木漏れ日の中で
ソードは私に頭を預けて眠ってしまった。
朝弱いくせに、無理して起きようとするんだから。
まあ、アリスがまた潜り込んだせいだろうけど。
たまにあの子の行動力が羨ましくなる。私は、アリスのように積極的にアピールなんて出来ない。
例え転んでも、何度でも立ち上がってぶつかり続ける。
ソードは、どう思ってるんだろう。
多分、一番最初に行った、嫁選手権?だっけ。あれは、波風が立たないように、一番害のないロロちゃんを選択したのだろう。
ソードはそういう奴だ。
いつでも、誰も傷つかない選択を真っ先に考えてる。
自分の犠牲、自分の評価は全く顧みずに。
でも、その優しさが時には辛い。
やっぱり、自分は選ばないのかなあって。心配で、でも、顔に、声に出さないように、気丈になって、軽口を私は叩く。きっと、そうすることで、今の関係をソードは保とうと考えているんだから。
……そんな難しいことは考えてないかな?
全部直感なのかもしれない。直感で最善の答えを導き出してるのかもしれない。
それなら、それも才能だ。
世間では、ただの答えを出そうとしない優柔不断の扱いをされるかもしれないけど、でも、それがソードだから……。
私は、勇者じゃなくてもいいから……。
きっと、私の苦悩は1割ぐらいしか、この勇者には理解してないだろう。
呑気に私の肩に寄りかかって寝てるぐらいだ。
そういうのは、普通逆でしょ……。
でも、膝ぐらいは貸してあげようかな。あんまり、柔らかさには自信ないけど。だって、やったことないし……。
「くかぁ~」
「あっ、ちょっと!」
頭が肩からずれ落ちて、それを慌てて抑える。
「く~」
「もう……」
その頭を、私の太ももにゆっくりと置く。
普通、落ちる感覚とかあったら起きる気がすると思うんだけど。
ま、いいか。確信犯でも。私がいいって思ってるんだから。
ソードの頭をゆっくり撫でる。
18になっても、小さな子供のようだ。そういえば、もうすぐ誕生日だったよね。日にちとか適当だから、忘れちゃいそうだよ。
えと、今日はそうだ、もう八月に入ってる。八月一日。旅を始めてから、一ヶ月以上経ったな。そんな感覚は全然ないけど。
ソードは八月の八日。覚えやすい。
なんか、買ってあげた方がいいのかな?でも、今のソードが喜ぶものってなんだろう?
うーん。………
なんだか、私も眠くなって来た。
ここ、ちょうどいい温度なんだよね。
……ちょっとぐらいなら、いいよね?
私も、瞼を閉じ、視界を暗くした。
ーーーーーーーーーーーーー
「んあ?」
目覚めると、頭に柔らかい感覚がある。それも二つ。いや、もっと分けるなら四つ?
一つは下。下って表現であってんのかな?
視線を下に向ける。
なんか、スカートの布が見える。
おかしいな。俺は、その場で視界を閉じたはずなのに。
それ以前になぜ、下敷きにしているものがスカートだとわかっているのか。
それじゃ、上は……。
手を伸ばして、なるべく慎重に触れる。
ふにゅん。
柔らかい。下もそこそこ柔らかかったけど、非じゃない。
「…………」
待て。俺は欲望に負けていいのか?このままやったら、嫌われないか?
今までやってこなかったんだ。一度は事故として……。
いや、一度もやらなかったから嫌われなかったんじゃ?
「……………」
俺はいつからこんな考える子になったんだ。いつだって、自分がやりたいようにやってきたじゃないか。うん、ここもその精神でいこう。今やらなかったら、今後やる機会がなさそうだし。
両手をおそるおそる伸ばす。
が、二つの双丘は俺の手から遠ざかった。
「う〜ん。寝ちゃってた……ソード?」
「すーすー」
「まだ寝てる?」
俺は狸寝入りと決め込んだ。差し伸ばしていた手は、変な方向に垂れ下がってるけど。具体的には、一本はベンチにかかってる。どうやったらこんなことになるんだよ。
「柔らかかった?」
「‼︎」
「……いいよ。ソードなら」
「‼︎‼︎」
「くす、冗談だよ。ほら、狸寝入りしてないで起きて。もういい時間だよ」
「気づいてたのかよ」
「狸寝入りしてたってことはなんかやましいことしたんだね?」
「何のことでしょうか……?」
「私の膝枕の状態のままで言われても何の説得力もないよ」
「い、いや、これは気づいたら!」
「そりゃ、私がしたんだし」
「あんま心臓に悪いこと言うなよ」
「私の膝枕は心臓に悪いことですか」
「いや、そうじゃなくて……もう少しこのままでいい?」
「いいよ。気が済むまで。でも、さすがに昼回ったら動くからね」
「今どれぐらい?」
「9時ぐらいかな。あと言いたいのはそれだけ?」
「……すいませんでした。ほんの出来心だったんです」
「まあ、無防備に寝てた私も悪いし、なんで気づかれてないと思ったのか」
「だって、起きる様子はなかったから」
「む、胸は敏感なんだから……そういうのはもっと段階踏んでから……」
「うん、すいません」
やっぱりやっとけばよかったかな。何となく、感覚が残ってる。
見た目より、大きかった。
ちょっと感動。小さい時から一緒にいるのに気づかないもんだな。身近だから余計だったかもしれない。
なんか、考えてたら恥ずかしくなってきた。
俺は、体を起こす。
「もういいの?」
「なんか、そろそろ起こさないとマズイ気がして」
「多分、しばらく私と二人だけの時間なんてないけど……それでもいい?」
「……あと、十分だけいいでしょうか?」
「どうぞ」
さっきより、ちょっとだけスカートの裾を捲って、綺麗な脚を露わにさせる。俺はそこに頭を再び乗せる。
「素肌だとちょっとくすぐったい」
「直すか?」
「ううん、いいよ。ソード、気持ちいい?」
「ああ、屋敷の枕よりずっと」
「よかった」
そう答えたウィナの顔は柔らかい笑顔だった。
その顔を見てるとやっぱり女の子なんだと、再認識させられる。
いつも、怒りっぱなしでみんなのまとめ役やって、苦労かけっぱなしで、まるでお母さんのようだけど。
「なあ、ウィナ」
「どうしたの?」
「本当に俺でいいのか?」
「プロポーズしてきたのはどっちの方だったのかな?」
「まあ、俺だけどさ……。王子の言う通り、将来性なんて微塵たりともないし、今よりさらに苦労すると思うぞ?」
「その時は二人でお店やればいいよ。お父さんもお母さんもソードならいいって言ってくれてるし。そもそも、本気で突っぱねてるんだったら、うちに居候させてないと思うし」
「幼馴染だからってたかくくってたんじゃねえの?」
「ふふ。そうかも」
「んだよ。割と真面目に話してんだぞ?」
「でも、そのためにはちゃんと、言われたことぐらいはこなさなくちゃ」
「そうだな」
ただ、最初の目的はモンスターの出処を明らかにしろってだけだったような気もしなくもない。
見栄張って、それを達成させちゃったから、結局魔王討伐に変更したんだっけ?
一応、現段階では、ロロちゃんが交渉することにしてあるけど。こればっかりは行ってみないことには分からない。
「そうだ。空へ行く方法を探そう」
「急にどうしたの?」
「忘れてたが、あの魔王城へ行く手立てがない。それも一緒に調べなきゃいけなかった」
「どっち先にする?」
「荷物になるだろうし、図書館からにすっか。まあ、昼は適当に済まそう」
「了解」
「……よっ」
スポッ。
なんか手が別の空間に入ったような……。
おそるおそる、視線を奇妙な感覚がする手へと向ける。
「…………」
さらに視線を向ける。
顔が紅潮して、今にも爆発しそうなウィナの顔があった。
「……とりあえず、怒らないからゆっくり手を引いて」
「お、おう……」
スカートの中に突っ込んでしまった腕を捲りあげないように、ゆっくりと引く。
とりあえず、何事もなく抜けた。
「そんなに見たかったの?」
「いえ、事故です」
「なんで起き上がるだけでスカートの中に手を突っ込むのよ!恥ずかしいでしょ⁉︎」
「いや……いけるかと思って」
「そんな雰囲気ないから!」
相当に恥ずかしかったのだろう。俺としても見れなかったことは大変遺憾なことであるが、こういうのはバレないようにかつ俊敏にやることが大切だな。
何?犯罪?痴漢だって?
じゃあ、同意の上なら……
「同意なんてするかー‼︎」
「ぐはっ」
「もう!早く行くよ!」
機嫌がよかったのに、一気にマイナスまで下げてしまった気分だ。
いや、逆に上機嫌だったから、この程度で済んだと考える方が妥当か。
じゃあ、ウィナの機嫌が最高潮なら、スカートめくりしても許されるね!
……いや、まあ勢いで言っただけで、そんなのが許されるなんて思ってないからね。
でも、今日ならもしかしたらチャンスあるかも。いや、スカートめくりじゃなくて。
ウィナは先に歩き出していた。少し離れたところで、俺を呼んでいる。
俺は木漏れ日を抜け出して、炎天下へと脚を踏み出した。




