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魔王拾いました  作者: otsk
プロローグ
4/145

力の消失

 一人で歩いていると、見たことのあるモンスターが湧いて来た。

 さすがに地面から出てくるような気持ち悪いことはないけどな。魔法陣とか、召喚術式とかねえし。

 あれ、当の本人がいないと呼び出すことは不可能だ。

 そして、呼び出したモンスターは呼び寄せた本人が半径50メートル以内にいないと自然消滅する。

 ウィナから聞いた知識だが。

 以上を踏まえて、今目の前にいるモンスターは魔王が送り出したものだろう。確か、名前はフットピッグ。名の示すとおり、豚型の雑魚モンスター。王様の勘が正しいのか、魔王が遊んでるのか、それともまだ試験段階なのかは分からない。

 でも、これなら弱くなった俺でも、倒すことは可能だろう。

 俺は、王様から頂戴した鍬を構える。


「って、何でだよ!ここは普通剣を構えるところだっつーの!何が悲しくて鍬を構えてんだ俺は!」


 銃もあるが、俺には適性がないみたく、全く当たりません。大体、銃に適性のないやつは他の分野に特化してて、銃が扱いにくくなってるのだ。

 まあ、銃だと弾切れだとか、リロードの手間だとかを嫌って使わない人もいるけど。

 それでも、やはり遠距離で戦いたい時にはあると便利だ。魔法もあるが、制限もあるし、無限に使えるものではない。

 ケースバイケースで使い分ければ一番いいのだが、魔法も銃も特化できるような人はそうはいない。

 今回の戦闘に関しては、突っ込んで来るだけの脳筋野郎だから、軽くいなしながら、攻撃を加えていけばいいのだが。


「鍬ってどうやって戦うんだ?」


 剣みたいに振り回すのだろうか。確かに耕すところで、相手に攻撃を加えられれば大ダメージを与えれそうだけど。


「ふん!」


 向こうもバカではないので、そう射程距離には入ってこない。しかもこれ当たらなかったら、引っこ抜くのに時間かかる。

 その隙をつかれて、脇腹に突進される。


「ぐおっ」


「ぶるるる」


 俺を吹っ飛ばして、少し離れてブレーキをかける。突進をするとしばらく止まれなくなり、ブレーキした後に隙ができる。ここが狙い所なんだが。


「鍬抜けね〜……っとぉ!」


 鍬のなんかギザギザしてる部分と連結していた木の棒が外れた。


「本当にゲームの主人公かよ……」


 徐々にレベルアップしてくしかないのか?

 まあ、鍬よりこの方がまだ使いやすい。少し軽くなったし。それよりも……


「あれが抜けないって、俺、相当力落ちてんのか?」


 変な風に刺さったとはいえ、普通は耕すためなんだから、簡単に抜けるはずなのに。


「もしくはこれ、あのギザギザの部分外すためのイベントか?」


 なんて無駄なイベントだ。王様も不良品渡しやがったな?やっぱり、この旅で俺を貶めようってか?


「王様よ。あんたの思惑通りにはさせねえぜ。戦闘は力だけじゃねえんだよ!」


 ぺち。

 モンスターにショボイ音が当たる。

 モンスターキレて突進。


「こんな装備で勝てるか!」


 結局、装備のせいにする俺は勇者としてクズかもしれないが、こればっかりは勘弁してもらいたい。いくらなんでもこれはない。

 だが、存外、エプロンが溶接とかに使うアレなので頑丈なのは幸いした。王様は俺に何をさせたいんだ。


「ブグアアア」


「な、なんだ?」


 突進して遠ざかった豚が焼かれている。あれ食ったら美味そうだな。


「って、そうじゃない」


 見ている間にモンスターは力尽きて消滅した。

 俺は炎が飛んで来た方向を見る。


「まったく、見てらんないよ。これじゃどこかにたどり着くまでに行き倒れるよ」


 肩にまで伸ばした水色の髪を、なびかせてウィナはそう言った。


「あれ、ロロちゃんはどうした?」


「う〜ん。心配だけど、50年もこの世界でいるなら勝手は分かると思うし、ついて来たいなら一緒に行こうって言ったんだけどね」


「ああ言った手前、戻りにくいか」


「10年単位で成長するなら、ちょうど思春期だもんね。で、どうします?」


「一人で残しておくのも可哀想だしな。でも、向こうから来てくれなくちゃ、俺から行っても無意味だろ」


「だろうね」


「……今日はここで野宿だな。近くに川もある」


「まだ日は高いよ?」


「今見てたろ。あれじゃ、下級モンスターにも後れを取る一方だ。少しでも体ならしておく」


「素直じゃないんだから。一日だけ待つって言えばいいのに。囃し立てたりするほど、私は子供じゃないよ」


「誰もんなこと言ってないだろ。ちょっと付き合ってくれ」


「はいはい」


 まだ言うとおり日は高い。そう距離も離れていないから、追いつくなら今のうちだ。

 べ、別にあの子ためなんかじゃないんだからねっ!

 なんて、俺が言っても可愛かないな。


「というわけでウィナ、言ってみて」


「何を?」


「『べ、別にあんたのためじゃないんだからね!あの子のためなんだから!』って」


「いや、私が今言っても脈絡なさすぎて、何言ってんのこの子状態だよ。それに、私そんなキャラじゃないし。むしろ、ロロちゃんのほうがそのキャラ近いよ」


「うーん。人選間違えたか」


「あんたはこの旅をなんだと心得る?」


「新たなハーレムを創造する旅」


「いっぺん死んでこい!」


「あっ、そんな!ウィナ様!ご慈悲を!今のはちょっと欲望が漏れただけなんです!」


「そんな欲望を考えてる時点で勇者失格じゃ!」


 こんな会話から特訓開始。魔法を回避しながら、棒切れを振り回す。


「寸止めじゃ、狙い丸わかりだよ〜」


「ニート生活がたたって……辛い……」


「えっ、もうへたったの?」


 よく考えれば、挨拶回り終わってから、運動のうの字もしてない。ひたすら、道具屋のレジで座ってたような気がする。

 体力だけは自信があったのに、二年でこうも衰えるか。


「やっぱ体動かさねえとダメだな〜。王子の剣術修行もすぐ終わっちまったし」


「王子の近況は?」


「修道院へ修行に行ったきり音信不通だと」


「ふ〜ん。そうなんだ」


「なんだよ、気になんのか?」


「そりゃあ、ソードよりイケメンだし。何より玉の輿だし」


「浅はかだぞ、人を顔で判別してはいけない!」


「とは言うけど、結局のところは顔がいい人が生き残る社会なのですよ。世知辛いね、世の中は」


「お前はいいよな。可愛いし」


「褒めてもなんにも出ませんよ」


「期待してねえよ」


「こうもあっさり否定されるとなんか複雑」


「どうしてほしいんだよ」


「定番のあれをやりますか。コント『夫が仕事から帰ってきた時の夫婦』」


 コントつったか?


「ほら、夫役」


「あ、ああ。ただいま〜帰って来たぞ〜」


「おかえり〜。ご飯にする?お風呂にする?それともワ・タ・シ?」


「飯で」


「結婚しようとかいうくせに興味ないんかい!」


「コントって言ったから、お前が面白ネタ振りでもするかと思ったんだが」


「む〜。じゃ、ご期待に添えて、もう一度やってみますか。御付き合いよろしくお願いします」


「じゃあやるぞ。ただいま〜。帰ったぞ〜」


「おかえり〜。ふふふ、突然だけど、あなたに秘密を打ち明けなければならない。あなたは既に死んでいるのよ。私がキョンシーとして生かしておいたに過ぎない。というわけで、私が飽きたので今一度死んでもらおう。ズバシュッ!」


「ぐはっ!……って、なんだこのわけの分からんコントは!せめて選択肢ぐらい与えろ!いきなり、秘密明かされて、いきなり殺されるってどんなコントだよ!」


「ワガママね〜。はい、休憩終わり。特訓再開」


「マジで、飯食いたいんだが……」


「あれ本音だったの?仕方ない、ご飯にしよっか。水汲んできて」


「あいよ」


 川辺に水を汲みに出る。夕刻ではあるが、まだ時期もあって日は傾いてすらいない。まだ、日は伸びんだろうな。夜行性の俺にはきつい季節だ。


「ここでいっか」


 川の水はなぜか知らないが、旅してきた範囲で見れば、綺麗なところばかりだった。誰かが管理してるのか、汚染するようなものがないのか。

 水をすくって、ウィナのところへ戻ろうとする。だけど、視界の先に一匹の猫が映った。

 あれは……


「近づいても逃げねえのな」


「…………」


 猫は返事をしない。鳴くこともしない。ただ、川の向こう。いや、その向こうの空へ視線を向けている。


「今から飯なんだ。一緒に食べないか?」


 煙を上げて、人の姿になる。


「私、勇者のこと嫌いって言ったのに……」


「そんなことでお前を嫌うほど、俺はお前を知っちゃいないし年を食ってはいないんだよ。飯ぐらい一緒に食べようぜ。そしたら、一緒に来るか決めればいいじゃないか」


「私、お腹減ってないもん」


 ぐう〜。


「お腹は正直だな」


「う、う〜」


「一緒に食べようぜ。まだ食べてないんだろ?」


「う、うん」


 頭に手を乗せて撫でてやる。


「よし、行くか。立てるか?」


「………ここに持ってきて」


「一緒に食べなきゃ意味ないだろ」


「…………」


 動きそうにない。


「足、どっか怪我してんのか?」


「勇者には関係ないもん」


「ったく、強情だな。ほら」


「何?」


「背中貸してやるから」


「いらないもん」


「遠慮すんな。よっと」


「わっ、ちょっと下ろしてよー!」


「暴れんな。余計に痛めるぞ」


「力を失った勇者のくせに」


「女の子一人背負えるぐらいの力は残ってるっての。それに、俺の名前はソード・ブレイバーだ。勇者はただの役職」


「ソード?」


「ああ」


 ロロを背負って、ウィナのところへ向かう。小さいし、細いからすごく軽い。

 足は痛いのかなるべく動かさないようにしている。俺も、なるべく揺れないように運んでやることにした。


 軽く火が点いて、火の粉が舞い上がっていた。野生の本能か火のあるところにモンスターは近づいてこない。例外もあるが、ここでならその心配も無いはずだ。


「おかえり。水汲んできてくれた?」


「あっ、持ってくんの忘れた」


「何しに行ってたの?」


「まあ、そう言うなよ。この子連れてきたから。寝ちゃってるから、見てやってくれ」


「あ、ロロちゃん。どこにいたの?」


「川辺にな。足、怪我してるみたいだから、それの治療もしてやってな。じゃ、俺は取り行って来るわ」


「早く戻ってきてね」


「寂しいのか?」


「な、わけあるか!モンスター来たら、一人じゃ大変だから早よ戻って来いって言ってんの!」


「かっかすんなって。ふわ〜。俺も眠いな。寝ていい?」


「せめて、水持って来てからにしてくれない?」


  明朝に起きたせいか、今眠気が襲って来た。すでにテント張ってるし、このままテントに潜り込みたい。

 だが、この程度のこともこなさないで、旅が続けられるとも思えない。せめて、言われたことだけでもやっておかないとな。


 今日の記録つけておくか。

 俺、今日は魔王の娘を捕獲。

 ……捕獲だと、響きが悪いな。

 俺、魔王の娘を保護。

 勇者なのに、魔王の娘を保護してんのかよ。王様に知られたら、また報酬から遠ざかりそうだな。

 まあ、俺を旅に送り出した王様が悪い。俺の好きなようにやらせてもらう。

  川辺にたどり着き、俺はひとつ伸びをした。

  ロロが目を向けていた空へ俺も見上げる。

  城が視界に入る。行き方さえ分からない、その城。俺はたどり着けるだろうか。

  見えぬ道筋に目を背けて、踵を返した。



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