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魔王拾いました  作者: otsk
プロローグ
7/145

勇者、感覚を取り戻したり、戻さなかったり

 視線の先には、先日も対峙したモンスター、フットピッグ。寝てる間に攻めてくる様子がなかったところを見ると、ロロちゃんだけが出現権を持っているということだ。必要に応じて出していくのならば、他のモンスターが横槍を入れてくるようなこともないだろう。


「出したのは一匹だけか?」


「うん。レベルが上がれば複数体出せるみたいだけど、今は一匹しか出せないよ。最大で五体だって」


 見せてもらったところ、ロロちゃんのレベルは3だった。これにもチュートリアルみたいなのが存在するのか知らないが、普通に言うなればチュートリアルを終えてそのまま放置したようだ。

 あと、攻撃力、体力と言ったものが視覚化されている。無論、戦闘中にゲーム機を出すことは出来ないので、戦闘中以外での確認となる。数値が分かるからと言って、向こうの体力は表示されないみたいなので、本格的にロロちゃん専用のステータス表みたいなものだ。

 そういや、ゲーム中はどんなにモンスターの攻撃を食らっても装備壊れないよね。この世界はそんなことはなく、確かにある程度の衝撃は耐えてくれるが、下手に当たれば、やはり壊れてしまう。

 一応そのために予備を持ってたりはするが、かさばるし、重いしで大抵の人は持つことを好まない。

 余程の限り壊れることはないから、基本的には持たないんだがな。

 究極を言えば、モンスターから攻撃を受けなければ済む話ではある。

 それに、ロロちゃんが出す程度のモンスターの攻撃なら、壊れる心配はない。俺の内臓が壊される可能性はあるけど。

 ちなみに、召喚したものの、向こうも相手がいないので、その辺をウロウロしている。いわゆるテリトリーを作っているんだろうか。俺と一緒だな。だって、俺の周り基本的に人集まってこないからな。それとは違う?


「このまま茂みに隠れてても仕方ないから、早く行こうか。私だと一瞬で片付いちゃうから、二人だけでどうぞ」


 ウィナに言われるが、二人でようやく倒せる程度かい。

 しかも俺の武器に至っては、子供がその辺の棒を拾ってきたって言っても疑わないレベルの木の棒だぞ。これでなにを期待されるんだ。いや、むしろなにも期待されないか。

 俺の方に不服はない。弱くなってるのは事実だし、武器、防具に至っては一般人レベルだぞ。せめて、もう少しだけでも勇者っぽくしてほしかったものだ。もっと見た目にも拘って。その分、防御力をさげてもいいから。

 そんなハリボテを使う暇があるなら、普通に回避体制を取った方が早いというのが現実である。

 でも、さすがにこの防具のままというわけにはいかないので、どこかに着いたら買わんとな。実用性は兎も角。


「よし、ロロちゃん。行くぞ」


「そんな一般人みたいな格好の人に言われても……」


「分かってるから!そのうち勇者っぽい格好になるから今は我慢してください!」


「ソードの街の王様ってなんなの?」


 本当に何者なんでしょうね。王様という役職と、美男美女の子供がいることぐらいしか知らない。風の噂では、親父と旅をしたとかしてないとか。実力は意外に折り紙つき。誰による誰のための評価かは知らない。世の中知らないことだらけ。


「少なくとも、俺に対しては悪辣な王様だよ……」


 この格好が証拠である。イジメだろ。その代わり、俺以外には平等に扱っているようだ。事実、国民からの信頼は厚い。

 俺が執拗にこんな扱いを受けてるのは、理由として二つ考えられる。


 1.以前に親父と旅をしていたならば、親父に何らかの恨みを抱いて、俺にとばっちりがきている


 2.俺が姫と仲良くしているため


 どちらにせよ、理不尽な理由である。仮にも勇者として送り出したなら、手厚い待遇を私は求めます。

 そんな会話をしながら歩いていたら、さすがにモンスターに気づかれてしまった。

 初手は不意打ちで入れたかったんだがな。


「その武器じゃ攻撃が入ってもダメージショボそうだけど」


「まあ、事実そうだが」


 昨日はあからさまに挑発しただけで終わった。ウィナが片付けてくれたから良かったものの、いなかったら、退散するしかなかったかもしれない。


「ブルルル」


「おっと、敵さんも好戦体制だぜ。俺たちも構えるか」


「私、杖なんだけど。構えとか必要?」


「そういや、なにができるとか知らないな」


 ウィナに一瞬で片されたせいで、ロロちゃんの実力は未知数だ。いや、弱いことは分かってます。


「杖、ってことは魔法使えるのか?」


「教えてもらったけど……私のレベルが追いついてなくて、これぐらいしかできない」


 呪文を詠唱し始める。魔法を発動させるには必須な行動だ。魔法使いはゆえに、隙が生まれやすい。1対1なら、基本的に不利である。魔法使いはサポートする味方がいてこそ、真価を発揮するのだ。

 ウィナは詠唱スピードが異常なほど早いので旅の最後の方は手助けする間もなかったけど。でも、近距離で放つことはあまりないので、中~長距離が魔法使いはベストな間合いとなる。モンスター側に魔法使ってくるような相手はあまりいないし。飛び道具を使ってくるのはいたけど。

 でも、魔法を使えるということは、それだけ上位の種族とも言い換えることができる。魔王の時点で上位どころか、最上位、これ以上ないぐらい上だが。

 でも、ゲームだと結局勇者とか、人類に倒されるわけだし、どっちが上なんだろうな。


「そ、ソード!来てるよ!」


「ん、おお」


 向こうは直進しかしてこないので、横にずれればかわすことは可能である。


「きゃっ!」


 後ろにロロちゃんがいたこと忘れてた。俺がよけたことで、食らってしまったようだ。というか、モンスター、魔王の娘なのに見境ないな。


「ムキー!ソードよけないでよ‼︎」


「無茶苦茶いうな。こちとら一般庶民の装備だぞ。当たったら色々とキツイんだ。文句だったら呼び出した本人にも攻撃するそいつに言ってくれ」


 まあ、頭が悪いというのは分かった。本当に本能の赴くままに生きてやがるな。

 敵意をむき出しのままの、モンスターはゆっくりと向きを変える。

 のそ、のそ。

 いや、遅すぎんだろ。どんだけ、方向転換下手くそなんだ。

 のろのろ方向転換してる隙に後ろに回り込んで、一撃を加える。


「プグゥ!」


 低いうめき声が、広い原っぱに響き渡る。倒すまではいかないが、体制を崩すことに成功した。

 ちなみにロロちゃんの魔法はさっき突っ込まれたせいで、発動に失敗しました。


「ロロちゃん今度こそ!」


「やってる!風にまつわる、氷雪の精よ、今ここに力を与えたまえ!『エクストラ・ブリザード』!」


  大層な前置きと、豪勢な魔法名の割りには、しょっぱい冷たい冷気が送り込まれただけだった。


「プグゥ」


  あれ?心なしか効いてるように見えるぜ。


「何故だ?」


「ちょっと私がなにも考えないで適当に魔法だしたと思ってるでしょ」


「うん」


「即答かい!少しはためらえ!」


  ためらったところで、出る答えは一緒だろう。

  しかし、弱ってるところを見ると、今が攻めどきだ。雑魚モンスターに苦戦してる時点で勇者の体裁すら保ててないような気がするけど。


「オラくたばれ!」


  もう戦法もなにもなし。ひたすらに殴りつける。剣だったら、角度、距離感、攻撃後の対処とか分かるけど、木の棒じゃひたすら殴りつけるぐらいしか戦法ないしな。

 そして、ビシバシ殴ってる間にモンスターは力尽きた。


「中々、凄惨な光景だったような……」


「攻撃しなきゃこっちがやられる。弱肉強食だ」


「なんとなくあれもプログラム化されたような感じがしたけどね」


  茂みで見ていたウィナがこちらに来て声をかけた。


「プログラム化っていうとなんだ?異世界から召還されたわけではなく、そこにあるものとして姿形が作られたと?」


「システム知らないからなんとも言えないけどね。ここに留まっててもなんだし、先に行こ」


  こうして、俺たちの目的がイマイチ掴めない旅は続く。

  モンスターが出る要因は分かったし、わざわざ魔王のところへ行って、無駄な労力を使わなくてもいいんだが……。


「ソード。早く行こうよ」


「ん、そうだな」


「考え事?」


「大したことじゃないから気にするな」


  そういや、ロロちゃんが城に帰る方法を教えてくれって言ってたな。

  仕方ない。これにかこつけて、魔王に恩売っておくとしてやろう。

  戦闘の勘を戻しながら、次なる目的地へ歩き出した。

 

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