魔女の系譜
ソードの助言から、私はばあやに連れられて、魔法陣の作成へと赴いた。
私自身、魔法使いになったことは後悔していない。
そして、ばあやさんが言っていたことだって、学校の授業では習わないが、ちょっと昔のことを調べれば判ることだ。
私がそれを知ったのも、魔法使いとして認定された後だったけれども。
それを知ったからと言って、取り下げてもらう気もなかった。
ただ、私はあいつと肩を並べて、手を取り合って、助け合いたかったから。
魔法使いがどんな存在が知った後も、軽蔑することなく、それこそ私という存在を受け入れてくれた。
なら、私は立ち止まることなく、さらに出来ることを増やすべきなのだ。
努力に際限などない。
限界を認めたら、そこで本当に限界となってしまう。
出来ないことはあると言ったけど、現時点での話だ。出来ないからと言って避けてるわけでもない。
本来は役割分担のはずだ。私が手を出す領域ではない。
だが、親がやっていたことにより、多少なりとも知識はあり、攻撃魔法には劣るが、補助魔法だって使えないわけではない。
前に関しては使う必要がなかった。
今回に関しては、使ってはいけないと思っている。
魔法で強化してできることなら、私はいくらでもする。
だけど、今は、それを自分の力だと勘違いしてしまいそうだから。私は、本当に必要な時までは使わないことにした。
「よい、彼氏さんをお持ちのようですね」
「か、かかか彼氏だなんて!そんなんじゃないです‼︎」
「ソード様も満更ではないのでしょう?」
「……根っからのバカで、お人好しで、スケベで一人じゃどうしようもないやつですけど、優しすぎるんです。今、選択が出来ない状況なんです」
「それでも、待ってばかりではいけませんよ。あなたも好きならあなたじゃないとダメだってアプローチをかけなければ」
「あ、あう……」
「言葉じゃ難しいですよね。面と向かって言うのは、恥ずかしいものです。……私も、失ってから気づいたものですから」
「ばあやさんにもあったんですか?」
「人は誰しも、幼少期を過ごし、青春を駆け抜け、大人となるんですよ。ただ、過ごし方は人それぞれですが。昔のように動けなくなったと言っても、ばあやと呼ばれてますが、まだ40代ですから」
「み、見た目の割りには思ったより歳ですね……」
30そこそこかと思った。
そういや、父さんやソードのお父さんもだいたい40ぐらいだっけ。
「さて、魔法陣ですが、別に作るのにはさして時間はかかりません。手順さえ覚えてしまえば、あとは純粋な魔力の問題です」
「そうなんですか」
「ええ。読んだかどうかはさて置き、カケラは大きさがマチマチなので、大きければ大きいほど魔力は消費します。カケラは集まるごとに結合していき、やがて一つの結晶となります。また、この結合させるためにも魔力を消費します。ですので、最後になればなるほど、魔力の消費量が激しくなります」
「……私が耐えればいいのなら。あいつのためなら、やってやります」
「いい心意気です。ですが、あなたの魔力でも、最後までやり遂げるには足りないですね」
「な、ならどうしたら」
「私が力を解放させましょう。まだ、伸び代はあるようですから。それだけの才覚をその歳で発揮していながら、未だに上限が見えないのもすごいですね」
「あ、あの、ばあやさんはいつ頃腕を言わせてたんですか?」
「私も20になるか、ならないかぐらいの時に旅をしてたんですよ。勇者様の手助けをして欲しいと、頼まれましてね。当時はこの国で1、2を争うぐらい有名でしたので。まあ、さすがに今は騒がれもしませんが。今なら、お嬢様のお兄様の方がよほど有名でしょう」
「えっと、今旅に出て放浪中という」
「ええ。私も顔を見てません。もし出会うようなことがあれば、よろしく言っておいてほしいです」
「ええ。あと、質問なんですけど。結局なんで夜なんですか?」
「諸説ありますが、魔力というのは夜になると高まるものらしいです。魔族が夜に行動することが多いのはこれが原因だったのかもしれないですね。出現しなくなった今更な話ですが」
「日の光に弱いからって思ってましたけど、それだけではないんですね……」
「ですから、魔族の術が元の魔法は、夜に力が強まるので、行うのであれば、夜のが好ましいという話です。別に、昼でも可能であれば出来ますけどね」
ばあやさんは、話しながらも魔法陣を描いていく。
儀式的な魔法陣は、攻撃するための魔法陣とは違って、模様の誤差は数ミリに抑えなければ失敗してしまうそうだ。
見て書けるようになるになるかどうかは分からないが、魔法陣は完成しないと発動しないので、発動しないということは魔力の消費をすることもないということだ。
攻撃魔法ならいざ知らず、儀式用ならば、自分が意図する時に始めることが出来るから、消されない限りは有効に使えるそうだ。
「こんなものですね」
「意外に早いんですね」
「慣れですよ。さて、あとはウィナ様の魔力解放についてですが」
「な、なにをするんですか?」
「そう警戒しなくてもいいですよ。その前に、ウィナ様は魔女についてご存知ですか?」
「魔女?魔法使いで女性であればそう呼ばれるのでは?」
「俗称としてはそうなりますが、本来は、ある一人の女性が強大な魔力を持ち合わせて、尊敬と畏怖を込めて、呼ばれるものなのですよ。ですが、魔女も人間。子孫を残して行くにつれて、比較的魔力が多いものが増えるようになっていきました。それでも、直系であれば、その力は絶大なものです」
「話からすると、私がその魔女の直系ってことですか?でも、そんなこと聞いたことが……」
「ええ、ないでしょうね。何せ、何百年と前になりますし、当初は先ほども言ったとおり、魔法使いは人間兵器として扱われてましたから、魔女と呼ばれた女性も後継には、そのことを話さずにいたのでしょう。ですが、名前に名残があるのですよ」
「名前?」
「そうです。最初の魔女の姓はウィザード。あなたの姓は確かウィルザートでしたね?」
「あ、で、でも少しこじつけでは?」
「確かに系譜の資料があるわけではないですが、今の魔女の直系はあなたに当たります」
「と、いうことは父が血族だった……?」
「そうなりますね。ですが、男性では魔女としての力は引き出せないのですよ。それでも一般よりはかなり強大な力を保有していますが」
「……なんとなく腑に落ちないような感じもしますが、そう考えるならば、幼少時から魔法について特化されていたのも納得はいきますね」
「詳しいことはまた帰ったらお父様に聞くとよろしいでしょう。本来ならこういうのは親から継承されるものですが、ことは急ぐようですからね。近い力を持つ私でも解放は可能でしょう」
「どうやってするのでしょうか?」
さっきより何故かさらに丁寧な口調になってしまった。
何か嫌な予感がよぎったからだろうか。
「別にとって食ったり、脱がして全裸で行うとかそんなのことはありませんので、警戒しなくていいですよ」
「あ、そうですか」
「見てみたい気はしますが……」
さらっと、恐ろしいセリフが聞こえた。
やめてください。私はまだ、汚れを知らない、純潔な身体なんです。
「冗談はさておき、今描いた魔法陣はウィナ様の力を解放させるためのものです」
「ソードのものじゃなかったんですか?」
「ここで出来なければ、どこへ行っても出来ませんから。手助けはしますが、主はあなたにやってもらいます。ソード様も私にやってもらうより、あなたにやってもらったほうが本望でしょう」
「なんか、言葉濁してやらしく言うのやめてもらえませんか?」
「おやおや。別に私にはそんな意図はなかったのですが、さすがに思春期の乙女ですか」
「もー!いいから始めてください‼︎」
「ふふ。ソード様があなたに構いたくなるのが判る気がします」
ばあやさんは微笑んで、遠い日を見ているようだった。
「では、魔法陣の中央に座ってください。正座がよろしいですね」
「はあ」
言われた通りに、正座で座る。
「他の姿勢だと見えてしまって私が集中出来そうにありませんから」
「バカにしてるんですか⁉︎」
確かに丈の短いスカートではあるので、気をつけなければ見えてしまいそうだが、この人に言われてると本当にやる気があるのか疑いたくなる。
「まあまあ、そう怒らないでください。では、始めましょう」
これが年上の余裕と言うやつなのか、たしなめられて、私がおとなしくなったところで、儀式を開始した。
それにしても、魔女の系譜か……。
私がそんな大それたものとは思わなかった。
でも、卒業するまでにそれを言われなくてよかったかも。
魔女の力で成績がいいとか揶揄されることもなかったし。
でも、これからは尾ひれがつくのかなぁ……。
やっぱり知らないことは知らないままのほうが幸せだったのかも。
自分が口を割らなければいいことだけど。実際に父さんが魔女の血族だなんて知らなかったし。
母さんは知ってたのかな……。知っていて隠していたのか、知らずにそのまま過ごしていたのか。
今は確認することは叶わない。
少しずつ、内から解放されていく力を感じながら、私は儀式を行った。




