魔法使いの美学
リーチェルさんに話を伺おうと思ったのだが、すでに次の仕事のために屋敷を出て行ったとのことだった。
娘をおいて働き詰めね。
それなのに、ミーナちゃんはよほど懐いているようだが、なかなか会えないからこそ、会えた時の喜びが大きいのだろうか。
俺は母親こそ、そうなる可能性はあるが、親父のことを考えると、吐き気を催しそうだ。
あれは農家を装ってはいるが、戦闘狂もいいところで、何か口答えしようものなら一触即発だからな。修行が終わってからというものの、そんなのなので、親父と会話はあまり交わしていない。
「なあ、ミーナちゃん。お父さんのこと好きか?」
「はい?好きですよ。お父さんは立派ですから」
「だとよ、アリス、スター」
「なんで私たちに言うかな……」
「でも、心当たりはありすぎるから言い返せないのも現実だけどさ……」
「子供に慕われないで、よく国民から支持をもらえるよな」
「まあ、子供のことなんて国の二の次ですから」
「国あっての元種ですしね。父上が王でなければ、私たちも王子や姫ではいられないわけですし」
「そういうソードはどうなの?」
「大っ嫌いだな」
「よくもまあ、自分のことを棚に上げてぬけぬけと言えたものよね」
「そういうお前は結構べったりだよな」
「そりゃ、大事育ててもらったんだから感謝しなくちゃ。近くいて孝行してあげれるのも短いんだし」
「聞いたか?これが子供の鑑だ」
「だから、ソードは自分のことは棚に上げすぎだよね。自分の国にいるの間に少しでも孝行したの?」
「し、したぞ。報酬金の半額を家に納付したし」
「もっと、別のところで助けてあげなよ……。親も勇者だったんでしょ?」
「それについては半分恨めしくもある」
「なんで?」
「俺は基本的には、社交性が足りない。それなのに、まず知らない人に話しかけなければいけない、旅なんかに出してみろ。どうなる?」
「路頭でオロオロしてるのが目に浮かぶよ」
「実際、初めての時はオロオロしながら涙目で私に泣きついてたからね」
「それは言うな……」
次の国へ行くまでは、ウィナと2人だけだったから、そこからセドにパーティに加わってもらったのだ。国王からの推薦だったが、正直人選ミスだと思う。強さに関しては申し分ないのだが、最終的に俺の装備かっさらって行くし。
「ねえねえ。ウィナのお父さんってなにやってる人なの?」
「ロロちゃんに言ってなかったっけ?」
「聞いたかもしれないけど忘れた」
「堂々と言い切るのもすごいね……。いいんだけどさ。今は薬屋をやってるよ。その前に、ソードのお父さんも一緒に旅をしてたらしいけど」
「ウィナのお父さんも魔法使いだったの?」
「確か……僧侶だったかな。私は攻撃魔法のほうが得意だけど、お父さんは回復とかの補助魔法のほうが得意だったみたい」
「やっぱり血なのかな……」
「どこか似るところはあると思うけど、結局、それを選んだのは私だし、何が好きになるのかも自分次第なんだよ」
「好きなものこそ上手なれってな」
「何それ?」
「例えば嫌いなことをいつまでもやっても、上達しないから、好きなことに打ち込んで、技術を磨いていくことだよ」
「好きなこと……寝ること?」
「それはどう戦闘に役立つんだ」
「でも、好きなことって言われると難しいけど、やりたいことならあるよ」
「へえ。まあ、ロロちゃんがやりたいことなら、できる範囲で教えるからさ」
「私もウィナみたいにドカン!と魔法で攻撃したい!」
「わ、私、ロロちゃんの前でそんなに派手にやったかな……?」
俺の知る限りでは、ロロちゃんの前ではそこまで派手なことをやってはいない。
今回の旅では今のところウィナは省エネというか、最小限の力でサポートする形をとっているからだ。
なんで、そんな羽目になっているかって俺のせいだけど。
俺が先導出来ないから、うまく戦闘出来るようにしているのだ。
「何かお困りごとですか?」
「あ、ばあやさん。って、なんで困りごとって判るんですか」
「いえ、ソード様のオーラがそんな感じに見えたので」
この人は人をオーラで判断出来る特殊な目でもついているのだろうか。
まあ、事実困ってるから、合ってるんだけども。
リーチェルさんがいないのならば、この人に聞いて見るのも一つの手か。
「俺、前の旅で力を魔王に奪われたんですよ。それで、力の結晶として抜き取ったらしくて、それをカケラにして、7匹の悪魔に分け与えたらしいんです。で、カケラが手元にあるんですけど、イマイチどうやったら戻るのか……文献があっても解りにくいんです」
「なるほど。修行を怠っていたのを棚に上げて、自分の力を失った事実を受け入れずにそんなものに頼るとは……ゲフンゲフン」
今更こちらに遠慮をして咳払いをしなくてもいいです。それ以前になんでそこまで知ってるの?家政婦ってそういうものなの?
「ちょっとばあや!見てもいないのにそういう決めつけは可哀想だよ!勇者さんなんだから弱くなったのも理由があるんだよ!」
ミーナちゃんが擁護してくれるが、その純粋な心で言ってくれてるあたりに、俺は心が折れそうです。ばあやが言っているのはほぼ事実であるし、これが本当に俺の力のカケラであるのかは実証出来る術を持ち合わせてなどいない。
「お嬢様の言う通りですね。根拠のないことをつらつらと申し立ててすいません。ですが、そのカケラが手元にあるのなら、戻す方法は確かにございますよ」
「本当ですか?」
「仮にも私もこの国の出身ですし、ここに雇われる前は少し鳴らしたものです」
結構な実力者だったんだろうか。
「まあ、ばあやと呼ばれる歳になり、昔のような動きは出来ませんが、カケラを戻す程度なら私でも可能でございます。いわゆる、ソード様が受けた魔法は呪いの類ですね」
「「呪い?」」
みんなの声が重なる。
普通呪いというのは、認識としては、受けた人が不幸な目に会うというところだろう。それこそ、動けないだとか、死に至るだとか。
「ソード様は、魔王を消滅寸前まで追い込んだという話でしたね?」
「ああ。だが、取り逃した」
「魔王というのですから、かなり強力な魔法を持ち合わせていたでしょうが、そこまで消耗してしまえば、ロクに魔法など使えなかったでしょうね。それでも、無力化を図るためにこれほどの魔法を施すとはかなりのものですが」
そう言って、ばあやは俺に詰め寄ってくる。
「ソード様。これを受ける前にどこかに攻撃されたというのは覚えてますか?」
「え?結構、色んなところにダメージ負ってたし、ここって確証があるわけじゃないけど。たぶん、脇腹あたりかな」
「ちょっと失礼」
ばあやは、俺のシャツをめくり上げて、脇腹を触診していく。
いや、そんなことで判るんですか?
「さすがに、ここまでの魔法を個人にするには触れることが条件のようですね。ここに魔法陣が埋め込まれてます」
「俺の身体の中に?」
「そうなりますね。解除するにも少し、時間がかかりそうです。魔法陣を用意する必要もありますし。呪いというぐらいですから、かなり高度な魔法です」
「呪い……人間界にはない魔法のはずだけど……」
「ウィナ?」
「魔法って言っても、本来は基本的には人に害を為すようにはなってないから。直接的に、人になにかを施すっていうのは無理なんだよ。前にロロちゃんの魔法が当たった時も熱いと感じただけで特に外傷はなかったでしょ?」
「そうだな……やっぱり、魔王ってだけあって、対人間用の魔法だとか」
「ウィナ様の言うことは常識的に知られていることですが、人に害がないような魔法に改良されたのはここ数十年での話です。それまでは、人が使った魔法も人に当たればダメージがあったのですよ」
「そうなんですか?」
「それが原因で幾ばくか抗争が起きましてね。人間を兵器扱いして。でも、被害は多大なものだった。それを教訓として、対モンスターのための魔法に特化し始めたのですよ。さすがに、人間で対人間に魔法を使える人はそうはいないと思いますが……」
使えた人がいたとしても、人間ではかなら歳をとっていることだろう。
ただ、極秘裏にそういった魔法を継承している人がいるのなら、また話は別になってくる。
今に限っては俺たちに影響する話ではないが……。
俺は、あることに気づき、ウィナに小声で話しかける。
「じゃあ、ロロちゃんはいったい、誰から魔法を教授されたんだ?」
「いや、たぶんロロちゃんも独学って言ってたし、ここ最近の話なら、人間界のものを見て覚えたんでしょ」
「自称120歳だぜ?」
「いくつまで城にいたかも不明だからね〜。人間界と向こうじゃ、時間の流れも違うのかもしれないし」
「どうかなされました?」
「あ、いえ、こちらの話です。で、その力を戻すのはどれぐらいかかりそうですか?」
「そうですね、午前中には魔法陣を作っておきますので、行うのは夜にしましよう」
「何故に夜?」
「魔法と呼ばれるものは元々人間には備わっていなかった能力。それがどうして、使えるようになったと思いますか?」
「んー、やっぱり、魔族に対抗出来るように人が進化したんじゃ」
「その進化のためにも足がかり、キッカケが必要なのですよ」
「ウィナ、バトンパス」
「自分で考えろ」
「知ってる人が答えを授けても意味はないですよ。間違ってもいいから答えを導き出すのが、魔法学においての第一歩です」
「俺、魔法の才能は一ビットたりともないんですけど。魔法が使えるならその程度で苦労はしてないかと」
「一理ありますね。仕方ないですから答えを言いますが、魔族が一人の人間に歩み寄ったのですよ。その人間は人間界の発展のために魔法を他にも伝承したようですが、どの時代にも愚か者はいるので、それを悪用した。結果、魔法がこの世界にも浸透しましたが、絶え間ない抗争が起こるようになった、ということですね」
「魔法使いって、そうやって生まれたんですか」
「元々、魔法使いってカテゴリーはなかったんですけどね。でも、時間が経てば、魔法に特化した人が生まれるのも至極当然のこと。それらの人が魔法使いと呼ばれるようになったのです」
「でも、その魔法使いも当初は人にも被害が及ぶ魔法を使っていたってことになりますよね?」
「当時の魔法使いはそれこそ、人間兵器として見られていたようですから」
「……………」
ウィナが顔を曇らせていた。
自分が魔法使いであるがゆえ、魔法使いがそのような扱いであったことに動揺しているのだろうか。
いや、ウィナは知っていてなお、この道を選んだのだろう。
その事実を隠していたのだ。
知られたら、自分をどういう目でみんなが見るか、分からないものであったから。
「そんな顔すんなウィナ。別に、お前が人間兵器だなんて思っちゃいねえよ」
「うん……。でも、ちょっと調べれば判ることとはいえ、隠してたんだから」
「魔法使いだって、今は立派な職業の一つだ。そりゃ、悪用するやつもいるかもしれないけど、それを誇りに持ってるやつが殆どだ。それとも、ウィナは昔のことほじくり返して、魔法使いの存在自体を否定するのか?」
「そ、そんなことない!私だって、誰かの助けになりたくて、魔法使いになって……だから……」
「分かってるよ。ばあやさん。ウィナにもその術式、教えてやってくれませんか?ばあやさんだけに頼って、毎回ここに来るわけにもいかないし」
「そうですね。ウィナ様、あなたもかなり上位の魔法使いだと聞いております。あなたなら、出来るでしょう。こちらへ来てください」
ウィナを引き連れて、談合の場から二人は去って行った。
ただ、女子陣からなんか恣意的な目が向けられているような気がしないでもない……。
いや、気のせいではなく事実だ。
目が冷たい。
一人は若干好奇心的な目にも見えるけど。
「お前ら!言いたいことがあるなら言いやがれ!」
「いえ別にー」
「ソードさんがやりたいことをすればいいと思いますー」
「魔法使いも大変だねー」
それなのになぜみなさん棒読みなのですかね?
「そもそも魔法使いになるにも、適正な知識、それに値する力。ただ、なりたいと嘱望するだけではなれないよ、ロロちゃん」
「ええ⁉︎そうなの⁉︎」
「別に魔法使いと名乗るなら必要なだけであって、魔法を使うだけならば、別に必要はないからな。スターも脅すようなことを言うな」
「いや、でも軽い気持ちで使われても困りますので」
「とりあえず、魔法を使うのなら人に害が及ばないようにすることが、美学だ」
「あれはソードが邪魔をしなければよかった話だよ」
「意図が読めなくてすいませんね」
「分かればよろしい」
なんでこの子はこうも高慢なのでしょうか?
そういや、ロロちゃんに魔法教えるとか言ってたような気もするけど、ウィナだって一朝一夕で身につけたわけじゃない。
俺と旅を始めるまでに、それこそ、俺たちでは考えが及ばないような努力を重ねてきたのだろう。
人は生まれ持って資質だけでは決まらない。
そこからいかに努力するかだ。
だから、今のあいつがいる。
きっと、新しいことも身につけてきてくれることだろう。
「努力を怠った……ね」
「事実を噛み締めて、これから精進してください」
スターからありがたい金言を受け、英気を養うために睡眠を取ることにした。
努力を体現しろ、なんて意見は聞きつけません。




