自分の名前
多少ゴタゴタしたものの、クエストは完了し、はした金かもしれないが、報酬金を手に入れた。
一人だけならかなりの量だが、俺たちは五人パーティなので一人分配あたりだと少なくなってしまう。
だが、管理は全てウィナがしているので、必要な分はウィナに言って、使用用途を言わないといけない。
うーむ、サプライズプレゼントとか出来なさそうだな。
「ほら、ソード。お金渡す」
「あ、ああ」
「もう、くすねようとしても無駄だよ?」
「そういや、結構溜まってたけど、どこで管理してんだ?」
「ちゃんと銀行があるから、預けるのも引き出すのも私がやるよ」
「はー、俺、自分の金を管理する方法を持ち合わせてねえな」
「だから一括してみんなを私が管理してるんでしょ。ほら、みんな待ってるんだから」
ウィナに押されて、集会所を出て行く。
金はあって困るものでもない。
だが、あったところで命に返られるものでもない。
クエストはその命をかけて、行われる。
そのリスクに応じて金額が設定されているのだ。
だから、リスクが高ければ高いほど、金額は釣り上がる。
自分の命を無駄にしない、実力を見極めてレベルに合わせたクエストを受注する。
モンスターは出なくなった。
だが、いわゆるダンジョンと呼ばれる場所にはボスモンスターとして、未だ点在してる。
リスクはかなり下がったと言えるが、モンスターがいないのに金額が高いということは、他の不安要素があると言える。
今回のクエストは、その点を踏まえれば、金額に釣り合わないクエストだったのかもしれない。
俺は空を仰ぎ見る。
王子の言う通り、他人の事より自分のことを優先すべきなのかもしれない。
ただ、だからと言って自分の疑問を放ったらかしには出来ない。
ウィナが戻って来るまで、俺は一言も発することはなかった。
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「どーしたの?珍しく読みふけって」
「まーな。いっぺんに借りると読み切れなさそうだけど、一冊ずつなら俺でもやれるかなって」
一字一句を、目で追っていく。
「………」
「どうしたの?」
「こ、これなんて読む?」
「今までどうやって読んでたのか……」
「フィ、フィーリング?」
「他のところでそんな読み方してたら笑われるよ?」
「べ、別に他のところで読まなきゃいい話だろ」
「それはようせい。エルフっていうけど、元の起源は妖精からきてるんだから」
「ああ、これが妖精って読むのか」
「やっぱりロロちゃんが気になる?」
「どうにも、魔王と言ったって、その力を完全に使えるわけじゃないし、そもそも本来向いてるもんじゃないのかもしれないしな」
「だから、もう一つの可能性を探ってると」
「そ。エルフの子供なら、エルフの力の方が使いやすいかもしれないって思ってな。ロロちゃん自身は魔族よりなんじゃないかって言ってるけどな」
「そっか。分からないことがあったら呼んで。教えられることなら教えるから」
「サンキューな」
夕食も食べ終わり、クエスト後の休息をとっていた。
アリスは、ミーナちゃんとロロちゃんと先に風呂に行っている。
まあ、二人がねだったからであるが、ロロちゃんも朝のことを根に持ってるのか?
少し、目が疲れて、本を読み進めるてを止めた。
辺りを見渡すと王子の姿が見えない。
「ウィナ。王子知らないか?」
「さっき、外に出て行ったよ?何か用事だった?」
「ん、いやな。とりあえず、王子のところ行ってくる」
「気をつけて」
あいつは何をやってるんだろうか。
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日が沈んで、幾分か涼しくなったとはいえ、そこは夏。まだ、日中の熱が抜け切っていないのか、暑さが残っている。
王子は、屋敷の広い庭で一人、空を仰いでいた。
「何してんだ?」
「ソードさん。いえ、特に何も。最近、息つく暇がありませんでしたから」
「そうか。ま、何もないのも大切だわな」
「そういうソードさんは?」
「ちょっとお前の様子を見に来たんだよ」
「珍しいこともあるんですね。僕の様子を見に来るとは」
「男だからって気にかけてないわけじゃねえぞ。少し比重が偏ってるだけだ」
「別に気にかけてもらわなくても、僕は自分でなんとか出来ますから。そこまで子供でもありませんよ」
「そうかもしれないけどな。でも、頼れることは頼った方が気分的にも楽だぜ?」
「そうですね。頼れる人がいないよりは、その方が」
「下手に優秀なやつほど頼り方が下手なんだ。いっそのことダメな方が自分だけでは出来ないって分かるから、人の使い方は上手いのかもな」
「だからと言って何でもかんでも頼ってはさらにダメにしますけどね」
「そうだな」
俺も、王子がしていたのと同じように、空を見上げる。
昼間は、青空が広がり、雲が穏やかに流れていたのに、今は空は黒く塗りつぶされ、その中に光が瞬いている。
その幾つかをなぞって星座ができるそうだ。
俺は一つも分からんけど。
そもそもどれがどれなのか全く分からん。
「綺麗ですね。もう少し高いところへ行けば、もっとよく見えることでしょう」
「そうだな。屋敷の上の方にでも行けば、もう少し見やすいんじゃないか?」
「でも、ここでいいです」
「あっそ」
空を瞬く光は星と呼ばれる。
そのいくつが意味をなす星なのか。
もっとも、空から見れば、俺たちもそういう対象なのかもしれないが。
「せっかくですし、僕の名前の話でもしましょうか」
「なんだ急に」
「いえ、あなただけ、いつまでも王子、王子って呼ぶものですから。僕にもちゃんと名前があることを証明するためです」
「別に知らねえわけじゃねえよ。ただ、お前のことを名前で呼ぶのに少し負い目があるだけだ」
「師の役目を放棄したことですか?」
「……それ以外に何かあんのかよ?」
「そうですね。ただ、そこまで負い目を感じないでもらいたいのもあります。どうせ、上はあれなのですし」
自分の父親をあれ呼ばわりもどうなのだろうか。こいつはこいつで、自分の親のことを信頼しなさすぎじゃないのか?
「脱線しそうなので、戻しますよ。僕の名前は、あの空に輝く星を指して付けられました」
「スター、か。それでなくても、お前は輝けるし、立派だと俺は思うぜ」
「ですが、その星もいくつ輝いていて、いくつが消滅しているのか。今見えているものでも、名前すら付いてないものもたくさんあると思います。見えてても、存在を知られていない。まだ、僕もその程度の存在だと思います」
「こうして他の国に来て見れば、井の中の蛙ってこったな」
「そうです。だから、僕は王子という立場に甘んじているわけにはいかない。昨日だって、結局一撃で倒されてしまいました。いくら、護衛がいると言っても、自分自身の力を付けなければ、誰もついてきてくれません。それこそ置物です」
名前ばかりの役職にはなりたくないということか。
上が有能だったのかどうかは知らないけど、あれは参考に出来たのだろうか。
それとも反面教師として育ったのか。
この兄妹に関しては後者の方が意味合いは強くなってくると思う。
慕っているのならば、こうして旅に出てわざわざ自ら危険を犯す必要はない。
それこそ、ぬるま湯のお城で生活していればいいだけの話なのだから。
「少なくとも、せめてこのパーティの人たちだけでも、まずは認めてくれないとですね。……一人は難しいかもしれないですけど」
少し苦笑して、ほおを掻く。
認めてくれないわけじゃないだろう。
あいつも素直になれないだけだ。
俺は、王子に近寄って、肩を叩く。
「お前は知らんと思うから言っとくけど、昨日だって、運んできてくれたのはアリスなんだぜ。別にお前のことを嫌ってるわけじゃない。あいつは面と向かったら、兄だからなんだとか理由つけるだろうけど……ま、もうあと一押しかもしんねえ。頑張れよ。王子……いや、スター」
「……はい」
「じゃ、先戻ってるわ。風邪引かねえように戻ってこいよ。それとも、アリス呼んでくるか?」
「機会があれば、僕の方から誘ってみます。簡単にうまくはいかないでしょうけど。それに、ソードさんもどこかで答えを出さないと」
「…………」
王子の最後の言葉には、答えることなく、俺は軽く手をあげて、王子と別れた。
あいつも、俺もわざわざ、分かってることを言われたくはないんだろうな。
一番やるべきことは、力を取り戻すことでも、魔王城へ行く方法を模索することではなく、人間関係の修復なのだろうと感じることになった。




