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魔王拾いました  作者: otsk
魔法使いの国編
61/145

戸惑い

 連日、ミーナちゃんの家である屋敷にお世話になっている。

 クエストに出ようにも、要のウィナが疲労で休養をとっているため、無理強いは出来ない。

 出発しようにも同様の理由だ。

 疲れてる状態のやつを引っ張り回すほど、非情なことはない。

 むしろ、あいつはずっとがんばってきてたんだ。俺たちが思ってるなんかよりもずっと。

 ただ、あまり長い期間お世話になっているのも気が引けるのも事実で、なんとなく落ち着かないでいた。

 そして、俺は見つからないように、屋敷の外へと抜け出し、今はあまり使うことがないと紹介された、カフェテラスという洒落た場所に腰を落ち着けた。

 使わないと言っても、外観上は綺麗に保っておくそうで、二、三日に一度は手入れをしているそうだ。

 だから、草が伸び切ってることはないし、見た目にも綺麗な色とりどりの花が派手になり過ぎない程度に、慎ましやかに咲いていた。

 こんなに綺麗なのに使わないのはもったいないな。

 夏の日差しは厳しいが、植物のお陰なのか、玄関周りよりは幾分か涼しく感じられる。

 俺はここに座って何をしているのだろうか。

 動けないウィナを見舞ってやってもいいだろう。

 スターと剣の修行をしてもいいだろう。

 だが、今やるべき最善と言われたら、そうなのか?と問いたくなる。

 ウィナだって、疲れているだけなら、わざわざ俺がついてやる必要もない。俺だと、色々と遠慮するだろう。アリスがついていた方がよほどいい。

 スターは俺と相手したところで大した経験値にはならないだろう。あいつも今の俺とやる気は起きないだろうし。

 だが、今の俺には、戻った力がある。戻る前とどれぐらいの差分があるか分からないが、使えるのなら、慣らしておいた方がいいのかもしれない。

 でも、それで他の奴らと差が開いたら?

 全てが元に戻った時、あいつらが同じレベルに達していればいい。

 だが、俺だけが強大すぎる力を手に入れたら、どうなるんだろうか。

 ……考え過ぎか。自分がそんな大それた力を保有していたとも考えにくい。後はせいぜい、パワーと固有スキルぐらいか?大幅に上がりそうなのは。体力が少ないのは元からである。

 いや、それでも平均よりはあると思いたいけど。

 魔王を追い詰めることができたのも周りの人が強く、サポートしてくれてたお陰なのかもしれない。

 あいつらは、それに足りうる存在なのか。

 だが、やはり強さというのは、その中心となるやつに引っ張られるようにして、比例して強くなっていくものだ。

 その中心が俺なはずなのだから、俺自身が強くなければ、周りは危機感を覚えないだろう。

 ……俺が一番腑抜けているのがいかんのか。

 本当に俺が中心となっているのか疑問に思ってきた。俺じゃないような気がする。だから、俺自身もなんとなくこうやって腑抜けているようにも感じざるを得ないのだ。

 では、誰が中心なんだ?という話になってくるが……


「ソードー!」


「ソードさーん!」


 ちんまいのが二人ほど俺の名前を呼んだ。

 きっと、俺たちのパーティの中心はこの子なんだろうな。


「どうした?二人して」


 椅子にもたれかかったまま、二人の方に顔を向ける。

 そして、二人して飛びかかってきた。

 そのまま、椅子は傾き押し倒される。


「いつつ……なんだ、二人とも」


「遊んで!」


「宿題もようやく終わった!」


「スターは?」


「仮眠を取るって言ってました。私にずっと付き合ってくれてたんで疲れたんだと思います。アリスさんはウィナさんを看病してるので」


 そこで、何もしてない暇そうな俺にお鉢が回ってきたってことか。

 まあ、確かに暇だけど、この年ぐらいの女の子が、もうすぐ二十歳にでもなる男に何をせがんで遊んでもらおうというのか。


「魔法の練習しよう」


「俺が出来ないことを分かって言ってるのか?」


「だから的」


「はい?」


「的をお願いします」


「お引き取り願いまーす」


 二人の首根っこを掴んで、連行を始める。

 害はないとは聞いたけど、好き好んであたりにいく奴はただの変態である。


「仕方ねえな。的ぐらいなら作ってやるよ。ミーナちゃん、材料あるか?」


「いっぱいありますよー。こっちに来てください」


 ミーナちゃんに連れられて、どこかへと歩いていく。屋敷の地図が頭に入っているわけではないので、下手に歩くと迷子になりそうだ。

 そのためなのか、そういう意図とは全く関係なしなのか、ロロちゃんとミーナちゃんは仲良く手を繋いでいる。

 ただ、ロロちゃんは頭にツノが生えてる以外はほとんど人間なんだよな。見た目的にも、生活的にも。

 魔族も人間と同じように、その形態が生きていくのに好都合だということで進化してきたのか、どこかで人間と交わった魔族が分岐して、そういう魔族が生まれてきたのか、そもそもロロちゃん自身の今の姿は本当の姿ではないのか。

 実際、魔王も何度か変身をしていた。ただ、初期状態も人間に近い形をしていたし、人の言葉を普通に理解していたので、さすがに魔王と言ったところなのか。

 これだけを見れば、魔族の方が人間よりより高度な種族と感じざるを得ない。

 ただ、大人数で戦うという頭がないのか、それとも何かそういうプライドを持っているのか、人間が魔族に敗れたという史実は存在しない。

 いや、存在しないだけで、実際にはいくつかそういうこともあるのかもしれないが、きっと報告がされてないのだろう。

 自分たちに都合の悪いことは切っていく。

 人間はそうして、自我を保ち、自己を守っている。

 魔族だと言い張るロロちゃんは今こうして人と手を取り合ってる。

 それは美しいことなのだろう。

 今までに温もりを避けていた反動なのかもしれない。

 でも、今こうして一時でも彼女は夢を見ているのだろう。

 二人して、倉庫に入り込んだ後を俺は外で待っていた。


「け、けほけほ」


 そして、二人で角材を抱えて出てきた。


「これでいいですか?」


「あと、板があればいいかな?俺も探そうか?」


「い、いえ。作ってもらうので私たちで探してきます」


 やはり、少し年の離れてる俺たちより、見た目的にも精神的にも近いロロちゃんのほうが、相手をするのにはミーナちゃんとしても気兼ねがないのかもしれない。

 年上だとどうしても遠慮しちゃうしな。

 再び倉庫へと入って行った二人を待つ。

 こういう時は無理に手伝うより、自主性に任せた方がいい。下手に大人が介入しようとすると「何あの人」的なことになるからな。

 今度は別々に出てきた。大して重いものでもデカイものでもなかったのだろう。


「持ってきました〜」


「お、重い……」


 ミーナちゃんは板と釘、ロロちゃんは金槌を持ってきていたが、それを両手でフラフラと寄ってきた。

 危なっかしいな。


「ほら、ロロちゃん、俺に頂戴」


「う……ん……」


 ガッ


「ヅアアアアッ‼︎」


 脛に鈍い痛みが走った。勢いで言えば鋭いのだが。電気走ったし。

 痛みで悶えていたが、あれ?電気って頑張れば体内で生成できるんじゃね?とかバカなことを考えていた。

 だが、痛みは引かない。


「わわっ、ゴメン、ソード」


「謝る前に治して」


「私、回復魔法使えないし」


「わ、私でよかったら……まだ人に使っては本当はいけないですけど」


「そんなんこの国での話だろ!他所もんの俺には関係ないから!」


「は、はいっ!」


 飛び跳ねるように、ミーナちゃんは俺の元へ駆け寄り、詠唱を始める。

 たどたどしいが、しっかりと間違えないようにしているのだろう。

 今は戦闘ではないので、細かいことはなしにしておく。

 ミーナちゃんのかざした手に光が宿り、俺の患部へと当てていく。

 回復魔法というのは大体こんなもの。ウィナのレベルになると、対象に向けるだけで、わざわざ近寄ってやる必要も無くなってくる。

 近いほど、効率的にはいいのだけど。

 光がなくなると、魔法はそこで終わる。

 幸い、青タンにもならずに済んだ。


「ミーナちゃんすごいな。回復魔法とかかなり難しいんだろ?」


「え、えへへ。ばあやに時々教えてもらってるんです。学校だと基礎的な部分しかやらないので」


 そもそも、できる人が少ないのだ。

 だから、基礎的なことだけを教えて、自分に向いてるかどうかを判断する……ということをウィナから聞いた。あいつ、万能過ぎ。


「ごめんなさい、ソード」


「いいよ。俺も不注意だったし。危ないと思ったら、頼るんだぞ」


「うん」


「よし、簡単に作るか、そっち押さえてて」


 他にもノコギリとか、魔法が栄えた現代においても未だに活躍する、工具を持ち出す。

 まあ、魔法は自然現象的なものの延長なので、切るとか殴打とかいったことはできないのだ。

 ギーコ、ギーコ


 ーーーーーーーーーーーーー


 二時間ほど経過し、後は釘を打つだけになった。

 そこで、ばあやから昼食のお声がかかる。


「みなさん、もうご飯ですよ」


「ええーもうちょっとなのにー」


「あと、十分あれば終わるんで先に戻っててください。ついでにこの子も連れてってあげてくれるとありがたいです」


「すぴー」


 さすがに飽きたのか近くのベンチで眠りこけていた。

 惰眠が多い子だ。


「分かりました。お嬢様をお願いしますね」


「了解しました」


 うちのお嬢を担いでもらって、ばあやは戻って行った。

 少し熱気がこもり、汗が滲んでいたが、すぐにミーナちゃんが拭い取ってくれる。


「ありがとな」


「いえいえ、これぐらい」


 トントン、トントン


 これだけの表記だと、釘を打ってる音じゃなくて、ドアをノックしてる音に聞こえなくもない。

 かといって、ドンドンとかおかしいし、他にいい擬音があれば有効活用するのだが、いかんせん、他にいい音がない。

 最後の釘を打ち終えると、的を立てる。

 うん、中々にいい出来栄えだ。旅の前に、日曜大工とか手伝ってよかった。今、この瞬間だけ感謝するぞ親父よ。


「完成ですー!」


 ミーナちゃんが両手を上げるが、背が足りないため、どうやっても俺の首程度までしか届かない。

 多分、ハイタッチがしたいんだろつということで、その手とタッチを交わす。


「うう……ソードさんの背が高いせいで私、若干傷つきました」


 割とどうでもいいところで傷ついていた。背が低いこと気にしてたのか。


「まあ、成長期もそのうちくるだろ。俺は高すぎるよりは、ちょっと小さいぐらいが可愛いと思うけど」


「な、なんか照れますね」


「じゃ、とりあえず、これは隅の方によっけといて、お昼食べに行こうか」


「はい!」


 無邪気な少女の笑顔を見て、この子と過ごせるのもそう長くはないことを心の何処かで感じ、一抹の寂しさを抱いていた。

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