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魔王拾いました  作者: otsk
魔法使いの国編
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距離の取り方

 国を出てからは徒歩だ。

 普通なら国境とか言って、国と国の境目があると思うけど、そんなのは昔の話だ。

 今は国の境目は道となり、領土というものは存在しない。

 不可侵の領域というやつだ。

 そんなんだから、いつの間にか、他の国に入っていたなんでこともザラにあるわけだが、誰がどこの国のやつだなんてことを特に気にしたりしない。

 ある特殊なところは入国審査が存在するが、まあそういうところは立ち寄る機会があれば説明することにしよう。


「君たちはなぜこのクエストを受注したんだい?」


 年の瀬は俺とそう大差ないぐらいだろうか。たぶん、20前半というところだろう。

 見た目だけで言えば、それなりの好青年が俺たちに話しかけてきた。


「クエストが初めてのやつも何人かいるんで、やることがだいたい指定されてる護衛のクエストを選んだだけですよ。期間も3日程度ならそこまで長くないですし」


「そうなんだ。いや、ぼくも雇われたはいいけど、みんなゴツいおじさんばっかりでちょっと気が滅入ってるんだよ。君たちみたいな若い子が一緒で助かった」


 確かに言うとおり、この人と先ほどの指揮を取ると話していた女性以外はほとんどおっさんが多い。

 まあ、護衛というならば護衛対象を守れなきゃ意味がない。威圧で相手を圧倒するという意味でもガタイのいいおっさんを揃えているのだろう。

 それだけに、この人やあの女性がいるのは若干ながらの違和感を抱かざるを得ない。


「ふふ。ぼくや、指揮長がいるのが分からないって顔だね。これでも、ちゃんと審査を通り抜けて護衛となってるんだ。それなりの力は兼ね備えているさ。それに指揮を取るからには、この連中たちの上に立つということだ。弱くちゃ示しはつかない。もちろん人格的にも引っ張れる人でないとね」


「なぜ、あの人はわざわざ護衛を?」


「さあね。志願してここにいるから、やりたかっただけかもしれないし、何かあの人に恩を感じてるのかもしれない」


 人の理由までに首を突っ込むほど野暮でもないし、そこまでして聞く理由もないようだ。


「そうだ、あなたの名前は?」


「ぼくかい?ぼくは、カルマ。カルマ・ヴィラン。ぼくがこれをやってる理由も聞きたいだろうけど、ただ給料がいいからね。正式に雇われてると束縛は多いけど、実力によって段階的に報酬をもらえるんだ」


「へぇ。カルマさんは?」


「残念ながら一ヶ月ほど前から始めたばかりでね。まだ、最底辺だ。まあ、でも、護衛の年数が長いほど信頼されてる証拠でもあるからそう人ほど、あの人に近い」


 あの人。護衛対象であるリーチェルさんは、集団の中央にいる。

 近くということは、やはり左右隣の人は信頼されているのだろう。


「ま、一番信頼してる人をあの人は指揮長に指名するんだけどね。基本給とは別に、こういう護衛でも別の給料が入るんだ。それが、指揮長とそれ以外。指揮長じゃなければ、どんな最底辺のやつとでも報酬は一緒だ」


 ぼくみたいなね。と、カルマさんは自虐的に笑う。


「でも、若いのにこうやって護衛につけるということはそれだけの実力をリーチェルさんに認められてるってことですよね?」


「どうだろうね。最近、護衛不足だとかなんとからしいけど」


「どうしてです?」


「うーん。今日はまだ楽なところなんだけど、それより前は結構危険なところで長期に渡って調査をしてたせいで、いくらか死人が出たとかなんとか。それで、いくらか辞めちゃったらしくて」


 死人……。


「いいんすか?そんなこと見ず知らずの俺に話しちゃって」


「話したところで君には影響しないし、起きた事実は変えられないからね。それでも、あの人にはなんの被害もないんだ」


「?」


「それだけの権力と、純粋な力を持ち合わせているってことだよ」


「純粋な……力?」


「これさ」


 指で輪っかを作って、俺に見せつける。

 金か。

 確かに、金はどんな力よりも強いとも言えるかもしれない。あって、困るようなものでもないしな。

 だけど、あの人は持ちすぎて狙われてるんじゃないのか?

 いや、でもあの人を直接狙う必要もない気はする。


「一応、依頼内容にはあの人を狙うものからの護衛ってありましたけど、この界隈ならモンスターはまだしも、人で狙って来る人がいるんですか?」


「便乗してやるって可能性もあるからね。あわよくば、モンスターのせいにしてしまえば、自分に被害を被ることはない」


 モンスターは出没しなくなったという話だが、それでもそんなバレバレの嘘を付く奴もいるのだろうか。

 以前に召喚という形で、モンスターを出せると言ったが、ああいう類でやる可能性もあるか。

 実を話すと、メチャクチャに書いた術式が、自分では使えなかったが、ウィナにやらせたところ、出来てしまったのだ。

 何が?って、召喚だが。

 自分で使役が出来るので、たまに護衛として使う人もいる。無論、魔力は消費するので、長いことだし続けるわけにもいかない。

 この魔法はまだ研究の余地があるそうだ。俺が、適当に編み出した術式がそんなことになるとはね。自分で使えないのに。


「どうしたんだい?世の中理不尽だ、みたいな顔して」


「いや、その通りなんですけどね。召喚術って知ってます?」


「ああ、一時期話題になった。まだ、実用化とまではいってないみたいだけど」


「あれの元を開発したの俺なんですよ」


「それはすごいね。ぼくも一魔法使いとして興味があるよ」


「まあ、大したもんでないんですけど、俺は魔法の才能なくて一個も使えないんですよ。それで、何を考えたのか『使えないなら自分で編み出せ』という結論で始めて」


「で、なぜか召喚術が完成したんだね?」


「自分では使えないですけどね。そこの幼馴染が魔法使いなんで、試しにやってもらったら、これまたビックリ仰天というわけです」


「その時は何が出てきたんだい?」


「自分が使役出来るレベルで念じたものが出るらしくて、その時は妖精的なモンスターが出てきましたが」


「よかったね。あの子がドラゴンとか考えなくて」


「まあ、そうですね。って、どういう意味です?」


「見たところ、あの子はかなり上位の魔法使いのようだ。たぶん、使役しようと思えば、ドラゴンでも引っ張り出すことは可能だろう。召喚するのに手続きが必要なければ、の話だけどね」


 召喚の条件というものは、俺は特に知らない。術式を書いただけで、あとは全部専門のやつに投げたしな。自分が使えないのなら、深く追求したところで、自分の利益にはならない。

 まあ、研究材料を提供したってことで、それでいくらか金は入ったけど。それも、すぐに使い果たした。何に使ったかは記憶にない。


「えっ?研究材料のお金?『ウィナに全額やるわ』って、くれたじゃん」


「俺、そんな太っ腹なことしたかね?」


「記憶が曖昧なのね〜」


「ねえ、君。召喚術が出来るんだって?」


「あーはい。一応」


「一応?」


「いわゆる試作段階のやつでやったんで、安定性がないんですよ。それ以降は一度もやってないし、術式も覚えてないです」


「見れば出来るってところかな?」


「そうですね。どちらにせよ、やる気はないですけど」


「どうして?」


「使役っていうのが肌に合わないんです。なんか一方的で。愛玩用ならいいかもですけどね。モンスターだから、ほとんど無理ですし。愛玩するなら、普通の動物もいるじゃないですか」


「君は優しい子みたいだね。……ま、その優しさが仇にならないように祈ってるよ」


 カルマさんは俺とウィナから離れて、王子たちの元へと向かった。多少なりとも交流しておきたいのだろう。


『その優しさが仇にならないように祈ってるよ』


 その言葉の真意はなんだろう。

 優しさが、弱さになりえるということだろうか。

 時には非情にならなければならない。

 それも真理ともいえる。

 ウィナは根本的には優しすぎるのだ。怒ってるように見えて、全部愛情表現なのだ。

 それが、どこかで致命的なミスを起こすとでもいうのだろうか。あの人は。

 仲良しこよしでは、戦闘を戦い抜くことは出来ないとでもいうのだろうか。

 それもまた真理かもしれない。

 さすがにある程度の信頼関係は必要である。そうでなければ、連携を取ることも難しい。

 ただ、失敗を咎めるのとなく、なあなあで流してはそれは甘やかしだ。それでは、成長は見込めない。

 ウィナは俺以外には甘いからな。

 いや、俺に関しても、あの二人よりかは甘いとも言える。

 ウィナが甘やかすのならば、俺は非情に徹するべきなのか。

 初めて旅をする三人へと目を向ける。

 俺は先人として、教えてやらなければならない。時には突き放さなければならない。

 それが、教育というものだ。

 いつまでも、おんぶに抱っこでは、成長はできない。

 俺が言うことでもないか。

 あいつらは、成長できる。

 俺はそう信じてる。


「そろそろだね」


 目的地へと着いたようだ。

 行きは何も起きなかったが、疲弊した帰り。何が起こるとも分からない、遺跡。俺たちが求められているのはここで、護衛ができるかどうかだ。

 俺は一度、気を引き締めて、指示を聞いていた。



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