侵略のすすめ
謎の人間界侵略アプリによって、人間界が侵略されかかっていたが、ロロちゃんの資金的理由により、停滞中。
思ったが、わざわざロロちゃんに預けなくても魔王本人がやればよかっただけじゃないのか?
なぜわざわざアプリ形式にして、遊び感覚なんだ。
「そのあたり議論していこうか」
「どうでもいいけど、ロロちゃん起こしてからにしようよ」
一番最初に眠りこけたのに、一番長く寝ている。寝る子は育つっていうけど、人間準拠じゃないだろうから寝ても育つかどうかは不明なところだ。
それにしても、寝る時間が短くなっているのは爺さん化が進んでいるんだろうか。やだよ、こんな年でお爺さんなんて呼ばれるの。
シワもできてないし、腰も曲がってないよ?
俺に対しての意見はやはりどうでもいいので、さっさとロロちゃんを起こすことを試みることにする。
眠ってる限りは、人間の女の子と変わらない。ウィナもこんなころがあったな〜。交互に見比べるも感慨深い。
「こっち見てなにニヤついてるの?王様にロリコンが旅に出てますって報告するよ?」
「いや、昔々はこのくらいの年になるとすでにお偉い様の嫁に見初められてたりもするから、まだ許容範囲だろう」
「現代社会では結婚年齢に満たない子供に欲情することをロリコンと呼ぶらしいよ」
「待て。可愛いとは思うが欲情はしてない。ついでにロリコンはロリに嫌われることを一番嫌うからな。イエスロリ、ノータッチロリを掲げてるんだぞ」
「じゃあ、触るな」
「俺はロリコンではないので、抱っこぐらいはします」
抱きかかえてもぺったんこなので何も問題はない。本人は気にしてるかもしれないけど、俺は気にしない。
ついでにロリに近い言葉でペドというのもある。
こっちはロリよりさらに対象年齢が下がるよ。詳しいことは調べなくてもおそらく君の人生には影響しないから調べなくてもいいよ。調べる時は自己責任だー(棒)
ロロちゃんを抱きかかえた俺は、テントの外に出し、日の光を浴びせる。
「ギャー‼︎焼けるー‼︎溶けるー‼︎」
「大丈夫だ。体は存在してる。溶けてもない。それは君が溶けると錯覚しているだけだ」
とりあえず目は覚めたようなので、テントの中に戻す。
ロロちゃんの目は俺を冷ややかに見つめていた。
いや〜、照れるな。可愛い子に見つめられると勘違いしちゃうぜ。
「殺す気か!」
殺気でしたね。女の子に嫌がらせをする趣味はないよ。
「やっぱり魔王の一族は日の光がダメなのか?」
「ダメに決まってんでしょ。できる限り肌隠してんだから」
その割りにスカートは短いですけど。
ローブを羽織っているから多少はいいのだろうか。
なんか紫外線を気にするおばちゃん世代みたいな言い分である。
まったく、子供が成長するためには日の光を浴びることが一番いいというのに。
棒切れのように細く、軽くつつくだけで折れてしまいそうなヤワな足を見て、俺は心配をしてしまう。魔王の娘だし、勇者に心配されたくなんかないだろうけどさ。
さて、目も覚めたようだし、議題に入っていくとしよう。
「ロロちゃん。このアプリさ、そもそもなんでロロちゃんの元に渡ったんだ?お金の概念すらあやふやなのに課金制のものだし。無料でやるなら、おそらくほとんど進まないだろうな」
「私に聞かれても……パパが自分でやればいいだろってこと?」
「勇者の俺が言うことじゃないけどな。こんなもん作ってるなら、自分で侵略した方が手っ取り早いだろ」
初期の方は、それこそ雑魚モンスターしか出すことができない。ロロちゃんにやってもらうなら、最初からものすごく強い、それこそ、魔王自身に匹敵するほど強いものを用意してやればいいだけの話だ。
「わ、私の強さに比例して強いモンスターが使えるようになるんだよ」
「その理屈だと、ロロちゃんものすごく弱いと言う話だぞ?自分で認めて悲しくないか?」
「ソードだって弱いじゃん」
「よし言ったな。言ったが今、決闘だ。手加減はしないぞー。ロロちゃん俺より100年以上長生きしてんだからなー」
「じゃあ、年上だから敬って」
無理な話です。見た目ロリだし、若作りしてるわけでもないし、そうすると赤ちゃんの期間クソ長いな。下手すりゃ人の一生にも……さすがにいいすぎだな。今の人は80は生きると言われてるし、それでも約四分の一の期間はその計算だ。
あるいは、ある一定まですぐ成長して、そのあと停滞したからまた成長するとか。第何次成長期があるんだよ。
「はいはい。両方弱いと言うことでオーディエンス」
「オーディエンスってなんだ?」
「観客」
どこにもいませんよ?俺に観客がつくほどの人気があるとは思えない。
「そういうウィナはどうなのさ?」
「ほほう。張り合う?」
「望むところ!」
「お〜い」
俺の制止も聞かず、勝手にドンパチを始めちゃったよ。
すぐに決着つくだろう。
俺はそう決め込んで、まだ昇り始めたばかりの日の光に目を細めながら、観戦することにした。
3分後……
うん。案の定、戦闘は早くも収束した。
ロロちゃん、果てしなく弱い。
根本的に力が弱すぎる。
この調子じゃ、夜になって本調子になっても瞬殺だろうな。この世界の侵略は夢のまた夢だろう。
「うう……まだ日が高いから本調子じゃないんだよ……夜になったら本気出す」
一体どころから君のそんな自信が出てくるのか分からないんだけど。
しかも、ウィナもかなり遊んでたし、本気でやってたら消し飛んでるレベルだし。
向こうは本気でやってたかもしれないが、ぶっちゃけじゃれあいのレベルだろう。魔法だって、最初に一番弱いやつ使っただけだし。それですら、食らって息絶えだえになってたけど。
ちなみに敗因は体力不足。三分間ですら全力で動けない残念な子だった。だから、子供はちゃんと外で遊ばなきゃならないんだ。
「はい、余興は終わり。このアプリについて話し合いだ」
「何を話すの?昨日終わったんじゃなかったの?」
「使用方針だな。このまま使っちゃいけませんじゃかわいそうだ」
「でも……そっちには迷惑じゃないの?」
ロロちゃんは申し訳なさそうに上目遣いでこっちを見る。
やめて、そんな目で見ないで。俺目覚めちゃいそう。やっぱり、ロリは最高だぜ!
心の中で思っても、口には出せないので、あくまでも努めて平静にロロちゃんを諭すことにしよう。
「俺と結婚してください」
「おいこら、クソ勇者」
「滑った」
「何がだ。お前の存在がか?こら」
ウィナちゃん。いつからそんな汚い言葉を使うようになっちゃったの?お兄ちゃん、悲しいよう。
「ろ、ロロちゃんはいいの?」
「急に言われても……ソードのことよく知らないし……」
「あ、拒む気は無いのね」
いっそのことハーレムはどうだろうか。何人以上でハーレムって成立するんだろう?
「ロロちゃん、考え込まなくていいよ。勇者の戯言だと思って流してくれ」
「えっ?も、もう!そんなこと分かってたんだから!結婚してくださいって言われてちょっと嬉しかったなんてことは無いんだから!」
うんうん。そうだよね。勇者の戯言なんて気にしちゃダメだよ、魔王の娘もあろう子がね。
でも、ここまで純な子だと、120歳だということを忘れてしまいそうだ。それも自己申告のものだし、本当は120歳ではないのではないかと勘ぐりたくもなる。
魔界では、こっちの一ヶ月が一年に相当するとか。それなら、あの容姿で120歳というのも頷ける話だ。
「そ、ソードは好きな人とかいないの?」
「可愛い女の子なら大概好きだぞ。あと俺にかまってくれる子」
「私、可愛い?」
「ああ、めちゃくちゃ可愛い。正直あの魔王の子供とは思えないな」
「えへへ。ママ似でよかった」
「ママ?お母さんはいったい誰なんだ?」
「えっとね。確か、珍しい種族で、エルフだったかな?でも、人間とのハーフとか言ってたよ」
「エルフね……」
いわゆる妖精の種族だ。個体数は少なく、その種族の作る薬はどんな病、傷をたちまちに治す万能薬で、エルフの羽を使った薬は不老不死になるという眉唾の噂もある。
一度お目にかかりたいと思ったが、旅の間では、ついに叶うことはなかった。
ただ、気性が荒いのか、人間を見るとたちまちに襲撃してくるらしい。
「確か、エルフって羽を狙われて人間に個体数を減らされたとかで、深い執念を抱いてるとか」
「確か、エルフって羽を取られると死ぬとか。その羽もエルフから離れたら消滅するから、取っても意味がないことに気づいて狩りを辞めたんだよな」
気性が荒いのも、そのせいだよな。普段は温厚なのかもしれない。エルフって言われるとそんなイメージ。容姿は耳が尖ってて、それで背中に羽が生えてる。
「私のママは置いといて、このアプリでしょ」
俺たちの前に携帯ゲーム機を見せつける。アプリ名『侵略のすすめ』。イカちゃんとか襲って来そう。まずはここから征服するでゲソ!なにそれ、可愛い。
それにしてもアプリ名だけ聞くと、侵略のノウハウしか書かれてなさそうなアプリだな。しかも、どういうシステムでモンスターが出現するのかもイマイチ分からん。
このタイプのゲーム機が出たのもここ数年の話だし、向こうにそれほどの技術が進んでいるとは思えない。
でも、モンスターが現れなければ俺はいつまでも弱いままだ。
「もしかしたら、そこに表示されてるのはロロちゃん自身のステータスじゃないか?」
「どういうこと?」
「実際、ウィナと戦ってどうだった?」
「次は勝てる!」
嘘をつくな。今の段階じゃ、ちょっと力が解放されたところですぐに一蹴されるのが目に見えている。
「まあ見栄張らずに現段階で、正直に答えなさい」
「うっ……。手も足も出ませんでした」
「正直でよろしい。魔王の思惑は分かんねえけど、ロロちゃんも強くなって欲しいと思ったんじゃねえかな?」
「どうやったら私のレベルは上がるの?ソードたちみたいにモンスター倒すわけじゃないんだよ?」
「しゃーなしだな。ロロちゃんもモンスターを倒していくんだ」
「うーん」
迷っているようだ。
無理もない。元は、同じ世界の仲間であるはず。手先として使ってるとはいえ、心を痛めるところがあるんだろう。
「まあいいや。事故ってことで」
それでいいのか。魔王の娘よ。血も涙もねえな。無邪気なことは恐ろしきかな。
「よし、いでよ!モンスター!」
適当にタップして、モンスターを呼び出すらしい。適当な感じだがこんなのでいいのだろうか。下手したら街の中とかに出現するんじゃ。
「うー。街の中は攻め込めないよー」
なんて親切設計なんだ『侵略のすすめ』。ちゃんと街は攻め込めないようになってるのか。そのうちダンジョンとか勝手に作ってそうだな。なに?勇者のくせになまいきだ?勇者だからこそ、生意気にいかないとな。怖じ気ついたら、魔王の討伐なんてやろうなんて思わないぜ。
「うーん。じゃ、ここでいっか」
決定したようだ。
近場で何か光の柱が上がった。あんな感じで出現するのな。結構凝っている。出てくるのはショボくさいモンスターだが、この際文句は言えない。
テントを片付けて、光が上がった場所へ向かう。
そういや、俺の武器どうしよう……。