当然の如く、姫はご立腹
そこから、結局二時間ほど適当にぶらついて屋敷へ戻ってきた。
特に後ろめたいことはないが、ゆっくり門を開けることにする。
そういや、デートだってのに、手繋いで歩くのと、膝枕しかしてもらえなかったな。ちょっと残念。
一応、物音には配慮したつもりだが、思ったより大きな音を立ててしまった。
中へウィナと二人で入ると、1名腕を組んで仁王立ちしている少女がいた。
ですよね。感づいて探しに来るかと思ったが、アテが分からない上に下手な労力を使いたくなかったんだろう。
「ただいまアリス」
「言うことはそれだけですかお兄ちゃん?」
なんか、数時間前にも同じ台詞を聞いたような気がするが、なぜ俺は毎度責められているのだろうか。大抵、俺が責められる時は身に覚えがないか、事故か、とばっちりである。今回はどれだろう……。うん、身に覚えがないな。アリスに言う必要性はなきにしもあらず。
「ある!」
「あるの?」
「だって私とは一度もしてくれたこのとないのに~」
「わーった、わーった。どっかでしような?」
「ほんと?」
「ああ」
「じゃあ明日!」
「それは無理」
「ざっくりすぎるよ!」
テンションとノリだけでなんとかなるものでもない。こっちだって予定調和しないといけないのだ。今日だって、クエストにいく予定だったのに、1日潰しちゃったしな。明日こそは出ないといけない。
「で、何しに行ってたの?」
「デート」
「それは知ってるよ!」
「もう、ソードが喋るとアリスの神経逆撫でしかしないから黙ろうか」
聞かれたことにそのまま答えてるだけなのに、怒られる。これは理不尽だ。俺が悪いんですかね?
俺はそっちのけで、ウィナが今日なにしに行ってたか、説明をしてくれている。
まあ、無論都合が悪い部分はカットしているが。
膝枕だったり、スカートに手突っ込んだなんて言われたら、それこそアリスはキレるだろう。
ウィナはさすがというか、当然至極というか、図書館で勉強会していたことと、俺の装備を買いに行っていたことだけ伝えた。
「お兄ちゃん!今度は私が教えてあげるから!」
「いや、アリスだと余計に惨めになるから普通に遊ぼうな」
「やったー……図書館ってそんなに早く開いてるの?」
やべ、気付かれた。
ばあや、誤魔化してくれるんじゃなかったのか?どこまで、ダダ漏れなんだ?
もしくは、アリスがしつこく聞いたかのどちらかだな。まあ、突撃させなかっただけ、いい仕事をしてくれたというべきだろう。アリスが暴走すると止められんし。
それのストッパーになってくれると思って期待してるのだが、そいつは未だに距離の掴み方が分からないようだ。
「そういや、王子は?」
「ミーナちゃんに質問責め。ロロちゃんがくたばったから」
くたばるほど聞くこともあるのか?それとも、俺がフォローしてなかったから、王子では限界があったか?
とりあえず、行ってみるか。
「ちょっと、まだ話は終わってないよ!」
「ほら、アリス。私が言うから」
ありがとう、ウィナ。
ウィナがアリスを回収していったので、俺はミーナちゃんの部屋へと向かうことにする。
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一応、人の部屋なのでノックをする。
「はーい。あ、ソードさん」
「や。悪いな留守にしてて」
「いえいえ。ロロちゃんと遊べて楽しかったです」
そのロロちゃんといえば、たぶんミーナちゃんのベッドだろう。そこで、なんだかうなされるように眠っていた。
「いや、そこは薬にならないですから。体の一部ですから」
一体、何の夢を見ているんだ。角でも掴まれてんのか?
「まあ、ロロちゃんはおいといて、今なにしてるんだ?」
「うー。学校から宿題が出てまして……中々教えてくれる人もいないんで、スターさんに教えてもらってたんです」
「へー。見せてくれる?」
「あ、はい。どうぞ」
うんうん。全くわけ分かりません。13だから中等部か。中等部でも、小難しいことやってんだな。
ちなみにたぶんだけど、やってるのは魔法学。
「ソードさん?」
「あ、ああ。ありがと。頑張ってね」
「?」
「ミーナちゃん。昨日も言ったとおり、この人バカだから。理解ができてないんだよ」
「てめえは目上に敬意が払えねえのか⁉︎」
「払う必要があるんですかね?」
くそ。こいつ、修道院に行ってから性格が歪んでねえか?
もしかしたら、修道院で何かこいつの性格を変える出来事があったか……。
うん。何と無く理解できました。勉強は出来なくても、人間関係については察することは出来ますので。
推測でしかないが、あの修道士長だな。皆まで言うな。俺は分かっている。だから、あえて何も言うまい。
「大変だな。学生も」
「そうでもないですよ。やるべきことをやっておけば、怒られることはありませんし。先生にはいい顔しておけば、成績勝手に上げてくれますし」
割りに打算的な子だった。
でも、大抵そう言う子の成績はあまり芳しくない。
事実そのようで、成績はなぜかいいが、あまり勉強は得意でない典型の子のようだ。
俺に至っては、1から10まで何も分からんからな。ただ、媚びへつらうことだけは可能だ。やれることはなんでもやっておかないとな。
「どうしてここ、こうなるんですか?」
「それは〜」
魔法も緻密な計算の元に成り立っているので、あまりいい加減にやるといい加減にしか魔法は発動しない。
あからさまにいい加減にやってるのに、普通に発動してるロロちゃんは一体どうやって学んだのだろうか?
魔界式呪術?なかなかに恐ろしそうだな。
質問責めというのも、勉強についての質問のようで、王子自身のことではないようだったので、退出することにした。
だって、ここにいても俺ができるのとなんて、ロロちゃん弄るぐらいだし。
そのロロちゃんも寝てるしな。
まだ夕飯はできてないようなので手伝いにいこう。
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俺が厨房に行った時にはすでに、終わっていた。代わりに、ミーナちゃんたちを呼んできてくれとのことで、再び足を向け、食卓へと連れてくる。
「なんで、アリスはご機嫌斜めなんです?」
「目ざといが、そっとしてやってくれ。それで、飛び火が来るのは俺なんだから」
未だにほおを膨らませて、俺の方を睨んでいた。
これを俗に言うジト目なのか?アリスがやってるから、結構可愛い。
まあ、向こうは怒っているので、茶化すと俺に被害しか出てこないだろうし、目を逸らすことにしよう。
「なんで目を逸らすの!」
「いや、お前の方を見たまま飯は食えないだろう」
「じゃあ、私の隣りに来て!」
アリスの隣りには、ロロちゃんとウィナが座っていたが、なんかロロちゃんは目が虚ろだったので、とりあえず、王子の横へと連れて行き、アリスの隣りへと座る。
こうすることで、俺の左隣が、アリス。右隣がミーナちゃんとなった。
「大変ですね」
「姫様のワガママは兵士として叶えてあげないとな」
アリスはさっきとは対照にご機嫌なようだ。分かりやすいやっちゃな。
ご飯を手につけようとすると、ミーナちゃんに服の裾を引っ張られる。
そして、顔を寄せてほしいとジェスチャー。
「どうした?」
「ソードさんはアリスさんのことが好きなんですか?」
「普通逆じゃないか?」
「いえ、合ってます。逆は見てれば分かりますので」
確かに13にもなれば、そういうことに敏感にもなるか。
だが、この子にアリスのことを好きだと言って、どうなるだろう?
今日はウィナとデートして、以前にはロロちゃんを嫁候補とか言ってるし。
ここでの好きがどういう意味を持っての好きなのか。
ウィナには旅が終わるまでには答えを出すと言った。
だから、俺は変わらずにそう答える。
「ああ、好きだよ」
「そうですか。でも、誰か一人に絞れてないみたいな言い方ですね」
「ぐっ……」
それは周知の事実だし、俺自身も自覚しているが、なんでこうも鋭いのか。最近の子は怖いよ。
女の子だから、こういう反応だったかもしれない。
男子みたいなクソガキだったら、きっと冷やかすだけだろうな。女の子でよかった。やっぱり、女の子には優しくするものだな。
「じゃあ、ミーナちゃんは好きな男子とかいないのか?」
「私ですか?ソードさんやスターさんみたいな人ならいいかもですけど、同い年じゃみんな子供ですからね。私もですけど。恋愛はいつだってできますから」
「王子はともかく、俺なんか一番歳食ってるくせに、一番子供だからな。上には反発しかしないし、下からも教えてもらってばっかだし」
「そうですか?あんまり自分を下げなくても、見てる人は見てますよ?」
そう言われても、あまり自分に自信を持ってるわけじゃない。二年前ならまだしも、今は逆に現実を知り過ぎた。
こうして、嫌な意味で大人へとなっていくのだろう。
そんなん俺でもいいならって言ってるのに、なんであいつらは……。
「お兄ちゃん。あーん」
「いや、ここでやらんでも」
「思い立ったが吉日!」
「俺的には仏滅かもな……」
「酷い!お兄ちゃんが構ってくれない〜!」
「構ってあげましょうよ。お兄ちゃん」
「やめてくれ……」
とりあえず、アリスを慰めるために付き合ってやることにする。
表情がコロコロ変わって、見ていて飽きない。きっと、こいつに惹かれる奴も多いだろう。
だから、俺はアリスのことが好きだ。
でも、恋愛感情としては好きにはなっていないだろう。
家族ごっこの延長みたいなものだ。
それでも、喜んでくれるのなら、俺はいくらでも付き合おう。
だが、俺は選べないためにその笑顔が辛かった。




