知りたい気持ち、分からない気持ち
リーチェルさんに率いられて、屋敷へと帰還とした。
門の前には、今か、今かと待ちわびていたのだろう、ミーナちゃんの姿も見受けられた。
「おかえりパパ!」
「ミーナ、危ないから中にいなさいと言っただろう?」
「だって、中にいてもつまらないし」
「仕方のないやつだ。さあ、皆さんも中へどうぞ」
「ああ、疲れた」
「まだ、ロロちゃん背負いっぱなしでしょ。せめて、どこかに寝かしつけてあげなさい」
「もう、ウィナの膝枕でいいだろ。ほら、そこにシッダン…あべし!」
俺がシッダンさせられた。
それでも、おんぶの体制を崩さないところはさすが俺と褒めておきたい。
だって、言わなきゃ誰も褒めてくれないし。
「私も兄さんを休ませてきます」
「じゃあ、ロロちゃんはもらってくから、先にくつろいどきなよ」
旅の仲間たちは、俺を残して散って行った。
座って、惚けたままの俺に、ミーナちゃんが寄ってくる。
「どうした?」
「んーいや、お話聞けそうなのソードさんぐらいしかいないかなって。予定より早かったし、どうしたんですか?」
「まあ、敵襲にあったわけだ。弱いやつならそのまま追っ払えばよかったんだけどな。やたら、強いやつでこっちが返り討ちだ。探索を続けるには危険だと判断したからこうやって戻ってきた」
「明日からどうするんですか?」
「そうだな……その前にどこか移動させて。俺はなんでこの体制でいるわけ?あと、ミーナちゃん。その体制だと見えそうだぞ」
「わっ。ソードさんのえっち」
なんとなく立ち上がって、ミーナちゃんの頭を撫でる。
髪はよく梳かれていて、触り心地がいい。
「なんなんですか~?」
「まあ、ロロちゃんと一緒ぐらいだから、俺にも妹がいたらミーナちゃんとかロロちゃんみたいな子がいいなって思ってさ」
「一人っ子なんですか?」
「まあな。でも、半ば兄弟みたいな、幼馴染はいたけど」
「好きなんですか?ウィナさんのこと」
「……アリスには言うなよ」
「はい」
ミーナちゃんの小さな顔についた耳に、ひそひそと話しかける。
「実は旅を始める前日にあいつにプロポーズしてる」
「ええっ!……そ、それで返答は?」
「バカなこと言ってないで働けだと。その時は、ウィナの家業を手伝ってたからな。役立たずもいいととろだったけど」
「なるほど、プロポーズするほど好きだと……」
「ただ、焦ってただけかもしんないけどな。一度旅して、勇者の役目なんて終わったって思ってたから。他にアテがあるなんて思ってなかったし、学校にも行ってないプータローだったからな。あいつしかいなかったんだ」
「見抜かれてたんじゃないんですか?消去法で選んでたこと」
「かもな。でも、旅に出てまた色々考えてはいるんだ。見ての通り、アリスはベッタリだし、ロロちゃんだって放っておけないし」
「ああ、そういえば昨日デートしてたんですっけ?」
「あんまりほじくり返さないでほしいな……」
「何かあったんですか?」
「アリスが怖い」
「なるほど」
デートの一つも軽く出来ないこんな世の中。
しかも、嫉妬してくるのは、一国の姫ときたもんだ。
普通なら大喜びなところだが、弱小勇者と釣り合いが取れるのかと聞かれたら、俺はノーだと答えるだろう。
アリスはそれでも構わない、と言うだろう。
じゃあ、その後のアリスはどうなる?と聞かれれば、どうなるかは分からない。
跡継ぎなら、王子がやればいいかもしれないが、それでも姫であるアリスに注目が集まらないわけではないだろう。
せめて、なんか実績でも残していれば別だが、俺はただ単に魔王を倒し損ねて、逃がしてしまったへっぽこ勇者だ。
それを武勇伝のように語るのも見当違いな話だ。
「ソードさん。こんな話を知ってますか?1対1なら、こじれない限りは円満。1対多数なら、結局どうにでもなる。1対2では必ずどちらかに刺されるそうです」
「なんの話だ?」
「一人の男の人が、女の人と付き合う場合です」
「ロロちゃんを加えれば、どうにかなるということだな?」
「それは、また曲解な気がするんですけど……でも、このままだといつかどちらかに刺されても文句は言えないですよ」
「善処したいところだが……旅が終わらない以上どうしようもないな」
「別に、旅の途中でどちらかに決めちゃえばいいじゃないですか」
「甘いぞ、ミーナちゃん。例えば、仮にどちらかに決めたとしよう。どちらを選ぶにせよ、必ずパーティで影響が出る。全員が割り切ってるならまだしも、当人が一番困惑してるだろうからな。だから、俺は今は選べないんだ」
「スターさんはどうなんですか?」
「あいつは、ウィナのことが好きみたいだが、修道院に入ってて、枯れたみたいだな」
「すごい言いようですね……」
「今、あいつに負けてるのは、ルックスと剣技ぐらいだ」
「何も残ってないじゃない」
後ろからウィナの声が聞こえてきた。
「どこから聞いてた?」
「スター君が枯れてるとか、その辺りから」
「て、待て。俺に勝ってるところが何もないだと⁉︎」
「あ〜せめて、ロロちゃんの扱いに長けてるだけは入れとく」
「もうすでに勝ってるようなものだな」
「ロロちゃんの比重偏りすぎじゃないですか⁉︎」
「うちのパーティにおけるロロちゃんへの甘やかし具合は半端じゃないぞ。ウィナですら甘い」
「私が他の人だと、厳しいみたいな言い方しないでよ。ミーナちゃんが誤解するでしょ」
「いや、ウィナさん優しいと思いますよ」
「私が厳しいのはソードだけだから」
「だから俺が捻くれるんだぞ」
「余計なことしなければ私も怒りません」
「余計なことって……?」
「とりあえず、一緒にいれば分かるよ」
「私、そんなに一緒にいません」
「ミーナちゃん、もう一回耳かして」
「はい?」
「ウィナは嫉妬してるんだよ」
「なるほど」
「ウィナさん、可愛いです」
「何を吹き込まれた」
「さーて、何かねー。ばあやー、すいませーん。風呂出来てますー?」
詮索されると面倒なので、ここは逃げの一手だ。
幸い出来ていたので、そのまま疲れを取らしてもらうことにする。
『私、足手まといかな……』
湯船に浸かった時、ロロちゃんが言っていた言葉が浮かんできた。
結局、甘えてなんとかなってしまう環境が、結果、強くなれずに来てしまったのかもしれない。
今のロロちゃんを強くしてあげるためには何が必要だろうか。
魔王の娘というぐらいだから、潜在的な力はまだまだ未知数である。
もしかしたら、その文献があるかもしれない。
明日はお勉強だな。
少し、気が沈んだが、知識はあって無駄なものでもない。
何よりも、ロロちゃんのためだ。
「うしっ、やってやるか」
明日に備えて、今日は早く寝よう。
何か忘れてるような気がしなくもなかったが、それは結局、忘却の彼方へと行ったままだった。




