力の欠片
俺は特に何をするでもなく、屋敷で与えられている客室のベッドに横になり、天井を見ていた。
無為な時間だ。
考え事をしてるって言えば、かっこはいくらかつくのだろうが、俺に考える頭を持ち合わせるのも無理な話だ。
魔法使い……ね。
かつては人間兵器とまで呼ばれ、恐れられた存在。
それは、人に傷を負わせることが出来たからこその話だ。
今の魔法に人を傷つける作用はない。
だれが考案し、それを実用化させたかは知らないけど、ありがたい話だ。
ふと、扉をノックする音が耳に入った。
「どうぞ」
「ここでしたか」
「スターか。なんか用だったか?」
「いえ、あなたのことですのであまり気にはしてないかと思いましたけど、念のためと思いましてね」
「ああその通り。別にんなこと気にしちゃいねえよ。昔の史実を俺たちが変えられるわけでもないし、でもって、あいつが俺たちを害するために動くかという話だ」
「ありそうもないですね。あの人は優しいですから」
「俺に付き合ってる時点で相当なもんだぜ」
「本当ですね。いくら、幼馴染とはいえ、愛想つかしてもおかしくはないレベルだと思いますけど」
「お前は喧嘩売りに来たのか⁉︎」
「そういえば、あの時のやつを覚えてますか?」
「あ?悪いが、自分に都合の悪いことは半日経つと忘れる質なんだ」
「あなたも僕に喧嘩売ってるようですね?」
一触即発の雰囲気を漂わせる。屋敷の一室。
だが、ここで暴れまわって、家財を壊すわけにはいかない。ここは上の俺が穏便に済ますべきだな。
「まあ、少し話あああ‼︎」
右ストレートが頬をかすめていった。この野郎。話し合う気なんざさらさらないな?いつからこんな喧嘩っ早くなった。
「破壊しなければいいんですよ。すなわち、あなたが今のうちに沈んでくれればいいんです」
「いつから師匠をそんなにぞんざいに扱うようになりやがった!」
「まあ、さすがに冗談ですが」
冗談では済まされないような攻撃だった気がしますけど。
直撃してたら、鼻折れてたな。
「気にしてないならいいです。では、僕もまだ読書が途中なので読んできます」
枕元に刺さってた腕をどけて、スターは立ち上がり、出て行った。
「ったく、ロクなやついねえな。俺の周り」
せめてもの良心がウィナしかいないのはどうかと思う。
その現状に少し辟易しながら、仮眠を取ることにした。
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身体を揺すられている。
その感覚は何度も経験してきた感覚だ。
ただ、今はまだ朝ではな……
仮眠をしていたことをと思い出して、身体を起こした。
「うわ、起きた」
「まるで起きない方がデフォルトみたいな言い方だな」
「まあまあ、そう邪険にしないで。用意、できたよ」
「……お前、なんか変わった?」
「わ、分かる?」
「いや、なんとなくだけど……」
姿が変わった感じはしないが、ただ、雰囲気が変わっている気がする。柔らかいはずなのだが、裏に妖艶さが混じったというか。
「大丈夫。心配することはないよ。ついてきて」
ウィナに手を引かれて、案内される。
屋敷というだけあり、色々な用途の部屋が存在している。
魔法陣を作ったという部屋もそのための一つなんだろう。
案内された部屋は、薄暗く、何年も使われていなかったのか、少し埃っぽさが残っていた。
ただ、描かれた幾何学模様の周辺だけは、掃除して、いかにも今使いましたという感じが出ている。
俺の力を取り戻すための魔法陣を描いたのだろう。
ただ、その前に一回描かれていたのか、消し後が残っていたが。
「お前と、ばあやさんだけか?」
「まあ、他の方はいらっしゃってもしょうがないですから」
ばあやさんはなにか、意味深そうな表情をして話す。
いや、俺の力を戻すだけですよね?
「言っていませんでしたが、それなりにリスクはあります。戻ったところで、その力を扱い切れるかどうかはまた別物ですので」
「いいっすよ。現状よりマシだ。扱い切れないなら、慣らしていけばいいし」
「楽天家なのですね」
「元々です……」
そして、何故俺は若干けなされている気分なんだろうか。俺、今そんなに変なこと言ってませんよね?もう少し危機感を持てということかしら?
「今から儀式を始めます。基本的には、ウィナ様がやりますが、私は補佐としてここにいます」
「初めて……だよな?」
「やったことはないよ。ばあやさんに手順を聞いただけ。だから、ソードが実験体一号」
いたずらっぽく、はにかむ俺の幼馴染。不安を覚えざるを得ないが、失敗してもこいつなら俺は許せるだろう。
人選として、こいつを推薦しておいてよかった。
「次、なんてことはないといいんだけどな」
「最も、人間に害をなす魔族がこの世界にいなければいいだけの話なんだ。現に今も、そういう存在が認められている国もある。ただ、それも一部だ。全世界が認めてくれることなんて無理かもしれねえけど、俺はいつかそうできるようにしたい」
「そうだね。逆もまたあるかもしれない。共存できる未来なんて無いかもしれない。でも、存在している以上は誰かが足がかりにならないといけないもんね。……そのために、魔王と戦うんだもんね」
「ああ。まだ、これを戻しても残り六個だ。無くても、大丈夫ならいいけどな。今の俺じゃ、そうもいかねえし」
「クス。そうだね。じゃあ、始めるよ」
俺は指定された位置に座り、儀式の開始を待つ。
俺の力の欠片は、ウィナの手にある。
魔法を詠唱し始めるとともに、その欠片は宙へと浮かび、不可思議な光に包まれる。
俺は視界を暗くした。
あいつを信頼しよう。
そうすれば、すぐに終わる。
しばらく目を閉じていると、チカラが湧き上がってくる、そんな不思議な感覚に陥った。
近くで、誰かの荒い息遣いが聞こえる。
それを確認するために目を開いた。
そこには、杖に寄りかかって、膝をついているウィナの姿があった。
「おい、ウィナ!大丈夫か!」
「う、うん。大丈夫……」
「初めてでしたので、こんなものでしょう。これには、多大な魔力を一度に消費しますので、慣れないと、一気に疲労してしまいます。ですが、私の力を借りずとも全部自分でやり通したのは素晴らしいことです」
「はあはあ……」
それでも、これほどまでに疲弊しているウィナは初めて見た。
俺は、ウィナの身体を抱きとめる。
大量の汗をかき、少し涙が滲んでいた。
「ソー……ド……。何ともない?」
「バカ、こんな時まで人の心配か。俺は何ともない。お前は少し休め。後、汗かいてるな……。アリスに頼んどくよ」
「ありがと……」
「ソード様、部屋へ連れて行ってあげてください」
「分かってますよ」
すでに疲れで眠ってしまったウィナを背負って、部屋へと連れて行く。
力が戻ったのか、脚力だけは以前よりマシになった。心なしか若干太くなってねえか。
良い傾向だと、捉えることにし、ウィナたちが泊まっている部屋へと辿り着く。
アリスたちはまだいなかったようで、部屋は暗かった。
額に滲んでいた汗を拭き取ってやり、それからベッドに横にさせる。
ウィナは薄目を開いていた。
「起きたか?今、アリス呼んでくるから」
「ありがと……がんばってね、ソード」
言葉の真意は掴めなかったが、それに反射するようにして、俺は返答した。
「ああ、お前も頑張れよ。俺がお前を守るから」
聞いていたのかは分からないが、再びウィナの瞳は閉じていて、寝息を立てていた。
無防備な幼馴染の姿を見るのは初めてかもしれない。
ただ、それも俺のためにしてくれたことの代償だ。
その事実を受け止めて、頭を撫でてから部屋を出た。
頭を撫でた直後のウィナの顔は綻んでいるように見えた。




