが出来たら僕は今頃こんなところにはいないね」
原理的には通常は両手を使って魔力を制御しながら魔法を繰り出すものだそうだ。だから、理論的には二つまでなら可能だということだが、そもそも二つ以上魔法が使える人が少ない。
ウィナのせいで感覚が麻痺しているようだ。
「なんか私が悪いみたいじゃない」
「感謝はしてるけどな」
「悪いことを否定せんか!」
「いてっ」
謝るべきポイントがいまいちわからない。
「で、今日まではお前の言うことを聞く予定だけど、なんかやってほしいことあるか?今日限りなら出来る範囲で聞きつけるぞ」
「うーん。でも、別に今日じゃなくてソードは私の言うこと結構聞いてくれるし、今日に限ったことじゃないけど」
「あはは。女の子に甘いねえ、ソード君は」
「女の子には優しくしろってのが親父の教えでしてね。他のことはあんま守ったことないけどそれだけは旅を始めてから守り抜いてますよ」
「ふーん。そうかい」
「カルマさんこそ、そういう相手いないんですか?いい年でしょ」
「そこ突かれると痛いな。ごあいにく縁がなくてね。旅で見つかればと思ったけど、そればっかりは帰ったほうが見つかるかな」
「応援はしますが、ウチの子たちに手は出さないでくださいよ」
「君たちがそう目をギラつかせてちゃ、無理そうだね。大丈夫、僕はロリコンではないから」
「いや、ロリなのはアリスとロロちゃんだけですから。ウィナはもう高等部卒業する年ですし」
「ウィナちゃんは一筋だもんねー?」
「か、からかわないでください!」
「ハハハ。ほんと、君のところは可愛い子が多いなあ。羨ましいよ。思わず逆恨みで君をやっちゃいそうだ」
ホントに逆恨みだよ。しかも目がかなり本気だよ。
昼間ということもあって、薄暗かった下の階とは違い、光が差し込んでいるため、表情はとても確認できる。正直できない方が良かったです。
軽口もそこそこに歩いてると、ロロちゃんがアリスの腕から降りて、どこかへと走っている。
何か見つけたのか、それとも嗅ぎ取ったのか。
ロロちゃんを追いかけると、ロロちゃんが前足でなんかの箱をたしたししていた。
その仕草がとても可愛い。
顔をにやけさせていたら、引っ掻かれた。
「痛いな!」
「にゃー!」
どうやら怒ってるそうだ。さっさと開けろということだろう。
「鍵とか必要ないのか?」
「あ、開いた」
ウィナが躊躇いなく開けていた。もう少しは躊躇しようよ。何が出てくるか分かったもんじゃないんだから。
「ほら、見えるか?」
ロロちゃんを抱き抱えて宝箱の中を覗かせる。
お目当てのものはなかったのか、すぐに降りてアリスのところへ戻って行った。
「何かあったんですか?」
「まあ、たぶん宝箱」
「なぜ宝箱?」
「ダンジョンに宝箱のは付き物だ……と思われる」
「いまいち確証がないですね」
「どこにでもあるわけじゃないからな。ただし、あっても気にしてはいけない。それこそ、神様の思し召しと思え」
「先ほど無神論者を語っていたのはどこの誰だい?」
さて、どこのどいつでしょうか。
「人は都合のいい時には神様に頼る。これも鉄板です」
「まあ、そういうものだけど……」
「カルマさん。こういうのは軽く流すぐらいがいいですよ。ツッコミを入れてるとキリがないですから」
「会話のキャッチボールをしてこそ、コミュニケーションというのは成立するんだぞ。それを拒むとはどういうことだ」
「弱コミュ障のソードに言われたくないよね……」
「あれだね。ソード君は初対面こそ会話しないけど、慣れるとガンガンくるタイプだね」
「うちのソードは扱いにくい子ですいません」
「ウィナちゃんが舵取りしてるわけだ」
「おっしゃる通りです」
年下に頼らないとロクに会話が成立しないとでも言いたいのか。なんたる言い草だ。
ただし、事実でもある。
喋るならそちらからお願いいたします。
「で、結局、宝箱?の中身はどうするの?」
「宝箱で疑問符をつけるな。これはまごう事なき宝箱だ。ただし、持ってても自動消化されるわけでもないし、かさばるだけだし、どこかに転送できるわけでもないし」
「転送できるぐらいなら、私たちを魔王城に送ってるよ」
「まったくだ」
道具に適用できるなら、人にも応用できるだろという話だ。
これもデータ化されたものですって言われればそれまでだけど。俺たちは生身だし。
「……生身だよな?」
「なんでそこで聞く」
「触って確認していい?」
「させるか!」
拒まれました。当たり前だけど。
「にしても、ここでもモンスターは出ないようだね。出てもおかしくはないと思うけど」
「ですね」
ほとんどの人が未踏の地でもある。
魔王はいったいどうやって、自分の配下であるモンスターを回収したのだろうか。
それでも、一部のボスモンスターは残っているようだが、道端でエンカウントするようなモンスターは全くと言っていいほど見かけない。
「こうも静かだと、あんま来た意味もなかったかな」
「いや、そうでもないと思うよ」
カルマさんがそう告げる。そして、ある方向に指を指す。
「仲直り、させるんだろ?」
「まあ、でも、わざわざこんな辺境の地でなくても、もっと分かりやすいところでも」
「何が起こるか分からないところこそ、そういうチャンスも生まれるってもんだ。例えば、大人数で狩るようなモンスターの前に2人だけ放り出したところで、何もできやしないだろう」
極論である気がするが、いざとなれば、2人でもやれそうな気がする。
買いかぶりすぎだろうか。
特に大したものでもないから、2人は先に階段の方へと向かって行っている。
ついでに拾ったものは、この塔?の地図だったが、あって困るものでもないし、それを片手に次の階を目指すことにした。




