勇者の資格
勢いで飛び出して来てしまった。
結局どこに行くでもなく、ミーナちゃんの家の門の前に座り込んでるだけだが。
この辺は人通りは少ないのか、街灯が、チラチラと等間隔に並んでるのが見えるだけだ。
夏だから、生温い空気が漂っている。
反面、空は空気が澄んでいるのか星が綺麗に見える。
それを見ていて悲しくなってきた。
なんで、俺は年下のやつらに言いように言われて、あげく出てきたんだ。
そういや、ばあやさんが俺のおかわり持ってきてくれたんだよな。
でも、悪いが今戻ってもばつが悪い。せめて、みんなが食べ終わるまでぐらいはここでこうして空を見ていよう。それで、俺の心が慰められるわけでもないけど。
ーーーーーーーーーーーーー
20分ぐらい経っただろうか。
時間が経つのが長いような気がする。
何もしてないから当然か。
せめて、観光がてら適当にぶらついてた方がマシだったかな。迷子になってたら、それこそウィナに叱られそうな気がするけど。
それから、すぐ屋敷から人が出てくる気配がした。
俺は振り返ることなく、それがこちらに近づいてくるのを待つ。
「ほら、ソード。いつまでいじけてるの。早く中に戻るよ。そんなところでずっといたら風邪引いちゃうよ」
声の主で誰か判別できる。そもそも、俺に向かってお姉さん気取りでいるのはこいつぐらいだ。
「なあ、ウィナ。俺、勇者でいいのかな?」
「うち国は10〜15年周期で変わってるんでしょ?たかだか三年程度で辞めたら、たぶんお鉢はスター君に回ってくるよ」
「そういうことじゃない」
「じゃあどういうこと?」
「俺に勇者としての資格があるかどうかってことだ」
「あるからなったんじゃないの?」
「そりゃ、あの時は新米だったしそれでもよかったさ。じゃあ、今は?一応、キャリアを積んでるわけなのに、ひどい有り様だ。血筋だからって、優遇されてるわけだけど、こんなんで勇者を名乗っていいのかって」
「まあ、確かにソードは勇者らしくはないかもね。へっぽこだし、ちょっといじられるだけで凹むし、ぶっちゃけ弟子に負けてるし、女の子にデレデレだし」
「さ、最後のは別に男なんだから……」
「まあ、いいんだけど。でも、現段階の話でしょ?ソードのメンタルが豆腐だってことはみんな知ってるし、最終的に任務を遂行できれば、今の過程なんてどうだっていいじゃない」
「過程より結果か……。『俺はがんばった』って言ったって、結果がなければ誰も認めてくれないもんな。俺の評価なんて最初からあってないようなもんだし、なら結果を残すことしか認められないか」
「そのカッコで魔王に挑んだって言えば、みんな頑張ったって言ってくれるんじゃない?」
「冗談じゃねえや。この格好でいったら、国に戻る前に消し炭にされてるっつうの」
「あはは。そうだね。じゃ、明日付き合ってあげる」
「……何に?」
「装備。新しいの買ってあげる。その代わり私にも付き合って」
「どういう風の吹きまわしだ?」
「何よー。人がせっかく親切にしてあげようとしてるのにー。裏なんてないから」
「……ありがとな。で、お前は何しに行くんだ?」
「ちょっと、お勉強」
「まだすることあんのかよ」
「あら?知識はいくらあってもいらないなんてことはないんだから。ソードもなんか発見があるかもよ?」
「わーったよ。でも、どうすんだ?明日、クエスト行くって言ったじゃねえか」
「ま、ミーナちゃんと遊んでれば、いいでしょ。急ぎでもないし」
「魔王がいつ、何をやらかすか分からんのに、そんなんでいいのか?」
「魔王も娘の状態が分からない以上は下手に攻めようとしないでしょ」
一理あるが、どうにも不安は拭えない。
すぐに、魔王を倒しに行くと言うならば、こうして寄り道してクエストを受けてる時間もあまりないのだが。
……やっぱり、俺が心配しすぎなのか?
「ま、勇者なんて飾りなんだから、自分にできることやればいいんだよソードは。カッコなんて後からついてくるもんだよ」
少し微笑む幼馴染の姿は、勇者の俺よりも、ずっと、遥かにカッコよかった。
「お前が勇者なら、今、こうして旅に出ずに、すでに魔王を倒してたかもな」
「でも、それならロロちゃんに会うこともなかったかもよ?」
「そうだな。あの国に勇者の代わりはいないんだ。俺がやり遂げないとな」
「だいじょーぶ。ちゃんとソードには役割あるから」
「役割?」
「ロロちゃんのお守り&フォロー役。あの子、魔王の娘っていうのがどれだけのことなのか自覚してないから……」
「別にいいんだが、せめて戦闘に関してのことを言って欲しかったな」
「もっとがんばりましょう」
先生みたいなコメントというか、学校で言えば、最低評価を下された。
「旅終わったら、ウィナ、俺の先生やってくれよ」
「年下に教わるっていうのはどうなのよ?」
「いや、知識で言えばロロちゃんと同レベルか下手したらそれ以下だぞ」
「じゃ、勉強の先駆けとして明日やろっか。ほら、中に戻るよ」
「俺のおかわりのやつどうなってる?」
「ラップに包んでたよ。食べるなら、一言断ってから温めて食べなよ」
「…………ふぅ」
「どうしたの?」
「いや?優しい幼馴染に恵まれたなって思ってさ。来てくれたのも、お前でよかったよ。他の奴らなら、意地か見栄を張るしかないから」
「……先に戻ってるよ」
ウィナは背中を向けたまま、先に戻った。
すっかり日の落ちた夜で、表情なんて見えてなかったのだが、ウィナの顔が紅くなっていたことだけは、俺でも分かった。
あいつは隠し事が苦手なのだ。
あと照れると、口数が少なくなる。
俺は、ウィナが中に入って少ししてから立ち上がった。




